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第一章 第一部 東の海へ
11 踏み出す前に
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その後は、大体似たような様子で、お天気だったり雨だったりする違いはあったが、東への旅はおおむね順調と言えるものとなった。
馬の交換もほとんどうまくいった。何回かいい馬がいなかった時もあったが、その時には仕方がないので思い切ってそこでしばらく休んでから、馬を休ませてからの出発で、人間側にもいい小休止になってくれた。
途中、「愉快な連中」にも何度か会ったが、いつもちょうど御者台にトーヤかアラン、もしくは両方が座っている時で、ちょうどいい運動不足解消の相手になってくれた。おかげでシャンタルは、もう疲れるようなことをせずのんびりと馬車の中で過ごせたと、いつものように呑気に言う。
「さあて、もう後少しで東の港だ。この駅からだと、そうだな、あと2、3日ってところか」
「はあ~長かったなあ」
ベルがげんなりした顔で言う。
痛そうに腰を叩きながら、
「すっかり尻の皮が厚くなっちまった気がする」
そう言って足腰を擦る。
シャンタルもあくびをしながら馬車から出てきて、
「はあ~馬車の中も飽きた~」
のんびりとそう言う。
「そう言うんならな、次はおまえが馬車操れ」
トーヤにそう言われて、
「ちょっとならやってもいいけど、疲れるからなあ」
と、嫌そうに言う。
「とりあえず次はベルとおまえだ」
「え!」
その組み合わせは初めてだったのでベルが驚く。
「どうしてもだめだったら交代してやるから、いけるところまでいっとけ」
そうして珍しい組み合わせでの出発となった。
ほぼベルが手綱を取りながらも、結構シャンタルも交代して2人で進める。
「なんだよ、案外いけてるじゃねえか」
トーヤが感心するように言う。
「シャンタルもベル相手だと結構がんばるんだよな」
アランがそう言って笑う。
「そうだね、私はベルが大好きだから、交代するしかないじゃない」
しらっとそう言う。
「俺たちは大好きじゃねえのかよ」
「う~ん、大好きだけど、まあね」
後の言葉を濁すが、
「おっさんだもんな」
と、ベルがいらん口をはさんで両側からはたかれる。
「なんだよ、か弱い女の子だぞ! シャンタルぐらい大事にしてくれよな!」
そう抗議するが、
「厚い面の皮と尻の皮しといていっちょ前のこと抜かすな」
と、トーヤからもう一発くらった。
「東の港」から「シャンタルの神域」の出入り口、あちらからは「西の端の港」である「サガン」まで行く船がいつあるかは分からない。
少し長く休みを取りながら、荷物を整理し、港に着いてからのことをあらためて話をする。
ずっと辺境にある小さな駅ばかりだったが、ここまでくるとさすがに港のある大きな町に近づくことから次第に大きな駅になっていく。
「少し情報収集してくる。おまえらは休んどけ」
そう言ってから、
「シャンタルはできるだけ目立たないようにしろよ」
「うん分かった、馬車にいるよ」
シャンタルが馬車に入るのを確認してから、トーヤが駅の周辺の宿や店を見に出掛けていった。
「こんな遠くまで来たの初めてだよなあ」
「後悔してないか?」
アランが妹を気遣うように言う。
「後悔? なんで?」
目をパチクリしながら言う妹に、本心だと思ってホッとする。
「いや、やっぱり遠いからな」
あの時、東と西の分岐点の町を出てからほぼ一月、予定通りに旅は続いたが、これからの方が本番なのだ。何が起こるか分からない旅だ。
ベルの気持ちを聞き、お互いに確認もないままにトーヤとシャンタルと共に「シャンタルの神域」に行くことを決めたが、やはり一度確認だけはしておきたいと思った。
「おれはやっぱり来てよかったと思ってるぞ」
ベルがそう言う。
「そうなのか?」
「うん、まあ尻は痛いけど楽しいしな」
そう言って笑う。
「もしもだけどな……」
アランは少しだけ間を置いてから言う。
「もしも、やっぱり行きたくなくなった、戻りたいってのなら、今ならまだ間に合うぞ?」
「何言ってんだよ兄貴……」
ベルは呆れたように言う。
「もしかして、兄貴、行きたくなくなってんの? 後悔してんの?」
「いや、俺は行くって決めたからな」
「じゃあおれも一緒だよ」
ベルはそう言って朗らかに笑う。
「おまえはさ、まああっち行って、その、本当は会いたくないって人もいるんじゃねえかと……」
「なーに言ってんだよ、おれは会いたいって言ってるじゃん」
「本当にそれでいいんだよな?」
「女に二言はないからな」
そう言ってケラケラと笑う。
「ならいい……」
アランはそのまま黙る。
「なあ、兄貴、何心配してんだよ」
ベルの方が今度は心配そうに聞く。
「ぶっちゃけ言うけどな」
アランが真面目な顔で言う。
「俺は、おまえには一日も早くこんな生活から足を洗って、まともな生活をしてほしいんだよ」
「兄貴……」
初めて聞く兄の本心であった。
「金貯めていつか店でも持とう」とはよく言っていた。ベルもいつかそうなればいいな、と漠然とは思っていたが、そんな真剣に言われたのは初めてだった。
