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34.柳龍二と黒岩くんの桃恋占い
第七十八回、聖天坂高校文化祭の開幕。
「明翔、今日こそ勝負の決着をつけよう。チェキ売上の多かった者が呂久村の唇をいただく」
「受けて立つ。絶対に俺が勝つ!」
なんか知らんもんも開幕。同じような顔で同じ服着て差が出るものなのか、はなはだ疑問である。
一条は、黒いワンピースに白いフリルがたっぷりのメイド服を着ている。頭には、白いレースのカチューシャ。黒いハイソックス。黒、白、アクセントに濃い赤の店内装飾は、柳と一条が一切の妥協なく仕上げた。衣装のクオリティが高すぎるのもあって、まるで本物のコンカフェ。
さすがに明翔と一条が同じ時間の店番では混乱を呼びそうなので、一条は午前、明翔は午後に分けられた。
「早番で一番キツいのは、西郷と淀橋だな」
「俺ら野球部だから、この髪じゃねえと怒られるんだもん」
超短髪の西郷と淀橋が二個しかないウィッグをつける。つけたとて、素の黒髪短髪の一条よりも比べものにならないくらい見てられない。午後は我が身である。
午後から店番の俺、明翔、颯太、柳はいつもの制服。
「先に校内まわってくるよ。せいぜい、がんばってね、優」
「準備があるから、十二時には戻ってきてよ、明翔」
ふふーん、と明翔はご機嫌である。
「優が愛想よく接客なんかできるわけない。絶対に俺が勝つよ!」
「お、おう」
正直、俺も一条が売上対決なんて言い出したのは違和感。明翔のコミュ力を誰よりも知ってるだろうに。
目の前を、ぼっちの黒岩くんがトボトボと歩いている。明翔も気付いて、いい? と目で聞いてくる。まあ、いいよ。黒岩くんがどうがんばったって、明翔は誘いを全部断ったんだし。
黒岩くんが嬉しそうにやって来る。
「ありがとう!」
「何の礼だよ」
「ひとりで文化祭まわるしかないと思ってたから」
「一緒に行きたきゃ、そう言えばいいのに」
「言ったら、ここに入れてもらえる……?」
黒岩くんが目を丸くする。そんな顔をするでない。
「もちろん! 友達じゃん」
「……高崎くん……」
「そうそう、友達な、友達」
誰とでもすぐお友達になってしまう明翔にとっては、その他大勢と同義な。
「桃恋占いだって。佐藤くん、占いしようよ!」
柳がハートを背景に『桃恋占い』と書かれた大きな看板を指差した。
恋占い? なんで、そんなもんを颯太とやりたいんだ、柳は。
「いらっしゃいませー。この恋札を二人で立ててください」
柳と黒岩くんが入口でハート形のピンクの板をもらう。
「何ちゃっかりもらってんのかな、黒岩くん」
「せ、せっかくだから、高崎くんとやりたいなって思って」
「へー、ハートを立てるってムズそう。やってみよ、やってみよ!」
明翔は純粋にゲームとして楽しんどるな。
しかし、ハートを立てるというのは地味ながらハードなゲームである。接地面が尖った一点しかない。ころっころ転がって、柳颯太チームも黒岩明翔チームも一向に立てられる気配がない。
「まさか、立たないだなんて……おかしい。僕と佐藤くんは、これを成功させて結ばれるはずなのに」
「これ、やり方合ってんのかなっ?」
まだ俺たちの他に客はいない。客任せの占いのせいか、店番も入口にしかいない。
入口を見やって看板が目に入り、ふと気付いた。同時に柳が「そうか」とつぶやいた。
「これは『桃』恋占いだ。だから、これはハート型じゃない。こうだ」
柳がハートを逆さまにして、丸い二点で札を立てた。
「なるほど、これなら立てられる!」
窓際壁沿いにズラッと設置されている机に、二つの桃が立った。
「これで成就するってことだね!」
柳と黒岩くんがニコッと笑い合った。何それ、占いってか、おまじないじゃね?
ゲームを成功させ、四人が満足して教室を出ようとする。教室後方には四つの箱があり、中にはお守りのようなものが入っている。
柳と黒岩くん、これ、もらってかなくていいんだろうか。
ま、いいか。
廊下に出ると、若い男性二人が目の前を走っていく。
「二年一組ってどこだ?!」
「本館三階って書いてる!」
書いてる?
