黒のシャンタル 第二話 「新しい嵐の中へ」<完結>

小椋夏己

文字の大きさ
31 / 354
第一章 第二部 船上にて

 8 思わぬ名

しおりを挟む
「へえ」

 トーヤはどう答えるのが一番いいのかと考える間もなく、ほとんど反射のようにそう一言だけ吐き出した。
 おかしなところはなかったはずだ。

「俺はそのアロさんと五年前にサガンの港で初めて会ってな、それで『定期航路を開くこと』について意見を求められたんだ。当時はまだ船長じゃなかったんだが、たまたまその時の船に乗ってた一番の古株だったもんでな」
「そうか」

 下手なことは言えない。

「なんでもアロさんは、あっちでアルディナ出身の人間に会って、そいつから定期航路を開いてはどうかと言われたらしい。色々と細かい話もしたらしいぞ」
「そうか」

 特に興味もなさそうに単調にそう答える。

「まっすぐ30日海の上ばっかりではちと厳しい、途中で寄港できる島でもあれば現実味はある、そう答えたらな、そいつもそういうことを言ってたらしく、えらく興味を持たれた」
「へえ」
「なんだ、興味なさそうだな」
「いや、興味はある。続けてくれ」

 トーヤの言葉に、ディレンは面白そうな顔をしてから話を続ける。

「それまでは行き来がなにしろ少なかった。それで最短距離だろうと思われた航路しかなかったんだが、もしも、途中で休息できる島があり、そこに中継地点としての港でもあれば、今よりもっと行き来はしやすくなるだろう、ってことで話が合った。それからしばらくしてだな、アロさんが本当にそういう島を見つけたって連絡を寄越したのは」
「そんなに頻繁に連絡取り合ってたのか」
「いや、船があったら手紙よこすぐらいだ。俺はダーナスに戻って次の航海まで、船の手入れやら、次回の積荷、そんなことで陸仕事してた時だったんだが、ちょうどあっちから来た船があってな、手紙を預かってきてくれた」
「そうだったのか」

 シャンタルを連れて王都から洞窟を抜け、さらに小船で海を渡ったキノスでアロの船に同乗させてもらった。そこから西の港サガンへ行くまでの10日ほど、それから東へ行く船が出るまでの3日間に色々な話をした。その時に自分もそういうことを言っていたな、と思い出す。もっとも、口からでまかせに近かったのだが。

「そうか、それで途中に寄港地ができたってわけか」
「そうだ。やっと興味を持ったみたいだな」
「あんたのつまらん思い出話や、俺のこと根掘り葉掘り聞き出そうってのよりはよっぽど興味のある話だ。おかげでこっちまで旅が楽になりそうならな」
「もっともだ、かなり2つの神域の行き来は気楽になったと思う」
「いいことだな」

 素直にそう答える。

「そうだな。これまでは不思議なぐらい交流がなかった」
「ああ、そうだな」
「一体何が原因だったんだろうな」

 ディレンが疑問を口にする。

「さあな、俺には分からん」
「俺もだ。だがな、気になる話を一つ聞いた」
「なんだ?」

 ディレンが真面目な顔をしてトーヤをじっと見る。

「あの国、シャンタリオ、いや、シャンタルの神域全体に影響のある話だ」

 そう言ってさらにトーヤの目をじっと見つめる。

「なんだよ、もったいつけんなよ」

 心の中を覗かれぬよう、自分の瞳にディレンの瞳を映すように見つめ返す。

「あの国はシャンタルって生き神様が治めてる、これは聞いたことあるか?」
「ああ、ある。短い間だが行ってたこともあるしな」
「そうか。その生き神様がな、亡くなったそうだ」
「生き神っても人間だろうが、死ぬこともあるだろう」
「それがな、ありえない死に方だったそうだ」
「ありえない?」

 あくまで自分はあの国のことはほとんど何も知らない、そう言い聞かせながら、何も知らない人間が興味を持つような顔をして聞く。

「ああ、そうだ」
「どういうことだ?」
「生き神は十年で次の生き神に交代するわけなんだが、交代した途端に死んだんだそうだ」
「は?」

 自分は何も知らない、言ってる意味が分からない。

「普通はそういうことねえのか?」
「らしい」
「へえ、なんだかよく分からんが、まあ大変なこったな」
「ああ、世界の運命を変えるような出来事らしいぞ」
「へえ、そらまあ御大層なこった」

