BL?! ちがう、濃い友情!

はちみつ電車

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36.高崎明翔の身代わり作戦

 文化祭準備中に使った道具入れを明翔が引っかき回す。

「あった!」

 ロッカーの上に明翔が置いたのは、ハサミと黒のカラースプレー缶。

「明翔、これ」
「深月、俺の髪切って。優くらいに」
「まさか」
「優は男として転校してきた。なのに、女として写真が出回るのは、最大級の屈辱なはずだ」
「だからって……」

 明翔にとっても、一条の身代わりなんて最大級の屈辱だろうに。

「メイド服だって『男子が着るものだから』着てるけど、心を無にして、無理してる。これ以上、優を傷つけたくない」
「明翔……」

 真衣ちゃんの彼氏によって傷つけられ、男になることを望む一条のために……。

「早く! 三人組が来る前に!」
「……分かった」

 人の髪を切るなんて、俺も緊張する。でも、ジャキッと明翔の明るい茶髪を切り落とす。

 ――すごいな、明翔は。
 赤ちゃんの時から何年も何年もずっと、積り積もった思いがあるのに。
 それでも、一条の心を守るために、ためらいなく、ここまでできる。すげえよ。

 こんなすごい子が、なんで俺なんか好きになってくれたんだろ。

 カフェの楽しげな騒音がシャットアウトされてるみたい。ジャキッ、ジャキッと、ハサミの音だけが耳に響く。

「俺のワイシャツ着ろ。メイド服のままじゃ汚れる」
「深月のシャツ汚れちゃうけど」
「いい。俺のなら、その上からでも着れるだろ」
「ありがとう!」

 おしぼりで顔をガードして、スプレー缶を二回振って、明翔の頭に振りかける。

「どう?」

 明翔が振り返った。
 まるで、小学生の頃の一条がそのまま高校生になったかのようで、心臓がドーンと打たれる。

「大丈夫、一条そっくり」
「だろうね」

 言いながら、明翔は素早くワイシャツを脱いだ。

「お前らが撮ってんのは別人だ、バーカ、って思いながらやるわ。優は優、俺は俺だもん」

 明翔がニコッと笑う。心臓がドドドーンと撃たれた。

「おう! 俺もバーカって思いながら見てる!」

 ほんと、すげえ。めちゃくちゃ強いじゃん。

 明翔が背筋を伸ばして黒いカーテンをめくって出て行く。
 よし、人手は減る一方だけど、俺は俺のできることをやろう。

 教室は相変わらず満席である。チラチラと明翔の様子を伺うと、笑顔で楽しそうにやっている。
 一条の身代わりという点では屈辱だろうが、明翔はもともとコミュ力あるもんな。

「ここかー。お! いるじゃん、メイドさん」
「へー、愛想はないって書いてたのにニコニコじゃん」
「俺らのこと待ってくれてたのかなー」

 あははは! と大声で笑う。
 真夏だってのにピッタリした黒い革パンを履いた男と、Tシャツハーフパンツの男が二人。

 なんだろう。知らないヤツなのに、存在してるだけでムカつく。

 三人組はテーブルにはつかずに、フォトスポットに向かった。チェキだけ撮りに来たのか。
 十人以上が順番を待って並んでいるが、まっすぐ明翔の前へと向かった。チェキ係のゆりが慌てた様子で駆け寄る。

「俺のこの美脚が映えるポーズ考えてよ」
「すみません、順番に撮ってるので並んでください」
「お前に用はねえんだよ」

 革パンの男がゆりの肩を押した。ゆりがよろめく。

「ゆり!」
「君はこっちー。うわ、画像で見るよりかわいい。まじで女にしか見えねえわ」
「君、ほんとに男なの?」
「確かめようぜ」

 は?!
 やけに手慣れた様子で、Tシャツの男が明翔の背後から羽交い締めにする。もう一人の男がしゃがみ込んでワンピースのスカートに手を伸ばす。

「やめろ!」
「うわ!」

 明翔のバカ力と身体能力をもってすれば、背後にいる男をしゃがみ込んでる男の上に背負い投げるくらい朝飯前である。

「痛てえ。骨折れたわ~」
「警察行って、慰謝料たっぷり請求してやる」
「それか、俺たちの言うこと聞くなら、写真撮るだけで許してやるよ」

 革パンの男が明翔へとまっすぐスマホを向けた。
 二人の男が痛い痛いとうずくまっている。

 険しい顔してジッとスマホを見つめる明翔の前に、ヌッと立った。

「うわ! 化け物!」
「誰が化け物じゃい。工藤先生! こいつらです!」
「順番抜かしする悪い子はお前たちか。職員室まで来なさい!」
「俺ら生徒じゃねえし!」

 ここは学校である。常に教師がウロウロしているのだ。このような揉め事が起きないように。
 白いタンクトップの工藤先生が自慢の筋肉を遺憾なく発揮して、三人まとめて教室から連れ出す。

「明翔、大丈夫か?」
「大丈夫! きっと深月が助けてくれると思ってた」

 ニコッと笑って言われると、ただ先生を呼んできただけで全然カッコよく助けられてないのが恥ずかしくなる。

「すみません! お待たせしました! 再開しまーす。次の方どうぞ~」

 明翔が笑顔でポーズの打ち合わせに入る。
 ゆりはまだ放心状態の様子である。

「ゆり、代わるよ」
「……ごめん……ありがとう」
「すげえじゃん。あんなガラ悪そうな男に毅然と注意してさあ。カッコよかった」
「深月……」

 この小さい体であんなデカい男相手に、たいした度胸だよ、まじで。

「じゃー、撮りま――」

 明翔が椅子に座って両手でハートを作り、男性客がバックハグしている。

「離れて! うちは接触禁止なんで!」

 明翔は明翔で、何を笑ってハート作っとるんじゃい! まったく、ボーダーレスにフレンドリーなヤツめ。

 もうあいつ、俺だけのもんにしたい。
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