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29.呂久村深月のひったくり事件
明日から、楽しい楽しい夏休みである。
高崎明翔、佐藤颯太、柳龍二、一条優と共に、ショッピングセンターのフードコートで遅い昼食をとった。手のひらには三枚の硬貨。
「やべー、あと三円しかねえんだけど」
「やばすぎるだろ!」
「おどろきラーメンで残金三円なのに、よくステーキどんと迷ったねっ」
「ラーメンにした俺天才じゃね?」
「財布の中身も把握できていない愚人だよ」
「うるせえ、柳。今日は金曜日だからいいの! 生活費が振り込まれてるの!」
「残り三円まで綺麗に使い切ったってことか。呂久村、ある意味すごいね」
「まあね」
「ある意味とは決して良い意味じゃないよ」
「一条もうるせえ」
「ねえ、深月。金おろしといたら? ATMあるよ」
お。おろしとくか。
母親からと中里さんから、それぞれ振り込まれているのを確認して、全額おろす。これは生活費用に作られた口座である。躊躇はない。
「なあなあ、明日プールでも行かない?」
「まったく、呂久村くんは。金を手に入れた途端散財しようとしているね」
「来週お祭りだよっ。みんなで行きたいなっ」
「祭りいいね! 今年こそは負けねえからな、優」
「呂久村と一日デートの権利でも賭ける?」
明日プール行く話わい!
左手にハンディファン、右手におろした金であおぎながら頬に風を送る。
歩道に出てほどなく、ブオンという音と共に指と指がくっついた。
「ん?」
右手に持ってた金がない。横を走って行ったバイクの後ろに乗っている手がこちらにヒラヒラと金を見せつける。
「盗られた! ひったくりだ!」
まじか!
一瞬呆然としたが、その金がなければプールどころかメシも食えない。
「待て!」
必死に走るも、バイクに追いつけるはずなどない。やがて、バイクは見えなくなった。
「……金……」
……嘘だろ……。一週間分の生活費が……。
ガックリとアスファルトにひざを着く。
やべえ。どうしよう。
アスファルトに汗が落ちた。
「人の金を盗るなんて卑劣なマネしやがって、あいつら許さねえ!」
「颯太! 一週間颯太の家でメシ食わせて! 朝昼晩!」
「そもそも、現ナマをしまわねえ深月にも問題があるよねっ」
「それな! 絶対親に怒られる! ヤバい!」
頭を抱えて道路に座り込んだ。
明翔と一条もさすがに心配そうな顔をして駆けつける。明翔が俺の肩に手を置いて、覗き込んできた。
「とりあえず警察に通報しようよ、深月」
「犯人どんなだっけ?! 黒いバイクで黒い上下で黒いヘルメットで」
「そう簡単に犯人は見つかりそうにないね」
「ヤバい! なんであいつら真っ黒なんだよ!」
「呂久村くん」
柳がスマホを差し出している。
人の大ピンチに何を呑気に電話しとんじゃ、このクソ柳!
「呂久村くんの連絡先と住所を伝えて」
「誰に」
「警察」
「警察?!」
連絡先と住所を伝えて、電話を切る。
「バイクのナンバーを伝えたから、すぐに捕まると思うよ」
「覚えてたの?!」
「僕、両目とも視力二・〇以上あるからね。じっくり覚えさせてもらった」
「すげえ! やるじゃん!」
スマホが鳴る。見ると、着信の番号の末尾が0110。
「うわ、知らねえ番号だ。俺、犯罪組織に狙われてる?!」
「それは警察の番号だよ」
慌てて出ると、なんともう犯人二人を確保したと言う。
「すげえ! 日本の警察めちゃくちゃ優秀じゃん!」
「ははは、ありがとう」
「は? 柳を褒めてんじゃねえよ」
「僕の父が警察官でね。父の仕事が認められたようで嬉しいんだ」
「そっか! 警察署の場所分かる? なんか、署まで行かねえとダメらしくてさ」
「この僕が案内してあげてもいいよ」
「頼むわ。じゃー、俺ら警察署行ってくる!」
「うん! 気を付けてね~」
柳は上から目線でムカつくが、柳父は優秀で部下に慕われているらしい。警官みんなから丁寧な扱いを受け、警察署を出てきた時にはすっかりテンションが上がっていた。
「柳がナンバー覚えてくれてたおかげだわ! まじヤバかったー」
「では、文化祭の衣装代を払ってくれないか。僕が立て替えたままだろう」
「忘れてた! はい、感謝の分三円おまけしてやるよ」
「顔と同じで言うことが貧乏くさいね」
「誰の顔が貧乏くさいってんだ。モテようとして伊達メガネしてるヤツに言われたくねえわ」
警察署脇に立つ街灯のライトがパッとついた。手続きに時間がかかり、夏とはいえ、すっかり薄暗い。
街灯の下には、自転車やバイクが並んでいる。黒いバイクに腰かける黒い革パンの男がタバコを吸っていたことに、俺はまるで気付かなかった。
高崎明翔、佐藤颯太、柳龍二、一条優と共に、ショッピングセンターのフードコートで遅い昼食をとった。手のひらには三枚の硬貨。
「やべー、あと三円しかねえんだけど」
「やばすぎるだろ!」
「おどろきラーメンで残金三円なのに、よくステーキどんと迷ったねっ」
「ラーメンにした俺天才じゃね?」
「財布の中身も把握できていない愚人だよ」
「うるせえ、柳。今日は金曜日だからいいの! 生活費が振り込まれてるの!」
「残り三円まで綺麗に使い切ったってことか。呂久村、ある意味すごいね」
「まあね」
「ある意味とは決して良い意味じゃないよ」
「一条もうるせえ」
「ねえ、深月。金おろしといたら? ATMあるよ」
お。おろしとくか。
母親からと中里さんから、それぞれ振り込まれているのを確認して、全額おろす。これは生活費用に作られた口座である。躊躇はない。
「なあなあ、明日プールでも行かない?」
「まったく、呂久村くんは。金を手に入れた途端散財しようとしているね」
「来週お祭りだよっ。みんなで行きたいなっ」
「祭りいいね! 今年こそは負けねえからな、優」
「呂久村と一日デートの権利でも賭ける?」
明日プール行く話わい!
左手にハンディファン、右手におろした金であおぎながら頬に風を送る。
歩道に出てほどなく、ブオンという音と共に指と指がくっついた。
「ん?」
右手に持ってた金がない。横を走って行ったバイクの後ろに乗っている手がこちらにヒラヒラと金を見せつける。
「盗られた! ひったくりだ!」
まじか!
一瞬呆然としたが、その金がなければプールどころかメシも食えない。
「待て!」
必死に走るも、バイクに追いつけるはずなどない。やがて、バイクは見えなくなった。
「……金……」
……嘘だろ……。一週間分の生活費が……。
ガックリとアスファルトにひざを着く。
やべえ。どうしよう。
アスファルトに汗が落ちた。
「人の金を盗るなんて卑劣なマネしやがって、あいつら許さねえ!」
「颯太! 一週間颯太の家でメシ食わせて! 朝昼晩!」
「そもそも、現ナマをしまわねえ深月にも問題があるよねっ」
「それな! 絶対親に怒られる! ヤバい!」
頭を抱えて道路に座り込んだ。
明翔と一条もさすがに心配そうな顔をして駆けつける。明翔が俺の肩に手を置いて、覗き込んできた。
「とりあえず警察に通報しようよ、深月」
「犯人どんなだっけ?! 黒いバイクで黒い上下で黒いヘルメットで」
「そう簡単に犯人は見つかりそうにないね」
「ヤバい! なんであいつら真っ黒なんだよ!」
「呂久村くん」
柳がスマホを差し出している。
人の大ピンチに何を呑気に電話しとんじゃ、このクソ柳!
「呂久村くんの連絡先と住所を伝えて」
「誰に」
「警察」
「警察?!」
連絡先と住所を伝えて、電話を切る。
「バイクのナンバーを伝えたから、すぐに捕まると思うよ」
「覚えてたの?!」
「僕、両目とも視力二・〇以上あるからね。じっくり覚えさせてもらった」
「すげえ! やるじゃん!」
スマホが鳴る。見ると、着信の番号の末尾が0110。
「うわ、知らねえ番号だ。俺、犯罪組織に狙われてる?!」
「それは警察の番号だよ」
慌てて出ると、なんともう犯人二人を確保したと言う。
「すげえ! 日本の警察めちゃくちゃ優秀じゃん!」
「ははは、ありがとう」
「は? 柳を褒めてんじゃねえよ」
「僕の父が警察官でね。父の仕事が認められたようで嬉しいんだ」
「そっか! 警察署の場所分かる? なんか、署まで行かねえとダメらしくてさ」
「この僕が案内してあげてもいいよ」
「頼むわ。じゃー、俺ら警察署行ってくる!」
「うん! 気を付けてね~」
柳は上から目線でムカつくが、柳父は優秀で部下に慕われているらしい。警官みんなから丁寧な扱いを受け、警察署を出てきた時にはすっかりテンションが上がっていた。
「柳がナンバー覚えてくれてたおかげだわ! まじヤバかったー」
「では、文化祭の衣装代を払ってくれないか。僕が立て替えたままだろう」
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「顔と同じで言うことが貧乏くさいね」
「誰の顔が貧乏くさいってんだ。モテようとして伊達メガネしてるヤツに言われたくねえわ」
警察署脇に立つ街灯のライトがパッとついた。手続きに時間がかかり、夏とはいえ、すっかり薄暗い。
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