「それがな、正反対、なんだか分かんねえ道に踏み出して、その日がどんどん遠くなるように思えてな。そんで一応確認しときたいと思っただけだ」
いつも冷静な兄の、なんだか見てはいけない心の中を覗いたようで、ベルは少し心が苦しくなった。
馬の交換もほとんどうまくいった。何回かいい馬がいなかった時もあったが、その時には仕方がないので思い切ってそこでしばらく休んでから、馬を休ませてからの出発で、人間側にもいい小休止になってくれた。
途中、「愉快な連中」にも何度か会ったが、いつもちょうど御者台にトーヤかアラン、もしくは両方が座っている時で、ちょうどいい運動不足解消の相手になってくれた。おかげでシャンタルは、もう疲れるようなことをせずのんびりと馬車の中で過ごせたと、いつものように呑気に言う。
「さあて、もう後少しで東の港だ。この駅からだと、そうだな、あと2、3日ってところか」
「はあ~長かったなあ」
ベルがげんなりした顔で言う。
痛そうに腰を叩きながら、
「すっかり尻の皮が厚くなっちまった気がする」
そう言って足腰を擦る。
シャンタルもあくびをしながら馬車から出てきて、
「はあ~馬車の中も飽きた~」
のんびりとそう言う。
「そう言うんならな、次はおまえが馬車操れ」
トーヤにそう言われて、
「ちょっとならやってもいいけど、疲れるからなあ」
と、嫌そうに言う。
「とりあえず次はベルとおまえだ」
「え!」
その組み合わせは初めてだったのでベルが驚く。
「どうしてもだめだったら交代してやるから、いけるところまでいっとけ」
そうして珍しい組み合わせでの出発となった。
ほぼベルが手綱を取りながらも、結構シャンタルも交代して2人で進める。
「なんだよ、案外いけてるじゃねえか」
トーヤが感心するように言う。
「シャンタルもベル相手だと結構がんばるんだよな」
アランがそう言って笑う。
「そうだね、私はベルが大好きだから、交代するしかないじゃない」
しらっとそう言う。
「俺たちは大好きじゃねえのかよ」
「う~ん、大好きだけど、まあね」
後の言葉を濁すが、
「おっさんだもんな」
と、ベルがいらん口をはさんで両側からはたかれる。
「なんだよ、か弱い女の子だぞ! シャンタルぐらい大事にしてくれよな!」
そう抗議するが、
「厚い面の皮と尻の皮しといていっちょ前のこと抜かすな」
と、トーヤからもう一発くらった。
「東の港」から「シャンタルの神域」の出入り口、あちらからは「西の端の港」である「サガン」まで行く船がいつあるかは分からない。
少し長く休みを取りながら、荷物を整理し、港に着いてからのことをあらためて話をする。
ずっと辺境にある小さな駅ばかりだったが、ここまでくるとさすがに港のある大きな町に近づくことから次第に大きな駅になっていく。
「少し情報収集してくる。おまえらは休んどけ」
そう言ってから、
「シャンタルはできるだけ目立たないようにしろよ」
「うん分かった、馬車にいるよ」
シャンタルが馬車に入るのを確認してから、トーヤが駅の周辺の宿や店を見に出掛けていった。
「こんな遠くまで来たの初めてだよなあ」
「後悔してないか?」
アランが妹を気遣うように言う。
「後悔? なんで?」
目をパチクリしながら言う妹に、本心だと思ってホッとする。
「いや、やっぱり遠いからな」
あの時、東と西の分岐点の町を出てからほぼ一月、予定通りに旅は続いたが、これからの方が本番なのだ。何が起こるか分からない旅だ。
ベルの気持ちを聞き、お互いに確認もないままにトーヤとシャンタルと共に「シャンタルの神域」に行くことを決めたが、やはり一度確認だけはしておきたいと思った。
「おれはやっぱり来てよかったと思ってるぞ」
ベルがそう言う。
「そうなのか?」
「うん、まあ尻は痛いけど楽しいしな」
そう言って笑う。
「もしもだけどな……」
アランは少しだけ間を置いてから言う。
「もしも、やっぱり行きたくなくなった、戻りたいってのなら、今ならまだ間に合うぞ?」
「何言ってんだよ兄貴……」
ベルは呆れたように言う。
「もしかして、兄貴、行きたくなくなってんの? 後悔してんの?」
「いや、俺は行くって決めたからな」
「じゃあおれも一緒だよ」
ベルはそう言って朗らかに笑う。
「おまえはさ、まああっち行って、その、本当は会いたくないって人もいるんじゃねえかと……」
「なーに言ってんだよ、おれは会いたいって言ってるじゃん」
「本当にそれでいいんだよな?」
「女に二言はないからな」
そう言ってケラケラと笑う。
「ならいい……」
アランはそのまま黙る。
「なあ、兄貴、何心配してんだよ」
ベルの方が今度は心配そうに聞く。
「ぶっちゃけ言うけどな」
アランが真面目な顔で言う。
「俺は、おまえには一日も早くこんな生活から足を洗って、まともな生活をしてほしいんだよ」
「兄貴……」
初めて聞く兄の本心であった。
「金貯めていつか店でも持とう」とはよく言っていた。ベルもいつかそうなればいいな、と漠然とは思っていたが、そんな真剣に言われたのは初めてだった。
「それがな、正反対、なんだか分かんねえ道に踏み出して、その日がどんどん遠くなるように思えてな。そんで一応確認しときたいと思っただけだ」
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