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第二章 第三部 水際
7 心の声
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「分かった、会うよ」
「そうこなくちゃな」
ベルが得意そうに鼻を膨らませる。
「けどな」
「なんだよ、まだなんかごちゃごちゃ言うことあったっけ?」
ベルが眉間にシワを寄せる。
「どうやって会やいい?」
「はあ?」
ベルが寄せたシワを思っきり伸ばして目をまん丸くする。
「いやな、今、これだろ?」
右目からあごにかけてスーッと線を引くみたいにしてみせる。
「ああ、包帯男」
「緋色の戦士だよ!」
そこは断固として主張する。
「るせえ、包帯男!」
「なんだと!」
「どっちゃでもいいだろう、そんなの!」
「いいわけあるか! かっこよさが全然ちげーだろーがよ!」
「中身のかっこ悪さはいっしょだよ!」
「なんだと、このガキ!」
「だってそうだろ、そうやってびびってなんだかんだ、かっこ悪いったら!」
「なにー!」
「はい、そこまで」
いつものように間にアランが入ってピシャリと〆る。
「そうやって冗談事に逃げるのもトーヤの悪いクセだぜ」
アランも妹にかぶせるように今日は厳しく言う。
「逃げるって、誰が」
「まあな、気持ちは分かる」
アランがトーヤをとどめて言う。
「ミーヤさんって人は微妙な立場だ。だからどうしようか考えるんだよな」
「ああ、そうだ」
「八年前は確かに色々と協力してくれたが、今の宮ではどういう位置にいるかも分からねえもんな」
「ああ、そうだ」
「会ってみたら、状況が変わっちまって、もしかしたら迷惑をかけるかも知れねえ、そうも思ってるだろ?」
「ああ、そうだ」
「けどな、トーヤも分かってると思うけどな、それを判断するためにも、一度そっと会ってみた方がいいと俺も思う」
「…………」
アランが冷静に、それでいてトーヤの気持ちに逃げ道もつけるようにしながら、そう諭した。
「まあ、とにかく明日、ってかもうすぐ夜明けだから、今日のうちに一度思い切って会ってこい」
ディレンも言う。
「そうだよ。そんじゃ、もう眠いから寝る。みんな出てって」
ここはベルの部屋だった。
追い出された男3人は、向かい側にある護衛用に用意された従者用の部屋へ戻る。
ここは個室ではなく4人部屋である。
そこに3人、それぞれのベッドに黙ったままゴロッと横になり、そのまま何も言わずに寝てしまった。
朝までそんなに時間がない。こういう時、長年船乗りをやってきたディレンは強い。どんな時間でも短時間にグッと寝入り、起きる時はさっと起きる。そういう習慣が身についているからだ。
その点では戦場暮らしのトーヤやアランもそこそこ強い。船乗りほどではなくとも、危険を察知するとさっと目を覚まして起きられる。どこでも寝られる。短時間でも体力を回復する必要がある時は、座ってでも寝る。
なのでベッドに入ってすぐ、ディレンとアランはぐうぐうと寝入ってしまった。
常ならばトーヤもそうである。
同室のシャンタルが笑って呆れるほど、あっという間に寝てしまう。
それがどうしても寝られない。
ほう、っとため息を一つつき、寝返りをうつ。
どうやって会えばいいのだろう。
ごく普通に「よう」と軽く挨拶するのか、それともあらたまってきちんと報告した方がいいのか。
そういや、キリエの部屋に行った時の自分はどうだったろうか、と思い出す。
(なんも考えてなかったな)
おそらくキリエが部屋にいるんじゃないか、そう思って何も考えずに部屋に入った。
もしもいない時は椅子にでも座って待っていればいいか、そんな感じだった。
そして、実際に八年の月日などないように、昔、そう言われていたように相変わらずだ、そう思われながら普通に話ができた。
ミーヤともそうすればいいのだ。
頭ではそう思うのだが、心のどこかに小さなトゲが引っかかっていた。
――現に、娘と同じように月虹兵と一緒になって『外の侍女』をやってらっしゃる方は、娘の同期ですが、応募で入られた侍女の方です――
ミーヤはリルと同期だった。そしてリルとは違って応募で入った侍女だった。応募の侍女の同期は5名とか言ってなかったか? そしてミーヤもリルと共に「月虹兵」の係になった。
『娘と同じように月虹兵と一緒になって』
その一言が胸のどこかに引っかかっていて、知りたくない、そう思っていると気がついた。
(そうなのか?)
