263 / 354
第三章 第三部 ベルと神殿
15 隊長と戦士
しおりを挟む
「あの、手を見てそのようなことが分かるのですか?」
ミーヤが不思議そうにもう一度尋ねる。
「ああ、人間の手というものは、その人の生きる場所を表すものだ。手を見ればその人間がどのような職業であるか分かることもよくある」
「それで戦士の手なのですね」
ミーヤが納得したようにそう言う。
「ルーク様は傭兵をなさっているとのことですから、それでそのような手に見えるのですね」
「そうかも知れんな」
まだルギは「ルーク」の手から目を離さない。
そう言われて「ルーク」もなんとなく手を下げにくい雰囲気になっている。
「あの」
ミーヤがルギに言う。
「そんなにじっと見つめられたら、ルーク様が手を下ろせずに困っておられますよ」
「そうか、すまん」
そう言って視線をルークの顔の方に移動する。
ルークが上げていた右手をゆっくりと下げ、左手で右手首をゆっくりとさするようにした。
「そういえば、右腕にもケガをなさっているとのことでした。今のようになさって痛みが出たのではないですか?」
ミーヤが心配そうにそう聞き、「ルーク」が軽く左右に首を振ってから頭を下げた。
「大丈夫ならいいのですが」
そう言って、ほんの少しだけ非難を含んだ目をルギに向ける。ケガ人に無理をさせた人間に軽く注意をする、そのぐらいの。
「いや」
ルギがミーヤを見て、それから「ルーク」を見て、こんな一言を口にした。
「この間、部屋で話をさせていただいた時の手は、戦士の手ではないようにお見受けしたものだからな。力仕事はしているかも知れんが、剣を持つ手ではない、そう感じた。戦場を離れ、護衛の仕事をしばらくされているようだったので、そのようなこともあるかと思っていた」
ミーヤにも今は分かった。
あの時、部屋でルギが取調べ、その仮面をはがして顔まで見た「ルーク」は今ここにいる「ルーク」ではない。身代わりに、扮装を真似たアルロス号の船員、ハリオであった。
「そうなのですか」
ミーヤはどのような表情をするか一瞬考えた後、今の気持ちのまま、戸惑ったような顔で言葉を続ける。
「私にはそのようなことは分かりませんので、どうお答えしていいものか」
「であろうな」
ルギがいつもの皮肉を交えたような表情、軽く、少しだけ片頬を高く上げた笑い顔になった。
「ルギ隊長のように、ずっと人を観察するような、そのようなお仕事の方にはそのように感じることもあるのかも知れませんね」
ミーヤの言葉がほんの少しだけ皮肉が混じった響きになった。
「私はよく知っておりますし」
ルギにも分かった。
八年前のあの日々のことを言っているのだと。
トーヤが出かける時、どれだけ嫌な顔をされてもずっと近くに付き従ったあの日々のことを。
「そうだな」
違う形に顔を歪めて苦笑する。
「ルーク」は感情を見せず、そんな二人のやり取りを黙って聞いている。
「それでは失礼いたします。ルギ隊長がおっしゃるように、少し無理をなさり過ぎです。かえって健康を損ねてしまいますよ。あっ」
ミーヤがルギを見てから「ルーク」に提案する。
「ちょうどルギ隊長がいらっしゃいますし、少し肩を貸していただきましょう。嫌、ではないですよ、そうでないと私ではお支えできませんから。ルギ隊長、よろしくお願いいたします」
そう言って、ルークに否やも言わせぬ隙に手を取り、ルギに渡す。
「戦士は戦士同士、安心しておまかせください。途中までよろしくお願いいたします」
そう言って深く頭を下げる。
「そうか、分かった。どうだ立てるか?」
そう言ってルギが、強引ではないが少し力を入れて「ルーク」を引っ張るようにする。
「ルーク」も仕方がなさそうに、少し頭を下げ、ゆっくりと立ち上がった。
「肩を貸す、には少し背が違うな」
かなり長身のルギと「ルーク」の間には、頭一つ分の高さの差がある。
「まあそれでもないよりはましだろう」
そう言って「ルーク」の右腕をぐいっと引っ張って自分の左肩にかける。自身はやや左に傾いた姿勢になり、身長をできるだけ合せる形になった。
「どうだ、歩けるか?」
親切そうにそう声をかけるのに、「ルーク」は2回上下に頭を下げてから3回目に深く頭を下げて感謝の意を表す。
そうしてルギに肩を貸された仮面の男、その後ろに付き従うオレンジの侍女が奥宮近くから廊下を南に下り、左に曲がって東へゆっくりと進んだ。
「ありがとうございます」
エリス様の客室前でミーヤがルギに声をかけ、礼を言って頭を下げた。
ルギがゆっくりと「ルーク」の腕を肩から外し、
「あまり無理をするものではない。うまくいっている事柄も、無理をしたそのたった一つの出来事で全部壊れてしまうということもあるものだ。前に進みたい気持ちは分かるがそれに気をつけておくことだ」
そう言って、部屋の前で二人に頭を下げ、奥宮の方へと戻っていった。
ミーヤとトーヤは部屋の中に黙ったまま入ってきた。
「やべえな、ルギのやつ、俺のことを気がついたかも知れん」
ミーヤもなんとなくそう感じていた。
最後のあの言葉、あれは、トーヤだと分かって、その上でそう言ったのではないかと。
「あいつが敵か味方か分からんうちは下手に動けなくなっちまったな」
トーヤがぼつりとそう言った。
ミーヤが不思議そうにもう一度尋ねる。
「ああ、人間の手というものは、その人の生きる場所を表すものだ。手を見ればその人間がどのような職業であるか分かることもよくある」
「それで戦士の手なのですね」
ミーヤが納得したようにそう言う。
「ルーク様は傭兵をなさっているとのことですから、それでそのような手に見えるのですね」
「そうかも知れんな」
まだルギは「ルーク」の手から目を離さない。
そう言われて「ルーク」もなんとなく手を下げにくい雰囲気になっている。
「あの」
ミーヤがルギに言う。
「そんなにじっと見つめられたら、ルーク様が手を下ろせずに困っておられますよ」
「そうか、すまん」
そう言って視線をルークの顔の方に移動する。
ルークが上げていた右手をゆっくりと下げ、左手で右手首をゆっくりとさするようにした。
「そういえば、右腕にもケガをなさっているとのことでした。今のようになさって痛みが出たのではないですか?」
ミーヤが心配そうにそう聞き、「ルーク」が軽く左右に首を振ってから頭を下げた。
「大丈夫ならいいのですが」
そう言って、ほんの少しだけ非難を含んだ目をルギに向ける。ケガ人に無理をさせた人間に軽く注意をする、そのぐらいの。
「いや」
ルギがミーヤを見て、それから「ルーク」を見て、こんな一言を口にした。
「この間、部屋で話をさせていただいた時の手は、戦士の手ではないようにお見受けしたものだからな。力仕事はしているかも知れんが、剣を持つ手ではない、そう感じた。戦場を離れ、護衛の仕事をしばらくされているようだったので、そのようなこともあるかと思っていた」
ミーヤにも今は分かった。
あの時、部屋でルギが取調べ、その仮面をはがして顔まで見た「ルーク」は今ここにいる「ルーク」ではない。身代わりに、扮装を真似たアルロス号の船員、ハリオであった。
「そうなのですか」
ミーヤはどのような表情をするか一瞬考えた後、今の気持ちのまま、戸惑ったような顔で言葉を続ける。
「私にはそのようなことは分かりませんので、どうお答えしていいものか」
「であろうな」
ルギがいつもの皮肉を交えたような表情、軽く、少しだけ片頬を高く上げた笑い顔になった。
「ルギ隊長のように、ずっと人を観察するような、そのようなお仕事の方にはそのように感じることもあるのかも知れませんね」
ミーヤの言葉がほんの少しだけ皮肉が混じった響きになった。
「私はよく知っておりますし」
ルギにも分かった。
八年前のあの日々のことを言っているのだと。
トーヤが出かける時、どれだけ嫌な顔をされてもずっと近くに付き従ったあの日々のことを。
「そうだな」
違う形に顔を歪めて苦笑する。
「ルーク」は感情を見せず、そんな二人のやり取りを黙って聞いている。
「それでは失礼いたします。ルギ隊長がおっしゃるように、少し無理をなさり過ぎです。かえって健康を損ねてしまいますよ。あっ」
ミーヤがルギを見てから「ルーク」に提案する。
「ちょうどルギ隊長がいらっしゃいますし、少し肩を貸していただきましょう。嫌、ではないですよ、そうでないと私ではお支えできませんから。ルギ隊長、よろしくお願いいたします」
そう言って、ルークに否やも言わせぬ隙に手を取り、ルギに渡す。
「戦士は戦士同士、安心しておまかせください。途中までよろしくお願いいたします」
そう言って深く頭を下げる。
「そうか、分かった。どうだ立てるか?」
そう言ってルギが、強引ではないが少し力を入れて「ルーク」を引っ張るようにする。
「ルーク」も仕方がなさそうに、少し頭を下げ、ゆっくりと立ち上がった。
「肩を貸す、には少し背が違うな」
かなり長身のルギと「ルーク」の間には、頭一つ分の高さの差がある。
「まあそれでもないよりはましだろう」
そう言って「ルーク」の右腕をぐいっと引っ張って自分の左肩にかける。自身はやや左に傾いた姿勢になり、身長をできるだけ合せる形になった。
「どうだ、歩けるか?」
親切そうにそう声をかけるのに、「ルーク」は2回上下に頭を下げてから3回目に深く頭を下げて感謝の意を表す。
そうしてルギに肩を貸された仮面の男、その後ろに付き従うオレンジの侍女が奥宮近くから廊下を南に下り、左に曲がって東へゆっくりと進んだ。
「ありがとうございます」
エリス様の客室前でミーヤがルギに声をかけ、礼を言って頭を下げた。
ルギがゆっくりと「ルーク」の腕を肩から外し、
「あまり無理をするものではない。うまくいっている事柄も、無理をしたそのたった一つの出来事で全部壊れてしまうということもあるものだ。前に進みたい気持ちは分かるがそれに気をつけておくことだ」
そう言って、部屋の前で二人に頭を下げ、奥宮の方へと戻っていった。
ミーヤとトーヤは部屋の中に黙ったまま入ってきた。
「やべえな、ルギのやつ、俺のことを気がついたかも知れん」
ミーヤもなんとなくそう感じていた。
最後のあの言葉、あれは、トーヤだと分かって、その上でそう言ったのではないかと。
「あいつが敵か味方か分からんうちは下手に動けなくなっちまったな」
トーヤがぼつりとそう言った。
0
あなたにおすすめの小説
おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう
お餅ミトコンドリア
ファンタジー
パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。
だが、全くの無名。
彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。
若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。
弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。
独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです!
何卒宜しくお願いいたします!)
【完結】異世界転移した私がドラゴンの魔女と呼ばれるまでの話
yuzuku
ファンタジー
ベランダから落ちて死んだ私は知らない森にいた。
知らない生物、知らない植物、知らない言語。
何もかもを失った私が唯一見つけた希望の光、それはドラゴンだった。
臆病で自信もないどこにでもいるような平凡な私は、そのドラゴンとの出会いで次第に変わっていく。
いや、変わらなければならない。
ほんの少しの勇気を持った女性と青いドラゴンが冒険する異世界ファンタジー。
彼女は後にこう呼ばれることになる。
「ドラゴンの魔女」と。
※この物語はフィクションです。
実在の人物・団体とは一切関係ありません。
【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~
ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。
王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。
15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。
国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。
これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。
追放貴族少年リュウキの成り上がり~魔力を全部奪われたけど、代わりに『闘気』を手に入れました~
さとう
ファンタジー
とある王国貴族に生まれた少年リュウキ。彼は生まれながらにして『大賢者』に匹敵する魔力を持って生まれた……が、義弟を溺愛する継母によって全ての魔力を奪われ、次期当主の座も奪われ追放されてしまう。
全てを失ったリュウキ。家も、婚約者も、母の形見すら奪われ涙する。もう生きる力もなくなり、全てを終わらせようと『龍の森』へ踏み込むと、そこにいたのは死にかけたドラゴンだった。
ドラゴンは、リュウキの境遇を憐れみ、ドラゴンしか使うことのできない『闘気』を命をかけて与えた。
これは、ドラゴンの力を得た少年リュウキが、新しい人生を歩む物語。
【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活
シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
99歳で亡くなり異世界に転生した老人は7歳の子供に生まれ変わり、召喚魔法でドラゴンや前世の世界の物を召喚して世界を変える
ハーフのクロエ
ファンタジー
夫が病気で長期入院したので夫が途中まで書いていた小説を私なりに書き直して完結まで投稿しますので応援よろしくお願いいたします。
主人公は建築会社を55歳で取り締まり役常務をしていたが惜しげもなく早期退職し田舎で大好きな農業をしていた。99歳で亡くなった老人は前世の記憶を持ったまま7歳の少年マリュウスとして異世界の僻地の男爵家に生まれ変わる。10歳の鑑定の儀で、火、水、風、土、木の5大魔法ではなく、この世界で初めての召喚魔法を授かる。最初に召喚出来たのは弱いスライム、モグラ魔獣でマリウスはガッカリしたが優しい家族に見守られ次第に色んな魔獣や地球の、物などを召喚出来るようになり、僻地の男爵家を発展させ気が付けば大陸一豊かで最強の小さい王国を起こしていた。
廃城の泣き虫アデリー
今野綾
ファンタジー
領主の娘だったアデリーはある日家族を殺され育った領地から命からがら逃げ出した。辿り着いた先は廃城。ひとり、ふたりと住人が増える中、問題が次々とおこって…
表紙はフリー素材です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる