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第二章 第六部 つながる時
4 侍女見習いたち
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「はい、気をつけます」
ミーヤは素直にキリエの言葉を受け入れた。
「ですが、セルマはおまえが『八年前のあのミーヤか』と言ったのですよね」
「はい」
キリエが少し考え込む。
「少し考え方を変えた方がいいのか、考えています」
ミーヤは黙って次の言葉を待つ。
「私は、おまえがあの者たちと関わりがないと思われた方がおまえを守れる、また、自由に動ける立場になると考えていました」
『ああ、俺らと関係がないと思われてたら目をつけられることもない。そしたら自由に動いてもらえる』
トーヤの言っていた通りであった。
「そうなのではないか、と」
「え?」
「あの、キリエ様はそうお考えなのではないか、と」
誰が言ったとは言わない。
「そうですか、そう言っていましたか」
誰が言ったかとは問わない。
「ですが、こうなった以上、いっそおまえをあの者たちの世話係につけた方がいいのかも知れないと思い始めています。何かあった時、共に動けるように」
キリエは表情を変えずに続ける。
「おまえはもう見つかってしまった、目をつけられてしまった。木の葉を森の中に隠すのではなく、その木に打ち付けてしまった方がかえって安心なのかも知れません。ですが、今世話係を交代させるのは、かえって奇妙に思われるでしょう。どうすればいいのか」
「キリエ様……」
ミーヤはキリエの気持ちがありがたかった。
「少し考えます。おまえはとりあえず先ほど申した通りに、2人の伯爵令嬢の担当を変更すると伝えておいてください」
「はい、分かりました」
丁寧に頭を下げ、侍女頭の執務室から退室する。
部屋を出た途端、奇妙な視線を感じた。
誰かが自分を見ている気がする。
あえてミーヤは一つ大きくため息をつき、
「どうしてそんなことを……」
誰かが聞いていて聞かれても聞かれなくても困るような、そんな大きさで一人言を言い、自室へと足を向けた。
翌日、ミーヤは内容を変更した報告書をセルマに届けた。
「では、キリエ『殿』の指示があったということですね」
「はい」
「分かりました」
セルマは報告書をパラパラとめくって見る。
2名の年長の伯爵令嬢の所属には「神具係」とあった。
「いいでしょう、お疲れ様でした」
「失礼いたします」
深く頭を下げて正式の礼をするミーヤ。
それを高みから見下ろすセルマ。
ここだけを見ると勝者と敗者は明らかであった。
ミーヤは侍女見習いたちの控室に行くと、それぞれの所属を発表した。
「まあ、モアラ様とシリル様は『神具係』なのですね」
「すごいわ! 私たちは『小物係』ですよ」
「ええ、やっぱりおできになる方は違うのですねえ」
他の侍女見習いの令嬢たちがきゃっきゃと騒ぐのに、2名の少女が恥ずかしそうに、それでも誇らしそうに微笑む。
「神具係」とは、従来ならばそれなりに経験を積んだ侍女、その中でも特に信頼を置けると判断された侍女が就く係である。
「奥宮」の者となる前にセルマがいた係で、やはり相応に誇りを持った者がその部所にはいた。神に捧げるための道具が「神具」、それを扱うにはやはりそれなりに選ばれた者が就く係である。
侍女見習いたちは同じ大部屋で寝起きをしているが、そのようにして配属の日から、8名と2名、それぞれが別の部所で勤めを始めることとなった。
配属が決まってすぐ、セルマがそれぞれの侍女見習いたちの部所を尋ねて回った。
「いかがですか? 何かご不自由はございませんか?」
「はい、セルマ様」
「まだ仕事のこともよく分からずにおりますが、皆様とてもよくして下さいます」
「ええ、どなたもお優しく、少しホッといたしました」
「そうですか、わたくしもそれを伺って少し気を楽にできました」
セルマは最上の笑みを浮かべ、令嬢たちに話を聞くと、彼女たちを担当する先輩の侍女たちに、
「みなさまがご不自由がないように、よく気を配って差し上げてください」
そう言い置いて「小物係」の部所を離れ、次に自分が以前属していた「神具係」へと足を向けた。
神具を置いてある「神具置き場」や、それを準備するための「神具準備室」などいくつかの部屋があり、ここに配属された2名の伯爵令嬢は、今はそれぞれの神具の説明を受けているところであった。
「セルマ様」
神具係の先輩の侍女が、セルマの姿を見つけていち早く丁寧に頭を下げる。
侍女見習い2名も続いて頭を下げる。
3名とも正式の礼、片膝をつき、深く頭を下げる礼をとっている。
「頭を上げなさい」
セルマはそう声をかけ、侍女と侍女見習い2名の頭を上げさせる。
この侍女はセルマの同期である。
ここにいた時には親しく言葉を交わしていた同期の侍女ではあるが、今は立場が違う。立場が違うとそれにふさわしい接し方をするのは当然であるとセルマは思っている。
「どのようです?」
侍女の方に軽く顔を向けて尋ねる。
「はい、ただいまは神具の説明をいたしておるところでした」
「そうですか。お二人とも名門伯爵家のご令嬢です、そのように心して、くれぐれもよろしくお願いしますよ」
