黒のシャンタル 第二話 「新しい嵐の中へ」<完結>

小椋夏己

文字の大きさ
291 / 354
第三章 第五部 王宮から吹く風

 2 消えた貴婦人

しおりを挟む
 突然街中に響き渡った鐘の音に、八年前のあの時のことを思い出す住人もいたが、何が起こっているのか分からない者も少なくはなかった。

 「王宮の鐘」はあの時と同じく、王家の尊い方の身に何かが起こった時に鳴らされることが圧倒的に多い。ここ数年、王宮の訃報やその他の喜ばしからぬ知らせはなかったため、何の鐘だったか思い出せぬ者もいた。

 からーんからーんからーんからーんからーん!!
 からーんからーんからーんからーんからーん!!
 からーんからーんからーんからーんからーん!!

 何の知らせもなく、秋の晴天の空にただ鐘だけが鳴り響く。

「一体何があったんだ」
「あれは何の鐘?」
「あれは王宮の鐘だ」
「王宮の鐘?」
「王家のどなたかに何かがあったんだ」
「まさか、先代のようにどなたかが!」
「何が起こったんだ」

 ただただ鐘だけが鳴り続け、王宮からの知らせは何もない。
 誰もが不安を感じても何もできず、ただただ何か知らせがないかと待つばかりであった。



「一体何が起こったんだよ」

 トーヤも部屋の中でじっと待つしかできない。

「何があったか伺ってきたんですが、どなたも何もご存知ありませんでした」

 ミーヤも戸惑うばかりである。

「神殿組も隊長組も誰も戻ってこねえな」
「ええ、そちらも様子をお聞きしたのですが、今はどちらもいる場所から動かないようにとのお達しがあったようです」
「宮からか?」
「ええ、奥宮からです」
「マユリアやラーラ様はどうなってんだ、キリエさんも」
「私は奥宮へ入れていただけませんでした」
「なんだって?」

 ミーヤは奥宮への出入りを許されている侍女である。よほどのことがなければ通してもらえないということはないはずだ。

「奥宮の入り口に衛士が立っている場所があるでしょう? あそこから先には、今は誰も入ってはならぬと」
「こりゃ、よっぽどのなんかがあったんだろうが、まさか、あいつらの仕業か?」
「分かりません」
「キリエさんに会いには行けねえのか?」
「キリエ様は、奥宮の自室にいらっしゃるようです」
「そうか」

 トーヤは少し考えていたが、持っていた仮面で顔を覆った。

「どうするんですか?」
「俺はこう見えても奥様の護衛なんでな。神殿に行ってくる」
「私も行きます」
「あんたはこっちに待機って言われてんだろ?」
「私はこの部屋付きの侍女です。お付きするかたが出かけられるのなら、お供するのが務めです」
「しゃあねえなあ、来るなっても来るんだろ?」
「ええ、石頭ですからね」
「ほんっとに頑固だよな、じゃあ一緒に来てくれ侍女のお嬢さん」

 そう言って、ケガ人の護衛は見た目だけはミーヤに手を貸してもらうようにして、神殿へと向かった。



 神殿への渡り廊下への入り口には二名の神官が立っていた。

「エリス様と侍女のベル様がいらっしゃってるはずですが」

 ミーヤが神官にそう問うが、

「私どもには何も知らされてはおりません。ただ、誰も通さぬようにとのことですので」
「こちらにいらっしゃるとのことでした。護衛のルーク様が心配のあまり、おケガを押してここまで来ているのですよ、お取次ぎを」

 言われて神官二人がひそひそと言葉を交わしていたが、

「どう言われても、どなたもここを通さぬことが私どもの務めですから」
「それがあなた方のお勤めなら、主を心配して駆けつけるのは従者の務め、そしてその方にお供するのは私の、侍女の役目です!」

