黒のシャンタル 第二話 「新しい嵐の中へ」<完結>

小椋夏己

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第三章 第一部 見えない敵

 2 あの時のように

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 ミーヤは昔のように向かい合って楽しそうに話すトーヤとダルを見ながら、自分もそっと空いた椅子に腰を下ろした。

 八年前のあの月日が戻ってきたように思う。
 あの、嵐のような日々が。
 そしてまた新しい嵐がやってきたのだとひっそりと思った。

「なあ」
「え?」

 じっと黙ったままでいると、今は仮面を外し、昔とそう面差しが変わらない黒髪の男が話しかけてきた。

「えっとな、髪の毛、まとめてるのな」
「え?」

 一瞬、何を言われたか分からなかったが、

「あ、ああ、そうですね」
「昔は細い鎖みたいのでゆるくまとめてたよな」
「そうでしたね」
「あれはやめたのか?」
「やめたと言いますか、ええ、まあ、年も年ですし」
「そういやアーダがあんたみたいな髪型してるよな」

 アーダは当時のミーヤのように、ゆるやかに細い鎖でまとめるようにした髪を、さらりと背中に流すようにしている。
 髪型は同じようだが、付いている石が衣装に合わせるように青系だ。

「あれは、まだ若い侍女がする髪型なのです」
「そうなのか」
「ええ、大体二十歳を過ぎる頃からこうしてまとめるようになりますね」
「そうか」

 なんとなく残念そうな顔をしているように見える。

「そういやアーダは何歳だって言ってた?」

 トーヤがベルに聞く。

「17だって」
「そうか」

 当時のミーヤよりは2つ年上だ。

「そうか、八年経っちまったんだよなあ……」

 その言い方になんとなくミーヤがムッとした顔になる。

「そういえば、そんなことおっしゃってましたよね、あちらに行く前に」
「なんか言ったっけ?」
「覚えてらっしゃらないんですか?」
「えっと、なんだったっけ」
「まあ、呆れた」
 
 ミーヤが少し怒った顔になる。
 だがベルには分かった。

(この顔は怖いけど怖くない顔だ)

「あのミーヤさん」
「はい」
「一体トーヤ、何言ったんです? このおっさん、すーぐ無神経なこと言うんで言いつけてくれた方がいいですよ」
「おい!」

 トーヤが驚いてベルを止める。

「26かって」
「え?」
「戻るのは十年後だと思っていたので私が26歳だなって」
「うわっ、トーヤ無神経!」

 ベルが大げさに両手を広げて信じられない! という顔になる。

「女性の年齢のこと言うなんてな!」
「でしょ!」
「うん、ひどいひどい!」
「そうなの!」

 女二人、そう言って両手を合わせてわあわあと騒ぐ。

「トーヤだって28のおっさんになってるじゃん、十年後」
「誰がおっさんだ!」
「30の2つ手前、十分おっさんじゃん!」
「俺はまだ25だ!」
「じゃあ、ミーヤさんだって23だ!」
「だから、十年経ったらっつーてるだろうが!」
「だから十年経ったらトーヤも28のおっさんだろうが!」
「この……」

 本当のことなので言い返せない。

「まあ待てって、また話がそれるだろうが。おまえら、ほんっと成長しねえのな」

 いつものようにアランが話を元に戻すために2人をじろっと睨む。

「またアラン隊長に怒られてる」

 そう言って、こちらももうベールを脱いだシャンタルがくすくすと笑った。

「ね、いっつもこんな感じ。トーヤとベルがケンカして、それをアランに叱られるんだよ」

 シャンタルがミーヤに面白そうにそう言った。

「そうなのですか」
「俺もびっくりした……」

 ミーヤとダルが目を丸くしてそう言う。

「いや、なんてのかな、昔もこんな感じと言えばそうだったけど、今の方がもっと力が入ってるっていうのか、ミーヤともしょっちゅうそういうことやってたけど、もっと上品だった気がする」

 ダルの言葉を聞いてシャンタルがぷうっと吹き出し、ベルが、

「ちょーっと待った! それってさ、おれが相手だから下品だってことか?」

 三角にした目でダルをにらむ。

「いやいや、そういうわけじゃないんだ。ただ、やっぱりミーヤは侍女だからね。どっちかというと俺たちカースの漁師たちとやりあってるような、そんな感じだなと思ったんだ」

 慌ててダルがそう説明をする。

 ベルはまだ不満そうな顔をしながらも、

「まあ、言われてみりゃミーヤさんやアーダの話し方って独特ってか、侍女! って話し方だよな。普通の話し方のおれと比べりゃ、それちょっと違うか」

 そう言って自分を納得させている感じだ。

 それを聞いてダルは普通でもないけど、と少しだけ思ったが、それを口にするとえらい目に合いそうなので黙って頷く。

 そんなダルを見てまたシャンタルがくすくす笑う。

「楽しいね」
「はあ? 楽しかねえだろ」

 トーヤがへそを曲げたようにそう言う。

「ううん、楽しい。なんだろうね、いつも4人でも楽しかったけど、そこにミーヤとダルが入ったらもっと楽しくなったよ。リルも入ったらもっともっと楽しいだろうね」
「おい!」

 思わずトーヤが止める。

「この上にあのリルが入ったら、俺はもう一言も話せなくなる気がする」
「俺も……」

 男2人が真剣にそう言うのに、さらにシャンタルが楽しそうに笑う。

「まるで八年前と今がくっついたみたい。ああ、おかしい!」

 あまりに笑うので、とうとうみんながつられたように笑い出した。

「もう、あんまり大きな声で笑うと外に聞こえますよ」
「うん、でもな、なんかトーヤとダルが情けなくて」
「なにを!」
「いや、でも、なあ……」

 アラン一人が真面目な顔で、眉を寄せてため息をついた。
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