「はい」
同期の、元同僚であった侍女が、表情を浮かべぬまま、深く深くセルマに頭を下げた。
ミーヤは素直にキリエの言葉を受け入れた。
「ですが、セルマはおまえが『八年前のあのミーヤか』と言ったのですよね」
「はい」
キリエが少し考え込む。
「少し考え方を変えた方がいいのか、考えています」
ミーヤは黙って次の言葉を待つ。
「私は、おまえがあの者たちと関わりがないと思われた方がおまえを守れる、また、自由に動ける立場になると考えていました」
『ああ、俺らと関係がないと思われてたら目をつけられることもない。そしたら自由に動いてもらえる』
トーヤの言っていた通りであった。
「そうなのではないか、と」
「え?」
「あの、キリエ様はそうお考えなのではないか、と」
誰が言ったとは言わない。
「そうですか、そう言っていましたか」
誰が言ったかとは問わない。
「ですが、こうなった以上、いっそおまえをあの者たちの世話係につけた方がいいのかも知れないと思い始めています。何かあった時、共に動けるように」
キリエは表情を変えずに続ける。
「おまえはもう見つかってしまった、目をつけられてしまった。木の葉を森の中に隠すのではなく、その木に打ち付けてしまった方がかえって安心なのかも知れません。ですが、今世話係を交代させるのは、かえって奇妙に思われるでしょう。どうすればいいのか」
「キリエ様……」
ミーヤはキリエの気持ちがありがたかった。
「少し考えます。おまえはとりあえず先ほど申した通りに、2人の伯爵令嬢の担当を変更すると伝えておいてください」
「はい、分かりました」
丁寧に頭を下げ、侍女頭の執務室から退室する。
部屋を出た途端、奇妙な視線を感じた。
誰かが自分を見ている気がする。
あえてミーヤは一つ大きくため息をつき、
「どうしてそんなことを……」
誰かが聞いていて聞かれても聞かれなくても困るような、そんな大きさで一人言を言い、自室へと足を向けた。
翌日、ミーヤは内容を変更した報告書をセルマに届けた。
「では、キリエ『殿』の指示があったということですね」
「はい」
「分かりました」
セルマは報告書をパラパラとめくって見る。
2名の年長の伯爵令嬢の所属には「神具係」とあった。
「いいでしょう、お疲れ様でした」
「失礼いたします」
深く頭を下げて正式の礼をするミーヤ。
それを高みから見下ろすセルマ。
ここだけを見ると勝者と敗者は明らかであった。
ミーヤは侍女見習いたちの控室に行くと、それぞれの所属を発表した。
「まあ、モアラ様とシリル様は『神具係』なのですね」
「すごいわ! 私たちは『小物係』ですよ」
「ええ、やっぱりおできになる方は違うのですねえ」
他の侍女見習いの令嬢たちがきゃっきゃと騒ぐのに、2名の少女が恥ずかしそうに、それでも誇らしそうに微笑む。
「神具係」とは、従来ならばそれなりに経験を積んだ侍女、その中でも特に信頼を置けると判断された侍女が就く係である。
「奥宮」の者となる前にセルマがいた係で、やはり相応に誇りを持った者がその部所にはいた。神に捧げるための道具が「神具」、それを扱うにはやはりそれなりに選ばれた者が就く係である。
侍女見習いたちは同じ大部屋で寝起きをしているが、そのようにして配属の日から、8名と2名、それぞれが別の部所で勤めを始めることとなった。
配属が決まってすぐ、セルマがそれぞれの侍女見習いたちの部所を尋ねて回った。
「いかがですか? 何かご不自由はございませんか?」
「はい、セルマ様」
「まだ仕事のこともよく分からずにおりますが、皆様とてもよくして下さいます」
「ええ、どなたもお優しく、少しホッといたしました」
「そうですか、わたくしもそれを伺って少し気を楽にできました」
セルマは最上の笑みを浮かべ、令嬢たちに話を聞くと、彼女たちを担当する先輩の侍女たちに、
「みなさまがご不自由がないように、よく気を配って差し上げてください」
そう言い置いて「小物係」の部所を離れ、次に自分が以前属していた「神具係」へと足を向けた。
神具を置いてある「神具置き場」や、それを準備するための「神具準備室」などいくつかの部屋があり、ここに配属された2名の伯爵令嬢は、今はそれぞれの神具の説明を受けているところであった。
「セルマ様」
神具係の先輩の侍女が、セルマの姿を見つけていち早く丁寧に頭を下げる。
侍女見習い2名も続いて頭を下げる。
3名とも正式の礼、片膝をつき、深く頭を下げる礼をとっている。
「頭を上げなさい」
セルマはそう声をかけ、侍女と侍女見習い2名の頭を上げさせる。
この侍女はセルマの同期である。
ここにいた時には親しく言葉を交わしていた同期の侍女ではあるが、今は立場が違う。立場が違うとそれにふさわしい接し方をするのは当然であるとセルマは思っている。
「どのようです?」
侍女の方に軽く顔を向けて尋ねる。
「はい、ただいまは神具の説明をいたしておるところでした」
「そうですか。お二人とも名門伯爵家のご令嬢です、そのように心して、くれぐれもよろしくお願いしますよ」
「はい」
同期の、元同僚であった侍女が、表情を浮かべぬまま、深く深くセルマに頭を下げた。
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