 ミーヤがきっぱりとそう言い切る。

「ここを通してください!」

 ミーヤの勢いに押されながらも、

「だめです、私たちもめいを守るしかないのです」
「その通りです、お帰りください」

 神官二名がなんとかミーヤにそう言って追い返そうとしている時、

「あ!」

 ミーヤの向かって右の神官がいきなりうずくまり、

「どうした!」

 そう言って同僚を助けようとした神官も、そのまま床の上に倒れ込んだ。

「どうやっても聞いてもらえねってのなら、こうするしかねえよなあ」

 トーヤが順番に気絶させていったのだ。

「さ、行くぞ」
「でも、このままでは」
「昼間だし、すぐに気がつくだろうから凍死するこたねえ。そんな強くやってねえからな」

 そう言ってとっとと廊下を神殿の方へと進む。

「全く、乱暴なんですから……」

 ミーヤがそう言って、倒れている神官二名に軽く頭を下げてからトーヤの後を追う。

 渡り廊下を渡り切ると、そこには以前ベルが案内された小部屋があった。覗いてみたが無人だ。
 いつもは渡り廊下を渡りきったこちら側、小部屋のすぐそばに神官が立っているのだが、今日は誰も寄せ付けないようにしていたのだろうか、渡り廊下の入り口にいてこちらには誰もいなかった。

「奥まで一気に行くぞ」

 ミーヤが追いつくとすぐ、トーヤが小走りに神殿の中に走り込んだ。

 神殿の最奥の拝殿にも誰もいない。
 ただ御祭神らしいキラキラ光る石の柱のようなものが立っているだけだ。

「なんで誰もいねえんだよ」

 トーヤがそう言ってあちらこちらを見て回るが、全く誰の気配もない。

「エリス様とベルさんはどこに行ったのでしょう」

 ミーヤも戸惑う。

「どこかに隠し部屋か隠し通路でもあるのかな。それとも、ここからどこかに連れてかれたか」

 シャンタル宮にも隠し通路があった、神殿にあってもおかしくない、そう考える。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

追放貴族少年リュウキの成り上がり~魔力を全部奪われたけど、代わりに『闘気』を手に入れました~

さとう
ファンタジー
とある王国貴族に生まれた少年リュウキ。彼は生まれながらにして『大賢者』に匹敵する魔力を持って生まれた……が、義弟を溺愛する継母によって全ての魔力を奪われ、次期当主の座も奪われ追放されてしまう。 全てを失ったリュウキ。家も、婚約者も、母の形見すら奪われ涙する。もう生きる力もなくなり、全てを終わらせようと『龍の森』へ踏み込むと、そこにいたのは死にかけたドラゴンだった。 ドラゴンは、リュウキの境遇を憐れみ、ドラゴンしか使うことのできない『闘気』を命をかけて与えた。 これは、ドラゴンの力を得た少年リュウキが、新しい人生を歩む物語。

【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活

シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!

【完結】異世界転移した私がドラゴンの魔女と呼ばれるまでの話

yuzuku
ファンタジー
ベランダから落ちて死んだ私は知らない森にいた。 知らない生物、知らない植物、知らない言語。 何もかもを失った私が唯一見つけた希望の光、それはドラゴンだった。 臆病で自信もないどこにでもいるような平凡な私は、そのドラゴンとの出会いで次第に変わっていく。 いや、変わらなければならない。 ほんの少しの勇気を持った女性と青いドラゴンが冒険する異世界ファンタジー。 彼女は後にこう呼ばれることになる。 「ドラゴンの魔女」と。 ※この物語はフィクションです。 実在の人物・団体とは一切関係ありません。

廃城の泣き虫アデリー

今野綾
ファンタジー
領主の娘だったアデリーはある日家族を殺され育った領地から命からがら逃げ出した。辿り着いた先は廃城。ひとり、ふたりと住人が増える中、問題が次々とおこって… 表紙はフリー素材です

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

99歳で亡くなり異世界に転生した老人は7歳の子供に生まれ変わり、召喚魔法でドラゴンや前世の世界の物を召喚して世界を変える

ハーフのクロエ
ファンタジー
 夫が病気で長期入院したので夫が途中まで書いていた小説を私なりに書き直して完結まで投稿しますので応援よろしくお願いいたします。  主人公は建築会社を55歳で取り締まり役常務をしていたが惜しげもなく早期退職し田舎で大好きな農業をしていた。99歳で亡くなった老人は前世の記憶を持ったまま7歳の少年マリュウスとして異世界の僻地の男爵家に生まれ変わる。10歳の鑑定の儀で、火、水、風、土、木の5大魔法ではなく、この世界で初めての召喚魔法を授かる。最初に召喚出来たのは弱いスライム、モグラ魔獣でマリウスはガッカリしたが優しい家族に見守られ次第に色んな魔獣や地球の、物などを召喚出来るようになり、僻地の男爵家を発展させ気が付けば大陸一豊かで最強の小さい王国を起こしていた。

処理中です...