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第一章 第三部 絶海の孤島
8 男と男の話
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「ミーヤが……」
「もっと早く言ってやりゃよかったのにな……」
トーヤが少し俯いてぽつりぽつりと話し出した。
「一番最初、あんたを追っかけてひっぱたいた時、あの時は、悔しかったんだよ、ミーヤにそんな仕事をさせなきゃならねえってのが」
「そうか」
「だから、こいつのせいでミーヤがそういう仕事を始めるんだ、そう思って思いっきりひっぱたいた。八つ当たりだって分かってるけど、そうせずにいられなかったんだ」
「そうか」
「だから、あんたにミーヤを取られたって気持ちより、その悔しい気持ちの方がずっと大きかった。俺が大人だったら、もっと稼いでたら、そしたらミーヤにそんな仕事やらせなくて済むのに、ってな」
「そうか」
「母親の時は、まあ、あまりに小さかったからな、そこまで考えることすらできなかった。その後、あいつが色々世話焼いてくれて、あいつが俺の母親になってったから、だから、それ聞いて、その時ははっきりとヤキモチ焼いてたと思う。俺よりあんたの方が大事なんじゃないか、ってな。だから多分言わなかったんだろ」
「それ、いつぐらいのことだ?」
「いつだったっけかなあ……」
少し考えて、
「ああ、俺が戦場稼ぎから傭兵になるちょっと前だな。だから俺が11の頃、いや、まだ10かも知れんが、なんにしてもそのぐらいのことだ」
「ほう、ってことは12より前」
「それ言うなよな!」
トーヤが気色ばんでディレンに詰め寄る。
「ベルにいらんこと言うなよな!そんでなくともあいつ、今お年頃とかでアランも厳しくなってんだし」
「ほう」
ディレンの目が楽しそうに光ったのに気づき、トーヤはしまったと思った。
「まあ、よく覚えとくよ」
「くそっ」
ディレンがものすごーく楽しそうに笑った目になる。
「くそお!ガキの頃の自慢話が今になって脅しのネタになるなんて誰が思うよ!」
「まあそう言うな、そんだけおまえがあの嬢ちゃんを大事に思ってる証拠だ。知られたくないんだろ?って、あの嬢ちゃん、おまえの女か?」
「ちがうわ!」
思いっきり否定する。
「妹だよ、完全にな。というか、娘でもいいぐらいだ、あんなションベン臭いガキ」
「そうか」
嘘ではないみたいなのでディレンが思い切り笑う。
「そんじゃ娘にそういうこと知られたくねえな。年齢的に本当に親子でもおかしくないぐ」
「だから言うなって!」
トーヤは11歳の時、年をごまかして傭兵として雇ってもらうようになった。
「あの頃はまだガキとしては体が大きい方だったから、13だとか14だとか言ってもなんとか通ったんだよ。あのまま結構でかくなるだろうと思ったのに、その後で止まったからなあ。そんでほどほどの大きさの大人になっちまった」
「そうだな。俺はずっと小さい方だったからなんとも思わんが、おまえは当時は鼻っ柱強かったし、態度も体もでかい大人になるだろうと俺も思ったな」
「だろ?」
「早熟ってやつかな。そこからあんまり伸びなかったよなあ」
「そうなんだよな」
はあっとため息をつく。
「アランなんかとっくに俺追い抜いて、まだまだ伸びそうだし、シャンタルだってああいう風情で俺よりでかいしな」
「そうなのか!」
ディレンが驚いて聞く。
「ああ、でかいな。あんな風にしてるからそう思わねえんだがな、背筋伸ばすと俺よりちょっとばかり上だ」
「そりゃまた……」
ディレンが気の毒そうに言う。
「つーてもシャンタルはまだいい。俺よりでかいってもそれほど変わらんし、年も18でもう今より伸びねえだろうし。問題はベルだよ」
「嬢ちゃんか」
「ああ、あいつらの両親と死んだ兄貴ってのがまたでかかったらしくてな、そのうちベルにまで追い越されんじゃねえかとびくびくしてる」
「そうか」
心底気の毒そうに言われ、
「いや、だからって俺の方がなんでもかんでも上だからな!身長ぐらいでどうってことねえからな!」
トーヤが慌てて言い直す。
「まあ、あれだな。あんまり若いうちからそういうことすると伸びねえって」
「だから冗談でもそういうこと言うなよな!」
トーヤのガキの頃の自慢話とは、当時は大きい方だったので、年をごまかしてかなり若いうちからそういう悪所に出入りするようになっていた、ということだった。
「その気になってりゃベルと同じぐらいの年のガキがいてもおかしくねえ、ってアランに言っちまったことあって」
「俺にも似たようなこと言ったからなあ、あの頃、ガキのくせに」
「なんだよなあ……」
はあっと大きなため息をつき、
「知られたくねえよなあ……」
ぼそっとつぶやく。
「誰にだ?」
「へ?」
「誰に知られたくないんだ?」
「いや、だからベルに」
「いや、違うな」
ディレンがじーっとトーヤを見て確信する。
「なんか、そういうの知られたくない相手がいるんだな、多分」
「な、何言ってんだよ!」
トーヤがびっくりして叫ぶ。
「いねえよ、そんな相手!ただ、ベルに不潔だなんだとへそ曲げられっと面倒なんだよ!」
「娘に知られるのは確かに親父としてはつらいよな」
ディレンがそう言って笑う。
「けど、娘だけじゃねえな、そりゃ」
「違うって」
「まあ先は長い、また嬢ちゃんたちに色々聞いてみるか」
「やめろー!」
ディレンに旅の楽しみができたらしい。
「もっと早く言ってやりゃよかったのにな……」
トーヤが少し俯いてぽつりぽつりと話し出した。
「一番最初、あんたを追っかけてひっぱたいた時、あの時は、悔しかったんだよ、ミーヤにそんな仕事をさせなきゃならねえってのが」
「そうか」
「だから、こいつのせいでミーヤがそういう仕事を始めるんだ、そう思って思いっきりひっぱたいた。八つ当たりだって分かってるけど、そうせずにいられなかったんだ」
「そうか」
「だから、あんたにミーヤを取られたって気持ちより、その悔しい気持ちの方がずっと大きかった。俺が大人だったら、もっと稼いでたら、そしたらミーヤにそんな仕事やらせなくて済むのに、ってな」
「そうか」
「母親の時は、まあ、あまりに小さかったからな、そこまで考えることすらできなかった。その後、あいつが色々世話焼いてくれて、あいつが俺の母親になってったから、だから、それ聞いて、その時ははっきりとヤキモチ焼いてたと思う。俺よりあんたの方が大事なんじゃないか、ってな。だから多分言わなかったんだろ」
「それ、いつぐらいのことだ?」
「いつだったっけかなあ……」
少し考えて、
「ああ、俺が戦場稼ぎから傭兵になるちょっと前だな。だから俺が11の頃、いや、まだ10かも知れんが、なんにしてもそのぐらいのことだ」
「ほう、ってことは12より前」
「それ言うなよな!」
トーヤが気色ばんでディレンに詰め寄る。
「ベルにいらんこと言うなよな!そんでなくともあいつ、今お年頃とかでアランも厳しくなってんだし」
「ほう」
ディレンの目が楽しそうに光ったのに気づき、トーヤはしまったと思った。
「まあ、よく覚えとくよ」
「くそっ」
ディレンがものすごーく楽しそうに笑った目になる。
「くそお!ガキの頃の自慢話が今になって脅しのネタになるなんて誰が思うよ!」
「まあそう言うな、そんだけおまえがあの嬢ちゃんを大事に思ってる証拠だ。知られたくないんだろ?って、あの嬢ちゃん、おまえの女か?」
「ちがうわ!」
思いっきり否定する。
「妹だよ、完全にな。というか、娘でもいいぐらいだ、あんなションベン臭いガキ」
「そうか」
嘘ではないみたいなのでディレンが思い切り笑う。
「そんじゃ娘にそういうこと知られたくねえな。年齢的に本当に親子でもおかしくないぐ」
「だから言うなって!」
トーヤは11歳の時、年をごまかして傭兵として雇ってもらうようになった。
「あの頃はまだガキとしては体が大きい方だったから、13だとか14だとか言ってもなんとか通ったんだよ。あのまま結構でかくなるだろうと思ったのに、その後で止まったからなあ。そんでほどほどの大きさの大人になっちまった」
「そうだな。俺はずっと小さい方だったからなんとも思わんが、おまえは当時は鼻っ柱強かったし、態度も体もでかい大人になるだろうと俺も思ったな」
「だろ?」
「早熟ってやつかな。そこからあんまり伸びなかったよなあ」
「そうなんだよな」
はあっとため息をつく。
「アランなんかとっくに俺追い抜いて、まだまだ伸びそうだし、シャンタルだってああいう風情で俺よりでかいしな」
「そうなのか!」
ディレンが驚いて聞く。
「ああ、でかいな。あんな風にしてるからそう思わねえんだがな、背筋伸ばすと俺よりちょっとばかり上だ」
「そりゃまた……」
ディレンが気の毒そうに言う。
「つーてもシャンタルはまだいい。俺よりでかいってもそれほど変わらんし、年も18でもう今より伸びねえだろうし。問題はベルだよ」
「嬢ちゃんか」
「ああ、あいつらの両親と死んだ兄貴ってのがまたでかかったらしくてな、そのうちベルにまで追い越されんじゃねえかとびくびくしてる」
「そうか」
心底気の毒そうに言われ、
「いや、だからって俺の方がなんでもかんでも上だからな!身長ぐらいでどうってことねえからな!」
トーヤが慌てて言い直す。
「まあ、あれだな。あんまり若いうちからそういうことすると伸びねえって」
「だから冗談でもそういうこと言うなよな!」
トーヤのガキの頃の自慢話とは、当時は大きい方だったので、年をごまかしてかなり若いうちからそういう悪所に出入りするようになっていた、ということだった。
「その気になってりゃベルと同じぐらいの年のガキがいてもおかしくねえ、ってアランに言っちまったことあって」
「俺にも似たようなこと言ったからなあ、あの頃、ガキのくせに」
「なんだよなあ……」
はあっと大きなため息をつき、
「知られたくねえよなあ……」
ぼそっとつぶやく。
「誰にだ?」
「へ?」
「誰に知られたくないんだ?」
「いや、だからベルに」
「いや、違うな」
ディレンがじーっとトーヤを見て確信する。
「なんか、そういうの知られたくない相手がいるんだな、多分」
「な、何言ってんだよ!」
トーヤがびっくりして叫ぶ。
「いねえよ、そんな相手!ただ、ベルに不潔だなんだとへそ曲げられっと面倒なんだよ!」
「娘に知られるのは確かに親父としてはつらいよな」
ディレンがそう言って笑う。
「けど、娘だけじゃねえな、そりゃ」
「違うって」
「まあ先は長い、また嬢ちゃんたちに色々聞いてみるか」
「やめろー!」
ディレンに旅の楽しみができたらしい。
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