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第二章 第一部 神と神
19 侍女頭の決意
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「では、その『中の国の方』の謁見にラーラ様をお付けしたのは、おまえではないのですね?」
「はい」
キリエはゆっくりと答える。
「今は、謁見の時に誰が付くかを私はあまり存じませんので」
「そうですね。ですが、調べれば分かることでしょう」
「はい、それはその通りです」
キリエは素直に認める。
「あの時は、ネイかタリアに頼みたい用ができてそう伝えたところ、タリアにはすでに予定が入っていたとかでネイが来てくれることとなりました。その結果、ラーラ様がお付きになられたとか」
「そうなのですか」
はっきりと、意図的ではないと取れる回答に、マユリアももうそれ以上のことを聞けなかった。
「はい。ですが、ラーラ様がお付きになられている時でよかったと思いました。シャンタルもその方が御心丈夫でありましたでしょうし」
「そうですね」
生まれて初めての託宣で動揺したシャンタルを、一番落ち着かせることができるのはラーラ様である。それは間違いない。
「あの、シャンタルはいかがなさっていらっしゃいますか」
キリエが恐る恐るという風に尋ねる。
この三年、キリエは侍女頭でありながら、ほとんど当代シャンタルとお会いしていない。侍女頭としての立場からは信じられぬことではあるが、「取次役」ができてからは、そこを経由しての会話しかできてはいないのだ。
「大層喜んでいらっしゃいました」
マユリアがそう言ってから、
「ですが、わたくしは少し不安でなりません」
顔を上げ、キリエをじっと正面から見つめて言う。
「本当にあれは当代の託宣なのでしょうか」
「本当に、とは?」
もしも、トーヤから前もって聞いていなければ、自然にそう口から出ただろうと思う言葉でキリエが答える。
「当代は託宣をなさったことがありません」
「はい、存じております」
三年前までは小さな当代のそばに付いて見てきたキリエだ。一度も託宣をしたことがないことは、もちろん承知している。
「ですが、これまでの記録にも、次代様に関する託宣のみをなされたシャンタルのこともございます。特に不思議とは」
「ええ」
マユリアも認める。
「ですが、ラーラ様ともお話しいたしましたが、何かが違う、そう感じたのです」
「何かが……」
「ええ」
マユリアがこっくりと頷く。
「説明はできません。ですが、かつてシャンタルであった者のみに分かる違和感がありました」
「シャンタルであった者のみに……」
あるのかも知れない。
シャンタルではなかった者には分からぬ何かが。
「申し訳ありません、おっしゃる通り、神たる身であったことのない、ただの人の身たる私には理解できるものではありません。お許しを」
そう言ってキリエが頭を下げる。
「頭をお上げなさい」
マユリアが頭を上げさせる。
「もう一度だけ尋ねます。本当に、あれは当代の託宣で間違いがないのですね?」
聞かれてキリエが黙り込む。
「申し訳ありません、私には、人の身たる私には、何度問われてもお答えする術がございません。たとえ、その場に立ち会っていたとしても、同じお答えをするしか」
「そうですか……」
マユリアはそれ以上聞いても無駄だと知り、少し弱く返事をする。
キリエは話すつもりがないのだと理解した。
キリエの決意、それは、マユリアを、シャンタルを、ラーラ様を裏切る気持ちではない。むしろ3人を守りたいがための決意であった。
先代の託宣により、次代様のご誕生は無事に宮へと伝わった。
もしも、先代が帰ってきてくれていなかったら、託宣がなければ、次代様は誰にも知られぬことがなく生まれ、普通の人として生きることになる。
そうなったらシャンタルの存在はどうなるのか?連綿と続いてきたシャンタルの、マユリアの糸は切れてしまうことになる。
かといって、先代とトーヤの帰還を伝えるにはまだ早い、そう判断した。
その理由は、今の宮の状態をあまり信用できないからである。
もしも、マユリアやラーラ様に事実を伝え、それが当代の耳に入ったら、他の者の耳に入ったら、一体どうなるのか想像もつかない。
以前ならば、ラーラ様、ネイやタリアのように命をかけても秘密を守る者たちでシャンタルをお守りできた。だが今は違う。少なくともキリエには違うと思えた。
もしも神殿や神殿に近い者たちが秘密を知ったらどうなるのか。
彼らよりはまだトーヤの方が信用できる、そう考えたから秘密を共有しているだけだ。
できるならば、マユリアやラーラ様にも知られずに先代がマユリアを継承し、それを当代に引き継ぐのが望ましい。だがそれは不可能であろう。
今はまだこの先どうすればいいのか分からない。
トーヤと先代の本心も分からない。
今のそんな状態で万が一のこと、秘密が漏れる可能性がある道を進むことはできない。
今、どのような立場に置かれているとしても、それが侍女頭としての矜持、キリエにできるすべてのことであった。
もしも、その選んだ道が間違いだとしたら、その時は自分がすべての責任を負い、受けるべき罰を受けるだけだ。
その覚悟を持っているからこそ、マユリアに事実を話すまい、キリエはそう決意していた。
「はい」
キリエはゆっくりと答える。
「今は、謁見の時に誰が付くかを私はあまり存じませんので」
「そうですね。ですが、調べれば分かることでしょう」
「はい、それはその通りです」
キリエは素直に認める。
「あの時は、ネイかタリアに頼みたい用ができてそう伝えたところ、タリアにはすでに予定が入っていたとかでネイが来てくれることとなりました。その結果、ラーラ様がお付きになられたとか」
「そうなのですか」
はっきりと、意図的ではないと取れる回答に、マユリアももうそれ以上のことを聞けなかった。
「はい。ですが、ラーラ様がお付きになられている時でよかったと思いました。シャンタルもその方が御心丈夫でありましたでしょうし」
「そうですね」
生まれて初めての託宣で動揺したシャンタルを、一番落ち着かせることができるのはラーラ様である。それは間違いない。
「あの、シャンタルはいかがなさっていらっしゃいますか」
キリエが恐る恐るという風に尋ねる。
この三年、キリエは侍女頭でありながら、ほとんど当代シャンタルとお会いしていない。侍女頭としての立場からは信じられぬことではあるが、「取次役」ができてからは、そこを経由しての会話しかできてはいないのだ。
「大層喜んでいらっしゃいました」
マユリアがそう言ってから、
「ですが、わたくしは少し不安でなりません」
顔を上げ、キリエをじっと正面から見つめて言う。
「本当にあれは当代の託宣なのでしょうか」
「本当に、とは?」
もしも、トーヤから前もって聞いていなければ、自然にそう口から出ただろうと思う言葉でキリエが答える。
「当代は託宣をなさったことがありません」
「はい、存じております」
三年前までは小さな当代のそばに付いて見てきたキリエだ。一度も託宣をしたことがないことは、もちろん承知している。
「ですが、これまでの記録にも、次代様に関する託宣のみをなされたシャンタルのこともございます。特に不思議とは」
「ええ」
マユリアも認める。
「ですが、ラーラ様ともお話しいたしましたが、何かが違う、そう感じたのです」
「何かが……」
「ええ」
マユリアがこっくりと頷く。
「説明はできません。ですが、かつてシャンタルであった者のみに分かる違和感がありました」
「シャンタルであった者のみに……」
あるのかも知れない。
シャンタルではなかった者には分からぬ何かが。
「申し訳ありません、おっしゃる通り、神たる身であったことのない、ただの人の身たる私には理解できるものではありません。お許しを」
そう言ってキリエが頭を下げる。
「頭をお上げなさい」
マユリアが頭を上げさせる。
「もう一度だけ尋ねます。本当に、あれは当代の託宣で間違いがないのですね?」
聞かれてキリエが黙り込む。
「申し訳ありません、私には、人の身たる私には、何度問われてもお答えする術がございません。たとえ、その場に立ち会っていたとしても、同じお答えをするしか」
「そうですか……」
マユリアはそれ以上聞いても無駄だと知り、少し弱く返事をする。
キリエは話すつもりがないのだと理解した。
キリエの決意、それは、マユリアを、シャンタルを、ラーラ様を裏切る気持ちではない。むしろ3人を守りたいがための決意であった。
先代の託宣により、次代様のご誕生は無事に宮へと伝わった。
もしも、先代が帰ってきてくれていなかったら、託宣がなければ、次代様は誰にも知られぬことがなく生まれ、普通の人として生きることになる。
そうなったらシャンタルの存在はどうなるのか?連綿と続いてきたシャンタルの、マユリアの糸は切れてしまうことになる。
かといって、先代とトーヤの帰還を伝えるにはまだ早い、そう判断した。
その理由は、今の宮の状態をあまり信用できないからである。
もしも、マユリアやラーラ様に事実を伝え、それが当代の耳に入ったら、他の者の耳に入ったら、一体どうなるのか想像もつかない。
以前ならば、ラーラ様、ネイやタリアのように命をかけても秘密を守る者たちでシャンタルをお守りできた。だが今は違う。少なくともキリエには違うと思えた。
もしも神殿や神殿に近い者たちが秘密を知ったらどうなるのか。
彼らよりはまだトーヤの方が信用できる、そう考えたから秘密を共有しているだけだ。
できるならば、マユリアやラーラ様にも知られずに先代がマユリアを継承し、それを当代に引き継ぐのが望ましい。だがそれは不可能であろう。
今はまだこの先どうすればいいのか分からない。
トーヤと先代の本心も分からない。
今のそんな状態で万が一のこと、秘密が漏れる可能性がある道を進むことはできない。
今、どのような立場に置かれているとしても、それが侍女頭としての矜持、キリエにできるすべてのことであった。
もしも、その選んだ道が間違いだとしたら、その時は自分がすべての責任を負い、受けるべき罰を受けるだけだ。
その覚悟を持っているからこそ、マユリアに事実を話すまい、キリエはそう決意していた。
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