161 / 354
第二章 第四部 おかえり、ただいま
18 神としもべ
しおりを挟む
「いやいや、立派な隊長っぷりだった」
「よせって~」
トーヤが褒めれば褒めるほど、細長い体(そう、見た目も細長いままであった)をねじるようにして照れる。隊長、台無しだ。
そうして赤くなっているダルを見て、他の者たちも微笑ましく笑った。
だが、
「あの」
いきなりダルが真面目な顔になる。
「あの」
もう一度そう言って「エリス様」に近づく。
そうして、丁寧に片膝をつき、深く頭を下げて正式の礼をした。
「お久しぶりでございます。覚えていらっしゃいますでしょうか、ダルです」
「うん、覚えてるよ」
絹の中からそう聞こえた途端、ダルの両目からたちまち涙が溢れて流れた。
「よく、よくご無事で……」
後は言葉にならない。
「顔を上げて」
「エリス様」にそう言われ、片膝をついたまま顔だけを上げる。
もう何がなんだか分からないほど、涙でぐしゃぐしゃになった顔を。
そう、これが自然なのだ、この国の民としては。
「エリス様」の正体を知るこの国の民としては。
ダルは言葉もなく、ただただ涙を流しながら「エリス様」を見つめ続ける。
シャンタルはかぶっていた絹のベールを取った。
ダルの目の前に長い素直な銀の髪、褐色の肌、深い深い緑の瞳の「主」が、「神」が姿を現した。
「ああ……」
それだけ言うと、また、ただただ涙を流し、美しい人をじっと見つめ続けている。
アランもベルも、そしてトーヤも言葉をなくしていた。
ずっと仲間だったシャンタル、家族のように思っていたシャンタルの、これが実の姿なのだ。
人にして人に非ず、現し世の神の、これが本来あるべき姿だったのだ。
唯一ディレンだけは、あの船の中で、あの嵐の中でその片鱗に触れていたためか、3人ほどの衝撃は受けていなかった。ある意味当然のように受け止めているようだった。
もしかすると、その正体を八年前から知っていたトーヤの衝撃が一番大きかったかも知れない。
当時のトーヤ、まだ17歳であったトーヤ、嵐に飲み込まれ、気づけば思わぬ運命に飲み込まれ、好むと好まざるとに関わらず、生き神を巡る一連の事件の中心人物になってしまっていたトーヤ。
渦中にあって必死に前へ前へと進んでいたせいか、頭では理解し、シャンタルがどう見られ、どう扱われていたかをその目で見ていたというのに、まるでその事実を初めて突きつけられたような気がして、自分でも思わぬほど動揺していた。
親友、そう思っていたダルのこの様子もまた衝撃であった。
八年前、最後の最後まで付いてきてくれて、西の端の港「サガン」から「東の大海」へ送り出してくれたダル。
あの時はごく普通に、懐かしい、親しい友を送り出してくれる友人としか見えなかったダルが、こうして跪き、神の帰還を喜んでいる様は、まるで知らない誰かを見ているかのようにしか思えなかったからだ。
トーヤの頭の中でのシャンタルとの再会は、自分とダルがそうであったように、2人が喜び合って、もしかすると抱き合ってお互いに喜び合う、そんな場面であった。こんな神と下僕の聖なる場面のようなものではなかった。
重い空気の中、ただ一組の主従だけが懐かしい再会を喜び合っている。
二人を包むのは、古く古く、二千年の昔から連綿と続く、神と人との聖なるつながりを寿ぐ祝福の空気であった。
誰も触れられない空気が部屋中に満ちていたが、意外なことでその空気が一掃された。
「ダル、もうお父さんなんでしょ? いつまでも泣いてたらおかしいよ、再会を喜んでくれるのなら、笑ってくれるかな?」
シャンタルが「人」に戻ると、のほほんとそう言った。
ダルがはっとするように隠しからハンカチを取り出して、急いで涙を拭き、にっこりと笑って立ち上がった。
「ええ、もう俺、親父なんですよ。またうちの子にも会いに来てください」
「うん、楽しみにしてるよ。それで、男の子? 女の子? どっち?」
「あ、両方です」
「両方?」
シャンタルが目を丸くする。
「2人いるの?」
「いや、5人です」
「5人!」
「5人!」
「5人!」
「なんとまあ!」
トーヤ、ベル、アラン、ディレンの順で驚く。
「ちょ、ちょっと待てよ」
いつもの自分を取り戻したトーヤが聞く。
「えっと、結婚して何年だっけ?」
「七年だよ。だから別に5人いてもおかしくないよ」
「いや、まあ、そうだが……アミちゃん、がんばったな……」
「いやー、アミは体力あるからなあ」
ダルが真っ赤になって頭をかく。
「あ、それでな、リルのところは3人だ」
「はあああああああ!?」
トーヤが叫んだまま言葉を失う。
「リルのところは結婚して五年だよ、こっちもおかしくないだろ?」
「いや、まあ、おかしくはないが……」
なんと、あまりにあまりな親友と友人の変わりようだ。
「なんせさ、まあリルと色々あっただろ? そんでさ、リルが結婚した時にこう宣言されたんだよ」
『今2人でしょ、ダルとアミのところ。私もすぐに追いついて追い越すから。幸せ比べでは負けませんからね?』
そう言って、言葉通りに結婚してすぐ最初の子が生まれ、2組の夫婦がそれぞれに、負けてられないとがんばった結果、なのだそうだ。
「なんとまあ」
トーヤはさっきまでの身の置き場のなさを忘れ、思い切り吹き出していた。
「よせって~」
トーヤが褒めれば褒めるほど、細長い体(そう、見た目も細長いままであった)をねじるようにして照れる。隊長、台無しだ。
そうして赤くなっているダルを見て、他の者たちも微笑ましく笑った。
だが、
「あの」
いきなりダルが真面目な顔になる。
「あの」
もう一度そう言って「エリス様」に近づく。
そうして、丁寧に片膝をつき、深く頭を下げて正式の礼をした。
「お久しぶりでございます。覚えていらっしゃいますでしょうか、ダルです」
「うん、覚えてるよ」
絹の中からそう聞こえた途端、ダルの両目からたちまち涙が溢れて流れた。
「よく、よくご無事で……」
後は言葉にならない。
「顔を上げて」
「エリス様」にそう言われ、片膝をついたまま顔だけを上げる。
もう何がなんだか分からないほど、涙でぐしゃぐしゃになった顔を。
そう、これが自然なのだ、この国の民としては。
「エリス様」の正体を知るこの国の民としては。
ダルは言葉もなく、ただただ涙を流しながら「エリス様」を見つめ続ける。
シャンタルはかぶっていた絹のベールを取った。
ダルの目の前に長い素直な銀の髪、褐色の肌、深い深い緑の瞳の「主」が、「神」が姿を現した。
「ああ……」
それだけ言うと、また、ただただ涙を流し、美しい人をじっと見つめ続けている。
アランもベルも、そしてトーヤも言葉をなくしていた。
ずっと仲間だったシャンタル、家族のように思っていたシャンタルの、これが実の姿なのだ。
人にして人に非ず、現し世の神の、これが本来あるべき姿だったのだ。
唯一ディレンだけは、あの船の中で、あの嵐の中でその片鱗に触れていたためか、3人ほどの衝撃は受けていなかった。ある意味当然のように受け止めているようだった。
もしかすると、その正体を八年前から知っていたトーヤの衝撃が一番大きかったかも知れない。
当時のトーヤ、まだ17歳であったトーヤ、嵐に飲み込まれ、気づけば思わぬ運命に飲み込まれ、好むと好まざるとに関わらず、生き神を巡る一連の事件の中心人物になってしまっていたトーヤ。
渦中にあって必死に前へ前へと進んでいたせいか、頭では理解し、シャンタルがどう見られ、どう扱われていたかをその目で見ていたというのに、まるでその事実を初めて突きつけられたような気がして、自分でも思わぬほど動揺していた。
親友、そう思っていたダルのこの様子もまた衝撃であった。
八年前、最後の最後まで付いてきてくれて、西の端の港「サガン」から「東の大海」へ送り出してくれたダル。
あの時はごく普通に、懐かしい、親しい友を送り出してくれる友人としか見えなかったダルが、こうして跪き、神の帰還を喜んでいる様は、まるで知らない誰かを見ているかのようにしか思えなかったからだ。
トーヤの頭の中でのシャンタルとの再会は、自分とダルがそうであったように、2人が喜び合って、もしかすると抱き合ってお互いに喜び合う、そんな場面であった。こんな神と下僕の聖なる場面のようなものではなかった。
重い空気の中、ただ一組の主従だけが懐かしい再会を喜び合っている。
二人を包むのは、古く古く、二千年の昔から連綿と続く、神と人との聖なるつながりを寿ぐ祝福の空気であった。
誰も触れられない空気が部屋中に満ちていたが、意外なことでその空気が一掃された。
「ダル、もうお父さんなんでしょ? いつまでも泣いてたらおかしいよ、再会を喜んでくれるのなら、笑ってくれるかな?」
シャンタルが「人」に戻ると、のほほんとそう言った。
ダルがはっとするように隠しからハンカチを取り出して、急いで涙を拭き、にっこりと笑って立ち上がった。
「ええ、もう俺、親父なんですよ。またうちの子にも会いに来てください」
「うん、楽しみにしてるよ。それで、男の子? 女の子? どっち?」
「あ、両方です」
「両方?」
シャンタルが目を丸くする。
「2人いるの?」
「いや、5人です」
「5人!」
「5人!」
「5人!」
「なんとまあ!」
トーヤ、ベル、アラン、ディレンの順で驚く。
「ちょ、ちょっと待てよ」
いつもの自分を取り戻したトーヤが聞く。
「えっと、結婚して何年だっけ?」
「七年だよ。だから別に5人いてもおかしくないよ」
「いや、まあ、そうだが……アミちゃん、がんばったな……」
「いやー、アミは体力あるからなあ」
ダルが真っ赤になって頭をかく。
「あ、それでな、リルのところは3人だ」
「はあああああああ!?」
トーヤが叫んだまま言葉を失う。
「リルのところは結婚して五年だよ、こっちもおかしくないだろ?」
「いや、まあ、おかしくはないが……」
なんと、あまりにあまりな親友と友人の変わりようだ。
「なんせさ、まあリルと色々あっただろ? そんでさ、リルが結婚した時にこう宣言されたんだよ」
『今2人でしょ、ダルとアミのところ。私もすぐに追いついて追い越すから。幸せ比べでは負けませんからね?』
そう言って、言葉通りに結婚してすぐ最初の子が生まれ、2組の夫婦がそれぞれに、負けてられないとがんばった結果、なのだそうだ。
「なんとまあ」
トーヤはさっきまでの身の置き場のなさを忘れ、思い切り吹き出していた。
0
あなたにおすすめの小説
おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう
お餅ミトコンドリア
ファンタジー
パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。
だが、全くの無名。
彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。
若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。
弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。
独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです!
何卒宜しくお願いいたします!)
【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~
ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。
王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。
15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。
国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。
これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。
追放貴族少年リュウキの成り上がり~魔力を全部奪われたけど、代わりに『闘気』を手に入れました~
さとう
ファンタジー
とある王国貴族に生まれた少年リュウキ。彼は生まれながらにして『大賢者』に匹敵する魔力を持って生まれた……が、義弟を溺愛する継母によって全ての魔力を奪われ、次期当主の座も奪われ追放されてしまう。
全てを失ったリュウキ。家も、婚約者も、母の形見すら奪われ涙する。もう生きる力もなくなり、全てを終わらせようと『龍の森』へ踏み込むと、そこにいたのは死にかけたドラゴンだった。
ドラゴンは、リュウキの境遇を憐れみ、ドラゴンしか使うことのできない『闘気』を命をかけて与えた。
これは、ドラゴンの力を得た少年リュウキが、新しい人生を歩む物語。
【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活
シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!
【完結】異世界転移した私がドラゴンの魔女と呼ばれるまでの話
yuzuku
ファンタジー
ベランダから落ちて死んだ私は知らない森にいた。
知らない生物、知らない植物、知らない言語。
何もかもを失った私が唯一見つけた希望の光、それはドラゴンだった。
臆病で自信もないどこにでもいるような平凡な私は、そのドラゴンとの出会いで次第に変わっていく。
いや、変わらなければならない。
ほんの少しの勇気を持った女性と青いドラゴンが冒険する異世界ファンタジー。
彼女は後にこう呼ばれることになる。
「ドラゴンの魔女」と。
※この物語はフィクションです。
実在の人物・団体とは一切関係ありません。
廃城の泣き虫アデリー
今野綾
ファンタジー
領主の娘だったアデリーはある日家族を殺され育った領地から命からがら逃げ出した。辿り着いた先は廃城。ひとり、ふたりと住人が増える中、問題が次々とおこって…
表紙はフリー素材です
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
チート無しっ!?黒髪の少女の異世界冒険記
ノン・タロー
ファンタジー
ごく普通の女子高生である「武久 佳奈」は、通学途中に突然異世界へと飛ばされてしまう。
これは何の特殊な能力もチートなスキルも持たない、ただごく普通の女子高生が、自力で会得した魔法やスキルを駆使し、元の世界へと帰る方法を探すべく見ず知らずの異世界で様々な人々や、様々な仲間たちとの出会いと別れを繰り返し、成長していく記録である……。
設定
この世界は人間、エルフ、妖怪、獣人、ドワーフ、魔物等が共存する世界となっています。
その為か男性だけでなく、女性も性に対する抵抗がわりと低くなっております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる