黒のシャンタル 第二話 「新しい嵐の中へ」<完結>

小椋夏己

文字の大きさ
192 / 354
第二章 第六部 つながる時

10 密告

しおりを挟む
 ミーヤが「エリス様」たちの世話役の一人になり、アーダが月虹兵付きの一人になった翌日、

「またお茶会にいらっしゃいませんか」

 と、シャンタルからの招待状が届いた。

 昨日、マユリアとラーラ様に、エリス様たちとのお茶会が楽しかった、そうおっしゃるのを聞いて、シャンタルの無聊をお慰めしたいと、さっそくお茶会を開くことにしたのだ。



「よくお茶会に呼んでくれるけどさ、神様ってひまなのか? そんなに人のことご招待してていいの?」

 ベルが美しい招待状とにらめっこをしながら、うーんと悩んでいる。

「どうだろうねえ。私はそういうのしたことないから」
「そりゃおまえはずっと寝てたんだから、そんなことしたことなくて当たり前だろ」

 ベルが速攻で突っ込みを入れる。

「まあ、違う形でのお茶会はやってたけどな」

 「シャンタルに心を開いてもらう」という目的で、毎日のようにマユリアの客室に呼ばれていたあの「お茶会」のことだ。

「覚えてないからなあ」
「だからおまえは寝てたんだろうって」
「そうなんだよねえ」

 ベルとそう言い合って笑う。

「笑いこっちゃねえんだが、まあ笑い話にできるならそれにこしたことねえしな」

 トーヤがそう言ってから、

「そりゃもう大変だったぞ。毎日毎日交代であれやこれや話しかけるんがだ、まーったく反応なくてなあ。そのうち話すこともなくなって困るのなんの」

 と、思い出すようにする。

「すみませんでしたねえ」
「その挙げ句、結局そのお茶会の効果なんぞなかったんだからな」
「いや、なかったことはないよ」

 シャンタルが反論する。

「リルのお話とか面白いのは結構覚えてた、というか後で思い出したよ」
「ああ、そういやそう言ってたか」

 託宣で心を救ってもらったリルが、家族のちょっと恥ずかしい笑い話なども色々と話してくれて、それを思い出したりもしていた。

「トーヤもそういえば話してくれたよね」
「な、なにをだ!」

 トーヤも色々と話したのは覚えているのだが、内容を覚えてないものも結構ある。

「あのね、ミーヤやリルがいなくてダルと2人だった時にね」
「いい! 言わなくていい!」

 男2人だけ呼ばれていた時、あまりの反応のなさに、やけくそになって「あまり教育的によろしくないお話」なんかもしたような気がする。

 ちょうど今はミーヤが世話役として部屋にいた。
 下手なことを言われ、また「あの笑顔」を見るようなことは阻止したい。

「まあ、どんなお話だったのでしょう。興味がありますわ」

 ミーヤではない、ベルである。
 ベルがニヤニヤと楽しそうにそう言って、話の続きをねだった。

「お、おまえ!」
「ぜひお聞かせ願いたいですわ~」

 ひっくり返るような声でそう言う。

「うん、あのね」
「やめろって!」
「教えて教えて!」
「やめろってば!」

 低レベルな押し問答を続けていたら扉が叩かれ、急いで口を閉じる。

 ベルが室内を確認してから扉を開ける。
 ダルが一人で立っていた。

 ベルは室内にダルを招き入れ、

「なんっだ、ダルかよ~誰かと思って緊張したぜ」

 と言い、あまりにくだけすぎた口調にダルがびっくりする。

「ダルだったよ」

 そのままダルを振り返ることもなく、つまらなそうに戻って椅子にドシンと座る。
 せっかくトーヤをいじめるいい機会だったのに、とそれが残念なのだ。

「おう、よく来たな」
 
 対象的にトーヤはホッとしてにこにこでダルを出迎える。

「うん、歓迎してくれたのはうれしいんだけどさ、あまりいい話じゃないんだ」
「なんだ?」

 トーヤが表情を引き締める。

「こんな手紙が来たんだ」

 ダルが1通の手紙をテーブルの上に置いた。
 どこがどうということもない、単なる白い封筒だ。

 トーヤが手に取り、開いて、

「なんだよこりゃ……」

 そう言ってアランに手紙を渡す。

 アランは目を通して黙ってシャンタルに、シャンタルも黙ってベルに渡す。

「なんっだよこりゃ!」

 ベルが大きな声で言って口を押さえ、その姿勢のままミーヤに渡す。

「これは……」
 
 ミーヤも目を通し、そのまま黙り込む。



『中の国からのお客様を襲った犯人を知っています』



 たった一言、そう書いてあった。



「これだけか?」
「うん、今のところは。どうしようかなと思ったんだけど、やっぱり知らせといた方がいいだろ?」
「そりゃそうだ」

 「犯人」などいない。
 いわゆる「自作自演」だからだ。

「どこに届いたんだ?」
「月虹隊の西の本部。カースのすぐ近くなんだけど、その扉の下に挟んであったのを当番が見つけて、すぐに俺んちまで届けてくれたんだ」
「いつだ?」
「気がついたのは今日の昼過ぎらしい。朝はなかったと思うって」

 トーヤが手紙をじっと見つめる。

「とにかく、何にしてもこれだけじゃどうしようもねえな」
「うん」
「また続きが届くかも知れん、少し気をつけといてくれるか?」
「うん、それはもちろん。隊員たちにもそうしてくれって言ってあるよ」
「わりぃな」

 気持ちのよくない話ではある。

「もしかすると、単に奥様襲撃事件に興味を持って、それで目立とうとかそういうやつかも知れんし、あまり深くは考えず、でも一応気をつけてはおいた方がいいだろうな。どっちの可能性もある」

 と、トーヤは一応そう言っておいたが、それでみんなを安心させることはできなかった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

追放貴族少年リュウキの成り上がり~魔力を全部奪われたけど、代わりに『闘気』を手に入れました~

さとう
ファンタジー
とある王国貴族に生まれた少年リュウキ。彼は生まれながらにして『大賢者』に匹敵する魔力を持って生まれた……が、義弟を溺愛する継母によって全ての魔力を奪われ、次期当主の座も奪われ追放されてしまう。 全てを失ったリュウキ。家も、婚約者も、母の形見すら奪われ涙する。もう生きる力もなくなり、全てを終わらせようと『龍の森』へ踏み込むと、そこにいたのは死にかけたドラゴンだった。 ドラゴンは、リュウキの境遇を憐れみ、ドラゴンしか使うことのできない『闘気』を命をかけて与えた。 これは、ドラゴンの力を得た少年リュウキが、新しい人生を歩む物語。

【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活

シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!

【完結】異世界転移した私がドラゴンの魔女と呼ばれるまでの話

yuzuku
ファンタジー
ベランダから落ちて死んだ私は知らない森にいた。 知らない生物、知らない植物、知らない言語。 何もかもを失った私が唯一見つけた希望の光、それはドラゴンだった。 臆病で自信もないどこにでもいるような平凡な私は、そのドラゴンとの出会いで次第に変わっていく。 いや、変わらなければならない。 ほんの少しの勇気を持った女性と青いドラゴンが冒険する異世界ファンタジー。 彼女は後にこう呼ばれることになる。 「ドラゴンの魔女」と。 ※この物語はフィクションです。 実在の人物・団体とは一切関係ありません。

99歳で亡くなり異世界に転生した老人は7歳の子供に生まれ変わり、召喚魔法でドラゴンや前世の世界の物を召喚して世界を変える

ハーフのクロエ
ファンタジー
 夫が病気で長期入院したので夫が途中まで書いていた小説を私なりに書き直して完結まで投稿しますので応援よろしくお願いいたします。  主人公は建築会社を55歳で取り締まり役常務をしていたが惜しげもなく早期退職し田舎で大好きな農業をしていた。99歳で亡くなった老人は前世の記憶を持ったまま7歳の少年マリュウスとして異世界の僻地の男爵家に生まれ変わる。10歳の鑑定の儀で、火、水、風、土、木の5大魔法ではなく、この世界で初めての召喚魔法を授かる。最初に召喚出来たのは弱いスライム、モグラ魔獣でマリウスはガッカリしたが優しい家族に見守られ次第に色んな魔獣や地球の、物などを召喚出来るようになり、僻地の男爵家を発展させ気が付けば大陸一豊かで最強の小さい王国を起こしていた。

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

廃城の泣き虫アデリー

今野綾
ファンタジー
領主の娘だったアデリーはある日家族を殺され育った領地から命からがら逃げ出した。辿り着いた先は廃城。ひとり、ふたりと住人が増える中、問題が次々とおこって… 表紙はフリー素材です

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

処理中です...