BL?! ちがう、濃い友情!

はちみつ電車

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30.高崎明翔の発熱

 夏といえば祭り。祭りといえば甚平。というわけで、去年買った甚平を着てみた。

 あれ? 去年、これこれ! と即決で決めた茶色の甚平なんだが、なんか、おっさんっぽい?
 俺、一年でそんな老けたんかな。
 これは、買い替えた方がいい? でも、金ねえし……。
 よし、明翔に見てもらって、隣並んで歩くの恥ずかしいんだけど、ならば買い替えよう。

 明翔にメッセージを送ると、すぐに『行く!』との元気なお返事。

 美しく孤高の白猫、ツンがキャットタワーから華麗に飛び降りる。ピンポーン、とインターホンが鳴り、オートロックを解除。ツンはすでに玄関でスタンバっている。
 なんでロビーに明翔が来たことが分かるんだ、ツンは。

 ドアを開け、廊下を覗く。うちは二階なので、明翔が階段を駆け上る音が端っこのここまで聞こえてくる。ピョンッと跳んで現れた明翔が、見られているとも知らず体操選手のように両手を広げた。
 ぷぷっ。
 思わず笑ってしまう。一人で何しとんじゃい。

「あ! 深月!」

 俺に気付いて、明翔が猛スピードで走ってくる。明翔はいつも元気いっぱいだな。

「これ? たしかにないな。去年、これ誰と買いに行ったの?」
「中学の時の友達」
「ふーん。俺の知らないヤツね」
「たしか、最後に会ったのがこれ買った時かも」
「もう全然会ってないの?」
「うん」
「そっか」

 外でしゃべってるのは暑いから、とりあえず家に入る。
 二匹の猫がナア、と明翔を出迎えた。ツンに至っては、俺は一度もこんなおもてなしを受けたことなどない。

「来い! ツン! デレ!」

 二匹が明翔に飛びつき、ツンが明翔の頬を舌で舐めた。

「わっ。あはは! ザラザラしてるねえ」

 ……元気そうに見えるけどな。ツンがもの言いたげに俺の目を見る。
 明翔の前髪を上げて、デコにデコをくっつけてみる。

「めっちゃ熱あるじゃん!」
「三十八度くらいだから、全然大丈夫だよ」
「熱ある自覚あって来たのかよ!」
「だって、祭り明日だよ。買い替えるなら今日しかないでしょ」

 あ。
 俺のために……。

「甚平くらい、おっさんくさくてもどうでもいい。買い物は中止だ。俺のベッド貸すから、寝ろ」

 半ば強制的に明翔を俺の部屋に連れて行き、ベッドに寝かせる。

「深月の部屋、初めて入った。散らかってんね」
「うっ……。こんなことでもなきゃ、明翔を入れるつもりなかったし」
「俺、掃除しよっか」
「寝てろっての。じっとできねえ子だな」

 ガバッと起き上がった明翔を力づくで寝かせ、布団を掛ける。
 とりあえず、体温計を持って来て、熱を測ってみる。

「三十八・九度! めっちゃ上がってるじゃん!」
「よーし、目指せ三十九度!」
「目指すな! 目標を下方修正しろ!」
「でも、よく熱あるって分かったね。俺、自分でもしんどくないのに」
「ツンは普段はツンツンだけど、体調悪い時だけはデレデレになるの」

 今も、普段はベッドに上がらないツンが明翔を見守るように枕元にいる。

「あ、やわらか氷枕持ってくるわ」

 明翔の頭の下に手をやり、氷枕を入れる。頭も熱い。

「あ、エアコン寒くない?」
「大丈夫」
「昼はなんか食ったの?」
「大盛こってり豚骨ラーメン食ったら吐いた」
「ガッツリ体調不良じゃねえか」
「俺が吐くなんて風邪の時くらいだから、熱測ったの」
「なるほどね。しっかり寝ろよ。おやすみ」

 立ち上がって部屋を出ようとしたら、なんか違和感。振り返ると、明翔が甚平の裾を引っ張っている。

「どうかした?」
「深月がいてくれないと、眠れない」

 ドキッとした。
 熱のせいか、明翔の目が潤んでいる。

「うち四人で雑魚寝してるから、ベッドで一人なんて寝れないよ」
「雑魚寝してんの?! 一条と?!」
「優たちがうちに住むのは一時的だから。優がベッドないんだから、って俺も雑魚寝」

 一条に奪われ、分け合わされる……。
 明翔……。

「分かった。俺、ここにいるから、安心して寝ろよ」

 ふふっ、と明翔が力なく笑う。

「たまには熱出すのもいいね。深月の顔が優しい」
「俺はいつも優しい顔です!」

 明翔が笑って、目を閉じた。

 こうして見ると、まじで綺麗な顔してる。たまご型の輪郭は俺と違って骨っぽさを感じない。肌ツルツルだし、まつ毛長いし。鼻筋の通ったシュッとした鼻。こんな口でめちゃくちゃ食うんだもんな。いつもより赤い気がする。柳や颯太みたいにリップ塗ってるとこ見たことないのに、めっちゃプルプル……。

 鼻先に鼻息を感じて、ハッとする。
 ――明翔、寝たみたいだな……。

 なぜか心臓がバクバクしてる。胸を押さえて、深呼吸をくり返した。



 ジュ~……って音と、香ばしい匂いで目が覚める。
 痛て……ソファに体を起こし、伸ばす。

「おはよー、深月!」
「……はよ。もー、明翔はまじでジッとしてられねえな」

 明翔が笑顔でテーブルを指差す。見ると、体温計が36.5と表示している。

「熱下がったんだ」
「ありがとうね。深月が夜中も氷枕替えてくれてたの気付いてたんだけど、眠気が勝っちゃって」

 ……バレてたのか。

「薬飲んでたしな。よく寝れたみたいで良かった」
「深月のベッド、深月の匂いするからよく寝れた!」
「え。俺くさいの?」
「くさくないよ。落ち着く匂い」
「落ち着くの?」

 自分の匂いも分からない。首をかしげるしかない。

「深月にちゅーされる夢見てさあ、その時だけめっちゃドキドキした」
「は?! 夢だから! 現実じゃねえから!」
「うん、夢だよ? 夢の中の話」
「あ、夢ね……」
「ん?」

 明翔が首をかしげながら目玉焼きを皿に乗せる。皿にはウインナーとベーコンがこんがりしてる。

「すげえ! めっちゃ豪華じゃん!」
「食ったら甚平買いに行こうね」
「いいよ、もう」
「俺、隣並んで歩くの恥ずかしいんだけど」
「急いで食って行くか」

 結局、昨日一日着てたから洗濯しなきゃだしな。
 着替えるために部屋に入ると、ベッドの枕元に前足を揃えて座るツンと目が合った。
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