あり得ない話ではない。
八年の間にそういうことがあり、誰かの妻になっていても不思議ではない。
不思議なことに、その可能性をこの八年、全く考えたことがなかったのだ。
あの時、廊下ですれ違ってちらっと姿を見た時は、純粋に元気そうでよかったとうれしく思った。すぐに帰ってきたことを伝えられないとは思っていたが、時期がきたらキリエの部屋に行った時のように顔を出し、帰ってきたことを喜んでもらえると思っていた。
(だが、もしも、そうだとしたら……)
自分が顔を見せたらミーヤは迷惑な顔をするかも知れない。
いや、ミーヤのことだ、そんな顔はしないだろう。素直に帰ってきたことを、シャンタルを連れて戻ったことを喜んでくれるだろう。
ただ、それは他人としてだ。
いや、家族だったわけではないが、確かに絆があると自分は勝手に思っていた。
その絆が他の誰かとつながってしまったかも知れない。
そう思うだけでどうしていいか分からなくなってしまったのだ。
「そうこなくちゃな」
ベルが得意そうに鼻を膨らませる。
「けどな」
「なんだよ、まだなんかごちゃごちゃ言うことあったっけ?」
ベルが眉間にシワを寄せる。
「どうやって会やいい?」
「はあ?」
ベルが寄せたシワを思っきり伸ばして目をまん丸くする。
「いやな、今、これだろ?」
右目からあごにかけてスーッと線を引くみたいにしてみせる。
「ああ、包帯男」
「緋色の戦士だよ!」
そこは断固として主張する。
「るせえ、包帯男!」
「なんだと!」
「どっちゃでもいいだろう、そんなの!」
「いいわけあるか! かっこよさが全然ちげーだろーがよ!」
「中身のかっこ悪さはいっしょだよ!」
「なんだと、このガキ!」
「だってそうだろ、そうやってびびってなんだかんだ、かっこ悪いったら!」
「なにー!」
「はい、そこまで」
いつものように間にアランが入ってピシャリと〆る。
「そうやって冗談事に逃げるのもトーヤの悪いクセだぜ」
アランも妹にかぶせるように今日は厳しく言う。
「逃げるって、誰が」
「まあな、気持ちは分かる」
アランがトーヤをとどめて言う。
「ミーヤさんって人は微妙な立場だ。だからどうしようか考えるんだよな」
「ああ、そうだ」
「八年前は確かに色々と協力してくれたが、今の宮ではどういう位置にいるかも分からねえもんな」
「ああ、そうだ」
「会ってみたら、状況が変わっちまって、もしかしたら迷惑をかけるかも知れねえ、そうも思ってるだろ?」
「ああ、そうだ」
「けどな、トーヤも分かってると思うけどな、それを判断するためにも、一度そっと会ってみた方がいいと俺も思う」
「…………」
アランが冷静に、それでいてトーヤの気持ちに逃げ道もつけるようにしながら、そう諭した。
「まあ、とにかく明日、ってかもうすぐ夜明けだから、今日のうちに一度思い切って会ってこい」
ディレンも言う。
「そうだよ。そんじゃ、もう眠いから寝る。みんな出てって」
ここはベルの部屋だった。
追い出された男3人は、向かい側にある護衛用に用意された従者用の部屋へ戻る。
ここは個室ではなく4人部屋である。
そこに3人、それぞれのベッドに黙ったままゴロッと横になり、そのまま何も言わずに寝てしまった。
朝までそんなに時間がない。こういう時、長年船乗りをやってきたディレンは強い。どんな時間でも短時間にグッと寝入り、起きる時はさっと起きる。そういう習慣が身についているからだ。
その点では戦場暮らしのトーヤやアランもそこそこ強い。船乗りほどではなくとも、危険を察知するとさっと目を覚まして起きられる。どこでも寝られる。短時間でも体力を回復する必要がある時は、座ってでも寝る。
なのでベッドに入ってすぐ、ディレンとアランはぐうぐうと寝入ってしまった。
常ならばトーヤもそうである。
同室のシャンタルが笑って呆れるほど、あっという間に寝てしまう。
それがどうしても寝られない。
ほう、っとため息を一つつき、寝返りをうつ。
どうやって会えばいいのだろう。
ごく普通に「よう」と軽く挨拶するのか、それともあらたまってきちんと報告した方がいいのか。
そういや、キリエの部屋に行った時の自分はどうだったろうか、と思い出す。
(なんも考えてなかったな)
おそらくキリエが部屋にいるんじゃないか、そう思って何も考えずに部屋に入った。
もしもいない時は椅子にでも座って待っていればいいか、そんな感じだった。
そして、実際に八年の月日などないように、昔、そう言われていたように相変わらずだ、そう思われながら普通に話ができた。
ミーヤともそうすればいいのだ。
頭ではそう思うのだが、心のどこかに小さなトゲが引っかかっていた。
――現に、娘と同じように月虹兵と一緒になって『外の侍女』をやってらっしゃる方は、娘の同期ですが、応募で入られた侍女の方です――
ミーヤはリルと同期だった。そしてリルとは違って応募で入った侍女だった。応募の侍女の同期は5名とか言ってなかったか? そしてミーヤもリルと共に「月虹兵」の係になった。
『娘と同じように月虹兵と一緒になって』
その一言が胸のどこかに引っかかっていて、知りたくない、そう思っていると気がついた。
(そうなのか?)
あり得ない話ではない。
八年の間にそういうことがあり、誰かの妻になっていても不思議ではない。
不思議なことに、その可能性をこの八年、全く考えたことがなかったのだ。
あの時、廊下ですれ違ってちらっと姿を見た時は、純粋に元気そうでよかったとうれしく思った。すぐに帰ってきたことを伝えられないとは思っていたが、時期がきたらキリエの部屋に行った時のように顔を出し、帰ってきたことを喜んでもらえると思っていた。
(だが、もしも、そうだとしたら……)
自分が顔を見せたらミーヤは迷惑な顔をするかも知れない。
いや、ミーヤのことだ、そんな顔はしないだろう。素直に帰ってきたことを、シャンタルを連れて戻ったことを喜んでくれるだろう。
ただ、それは他人としてだ。
いや、家族だったわけではないが、確かに絆があると自分は勝手に思っていた。
その絆が他の誰かとつながってしまったかも知れない。
そう思うだけでどうしていいか分からなくなってしまったのだ。
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