黒のシャンタル 第二話 「新しい嵐の中へ」<完結>

小椋夏己

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第二章 第三部 水際

17 勘違い 

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「よかったですね、かわいらしいお嬢さんですこと」

 満面の笑みのまま、くるっとトーヤを振り返る。
 
 こ、こわい…… 
 何度も見てる、この笑顔……
 なんでか今回は今までで一番怖い……

「今、お世話をしている侍女見習いの皆さんを先に行かせてしまいました。私もすぐに行かないといけません。また今度」

 ミーヤはそう言って、ゆっくりと、優雅に片膝を付いて正式の礼をすると、固まっている2人を置いて部屋から出ていってしまった。

「おい!」

 トーヤが急いで追いかけようとするが、緋色の戦士の扮装を解いてしまっているのに気づき、足を止め、

「ああ……」

 そう言ってしゃがみ込む。

「ちょ!」

 急いでベルが部屋から飛び出した。

「あの!」

 早足でオレンジの侍女の後を追いかける。

「なんでしょう?」

 くるっと振り向いたその笑顔、やっぱり怖いままだ。

(やっぱこえぇーこの人)

 ベルも普通の女の子とは違う。幼い時から戦場暮らしで、それなりに場数も踏み、怖い思いを何度もしてきている。
 そのベルをして、怖いと思わせるこの迫力、なんなんだろう……

「あの」
「はい?」

 やはりオレンジの侍女は満面の笑みで、恐ろしい笑みのままにこやかに答える。

「あの、話を聞いてほしいんです」
「なんのでしょうか?」
「大切な話です。戻ってもらえませんか?」

 ベルが勇気を振り絞って言う。

「今は時間がないもので。先ほど申しました通り、お世話をしております侍女見習いの方の元へ行かなければならなりません。申し訳ありませんが」
「じゃあ、あの、客殿の方へ来ていただけませんか?」
「今は客殿へ行くお役をいただいておりませんので、それも少しむずかしいかと」
「あの、じゃあ、いつなら時間取ってもらえますか?」
「そんなに大切な話なんですか?」

 ミーヤの笑顔がふっと緩んで真顔になる。
 この方が笑顔より怖くないってなんなんだろう。

「はい、大切な話なんです」

 ベルの真剣な顔を見て、ミーヤがふうっと息を吐くと、

「分かりました、いつになるか分かりませんが、後ほどさっきの部屋へ伺います。それでよろしいですか?」
「はい、ありがとうございます」

 中の国の侍女がそうして宮の侍女に頭を下げていると、

「ミーヤ様」
 
 奥宮の方から声がした。
 さっき先に行った侍女見習いの一人らしい。

「あら、客殿の方へお送りしてこられたのでは?」

 不思議そうにそう言う。

「お連れの方を探していらっしゃったとのことでしたので、そちらのお手伝いをしておりました」
「そうでしたか。お連れの方は?」
「ええ、お探ししてお送りしてきました」
「そうですか、よかった。遅いのでどうされたのかと」
「今、ご挨拶をしてそちらに向かうところでした」

 そう言って中の国の侍女に向き直り、会釈をすると、

「では、お連れの方にもよろしくお伝えください、失礼いたします」

 そう言って侍女見習いと一緒に奥宮へ行ってしまった。



 ベルが元の場所に戻り、誰にも見られてないかを確認しながら部屋の中へ入ると、トーヤはさっきのまま、ベルが部屋を出たままの姿でしゃがみこんでじっとしていた。

「なにしてんだよ、おっさん!」
「おっさんじゃねえ……」

 言い返す言葉にも力がない。

「しっかりしろよ、おっさん」
「だからおっさんじゃねえっての」

 部屋の中が暗いせいもあるだろうが、影に包まれていつもより小さく見える。

「ほんと、しっかりしろよな、話つけてきたから」
「なんて?」
「後で来てくれるって」
「そうか」

 そう言っても身動きしない。

「なあ、何してんだよ」
「おまえがなあ……」

 ふうっとため息をつきながら、やっと立ち上がる。

「いらんこと聞いていらんこと言うからだろうが」
「いらんこと?」

 うーんと、ベルが考える。

「ああ、ダルとできてるのかってやつ?」
「それと俺と暮らしてるってやつだよ!」

 やっとムカッとした顔になってベルにそう言う。

「だって、もしかしたら本当かも知れねえだろ? それに一緒に暮らしてるのもほんとじゃねえかよ」
「そりゃそうだがな、ああいう言い方したら勘違いされるだろうが!」
「だったら勘違いだって言やあいいだろ、後で」

 もっともだ。

「しっかりしろよな、じゃあおれは先に部屋に帰るから」
「え!」

 トーヤがびっくりして声を上げる。

「なんだよ」
「いや、帰るのかよ!」
「おれがいたって話の邪魔だろ?」
「いや、いてくれ!」

 何を言ってんだこのおっさんは、という顔でベルがトーヤをかろうじて下から見下げる。

「あのなあ、トーヤにはトーヤの役割があるだろうが。ミーヤさんが今どうなってるか、そういうの聞くにはおれがいたら邪魔だって分かってるだろ?」
「いや、それはそうだが……」
「だからおれは先に帰る」

 きっぱりと引導を渡す。

「そんじゃ、いい報告期待してるぜ!」
 
 そう言って外を覗き、誰もいないのを確認するとするっと出ていってしまった。

「お、おい!」

 トーヤは追いかけようと思ったが、もしも出ていってその間にミーヤが来たら、そう思って立ち止まる。
 
 手に持っている「緋色の戦士」の仮面一式をちらっと見て、つけようかと一瞬考えるが、やっぱりやめて、諦めたようにテーブルのところにある椅子に八年ぶりに腰をかけた。
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