黒のシャンタル 第二話 「新しい嵐の中へ」<完結>

小椋夏己

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第一章 第一部 東の海へ

 5 偽装馬車

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「いいか、これが今いる町だ。ここから東へは街道がずっと続いてるが、これより大きい町はもう終わりだ。ここが東と西の分岐点、銀行やでっかい店もある東の端の町ってことだな」

 トーヤがそう言いながら地図の真ん中あたりを指差す。
 この町で買った地図なのだろう、この町を中心に左右に世界が広がっている地図であった。

「なんか、綱渡りだな」

 アランがそう言うとベルも、

「シャンタル、託宣っての、もうちょい早くできなかったのかよ」

 と、不服そうに言う。

「そう言われても」

 シャンタルがしらっと答える。

「まあな、神様ってのは博打ばくちが好きなんだよ」

 これまでの色々なことを思い出すようにトーヤも言う。

「だがな、こっちが絶対に勝てない勝負は仕掛けてこねえ。ってことは、今回もなんとか間に合うだろう。俺らが本気出せば、だがな。その本気を見たくてこういうことするようにも思えるな」
「根性悪いな、神様って……」

 ベルが顔をしかめ、それを見てシャンタルが声を上げて笑った。

「そんでだな、いざあっちに行ったとしても、こいつ、シャンタルな、そのまま入れるのはちとやばいと思うんだよ」
「そりゃそうか」
「で、ちょっと考えた」

 と、トーヤの考えを聞く。

「なるほど……」
「な、いい考えだろ?」
「まあ、それならごまかせそうだが」
「ってかさ」

 ベルがその役割を聞いてトーヤをじっと見て言う。

「そういうこと考えてるってことは、トーヤ、最初からおれたちも付いてくるって思ってたんじゃねえの?」

 言われてトーヤはニヤッと笑うと、

「まあ来てくれる可能性はあると思って考えてたのは認める」

 そう言う。

「そんで、俺たちが来なかったらどうするつもりだったんだ?」

 アランが聞くと、

「その時はその時、多少の変更はあってもこの線でちょちょっと色々修正していくつもりではあった。そんでも、おまえらが来てくれた方が『色々と助かり』はしたかな」

 そうしてその後も色々と話を詰めると、

「そんじゃ、明日の朝は早いぞ、そろそろ寝とけ。寝坊したら置いてくからな」

 そう言ってアランとベルを追い出すと、ゴロッとソファに寝転がった。

「お昼ずっと寝てたからなあ、寝られるかなあ……」

 シャンタルはそう言うと、すでにソファでぐうぐう寝入っているトーヤを見て、

「相変わらず寝つきがいいなあ、おやすみ」

 そう言って自分も布団をかぶって横になり、間もなくすうすうと寝息を立てて寝てしまった。





 翌朝早く、まだ日がのぼり切るより前にトーヤは宿を出ていくと、ある「もの」を持って帰ってきた。

「なんだよそりゃ」

 ベルが眠そうに目をこすっている横でアランが目をむく。
 
 馬で引いてきたのは大きな馬車だ。
 シルエットからなかなか豪華な馬車っぽく思えるのだが、全体に木綿らしい布をぐるぐると巻いてあるのでなんだか妙な馬車に見える。

「いいだろ、偽装馬車だ。中はこう、なかなかのもんだぜ」

 布をちらっとめくってみせると、

「これ、なんかめちゃくちゃ高そうな馬車に思えるんだけど……」

 と、ベルも布をめくって言う。

「そりゃ大したもんだったぜ~これ見つけるのに時間かかるかと思ったんだがな、運よくすぐに見つかったからな」

 得意そうに胸を張る。

「って、よくこんな馬車買う金あったな……」

 言いたいのはそういうことらしい。

「ま、そのへんは、まあな」

 トーヤが言葉を濁しながら、宿の親父から受け取った弁当や水、その他の荷物を積み込む。

「馬車の中もいっぱいだな、結構でかい馬車なのに」
「何しろぶっ飛ばして行くからな、必要なもん詰め込んでる」

 そんな話をしながら、ベルはなんか険のある目つきでトーヤをじっと見ている。

「なんだよおまえ、さっきから」
「この馬車だよ」
「なんだよ、何か気になるか」
「これ、貴族用の馬車だよな?」
「貴族だけじゃねえだろうが、まあそんな感じだ」

 布の端っこをちらっとめくっては、トーヤと馬車を見比べる。

「なんぼほどした?」
「なんだなんだ、いいじゃねえかよそんなこと」
「いや、いいことねえな……」

 ベルがじーっとトーヤを見つめると、すいっと目を反らせる。
 その様子を見て、ちょっとアランも不安になって言う。

「ここが東の端だよな、銀行のある……」

 アルディナの大きな銀行では、毎日の取引の結果を記した書類を色々な方法で隣の町の支店へ届ける。なのである町で預けた金を、翌日以降ではあるが、割札わりふださえ見せれば別の支店でも引き出すことができるようになる。

 トーヤはギクッとした顔をするが、

「それがどうした?」

 と、知らん顔して準備の支度を続ける。

「なあ、トーヤ、俺たちの金も一緒に銀行に預けてたよな?」

 まだ未成年のアランとベルは口座が開けず、トーヤに一緒に預けてもらっていたのだ。

「おまえ、まさかおれらの……」

 ベルがぐっと踏み出してトーヤに詰め寄る。

「いやあ、一緒に来てくれてよかったぜ、金返せって言われたらどうしようかな~って思ってた、本当『色々と助かった』よ」
「な!」

 どうやら使い込んだらしい。

「まあまあ、あっちに行って無事に帰ってきたら返すからさ、な?」

 そうベルをなだめすかすが、

「こんの……」

 一息吸って、

「エロクソオヤジ!!!!!」

 ふんっとそう怒鳴りつけて馬車に乗り込んでしまった。
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