 わざとアホらしい、と言わんばかりの風に言う。

「世界が変わりつつあるのは、そのせいじゃないか、ってそのアロさんがな」
「へえ~」

 もっともっと自分には関係ない、何かの戯言たわごとだと言わんばかりに言う。

「なんだ、信じてないのか」
「さあなあ。まあ、そいつらは信じてるんだろうよ。信じる者は救われる、ってな」
「なるほどな」

 トーヤの返事が愉快でたまらない、という風にディレンが笑った。

「そんで、その神様が死んだから船が行き来できやすくなるのか? ってことは、その神様が邪魔してたってことか」
「さあなあ、俺もそこまでは分からん。それとな」

 ぐっと身を乗り出し、もう一度トーヤの目を見つめ直す。

「そのアロさんの言うところによると、その定期便の話をした男はアルディナに戻ったらしい。それで、そいつを知らないかと聞かれたんだよ」

 一つ息を吸い、続ける。

「そいつの名前な、トーヤっていうらしい。偶然だよな、おまえと同じ名前、聞くところによると年も同じらしい」
「へえ、そりゃまたえらい偶然だ!」
 
 トーヤはいかにも偶然に驚いたというていで、目を見開いてディレンの目を見つめ返した。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

【完結】異世界転移した私がドラゴンの魔女と呼ばれるまでの話

yuzuku
ファンタジー
ベランダから落ちて死んだ私は知らない森にいた。 知らない生物、知らない植物、知らない言語。 何もかもを失った私が唯一見つけた希望の光、それはドラゴンだった。 臆病で自信もないどこにでもいるような平凡な私は、そのドラゴンとの出会いで次第に変わっていく。 いや、変わらなければならない。 ほんの少しの勇気を持った女性と青いドラゴンが冒険する異世界ファンタジー。 彼女は後にこう呼ばれることになる。 「ドラゴンの魔女」と。 ※この物語はフィクションです。 実在の人物・団体とは一切関係ありません。

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

追放貴族少年リュウキの成り上がり~魔力を全部奪われたけど、代わりに『闘気』を手に入れました~

さとう
ファンタジー
とある王国貴族に生まれた少年リュウキ。彼は生まれながらにして『大賢者』に匹敵する魔力を持って生まれた……が、義弟を溺愛する継母によって全ての魔力を奪われ、次期当主の座も奪われ追放されてしまう。 全てを失ったリュウキ。家も、婚約者も、母の形見すら奪われ涙する。もう生きる力もなくなり、全てを終わらせようと『龍の森』へ踏み込むと、そこにいたのは死にかけたドラゴンだった。 ドラゴンは、リュウキの境遇を憐れみ、ドラゴンしか使うことのできない『闘気』を命をかけて与えた。 これは、ドラゴンの力を得た少年リュウキが、新しい人生を歩む物語。

99歳で亡くなり異世界に転生した老人は7歳の子供に生まれ変わり、召喚魔法でドラゴンや前世の世界の物を召喚して世界を変える

ハーフのクロエ
ファンタジー
 夫が病気で長期入院したので夫が途中まで書いていた小説を私なりに書き直して完結まで投稿しますので応援よろしくお願いいたします。  主人公は建築会社を55歳で取り締まり役常務をしていたが惜しげもなく早期退職し田舎で大好きな農業をしていた。99歳で亡くなった老人は前世の記憶を持ったまま7歳の少年マリュウスとして異世界の僻地の男爵家に生まれ変わる。10歳の鑑定の儀で、火、水、風、土、木の5大魔法ではなく、この世界で初めての召喚魔法を授かる。最初に召喚出来たのは弱いスライム、モグラ魔獣でマリウスはガッカリしたが優しい家族に見守られ次第に色んな魔獣や地球の、物などを召喚出来るようになり、僻地の男爵家を発展させ気が付けば大陸一豊かで最強の小さい王国を起こしていた。

廃城の泣き虫アデリー

今野綾
ファンタジー
領主の娘だったアデリーはある日家族を殺され育った領地から命からがら逃げ出した。辿り着いた先は廃城。ひとり、ふたりと住人が増える中、問題が次々とおこって… 表紙はフリー素材です

チート無しっ!?黒髪の少女の異世界冒険記

ノン・タロー
ファンタジー
 ごく普通の女子高生である「武久 佳奈」は、通学途中に突然異世界へと飛ばされてしまう。  これは何の特殊な能力もチートなスキルも持たない、ただごく普通の女子高生が、自力で会得した魔法やスキルを駆使し、元の世界へと帰る方法を探すべく見ず知らずの異世界で様々な人々や、様々な仲間たちとの出会いと別れを繰り返し、成長していく記録である……。 設定 この世界は人間、エルフ、妖怪、獣人、ドワーフ、魔物等が共存する世界となっています。 その為か男性だけでなく、女性も性に対する抵抗がわりと低くなっております。

【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活

シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!

処理中です...