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第三章 第一部 見えない敵
22 中の国の通詞
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「職務でしてな、お気を悪くされたのなら謝ります」
ルギはそう言って丁寧にアランに向けて頭を下げるが、その仕草すら慇懃無礼としか受け止められない。いつもは冷静なアランが頭に血が上るのを感じた。
「では」
アランが自分を押さえて言葉を続ける。
「本当のことを話してそう言われるということは、我々はどうすればよかったとお考えでしょうか?」
ルギがアランをちらりと見て、顔に微かに称賛の色を浮かべた。
「いえ、正直にあったことを言っていただければそれで構いませんよ」
「ですが、そうしたらそういう言い方をされたわけですよね」
「まあ職務ですので。さっきも申しましたが」
ルギは感情を感じさせることなく淡々とそう答えた。
その様子がまたアランの癇に障る。
「でしたら、これでもう我々の役目は終わり、話は終わった、そう思ってよろしいんですね?」
それでも冷静に答えるアランに、ルギはますます感心するような表情になった。
「いえ、もう少しだけお付き合いいただきます」
「そうですか。他に何をどうすればよろしいのですかね」
「もうすぐ参るはずです、もう少しお待ち下さい」
ルギはそう言うと、与えられた椅子に何事もなかったように深く座り直した。
「あの」
ディレンがルギに話しかける。
「私には何も聞かれないんですか?」
「ああ、船長にもこの後また色々お伺いします。少しお待ち下さい」
「分かりました」
そうしてしばらく待つと誰かが部屋の扉を叩く音がした。
ルギがボーナムに頷き、ボーナムがその誰かを迎えに行く。
扉を開けると、そこには見ただけで「中の国」の男性と分かる人が立っていた。
「どうぞこちらへ」
ルギに声をかけられて近づくと、隣に座っていたゼトが席を譲り、中の国の人が腰をかけた。
「こちらは中の国のある国からいらっしゃった客人です。いや、ちょうどよかった。こちらも昨日は時間が取れず、今日のこの時間にやっとこうして来ていただけました」
中の国の人はルギにそう紹介され、ペコリと頭を下げる。
まだ一言も言葉を発することがない。
「ベル殿」
「は、はい」
いきなり声をかけられ、これから何があるのかと思っていたベルが驚きながら返事をする。
「こちらの方と会話をしていただけますか?」
「は?」
「いや、我々には中の国の言葉は分かりません。それでエリス様の通訳をなさっていらっしゃるベル殿に、中の国の言葉でこの方と話をしていただきたいのです」
「あの、意味が分かりませんが」
「はっきり申し上げます」
ルギが表情も変えず、言葉の調子も変えず、同じように淡々と続ける。
「本当にベル殿に中の国の言葉がお話しになれるのか、それを知りたいと思っています」
はっきりと一行が本当に中の国から来たのかどうかを疑っている、そう聞こえた。
「失礼な」
アランがムッとした顔でルギに言う。
「つまり我々が嘘をついている、そう思っているということですよね?」
「失礼は承知で申し上げる。だがさっきから言っておるように職務なのです。それを調べずにきちんと調べたと言えますかな?」
ルギの言うとおりであった。
「中の国から来た」とは、こちらが勝手に言っているだけだ。今まで証明したことはない。
エリス様の立ち居振る舞いがあまりに優雅で、それに懸命に世話をする侍女の様子がまさに「あの国から来た方」と思わせていただけだ。
「お家の事情」と言われあの国の事情を照らし合わせると、無理に本当の名前や国、その他を聞き出すことはできないと諦めていただけだ。
「簡単なことですよ、この方と少しばかりお国の言葉で話していただけたら、それで疑いは晴れます」
ルギにそう言われ、ベルが奥様に何か囁き、固い表情でコクリと頷く。
「分かりました」
「ではよろしくお願いいたします」
そう言ってルギが中の国からの客人に頷いてみせると、その人も軽く頷き、ベルに向かって何かを言った。
ベルがそれに対して何かを答える。また客人がベルに何かを言う、ベルが答える。
何回かそうして「会話」が続けられ、やがて客人がベルに軽く頷き、
「ルギ殿、この方は中の国の言葉が話せるようです。なまりは多少ありますが、アルディナの方が我々の言葉を話す時にあるなまりで不自然なものではありません。発音からするとかなり上流で使われている言葉のようです」
と、感心したようにルギに言った。
実はベルは中の国の言葉が多少できる。
『いつどこでどんな風に必要か分からんからな、覚えとけ』
トーヤにそう命令され、一緒に過ごした三年の間にシャンタルから習って多少の会話ができるぐらいにはなっていた。
もちろんトーヤとアランも多少の言葉が話せる。
――必要だからだ――
あちこち流れるように生きている傭兵生活、その中で言葉が分かるということは、生き残るために大きな要素となることもある。
トーヤは小さな頃からあちらこちらの戦場を渡り歩き、その生活の中で他の国の者と交流する中で覚えていった。アランも主に同じようにして覚えた。
そしてベルはシャンタルに習って覚えた。
シャンタルはいつどうやって覚えたのか分からないが、かなりの国の言葉を話せる。
おそらく眠っている間にマユリアやラーラ様から学んでいたのだろう。
ルギはそう言って丁寧にアランに向けて頭を下げるが、その仕草すら慇懃無礼としか受け止められない。いつもは冷静なアランが頭に血が上るのを感じた。
「では」
アランが自分を押さえて言葉を続ける。
「本当のことを話してそう言われるということは、我々はどうすればよかったとお考えでしょうか?」
ルギがアランをちらりと見て、顔に微かに称賛の色を浮かべた。
「いえ、正直にあったことを言っていただければそれで構いませんよ」
「ですが、そうしたらそういう言い方をされたわけですよね」
「まあ職務ですので。さっきも申しましたが」
ルギは感情を感じさせることなく淡々とそう答えた。
その様子がまたアランの癇に障る。
「でしたら、これでもう我々の役目は終わり、話は終わった、そう思ってよろしいんですね?」
それでも冷静に答えるアランに、ルギはますます感心するような表情になった。
「いえ、もう少しだけお付き合いいただきます」
「そうですか。他に何をどうすればよろしいのですかね」
「もうすぐ参るはずです、もう少しお待ち下さい」
ルギはそう言うと、与えられた椅子に何事もなかったように深く座り直した。
「あの」
ディレンがルギに話しかける。
「私には何も聞かれないんですか?」
「ああ、船長にもこの後また色々お伺いします。少しお待ち下さい」
「分かりました」
そうしてしばらく待つと誰かが部屋の扉を叩く音がした。
ルギがボーナムに頷き、ボーナムがその誰かを迎えに行く。
扉を開けると、そこには見ただけで「中の国」の男性と分かる人が立っていた。
「どうぞこちらへ」
ルギに声をかけられて近づくと、隣に座っていたゼトが席を譲り、中の国の人が腰をかけた。
「こちらは中の国のある国からいらっしゃった客人です。いや、ちょうどよかった。こちらも昨日は時間が取れず、今日のこの時間にやっとこうして来ていただけました」
中の国の人はルギにそう紹介され、ペコリと頭を下げる。
まだ一言も言葉を発することがない。
「ベル殿」
「は、はい」
いきなり声をかけられ、これから何があるのかと思っていたベルが驚きながら返事をする。
「こちらの方と会話をしていただけますか?」
「は?」
「いや、我々には中の国の言葉は分かりません。それでエリス様の通訳をなさっていらっしゃるベル殿に、中の国の言葉でこの方と話をしていただきたいのです」
「あの、意味が分かりませんが」
「はっきり申し上げます」
ルギが表情も変えず、言葉の調子も変えず、同じように淡々と続ける。
「本当にベル殿に中の国の言葉がお話しになれるのか、それを知りたいと思っています」
はっきりと一行が本当に中の国から来たのかどうかを疑っている、そう聞こえた。
「失礼な」
アランがムッとした顔でルギに言う。
「つまり我々が嘘をついている、そう思っているということですよね?」
「失礼は承知で申し上げる。だがさっきから言っておるように職務なのです。それを調べずにきちんと調べたと言えますかな?」
ルギの言うとおりであった。
「中の国から来た」とは、こちらが勝手に言っているだけだ。今まで証明したことはない。
エリス様の立ち居振る舞いがあまりに優雅で、それに懸命に世話をする侍女の様子がまさに「あの国から来た方」と思わせていただけだ。
「お家の事情」と言われあの国の事情を照らし合わせると、無理に本当の名前や国、その他を聞き出すことはできないと諦めていただけだ。
「簡単なことですよ、この方と少しばかりお国の言葉で話していただけたら、それで疑いは晴れます」
ルギにそう言われ、ベルが奥様に何か囁き、固い表情でコクリと頷く。
「分かりました」
「ではよろしくお願いいたします」
そう言ってルギが中の国からの客人に頷いてみせると、その人も軽く頷き、ベルに向かって何かを言った。
ベルがそれに対して何かを答える。また客人がベルに何かを言う、ベルが答える。
何回かそうして「会話」が続けられ、やがて客人がベルに軽く頷き、
「ルギ殿、この方は中の国の言葉が話せるようです。なまりは多少ありますが、アルディナの方が我々の言葉を話す時にあるなまりで不自然なものではありません。発音からするとかなり上流で使われている言葉のようです」
と、感心したようにルギに言った。
実はベルは中の国の言葉が多少できる。
『いつどこでどんな風に必要か分からんからな、覚えとけ』
トーヤにそう命令され、一緒に過ごした三年の間にシャンタルから習って多少の会話ができるぐらいにはなっていた。
もちろんトーヤとアランも多少の言葉が話せる。
――必要だからだ――
あちこち流れるように生きている傭兵生活、その中で言葉が分かるということは、生き残るために大きな要素となることもある。
トーヤは小さな頃からあちらこちらの戦場を渡り歩き、その生活の中で他の国の者と交流する中で覚えていった。アランも主に同じようにして覚えた。
そしてベルはシャンタルに習って覚えた。
シャンタルはいつどうやって覚えたのか分からないが、かなりの国の言葉を話せる。
おそらく眠っている間にマユリアやラーラ様から学んでいたのだろう。
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