217 / 354
第三章 第一部 見えない敵
16 尊敬する方
しおりを挟む
「まあいいや」
キリエの返事を待たずにトーヤが言う。
「どうせ聞いても言いやしねえだろし、こっちが推測ついてんのも分かってんだし、問答するだけ時間の無駄だ」
キリエは表情を変えず、動かずにいる。
「そんじゃ質問を変えるか。あんたが動けない間に何しようとしてると思う?」
「私が動けない間に」
キリエが少し考える風にしてから、
「マユリアの後宮入りでしょうか」
そう言うのを聞き、トーヤが、
「はあん、まーだ諦めてねえのかよ、しつっこいな。んで、どっちだ?」
「もちろん両方です」
「やっぱりか」
「聞いたところによると、毎日のように皇太子殿下のお使いが宮に来られるとか」
「親父の方は?」
「八年前の約定が活きているとおっしゃっているらしいです」
「やれやれ、だな。そんで、本人はどう言ってんだ?」
「務めを終えたらご両親のところに戻りたいと」
トーヤが黙り込んだ。
「両親のところ、か」
「ええ」
トーヤとキリエが不思議な顔をお互いに見合った。
「あの」
横からベルが話しかける。
「おれも知ってますから」
「やはりそうですか」
ミーヤが言っていた通り、トーヤはベルとアランの兄妹には全てを話しているようだ。
「誰と誰が知っていますか?」
「こいつらとアルロス号船長のディレン」
「リルとダルには?」
「あ~なんかなあ」
トーヤが気まずそうに言う。
「秘密にするのは悪いって気持ちはあるんだが、あいつらにそこまですぐに言っちまうのは、なんか気の毒な気もしてな」
「そうですか」
キリエも納得をする。
「いつかは話さないといけねえんだろうがなあ」
「ええ」
「今はまだ、な」
「ええ」
ベルは黙って2人を見ていたが、
「あの~奥様そろそろ戻りませんと」
「ああ、そうでしたわね」
言われてすぐ、トーヤが品を作ってそう答えたのでキリエが吹き出した。
「このたびはわざわざお見舞いいただきありがとうございました」
「いえいえ、キリエ様にはお世話になっておりますもの」
「おい、奥様は直接お話しにはならねえんだよ」
調子に乗って奥様を続けていたら侍女に叱られた。
「では、キリエ様、どうぞお大事になさってくださいませ」
「はい、この度はありがとうざいます」
丁寧に挨拶をし、また今日の当番の侍女、フウに声をかけ、お茶と木の実などを渡して与えられた部屋へと戻っていった。
「なんだかお顔の色が良くなりましたね。そんなに楽しい話をできたのですか?」
早速いただいたお茶を入れて毒味をしていたフウがそう聞く。
「ええ、なんだか晴れやかな気持ちになれました」
「さようですか、それはよろしかったです……随分と苦いお茶ですね、これ」
嫌そうに顔をしかめて言うフウにキリエがくすくすと笑った。
「あら、お笑いになれる、やっぱりよくなってらっしゃるようですね。じゃあまた来ていただいても構いませんよ」
その保護者のような言い方にまたキリエが笑う。
「本当によくお笑いになりますよね、今日。それとこのお茶、お茶というよりは毒下しみたいな。それからこちらの新しいお花、中の国の方からのお見舞いですか?」
「ええ、そうおっしゃってました」
「これも置いている部屋の空気をきれいにしてくれます」
「そうなのですか」
キリエは驚いていた。ベルからどちらもそのような効果があると聞いてはいたが、フウがそれをずばりと言い当てたからだ。
「こちらの木の実と干し果実、こちらも今のキリエ様のような方の滋養強壮用です。色々とよくご存知ですね」
「ああ、そうでしたね」
「もう古い古い話なので、キリエ様はすっかりお忘れじゃないかと思ってましたが」
フウは、王都リュセルスの大きな老舗の薬問屋の末娘であった。
そのおかげで、物心つく頃から色々な薬効のある植物などと慣れ親しんでいたと聞いたことがある。
そのフウが気づかなかったということは、あの毒の花はこの国の植物ではなかったのかも知れない。
「私、大変できた子どもでしたもので、ゆくゆくは婿でもとらせ、支店の責任者にでもすればよいのではないか、両親はそのように言っておったようです。それが13歳の時、たまたま侍女の募集があったもので応募してみたら、やはりこちらにも優秀さを見破られ、それからずっとお世話になることとなりました。それで残念ながら両親の支店計画は次兄と三兄の2店だけにとどまっておりましたが、今は孫たちの成長後、さらに支店が増えるのを楽しみに、のんびり老後を過ごしております」
その話を聞いてさらにキリエが笑う。
「それは、ご両親には大変申し訳ないことをいたしましたね」
「ええ、本当ですよ」
さも当然のようにフウはそう言うと、
「ですから、キリエ様には長生きしていただいて、その責任を一年、一秒でも長く取っていただかなくては困りますの。お分かりですよね?」
生真面目な顔でキリエにそう言った。
「おまえが宮に選ばれた時、私はまだ侍女頭ではなかったですし、選ぶ者の中にもいなかったと思うのですが」
「ですがその後侍女頭になられて今もそうですし、何より私が尊敬申し上げる方ですからね? それだけでも元気で長生きしていただく義務があるのですよ」
「おまえも無茶を言いますね」
キリエが本当に楽しそうにそう言って笑った。
キリエの返事を待たずにトーヤが言う。
「どうせ聞いても言いやしねえだろし、こっちが推測ついてんのも分かってんだし、問答するだけ時間の無駄だ」
キリエは表情を変えず、動かずにいる。
「そんじゃ質問を変えるか。あんたが動けない間に何しようとしてると思う?」
「私が動けない間に」
キリエが少し考える風にしてから、
「マユリアの後宮入りでしょうか」
そう言うのを聞き、トーヤが、
「はあん、まーだ諦めてねえのかよ、しつっこいな。んで、どっちだ?」
「もちろん両方です」
「やっぱりか」
「聞いたところによると、毎日のように皇太子殿下のお使いが宮に来られるとか」
「親父の方は?」
「八年前の約定が活きているとおっしゃっているらしいです」
「やれやれ、だな。そんで、本人はどう言ってんだ?」
「務めを終えたらご両親のところに戻りたいと」
トーヤが黙り込んだ。
「両親のところ、か」
「ええ」
トーヤとキリエが不思議な顔をお互いに見合った。
「あの」
横からベルが話しかける。
「おれも知ってますから」
「やはりそうですか」
ミーヤが言っていた通り、トーヤはベルとアランの兄妹には全てを話しているようだ。
「誰と誰が知っていますか?」
「こいつらとアルロス号船長のディレン」
「リルとダルには?」
「あ~なんかなあ」
トーヤが気まずそうに言う。
「秘密にするのは悪いって気持ちはあるんだが、あいつらにそこまですぐに言っちまうのは、なんか気の毒な気もしてな」
「そうですか」
キリエも納得をする。
「いつかは話さないといけねえんだろうがなあ」
「ええ」
「今はまだ、な」
「ええ」
ベルは黙って2人を見ていたが、
「あの~奥様そろそろ戻りませんと」
「ああ、そうでしたわね」
言われてすぐ、トーヤが品を作ってそう答えたのでキリエが吹き出した。
「このたびはわざわざお見舞いいただきありがとうございました」
「いえいえ、キリエ様にはお世話になっておりますもの」
「おい、奥様は直接お話しにはならねえんだよ」
調子に乗って奥様を続けていたら侍女に叱られた。
「では、キリエ様、どうぞお大事になさってくださいませ」
「はい、この度はありがとうざいます」
丁寧に挨拶をし、また今日の当番の侍女、フウに声をかけ、お茶と木の実などを渡して与えられた部屋へと戻っていった。
「なんだかお顔の色が良くなりましたね。そんなに楽しい話をできたのですか?」
早速いただいたお茶を入れて毒味をしていたフウがそう聞く。
「ええ、なんだか晴れやかな気持ちになれました」
「さようですか、それはよろしかったです……随分と苦いお茶ですね、これ」
嫌そうに顔をしかめて言うフウにキリエがくすくすと笑った。
「あら、お笑いになれる、やっぱりよくなってらっしゃるようですね。じゃあまた来ていただいても構いませんよ」
その保護者のような言い方にまたキリエが笑う。
「本当によくお笑いになりますよね、今日。それとこのお茶、お茶というよりは毒下しみたいな。それからこちらの新しいお花、中の国の方からのお見舞いですか?」
「ええ、そうおっしゃってました」
「これも置いている部屋の空気をきれいにしてくれます」
「そうなのですか」
キリエは驚いていた。ベルからどちらもそのような効果があると聞いてはいたが、フウがそれをずばりと言い当てたからだ。
「こちらの木の実と干し果実、こちらも今のキリエ様のような方の滋養強壮用です。色々とよくご存知ですね」
「ああ、そうでしたね」
「もう古い古い話なので、キリエ様はすっかりお忘れじゃないかと思ってましたが」
フウは、王都リュセルスの大きな老舗の薬問屋の末娘であった。
そのおかげで、物心つく頃から色々な薬効のある植物などと慣れ親しんでいたと聞いたことがある。
そのフウが気づかなかったということは、あの毒の花はこの国の植物ではなかったのかも知れない。
「私、大変できた子どもでしたもので、ゆくゆくは婿でもとらせ、支店の責任者にでもすればよいのではないか、両親はそのように言っておったようです。それが13歳の時、たまたま侍女の募集があったもので応募してみたら、やはりこちらにも優秀さを見破られ、それからずっとお世話になることとなりました。それで残念ながら両親の支店計画は次兄と三兄の2店だけにとどまっておりましたが、今は孫たちの成長後、さらに支店が増えるのを楽しみに、のんびり老後を過ごしております」
その話を聞いてさらにキリエが笑う。
「それは、ご両親には大変申し訳ないことをいたしましたね」
「ええ、本当ですよ」
さも当然のようにフウはそう言うと、
「ですから、キリエ様には長生きしていただいて、その責任を一年、一秒でも長く取っていただかなくては困りますの。お分かりですよね?」
生真面目な顔でキリエにそう言った。
「おまえが宮に選ばれた時、私はまだ侍女頭ではなかったですし、選ぶ者の中にもいなかったと思うのですが」
「ですがその後侍女頭になられて今もそうですし、何より私が尊敬申し上げる方ですからね? それだけでも元気で長生きしていただく義務があるのですよ」
「おまえも無茶を言いますね」
キリエが本当に楽しそうにそう言って笑った。
0
あなたにおすすめの小説
おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう
お餅ミトコンドリア
ファンタジー
パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。
だが、全くの無名。
彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。
若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。
弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。
独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです!
何卒宜しくお願いいたします!)
【完結】異世界転移した私がドラゴンの魔女と呼ばれるまでの話
yuzuku
ファンタジー
ベランダから落ちて死んだ私は知らない森にいた。
知らない生物、知らない植物、知らない言語。
何もかもを失った私が唯一見つけた希望の光、それはドラゴンだった。
臆病で自信もないどこにでもいるような平凡な私は、そのドラゴンとの出会いで次第に変わっていく。
いや、変わらなければならない。
ほんの少しの勇気を持った女性と青いドラゴンが冒険する異世界ファンタジー。
彼女は後にこう呼ばれることになる。
「ドラゴンの魔女」と。
※この物語はフィクションです。
実在の人物・団体とは一切関係ありません。
【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~
ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。
王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。
15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。
国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。
これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。
追放貴族少年リュウキの成り上がり~魔力を全部奪われたけど、代わりに『闘気』を手に入れました~
さとう
ファンタジー
とある王国貴族に生まれた少年リュウキ。彼は生まれながらにして『大賢者』に匹敵する魔力を持って生まれた……が、義弟を溺愛する継母によって全ての魔力を奪われ、次期当主の座も奪われ追放されてしまう。
全てを失ったリュウキ。家も、婚約者も、母の形見すら奪われ涙する。もう生きる力もなくなり、全てを終わらせようと『龍の森』へ踏み込むと、そこにいたのは死にかけたドラゴンだった。
ドラゴンは、リュウキの境遇を憐れみ、ドラゴンしか使うことのできない『闘気』を命をかけて与えた。
これは、ドラゴンの力を得た少年リュウキが、新しい人生を歩む物語。
【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活
シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
99歳で亡くなり異世界に転生した老人は7歳の子供に生まれ変わり、召喚魔法でドラゴンや前世の世界の物を召喚して世界を変える
ハーフのクロエ
ファンタジー
夫が病気で長期入院したので夫が途中まで書いていた小説を私なりに書き直して完結まで投稿しますので応援よろしくお願いいたします。
主人公は建築会社を55歳で取り締まり役常務をしていたが惜しげもなく早期退職し田舎で大好きな農業をしていた。99歳で亡くなった老人は前世の記憶を持ったまま7歳の少年マリュウスとして異世界の僻地の男爵家に生まれ変わる。10歳の鑑定の儀で、火、水、風、土、木の5大魔法ではなく、この世界で初めての召喚魔法を授かる。最初に召喚出来たのは弱いスライム、モグラ魔獣でマリウスはガッカリしたが優しい家族に見守られ次第に色んな魔獣や地球の、物などを召喚出来るようになり、僻地の男爵家を発展させ気が付けば大陸一豊かで最強の小さい王国を起こしていた。
廃城の泣き虫アデリー
今野綾
ファンタジー
領主の娘だったアデリーはある日家族を殺され育った領地から命からがら逃げ出した。辿り着いた先は廃城。ひとり、ふたりと住人が増える中、問題が次々とおこって…
表紙はフリー素材です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる