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第二章 第一部 神と神
17 役割を守るために
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「どうして二年も早く次代様はご誕生になられるのでしょう」
「でもそれは、過去にも例のないことではないですし……」
ラーラ様が言うように、過去には七年で交代になった者などもあるようだ。
逆に十二年の長きに渡ってシャンタルであった者もいるらしいが、ほとんどの場合がほぼ十年で交代をする。
「当代は200代目……」
歴代、200人のシャンタルの個性は様々であった。
「黒のシャンタル」のように数多くの託宣を行い、またその託宣が的を射たものであったことから、多くの恵みを与えたと言われた者もいる。
逆に、中には当代のようにほぼ託宣を行わなかった者もあるという。
だが、その者も最後の託宣、次代様の誕生だけは確実に行い、シャンタルの交代の糸を無事に次につなげている。
「なんにしても、最後の託宣はなされました。当代がシャンタルであることは間違いがなかったということです」
ラーラ様の言葉に、マユリアが少しゆっくりと頷いた。
少しだけ何かを訝しむように。
ラーラ様は当代の苦悩を見てきている。
なぜ自分は託宣がができないのか、そのことで小さな胸を痛めているのを見てきている。
「シャンタルのお仕事とは託宣だけではありませんよ、一番大事なお仕事は、そのお役目を次につなげることなのです」
そう何度も言い聞かせたが、小さなシャンタルはそれで納得をしてはいなかった。
「安心しております。きちんとお役目を果たされたことに」
「ええ……」
マユリアがまた少し弱く返事をする。
ラーラ様の胸にも少し不安が残る。
「一度キリエと話をしてまいります」
「え」
このところ、マユリアがキリエと直接話をする機会はほぼなくなっている。
「セルマには話さずに参ります」
ラーラ様が驚いた顔でマユリアを見る。
マユリアとキリエの仲は不和ではない、むしろ逆だ。2人が直接会うことで、会話をすることで不愉快に思う者たちを刺激しないため、会わずにいる。そのために必要なことは「取次役」を通して伝えているのだ。
キリエの侍女頭退任の話が出たのは、当代になって割とすぐのことであった。
「交代も無事終わったことですし、そろそろ侍女頭も交代を」
そういう声がどこからともなく上がった。
それ自体は特に不思議なことでもない。何しろキリエが侍女頭になったのは30代のこと、それから三十年近くを絶対の侍女頭として務め続けている。
本来ならば、マユリアが先代と交代した頃に侍女頭の交代があったとしてもおかしくはなかった。
なくてもおかしくはないが、しても不思議ではない。そのぐらいだったので、その時は特に交代を求める声も上がらなかった。
だが今回は、
「さすがに長過ぎるのではないか」
そんな声が次第に大きくなってきた。
先代が生まれた時、その出来事の大きさにラーラ様は宮に乳母代わりとして残り、キリエも侍女頭として務め続ける必要があった。
シャンタル付きのネイとタリアも同様で、シャンタル付きの役目を続ける必要があった。
「黒のシャンタル」の秘密を知る者はみな、そうして役割を守り続けた。
違うのは、今回は当代には守る秘密がないため、シャンタル付きに新しい者を入れることができる。常のように乳母たちも付けられた。
秘密を知る者たちに与えられた役割は、先代が戻るまでの年月、さらに今の役割を務め続けることだけである。
そのためにはどんなことでもする、そう決めていた。
なので、宮で力を増してきた神殿から侍女頭の交代を勧められた時にも否と言い、その代わりとして神殿が求めてきた「奥宮」と「前の宮」の切り離しとも言える「取次役」を置くことを認めた。
そうして、周囲にはマユリアとキリエがあまりうまくいっていない、そう思わせている方が平穏であった。お互いにそれを理解し合って距離を置いていた。
「大丈夫でしょうか」
ラーラ様が不安そうに言うが、
「マユリアの地位とはなんでしょう?」
マユリアがにっこりとし、続けてさらにラーラ様に言う。
「シャンタルに次ぐ地位、国王と同列」
その通りなのだ。
この国で一番尊い存在はシャンタルである。
その次がシャンタルの侍女の女神たるマユリア、そして国の頂点に、人の頂点に立つ国王である。
マユリアと国王は同列にある。たとえ国王の正妃である王妃であろうが、その世継ぎの皇太子であろうが、マユリアに従うべき立場の人間である。
なぜなら、マユリアもシャンタルと同じく神だからだ。神は人の上に立つべき存在である。
「わたくしはだから、誰に何を断る必要もありません。取次役たるセルマに声をかけるのは、その方が宮の運営に便利だから、それだけの理由です」
「はい……」
ラーラ様はそう答えるが、この三年ほどの間、取次役の地位はまるでマユリアと同列である。マユリアがそれを許しているのだとみんな思っていた。
セルマ自身も自分は侍女頭たるキリエより上だ、そう思っているように振る舞っていた。
そしてキリエは、マユリアの真意が分かるだけに、できるだけ静かに、セルマの言動を受け流し、宮の間で争いが置きぬように動いていた。