颯太がスマホを見ている。任侠映画界隈だらけのタイムラインの中に、無表情のメイドさんが突如現れた。
「一条?」
「客がSNSに上げたのがバズってるみたい。二万いいよね付いてる」
「二万?! 二万人が来る可能性があるってこと?」
「さすがに全員は来ないと思うけど、これ見て一条目的で来る人も多いだろうな」
あまりの数に、颯太がかわいいフリを忘れている。
「二万……」
明翔が曇った顔でつぶやいた。
あ。明翔が楽勝だったはずの、勝負……。
「これだけ広まってしまっては、午後からも一条くんにはフォトスポット専属でいてもらうしかないね」
「ダメ! そんなことしたら――」
「でも、大勢押しかけてきて一条くんがいないんじゃ、暴動が起きる可能性がある」
「……そうかもしれないけど……」
柳が渋る明翔をジッと見る。
「高崎くんが髪を切って黒くすれば、客は一条くんだと思うだろうけど」
「絶対にイヤ!」
「だよね。こんなに短くするのは僕だって嫌だ。ならやはり、一条くんにいてもらうしかない」
明翔にとって、一条の身代わりなんて最大級の屈辱だろう。
でも、このままでは一条との勝負に負けてしまう。
……いや、ひとつだけ、明翔が勝つ方法がある。
「明翔、今日こそ勝負の決着をつけよう。チェキ売上の多かった者が呂久村の唇をいただく」
「受けて立つ。絶対に俺が勝つ!」
なんか知らんもんも開幕。同じような顔で同じ服着て差が出るものなのか、はなはだ疑問である。
一条は、黒いワンピースに白いフリルがたっぷりのメイド服を着ている。頭には、白いレースのカチューシャ。黒いハイソックス。黒、白、アクセントに濃い赤の店内装飾は、柳と一条が一切の妥協なく仕上げた。衣装のクオリティが高すぎるのもあって、まるで本物のコンカフェ。
さすがに明翔と一条が同じ時間の店番では混乱を呼びそうなので、一条は午前、明翔は午後に分けられた。
「早番で一番キツいのは、西郷と淀橋だな」
「俺ら野球部だから、この髪じゃねえと怒られるんだもん」
超短髪の西郷と淀橋が二個しかないウィッグをつける。つけたとて、素の黒髪短髪の一条よりも比べものにならないくらい見てられない。午後は我が身である。
午後から店番の俺、明翔、颯太、柳はいつもの制服。
「先に校内まわってくるよ。せいぜい、がんばってね、優」
「準備があるから、十二時には戻ってきてよ、明翔」
ふふーん、と明翔はご機嫌である。
「優が愛想よく接客なんかできるわけない。絶対に俺が勝つよ!」
「お、おう」
正直、俺も一条が売上対決なんて言い出したのは違和感。明翔のコミュ力を誰よりも知ってるだろうに。
目の前を、ぼっちの黒岩くんがトボトボと歩いている。明翔も気付いて、いい? と目で聞いてくる。まあ、いいよ。黒岩くんがどうがんばったって、明翔は誘いを全部断ったんだし。
黒岩くんが嬉しそうにやって来る。
「ありがとう!」
「何の礼だよ」
「ひとりで文化祭まわるしかないと思ってたから」
「一緒に行きたきゃ、そう言えばいいのに」
「言ったら、ここに入れてもらえる……?」
黒岩くんが目を丸くする。そんな顔をするでない。
「もちろん! 友達じゃん」
「……高崎くん……」
「そうそう、友達な、友達」
誰とでもすぐお友達になってしまう明翔にとっては、その他大勢と同義な。
「桃恋占いだって。佐藤くん、占いしようよ!」
柳がハートを背景に『桃恋占い』と書かれた大きな看板を指差した。
恋占い? なんで、そんなもんを颯太とやりたいんだ、柳は。
「いらっしゃいませー。この恋札を二人で立ててください」
柳と黒岩くんが入口でハート形のピンクの板をもらう。
「何ちゃっかりもらってんのかな、黒岩くん」
「せ、せっかくだから、高崎くんとやりたいなって思って」
「へー、ハートを立てるってムズそう。やってみよ、やってみよ!」
明翔は純粋にゲームとして楽しんどるな。
しかし、ハートを立てるというのは地味ながらハードなゲームである。接地面が尖った一点しかない。ころっころ転がって、柳颯太チームも黒岩明翔チームも一向に立てられる気配がない。
「まさか、立たないだなんて……おかしい。僕と佐藤くんは、これを成功させて結ばれるはずなのに」
「これ、やり方合ってんのかなっ?」
まだ俺たちの他に客はいない。客任せの占いのせいか、店番も入口にしかいない。
入口を見やって看板が目に入り、ふと気付いた。同時に柳が「そうか」とつぶやいた。
「これは『桃』恋占いだ。だから、これはハート型じゃない。こうだ」
柳がハートを逆さまにして、丸い二点で札を立てた。
「なるほど、これなら立てられる!」
窓際壁沿いにズラッと設置されている机に、二つの桃が立った。
「これで成就するってことだね!」
柳と黒岩くんがニコッと笑い合った。何それ、占いってか、おまじないじゃね?
ゲームを成功させ、四人が満足して教室を出ようとする。教室後方には四つの箱があり、中にはお守りのようなものが入っている。
柳と黒岩くん、これ、もらってかなくていいんだろうか。
ま、いいか。
廊下に出ると、若い男性二人が目の前を走っていく。
「二年一組ってどこだ?!」
「本館三階って書いてる!」
書いてる?
颯太がスマホを見ている。任侠映画界隈だらけのタイムラインの中に、無表情のメイドさんが突如現れた。
「一条?」
「客がSNSに上げたのがバズってるみたい。二万いいよね付いてる」
「二万?! 二万人が来る可能性があるってこと?」
「さすがに全員は来ないと思うけど、これ見て一条目的で来る人も多いだろうな」
あまりの数に、颯太がかわいいフリを忘れている。
「二万……」
明翔が曇った顔でつぶやいた。
あ。明翔が楽勝だったはずの、勝負……。
「これだけ広まってしまっては、午後からも一条くんにはフォトスポット専属でいてもらうしかないね」
「ダメ! そんなことしたら――」
「でも、大勢押しかけてきて一条くんがいないんじゃ、暴動が起きる可能性がある」
「……そうかもしれないけど……」
柳が渋る明翔をジッと見る。
「高崎くんが髪を切って黒くすれば、客は一条くんだと思うだろうけど」
「絶対にイヤ!」
「だよね。こんなに短くするのは僕だって嫌だ。ならやはり、一条くんにいてもらうしかない」
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……いや、ひとつだけ、明翔が勝つ方法がある。
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