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第三章 第四部 逆風
18 隊長と神
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(さーあ、どうくるかな。食いついて来るなら来い来い)
ベルは無邪気な顔の下でそう思って二人の様子を伺う。
キリエにそんな物が届けられたことは初めて知った。だがそれはつまり、おそらくこの二人が急ぐということを意味しているように思えた。
(だからもう一度キリエさんにそんなことしたんだろうな)
そして神殿に奥様ご一行を取り込もうとしているのか、もしくは他の目的があるのか、接触を図ってきた。この先どう動くつもりなのかベルには読めない。トーヤとアランに相談するためにも、この二人の動きを逐一報告するのがベルの役目だ。
ベルはそうして構えていたが、その後は特にこれといった動きはなく、奥様とベルを労り、また遠慮なく神殿に来るように、色々話をいたしましょう、で終わった。
奥様と侍女の神殿詣での初回はそうしてこともなく終わったが、その夜、警護隊隊長がエリス様の部屋へやってきた。
「エリス様がキリエ様にお見舞いに送った品についてお聞きしたい」
名目はそういう話で、二人が神殿にお参りに行ってる間にアーダに夜伺うと伝言があったのだ。
そして夜、今回は誰も連れず、ルギ一人だけで、侍女が交代してミーヤが当番の時を見計らってやってきた。
室内にはエリス様、侍女のベル、アラヌス、ルーク、ミーヤ、そして宮へ呼ばれたディレン、ダル、リルも一緒であった。
八年前の懐かしい顔ぶれに、仲間二名と船長が加わった形だ。
「さて、もういいのではないか?」
ルギが緋色の仮面をかぶった「ルーク」にそう話しかける。
「しゃあねえなあ」
そう言ってトーヤが仮面を取り、
「よっ、ひさしぶり隊長」
そう言ってニヤリと笑った。
「何が狙いだ? そしてこの中で誰がその目的を知っている。誰がどう動いている。全部話してもらおうか」
ルギが表情なく言う。
「相変わらずつれねえなあ」
トーヤがやれやれ、という風に肩をすくめ、
「あんたにも悪い話じゃねえと思うけどな、マユリアのためにもなる話だ」
からかうようにそう言うが、ルギは表情を変えもせず続ける。
「あの時、俺がおまえに気がつかなかったら、今も黙ったまま何事かを続けるつもりだったのか?」
「そりゃまあそうかなあ。って、何をどうするかって、今もまだきちんと決まっちゃいねえけどな」
返事を聞き、ルギは少しの間じっとトーヤを見ていたが、ふいっと視線をそらし、絹の海に隠れたままの方に目を留める。
「シャンタル」
「奥様」でもなく「エリス様」でもなく他のどんな言葉も使わず、その方本来のお名前を口にする。
「何、ルギ」
ベールの中の方も、ごく普通にそう返事をされた。
「よくぞご無事でお戻りくださいました」
ルギはつかつかと絹の海に埋もれた方に近づくと、片膝をつき、深く頭を下げた。
「八年前、あの洞窟の終わる場所でお見送りして以来、どのようにお過ごしか気にせぬ日はありませんでした」
「そうなの、ありがとう」
そう言うと、シャンタルはさらっとベールを脱ぎ捨てた。
長い長い銀色の髪、深い深い緑の瞳、そしてきらめくような褐色の肌。
ルギは、そっと顔を上げると、あの日別れた子どもが成長した姿をじっと見上げた。
「ご立派になられました」
「そう? 今でもトーヤやアランや、いや、一番はベルかな? しょっちゅう怒られてるんだよ?」
シャンタルはそう言ってクスクスと笑った。
その様子を見てルギも微笑ましそうに笑う。
「いえ、ご立派になられました。覚えていらっしゃいますか、あの時、最後におっしゃったことを」
「最後に? うーん、なんだっけかな」
そう言ってちょっと考え、
「そうそう、『ラーラ様とマユリアに元気でね』って言ったら、ルギが『はい、必ずお伝えします、シャンタルもどうぞお元気で!』って、そう言ってくれたんだよね」
「はい、そして小さな手を振ってくださいました」
「今はもうほら、そんなに小さくないよ」
そう言って、美しい手をあの日のようにひらひらと振って見せた。
「お二人ともお元気でいらっしゃいます」
「うん、エリス様としてだけど会ったよ。元気そうだった」
「そうでしたね、お茶会にお呼ばれになったとか」
「うん、そして当代にも会ったよ」
「はい」
「感動的な再会の場面に水を差すようでわりぃんだけどよ」
トーヤが主従の会話に割って入る。
ルギがゆっくりと立ち上がりトーヤを見た。
「んで、隊長は何しにきたんだ? 俺のことを分かったってことを得意そうに自慢しに来たのか?」
ふざけたようにそう言うが、目は笑っていない。
「この先のことが分からない」
すとんとそれだけを口にする。
「だからそれを知りたくて来た。この先はどうなるんだ? どうするつもりだ」
「って言われてもな、俺たちにも分からん」
おどけたように言うトーヤに、表情変えず、続きの言葉を待つように動かない。
「八年前の約束の通り、こいつを人に戻す。マユリアもな。そんでここから逃がす。もう一度あっちに連れてくのがいいだろう。今決めてるのはそれと、残されたこいつの家族が幸せに暮らせるように、宮を元の通りに戻す、ってのとも違うかも知れねえが、残ったもんがゆっくり息ができるようにする、そのつもりだ」
ベルは無邪気な顔の下でそう思って二人の様子を伺う。
キリエにそんな物が届けられたことは初めて知った。だがそれはつまり、おそらくこの二人が急ぐということを意味しているように思えた。
(だからもう一度キリエさんにそんなことしたんだろうな)
そして神殿に奥様ご一行を取り込もうとしているのか、もしくは他の目的があるのか、接触を図ってきた。この先どう動くつもりなのかベルには読めない。トーヤとアランに相談するためにも、この二人の動きを逐一報告するのがベルの役目だ。
ベルはそうして構えていたが、その後は特にこれといった動きはなく、奥様とベルを労り、また遠慮なく神殿に来るように、色々話をいたしましょう、で終わった。
奥様と侍女の神殿詣での初回はそうしてこともなく終わったが、その夜、警護隊隊長がエリス様の部屋へやってきた。
「エリス様がキリエ様にお見舞いに送った品についてお聞きしたい」
名目はそういう話で、二人が神殿にお参りに行ってる間にアーダに夜伺うと伝言があったのだ。
そして夜、今回は誰も連れず、ルギ一人だけで、侍女が交代してミーヤが当番の時を見計らってやってきた。
室内にはエリス様、侍女のベル、アラヌス、ルーク、ミーヤ、そして宮へ呼ばれたディレン、ダル、リルも一緒であった。
八年前の懐かしい顔ぶれに、仲間二名と船長が加わった形だ。
「さて、もういいのではないか?」
ルギが緋色の仮面をかぶった「ルーク」にそう話しかける。
「しゃあねえなあ」
そう言ってトーヤが仮面を取り、
「よっ、ひさしぶり隊長」
そう言ってニヤリと笑った。
「何が狙いだ? そしてこの中で誰がその目的を知っている。誰がどう動いている。全部話してもらおうか」
ルギが表情なく言う。
「相変わらずつれねえなあ」
トーヤがやれやれ、という風に肩をすくめ、
「あんたにも悪い話じゃねえと思うけどな、マユリアのためにもなる話だ」
からかうようにそう言うが、ルギは表情を変えもせず続ける。
「あの時、俺がおまえに気がつかなかったら、今も黙ったまま何事かを続けるつもりだったのか?」
「そりゃまあそうかなあ。って、何をどうするかって、今もまだきちんと決まっちゃいねえけどな」
返事を聞き、ルギは少しの間じっとトーヤを見ていたが、ふいっと視線をそらし、絹の海に隠れたままの方に目を留める。
「シャンタル」
「奥様」でもなく「エリス様」でもなく他のどんな言葉も使わず、その方本来のお名前を口にする。
「何、ルギ」
ベールの中の方も、ごく普通にそう返事をされた。
「よくぞご無事でお戻りくださいました」
ルギはつかつかと絹の海に埋もれた方に近づくと、片膝をつき、深く頭を下げた。
「八年前、あの洞窟の終わる場所でお見送りして以来、どのようにお過ごしか気にせぬ日はありませんでした」
「そうなの、ありがとう」
そう言うと、シャンタルはさらっとベールを脱ぎ捨てた。
長い長い銀色の髪、深い深い緑の瞳、そしてきらめくような褐色の肌。
ルギは、そっと顔を上げると、あの日別れた子どもが成長した姿をじっと見上げた。
「ご立派になられました」
「そう? 今でもトーヤやアランや、いや、一番はベルかな? しょっちゅう怒られてるんだよ?」
シャンタルはそう言ってクスクスと笑った。
その様子を見てルギも微笑ましそうに笑う。
「いえ、ご立派になられました。覚えていらっしゃいますか、あの時、最後におっしゃったことを」
「最後に? うーん、なんだっけかな」
そう言ってちょっと考え、
「そうそう、『ラーラ様とマユリアに元気でね』って言ったら、ルギが『はい、必ずお伝えします、シャンタルもどうぞお元気で!』って、そう言ってくれたんだよね」
「はい、そして小さな手を振ってくださいました」
「今はもうほら、そんなに小さくないよ」
そう言って、美しい手をあの日のようにひらひらと振って見せた。
「お二人ともお元気でいらっしゃいます」
「うん、エリス様としてだけど会ったよ。元気そうだった」
「そうでしたね、お茶会にお呼ばれになったとか」
「うん、そして当代にも会ったよ」
「はい」
「感動的な再会の場面に水を差すようでわりぃんだけどよ」
トーヤが主従の会話に割って入る。
ルギがゆっくりと立ち上がりトーヤを見た。
「んで、隊長は何しにきたんだ? 俺のことを分かったってことを得意そうに自慢しに来たのか?」
ふざけたようにそう言うが、目は笑っていない。
「この先のことが分からない」
すとんとそれだけを口にする。
「だからそれを知りたくて来た。この先はどうなるんだ? どうするつもりだ」
「って言われてもな、俺たちにも分からん」
おどけたように言うトーヤに、表情変えず、続きの言葉を待つように動かない。
「八年前の約束の通り、こいつを人に戻す。マユリアもな。そんでここから逃がす。もう一度あっちに連れてくのがいいだろう。今決めてるのはそれと、残されたこいつの家族が幸せに暮らせるように、宮を元の通りに戻す、ってのとも違うかも知れねえが、残ったもんがゆっくり息ができるようにする、そのつもりだ」
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