「ですからわたくしは、キリエを尊重し、尊敬しているのです」
マユリアがきっぱりと言った。
「でもそれは、過去にも例のないことではないですし……」
ラーラ様が言うように、過去には七年で交代になった者などもあるようだ。
逆に十二年の長きに渡ってシャンタルであった者もいるらしいが、ほとんどの場合がほぼ十年で交代をする。
「当代は200代目……」
歴代、200人のシャンタルの個性は様々であった。
「黒のシャンタル」のように数多くの託宣を行い、またその託宣が的を射たものであったことから、多くの恵みを与えたと言われた者もいる。
逆に、中には当代のようにほぼ託宣を行わなかった者もあるという。
だが、その者も最後の託宣、次代様の誕生だけは確実に行い、シャンタルの交代の糸を無事に次につなげている。
「なんにしても、最後の託宣はなされました。当代がシャンタルであることは間違いがなかったということです」
ラーラ様の言葉に、マユリアが少しゆっくりと頷いた。
少しだけ何かを訝しむように。
ラーラ様は当代の苦悩を見てきている。
なぜ自分は託宣がができないのか、そのことで小さな胸を痛めているのを見てきている。
「シャンタルのお仕事とは託宣だけではありませんよ、一番大事なお仕事は、そのお役目を次につなげることなのです」
そう何度も言い聞かせたが、小さなシャンタルはそれで納得をしてはいなかった。
「安心しております。きちんとお役目を果たされたことに」
「ええ……」
マユリアがまた少し弱く返事をする。
ラーラ様の胸にも少し不安が残る。
「一度キリエと話をしてまいります」
「え」
このところ、マユリアがキリエと直接話をする機会はほぼなくなっている。
「セルマには話さずに参ります」
ラーラ様が驚いた顔でマユリアを見る。
マユリアとキリエの仲は不和ではない、むしろ逆だ。2人が直接会うことで、会話をすることで不愉快に思う者たちを刺激しないため、会わずにいる。そのために必要なことは「取次役」を通して伝えているのだ。
キリエの侍女頭退任の話が出たのは、当代になって割とすぐのことであった。
「交代も無事終わったことですし、そろそろ侍女頭も交代を」
そういう声がどこからともなく上がった。
それ自体は特に不思議なことでもない。何しろキリエが侍女頭になったのは30代のこと、それから三十年近くを絶対の侍女頭として務め続けている。
本来ならば、マユリアが先代と交代した頃に侍女頭の交代があったとしてもおかしくはなかった。
なくてもおかしくはないが、しても不思議ではない。そのぐらいだったので、その時は特に交代を求める声も上がらなかった。
だが今回は、
「さすがに長過ぎるのではないか」
そんな声が次第に大きくなってきた。
先代が生まれた時、その出来事の大きさにラーラ様は宮に乳母代わりとして残り、キリエも侍女頭として務め続ける必要があった。
シャンタル付きのネイとタリアも同様で、シャンタル付きの役目を続ける必要があった。
「黒のシャンタル」の秘密を知る者はみな、そうして役割を守り続けた。
違うのは、今回は当代には守る秘密がないため、シャンタル付きに新しい者を入れることができる。常のように乳母たちも付けられた。
秘密を知る者たちに与えられた役割は、先代が戻るまでの年月、さらに今の役割を務め続けることだけである。
そのためにはどんなことでもする、そう決めていた。
なので、宮で力を増してきた神殿から侍女頭の交代を勧められた時にも否と言い、その代わりとして神殿が求めてきた「奥宮」と「前の宮」の切り離しとも言える「取次役」を置くことを認めた。
そうして、周囲にはマユリアとキリエがあまりうまくいっていない、そう思わせている方が平穏であった。お互いにそれを理解し合って距離を置いていた。
「大丈夫でしょうか」
ラーラ様が不安そうに言うが、
「マユリアの地位とはなんでしょう?」
マユリアがにっこりとし、続けてさらにラーラ様に言う。
「シャンタルに次ぐ地位、国王と同列」
その通りなのだ。
この国で一番尊い存在はシャンタルである。
その次がシャンタルの侍女の女神たるマユリア、そして国の頂点に、人の頂点に立つ国王である。
マユリアと国王は同列にある。たとえ国王の正妃である王妃であろうが、その世継ぎの皇太子であろうが、マユリアに従うべき立場の人間である。
なぜなら、マユリアもシャンタルと同じく神だからだ。神は人の上に立つべき存在である。
「わたくしはだから、誰に何を断る必要もありません。取次役たるセルマに声をかけるのは、その方が宮の運営に便利だから、それだけの理由です」
「はい……」
ラーラ様はそう答えるが、この三年ほどの間、取次役の地位はまるでマユリアと同列である。マユリアがそれを許しているのだとみんな思っていた。
セルマ自身も自分は侍女頭たるキリエより上だ、そう思っているように振る舞っていた。
そしてキリエは、マユリアの真意が分かるだけに、できるだけ静かに、セルマの言動を受け流し、宮の間で争いが置きぬように動いていた。
「ですからわたくしは、キリエを尊重し、尊敬しているのです」
マユリアがきっぱりと言った。
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