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第三章 第二部 侍女たちの行方
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(不覚……)
トーヤはベルが自分の顔を見て、表情を変えて行ってしまったことでそう思った。
自分でも自覚があった。
そんなこと、今までにあったかどうか思い出すこともできないぐらいだ、そう思っていたが、自分が明らかに涙ぐんでいるのに気がついたからだ。
(戦場でこんなことになってたら一瞬でやられてんな)
そんなことを考えながら、なかなか顔が上げられない。
「あの、トーヤ」
ミーヤの声が聞こえる。
「みなさん、どうなさったのでしょう」
トーヤはミーヤの鈍さに感謝した。
3人共、自分のこんな状態に気がついて、それで知らない顔をしてくれたのだ。まあ、アランはおそらく気づいてないだろう、ベルの様子が変なのでそっちにつられただけだろうが。
そう考えて、やっと少しだけ笑えた。
「あの、トーヤ?」
ミーヤは3人がいなくなってしまったこと、そしてトーヤが下を向いて顔を上げないことに、さすがにちょっとどうしたものかという顔になる。
「あ、いやな」
トーヤは一つ鼻をすすりあげると、
「まあ、いつものこった、話が終わったらとっととみんな休みにいく。戦場じゃあ、のんびりしてたら休む時間もなくなるからな」
「まあ、そうなのですか」
ミーヤはトーヤがやっと話したことにホッとしていた。
「いや、なんか久しぶりでな、こんなの」
そう言ってやっと顔を上げる。
大丈夫だ、何も変な顔はしていないつもりだ。
「そうなのですか?」
「ああ、こっち来るって決めてから、こんな風に話したことはなかったからなあ」
「それは、そうなのかも知れませんね」
なんでもないような話をしながら、ふと気がついた。
ミーヤと並んで座っていることに。
いつからそうなったかもう覚えてはいないが、4人で座る時にはほぼ定位置が決まっていた。
トーヤの右にシャンタル、テーブルを挟んで向かい側にアラン、アランの向かって右隣、トーヤから見て右斜め向かい側にベルだ。今日もその形で座っていたので、トーヤの左横に少しだけ斜めにして椅子を置き、そこにミーヤが座っていた。
3人がいなくなったので、2人並んで座っているような形になっていた。
八年前、座って話をする時はいつも向かい合わせに座っていた。間にテーブルを挟み、その上には時にはお茶、茶菓子、そんな物が乗っていた。花だけの時もあれば、何もないこともあったがテーブルの長さだけの距離がいつもあった。
だが今は、すっと横に手を伸ばせば届く距離にミーヤがいる。
トーヤはいきなりそのことに緊張をしてきてしまった。
なんとなくミーヤの緊張も伝わってきた気もする。
「あの」
「あ、なんだ!」
ミーヤに話しかけられ、思わず声が大きくなる。
「あの、あちらではどんな風にしてらっしゃったのかな、って……」
「ああ」
ミーヤが話をふってくれたことにホッとした。
「そうだなあ、あっち着いた時は大変だったぞ」
「何があったんですか?」
ミーヤが心配そうな声で聞く。
「あいつだよ」
「あいつ?」
「エリス様、な」
「ああ」
誰のことか分かって少し笑う。
「いきなり外へ出て、そんで見たこともないもんばーっかりの場所に行っただろ? どこ行ってもそりゃもう珍しがってなあ」
「そうなんですか」
ミーヤは少し思い出していた。
シャンタルが、言葉を話しだしたばかりの頃のことを。
「そういえば、こちらでもそうでした」
少しクスリと笑う。
「色々な物にご興味をお持ちになって、あれは何? これは何? って」
「そうそう、そんな感じだ」
「とてもお可愛らしかったです。ねえねえ、ってこちらをじっとご覧になって」
「そうか、俺はもっと違ったけどなあ」
「どんな感じだったのですか?」
「あんまりあっち見るこっち見るって進まねえから、無理やり背負ったんだよ。そしたらまだ見る、降ろせってぐいぐい髪の毛引っ張ってな。痛いからやめろって怒ったら、トーヤはシャンタルが大事だから怒るの? ってきたもんだ」
「まあ」
ミーヤが話を聞いて吹き出した。
二人でそうしてシャンタルのことを話の種にして、色々な話をする。
楽しかった。
すごく幸せな時間を持てている、そんな気がした。
気がつけばすっかり夜が更けてしまっていた。
「もうそろそろ帰らないと」
「そうか」
本当はまだまだ話していたい、ずっとこのままの時間が続けばいいのに、トーヤはそう思っていた。
「そうだな、アーダも心配するだろうな」
「ええ」
今日の夜の当番がミーヤなので、アーダは控室に戻っている。
だが戻っていても、務めの時間の間はミーヤの動きにも少し気をつけてくれているはずだ。
「何かあって遅くなっているのかもと思いますよね」
「ああ」
それと、ミーヤとばかり話がはずんでいる、そう思わせてはかわいそうだ、そうも思う。
「では、失礼します」
「おう」
「おやすみなさい」
「おやすみ」
ミーヤが礼をして扉を開けて出ていく。
その後姿をトーヤは座ったままで見送った。
そうして、さっきまでミーヤが座っていた椅子をそっと見た。
まだミーヤのぬくもりが残る椅子を。
そばにいるのだ。
そう思うとなんと表現していいのか分からない感情が湧いてくる。
ずっとここに、隣にいてほしい。
素直な心がそう言っているのを聞いた。
トーヤはそのままじっと椅子を見つめ続けていた。
トーヤはベルが自分の顔を見て、表情を変えて行ってしまったことでそう思った。
自分でも自覚があった。
そんなこと、今までにあったかどうか思い出すこともできないぐらいだ、そう思っていたが、自分が明らかに涙ぐんでいるのに気がついたからだ。
(戦場でこんなことになってたら一瞬でやられてんな)
そんなことを考えながら、なかなか顔が上げられない。
「あの、トーヤ」
ミーヤの声が聞こえる。
「みなさん、どうなさったのでしょう」
トーヤはミーヤの鈍さに感謝した。
3人共、自分のこんな状態に気がついて、それで知らない顔をしてくれたのだ。まあ、アランはおそらく気づいてないだろう、ベルの様子が変なのでそっちにつられただけだろうが。
そう考えて、やっと少しだけ笑えた。
「あの、トーヤ?」
ミーヤは3人がいなくなってしまったこと、そしてトーヤが下を向いて顔を上げないことに、さすがにちょっとどうしたものかという顔になる。
「あ、いやな」
トーヤは一つ鼻をすすりあげると、
「まあ、いつものこった、話が終わったらとっととみんな休みにいく。戦場じゃあ、のんびりしてたら休む時間もなくなるからな」
「まあ、そうなのですか」
ミーヤはトーヤがやっと話したことにホッとしていた。
「いや、なんか久しぶりでな、こんなの」
そう言ってやっと顔を上げる。
大丈夫だ、何も変な顔はしていないつもりだ。
「そうなのですか?」
「ああ、こっち来るって決めてから、こんな風に話したことはなかったからなあ」
「それは、そうなのかも知れませんね」
なんでもないような話をしながら、ふと気がついた。
ミーヤと並んで座っていることに。
いつからそうなったかもう覚えてはいないが、4人で座る時にはほぼ定位置が決まっていた。
トーヤの右にシャンタル、テーブルを挟んで向かい側にアラン、アランの向かって右隣、トーヤから見て右斜め向かい側にベルだ。今日もその形で座っていたので、トーヤの左横に少しだけ斜めにして椅子を置き、そこにミーヤが座っていた。
3人がいなくなったので、2人並んで座っているような形になっていた。
八年前、座って話をする時はいつも向かい合わせに座っていた。間にテーブルを挟み、その上には時にはお茶、茶菓子、そんな物が乗っていた。花だけの時もあれば、何もないこともあったがテーブルの長さだけの距離がいつもあった。
だが今は、すっと横に手を伸ばせば届く距離にミーヤがいる。
トーヤはいきなりそのことに緊張をしてきてしまった。
なんとなくミーヤの緊張も伝わってきた気もする。
「あの」
「あ、なんだ!」
ミーヤに話しかけられ、思わず声が大きくなる。
「あの、あちらではどんな風にしてらっしゃったのかな、って……」
「ああ」
ミーヤが話をふってくれたことにホッとした。
「そうだなあ、あっち着いた時は大変だったぞ」
「何があったんですか?」
ミーヤが心配そうな声で聞く。
「あいつだよ」
「あいつ?」
「エリス様、な」
「ああ」
誰のことか分かって少し笑う。
「いきなり外へ出て、そんで見たこともないもんばーっかりの場所に行っただろ? どこ行ってもそりゃもう珍しがってなあ」
「そうなんですか」
ミーヤは少し思い出していた。
シャンタルが、言葉を話しだしたばかりの頃のことを。
「そういえば、こちらでもそうでした」
少しクスリと笑う。
「色々な物にご興味をお持ちになって、あれは何? これは何? って」
「そうそう、そんな感じだ」
「とてもお可愛らしかったです。ねえねえ、ってこちらをじっとご覧になって」
「そうか、俺はもっと違ったけどなあ」
「どんな感じだったのですか?」
「あんまりあっち見るこっち見るって進まねえから、無理やり背負ったんだよ。そしたらまだ見る、降ろせってぐいぐい髪の毛引っ張ってな。痛いからやめろって怒ったら、トーヤはシャンタルが大事だから怒るの? ってきたもんだ」
「まあ」
ミーヤが話を聞いて吹き出した。
二人でそうしてシャンタルのことを話の種にして、色々な話をする。
楽しかった。
すごく幸せな時間を持てている、そんな気がした。
気がつけばすっかり夜が更けてしまっていた。
「もうそろそろ帰らないと」
「そうか」
本当はまだまだ話していたい、ずっとこのままの時間が続けばいいのに、トーヤはそう思っていた。
「そうだな、アーダも心配するだろうな」
「ええ」
今日の夜の当番がミーヤなので、アーダは控室に戻っている。
だが戻っていても、務めの時間の間はミーヤの動きにも少し気をつけてくれているはずだ。
「何かあって遅くなっているのかもと思いますよね」
「ああ」
それと、ミーヤとばかり話がはずんでいる、そう思わせてはかわいそうだ、そうも思う。
「では、失礼します」
「おう」
「おやすみなさい」
「おやすみ」
ミーヤが礼をして扉を開けて出ていく。
その後姿をトーヤは座ったままで見送った。
そうして、さっきまでミーヤが座っていた椅子をそっと見た。
まだミーヤのぬくもりが残る椅子を。
そばにいるのだ。
そう思うとなんと表現していいのか分からない感情が湧いてくる。
ずっとここに、隣にいてほしい。
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トーヤはそのままじっと椅子を見つめ続けていた。
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