215 / 354
第三章 第一部 見えない敵
14 エリス様のお見舞い
しおりを挟む
キリエが寝付いた翌日の午前中にマユリア、そして午後にはシャンタルとラーラ様と3代の主が次々と見舞いに訪れ、その夜にはミーヤが、翌々日の午後には中の国の侍女が主の代理として見舞いに訪れた。
そしてそのまた翌日、今度は中の国から来られた主の方が、自身が見舞いに訪れたいが大丈夫かと聞いてきた。
「やれやれ、千客万来ですね」
皮肉っぽくそう言ったのはフウという侍女だ。
四十歳前後で誓いを立てた奥宮付きの侍女である。今日のキリエの担当をしている。
「何のためにキリエ様がこうしてお休みになっていらっしゃるのか、どなたも分かってらっしゃらないのかしら?」
「相変わらずですね」
その言葉を聞き、キリエが寝台の上に半分上体を起こしたような姿勢のまま楽しそうに笑う。
物怖じしない性格で、キリエにも、時にはマユリアやラーラ様にすら辛辣な言葉をぶつけてくることもあるのだが、不思議と嫌な気にならないのはその言葉が的確なこと、そしてその人柄ゆえだろう。
「ええ、こうして久しぶりにキリエ様のお世話ができるというのに、それを邪魔されているようで少しばかりへそを曲げておりますの、私」
平然とそう言ってのけるのにまたキリエが笑う。
フウは侍女の中では少しばかり「浮いている」ようなところがある。
他人の評価をほとんど気にせず、何があろうと己の道を進む、そういう人間だ。
「行儀見習いの侍女」の衣装が緑系なので「応募の侍女」たちには避ける者も少なくはない。
「自分は応募の侍女で行儀見習いの侍女とは違う。そのような理由で緑系の衣装の侍女は少し少ないかも知れない。ほぼ大部分が行儀見習いの侍女である。
そんな中、フウだけは全く気にせず、自分が好きな色だから、と緑の衣装を選んだ。
奥宮でキリエたちのような高位の侍女のそば付きという役付きになると、元の色から変える者、役職を表す色に変える者、元の色に役職の色を足して2色の色の衣装にする者が多い中で「これが私の色」とずっと同じ緑を貫いている。
おかげで遠目に見て行儀見習いの侍女だろうと声をかけ、何か面倒な仕事を言いつけようとした中堅の侍女が、自分よりもっと年重で奥宮の役職付きのフウだと知って慌てる、などということもあったりする。
そしてフウがまた、
「どのような用事かしら?」
と、戸惑う侍女からその用を聞き出し、
「どんな仕事も宮では大事な仕事です」
と、下っ端、新入りがやるような仕事を平然とやるもので、自分の仕事を緑色の衣装の侍女に押し付けてやろうと思った侍女が少なくなったのは、良い意味の弊害であるかも知れない。
「まあおまえの言うことも分からぬではないですが、エリス様がいらっしゃったら少しゆっくり話をさせてください」
「はいはい、私はお邪魔にならぬように控室に戻っておりますとも」
ふんっ、と侍女らしからぬ態度で不満そうに鼻を鳴らすのにも、キリエは楽しそうに笑う。
その日の午後、エリス様が侍女のベルと一緒にキリエの見舞いに訪れた。
長いベールに全身を包まれ髪の毛一筋さえ見えない「中の国」からの客に、フウは特に興味を持つような目も向けず、淡々と案内をして控室へと下がっていった。
「よくいらっしゃいました、ありがとうございます」
キリエがソファにもたれた姿勢のまま、丁寧に頭を下げる。
すると、
「いや、そんなかしこまって挨拶してくれなくてもいいって、俺だよ」
そう言ってエリス様の衣装の下から顔をのぞかせたのは、短い黒髪、あまりよくない目つきのまだ若い男であった。
「あなた……」
さすがにキリエがそう言って言葉を止める。
「びっくりさせて悪かったな、あいつと間違えちゃったか」
「当たり前です」
まだ驚いた顔のままそういうのにトーヤはカラカラと笑った。
そして控室にいるフウには聞こえないし、覗いてもいないだろうが、念の為にもう一度ベールをかぶる。
「いや、俺が来ようと思ったらこれが便利でな」
そう言うとベルも一緒になって笑う。
「あ、そうそう、これ、お見舞いです。ここに置いてもいいですかね?」
そう聞いて、あの例の、どうやらよくない成分を出しているらしい見た目だけは愛らしい、小さなピンク色の花の横に置こうとする。
「あーこれ、誰からですかね? これのどっちに置いちゃいけない、とかってそういう決まりは?」
「いえ、特にそういうのはないので好きなところに」
言われて少し考えてから白い花の鉢をキリエ側に置いた。
「んで、これだ」
ベールの中から取り出されたピンクの花の鉢、それを受け取るとベルがさっと入れ替える。
「それは?」
「ん? 見た目は似てるけど違う花だよ。こっちのには悪い成分もない代わりにいい香りもない。そんでこれだ」
ベールの人影から小箱を受け取ったベルが、小さな火桶に何かをパラパラとかける。ほわっと心地よい香りが立ち上る。
「似てるだろ、この花の匂いと」
「ええ」
「なんかな、見た目はきれいだが香りが薄い、それで品種改良してる間に匂いは強くなったが毒も持っちまったってのがこの花らしい。かわいそうだよな、本人にはなんの責任もないのにな」
そう言うと入れ替わりにベルから受け取った前の鉢をベールの中に隠した。
そしてそのまた翌日、今度は中の国から来られた主の方が、自身が見舞いに訪れたいが大丈夫かと聞いてきた。
「やれやれ、千客万来ですね」
皮肉っぽくそう言ったのはフウという侍女だ。
四十歳前後で誓いを立てた奥宮付きの侍女である。今日のキリエの担当をしている。
「何のためにキリエ様がこうしてお休みになっていらっしゃるのか、どなたも分かってらっしゃらないのかしら?」
「相変わらずですね」
その言葉を聞き、キリエが寝台の上に半分上体を起こしたような姿勢のまま楽しそうに笑う。
物怖じしない性格で、キリエにも、時にはマユリアやラーラ様にすら辛辣な言葉をぶつけてくることもあるのだが、不思議と嫌な気にならないのはその言葉が的確なこと、そしてその人柄ゆえだろう。
「ええ、こうして久しぶりにキリエ様のお世話ができるというのに、それを邪魔されているようで少しばかりへそを曲げておりますの、私」
平然とそう言ってのけるのにまたキリエが笑う。
フウは侍女の中では少しばかり「浮いている」ようなところがある。
他人の評価をほとんど気にせず、何があろうと己の道を進む、そういう人間だ。
「行儀見習いの侍女」の衣装が緑系なので「応募の侍女」たちには避ける者も少なくはない。
「自分は応募の侍女で行儀見習いの侍女とは違う。そのような理由で緑系の衣装の侍女は少し少ないかも知れない。ほぼ大部分が行儀見習いの侍女である。
そんな中、フウだけは全く気にせず、自分が好きな色だから、と緑の衣装を選んだ。
奥宮でキリエたちのような高位の侍女のそば付きという役付きになると、元の色から変える者、役職を表す色に変える者、元の色に役職の色を足して2色の色の衣装にする者が多い中で「これが私の色」とずっと同じ緑を貫いている。
おかげで遠目に見て行儀見習いの侍女だろうと声をかけ、何か面倒な仕事を言いつけようとした中堅の侍女が、自分よりもっと年重で奥宮の役職付きのフウだと知って慌てる、などということもあったりする。
そしてフウがまた、
「どのような用事かしら?」
と、戸惑う侍女からその用を聞き出し、
「どんな仕事も宮では大事な仕事です」
と、下っ端、新入りがやるような仕事を平然とやるもので、自分の仕事を緑色の衣装の侍女に押し付けてやろうと思った侍女が少なくなったのは、良い意味の弊害であるかも知れない。
「まあおまえの言うことも分からぬではないですが、エリス様がいらっしゃったら少しゆっくり話をさせてください」
「はいはい、私はお邪魔にならぬように控室に戻っておりますとも」
ふんっ、と侍女らしからぬ態度で不満そうに鼻を鳴らすのにも、キリエは楽しそうに笑う。
その日の午後、エリス様が侍女のベルと一緒にキリエの見舞いに訪れた。
長いベールに全身を包まれ髪の毛一筋さえ見えない「中の国」からの客に、フウは特に興味を持つような目も向けず、淡々と案内をして控室へと下がっていった。
「よくいらっしゃいました、ありがとうございます」
キリエがソファにもたれた姿勢のまま、丁寧に頭を下げる。
すると、
「いや、そんなかしこまって挨拶してくれなくてもいいって、俺だよ」
そう言ってエリス様の衣装の下から顔をのぞかせたのは、短い黒髪、あまりよくない目つきのまだ若い男であった。
「あなた……」
さすがにキリエがそう言って言葉を止める。
「びっくりさせて悪かったな、あいつと間違えちゃったか」
「当たり前です」
まだ驚いた顔のままそういうのにトーヤはカラカラと笑った。
そして控室にいるフウには聞こえないし、覗いてもいないだろうが、念の為にもう一度ベールをかぶる。
「いや、俺が来ようと思ったらこれが便利でな」
そう言うとベルも一緒になって笑う。
「あ、そうそう、これ、お見舞いです。ここに置いてもいいですかね?」
そう聞いて、あの例の、どうやらよくない成分を出しているらしい見た目だけは愛らしい、小さなピンク色の花の横に置こうとする。
「あーこれ、誰からですかね? これのどっちに置いちゃいけない、とかってそういう決まりは?」
「いえ、特にそういうのはないので好きなところに」
言われて少し考えてから白い花の鉢をキリエ側に置いた。
「んで、これだ」
ベールの中から取り出されたピンクの花の鉢、それを受け取るとベルがさっと入れ替える。
「それは?」
「ん? 見た目は似てるけど違う花だよ。こっちのには悪い成分もない代わりにいい香りもない。そんでこれだ」
ベールの人影から小箱を受け取ったベルが、小さな火桶に何かをパラパラとかける。ほわっと心地よい香りが立ち上る。
「似てるだろ、この花の匂いと」
「ええ」
「なんかな、見た目はきれいだが香りが薄い、それで品種改良してる間に匂いは強くなったが毒も持っちまったってのがこの花らしい。かわいそうだよな、本人にはなんの責任もないのにな」
そう言うと入れ替わりにベルから受け取った前の鉢をベールの中に隠した。
0
あなたにおすすめの小説
おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう
お餅ミトコンドリア
ファンタジー
パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。
だが、全くの無名。
彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。
若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。
弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。
独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです!
何卒宜しくお願いいたします!)
【完結】異世界転移した私がドラゴンの魔女と呼ばれるまでの話
yuzuku
ファンタジー
ベランダから落ちて死んだ私は知らない森にいた。
知らない生物、知らない植物、知らない言語。
何もかもを失った私が唯一見つけた希望の光、それはドラゴンだった。
臆病で自信もないどこにでもいるような平凡な私は、そのドラゴンとの出会いで次第に変わっていく。
いや、変わらなければならない。
ほんの少しの勇気を持った女性と青いドラゴンが冒険する異世界ファンタジー。
彼女は後にこう呼ばれることになる。
「ドラゴンの魔女」と。
※この物語はフィクションです。
実在の人物・団体とは一切関係ありません。
【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~
ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。
王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。
15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。
国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。
これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。
99歳で亡くなり異世界に転生した老人は7歳の子供に生まれ変わり、召喚魔法でドラゴンや前世の世界の物を召喚して世界を変える
ハーフのクロエ
ファンタジー
夫が病気で長期入院したので夫が途中まで書いていた小説を私なりに書き直して完結まで投稿しますので応援よろしくお願いいたします。
主人公は建築会社を55歳で取り締まり役常務をしていたが惜しげもなく早期退職し田舎で大好きな農業をしていた。99歳で亡くなった老人は前世の記憶を持ったまま7歳の少年マリュウスとして異世界の僻地の男爵家に生まれ変わる。10歳の鑑定の儀で、火、水、風、土、木の5大魔法ではなく、この世界で初めての召喚魔法を授かる。最初に召喚出来たのは弱いスライム、モグラ魔獣でマリウスはガッカリしたが優しい家族に見守られ次第に色んな魔獣や地球の、物などを召喚出来るようになり、僻地の男爵家を発展させ気が付けば大陸一豊かで最強の小さい王国を起こしていた。
追放貴族少年リュウキの成り上がり~魔力を全部奪われたけど、代わりに『闘気』を手に入れました~
さとう
ファンタジー
とある王国貴族に生まれた少年リュウキ。彼は生まれながらにして『大賢者』に匹敵する魔力を持って生まれた……が、義弟を溺愛する継母によって全ての魔力を奪われ、次期当主の座も奪われ追放されてしまう。
全てを失ったリュウキ。家も、婚約者も、母の形見すら奪われ涙する。もう生きる力もなくなり、全てを終わらせようと『龍の森』へ踏み込むと、そこにいたのは死にかけたドラゴンだった。
ドラゴンは、リュウキの境遇を憐れみ、ドラゴンしか使うことのできない『闘気』を命をかけて与えた。
これは、ドラゴンの力を得た少年リュウキが、新しい人生を歩む物語。
【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活
シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!
廃城の泣き虫アデリー
今野綾
ファンタジー
領主の娘だったアデリーはある日家族を殺され育った領地から命からがら逃げ出した。辿り着いた先は廃城。ひとり、ふたりと住人が増える中、問題が次々とおこって…
表紙はフリー素材です
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる