黒のシャンタル 第二話 「新しい嵐の中へ」<完結>

小椋夏己

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第三章 第六部 露見

 3 小さな政変

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「変わり身の術?」

 アランが眉間にシワを寄せる。

「ああ、そうだ」
「なんだよそれ」
「洞窟から逃げるのは俺らと、それからシャンタルとベルだ」
「あ、そういうことか」
「どういうことだ?」

 アランが納得し、ダルが困惑する。

「エリス様は何のためだ?」
「何のためってなんだよ」
「つまりあれですよ、シャンタルの姿を隠すためにああやって梱包こんぽうしたってことですよ」

 アランがダルに説明する。

「だから、今度はマユリアにあれを着せて、ラーラ様にベルの侍女の衣装を着てもらう」
「あ、なるほど!」
 
 やっとダルも納得したようだ。

「つまり、中身を入れ替えるってことか」
「そういうこった」
「シャンタルとベルなら洞窟からでも十分逃げられますからね」
「そうだな、いっつも戦場を飛び回ってるやつらだからな」
「なるほど」

 ダルが感心したという顔になる。

「そこまで考えてあの扮装で入り込んだってことか」
「いや、それは考えてなかった」
「なんだよ~せっかく感心してるのに正直に言うなよな」

 そう言って親友二人が笑い合う。

「旦那様から連絡がきた、そう言って堂々と出てもらえばいいだろう。客殿の前から馬車に乗ってアルロス号まで行っちまえば、後はそこから船で一直線、アルディナの神域だ」
「それだったらなんとかなりそうだな」
「ああ」
「けど、肝心の取次役だの神官長だのはそのままだぜ?」

 アランが眉をしかめてそう言う。

「だからそっちを急がねえとな。交代の日までになんとかする」
「なんとかするって、あっちは新国王の後ろ盾付きだぜ? どうすんだ」
「今度のことでちょっと道が見えた気がする」
「道が?」
「ああ」
「なんだよそれ」
「この国の全員が皇太子に賛成ってわけじゃねえだろ?」
「ああ」

 アランがなるほど、という顔になる。

「なんだよなんだよ、なんだよそれ、俺、分かんねえよ」
「なんかベルがいる気になるな」

 トーヤの言い方にアランがプッと吹き出した。

「確かに、いつもはベルが言ってることだな」
「だろ?」
「え、俺、ベルと一緒?」
「そうなるな」
「ですね」

 若いの3人がそう言って笑うのを、ディレンも楽しそうに見て笑う。

「まあ、嬢ちゃんの代わりにはちょっとばかりあれだが、あんたもなかなか味があるやつだな」
「え、なんですそれ!」
「いいやつだなって、ことだろ」

 トーヤもそう言って満足そうに笑う。

「ま、話を戻そうぜ」

 本筋に戻すのはいつものアラン隊長だ。

「そんで、どうするって?」
「要は、あの2人をひっこませりゃいいわけだろ? そんな大げさにお国がどう、ってほどのことは起こさなくていい。王様になっちまったもんはもうしゃあねえ、けど、それに手を貸したやつは許せんってぐらいのことなら、やってくれるのがいるんじゃねえの?」
「相変わらず簡単に言うよなあ」

 アランが眉をひそめる。

「この国の人間関係もよく分かんねえのに、できんのか、そんなこと」
「いるだろ、情報通が」
「リルさんか」
「そうだ」

 トーヤがコクリと頷く。

「実際に王座奪おうとか、この国ひっくり返そうってのじゃねえしな、あくまで宮の安定のために邪魔なやつを引っ込めるぐらいのことがありゃいい」
「話じゃそうなんだけどな」

 またアランが難しい顔になる。

「とにかくセルマに権力を握らせなきゃいいんだよ」
「でもキリエ様の後はセルマ様だって話になってるぜ?」
「だからそれをひっくり返しゃいいんだろ? そんぐらいだったらできそうに思う」
「できんのかよ」
「俺らだけじゃ無理だろうがな。当てにしてる人がいる」
「キリエさんか」
「さすがアラン」

 アランがずばりと当てる。

「キリエ様にって、交代の後はキリエ様は北の離宮に行かれるんだろ? どうすんだよ」
「キリエさんのことだ、自分の後継者のことはきっともう決めてる。そしてそれはセルマじゃねえ」
「う~ん、まあ、それはそうかも知れないな」

 ダルが仕方なさそうに認める。

「セルマさえ失脚して、キリエさん路線が続けば、多分それで大丈夫だ」
「そんな簡単に」
「それしかねえからな」

 トーヤが表情を引き締めた。

「あの人もそれしかねえって思ってるはずだ。だから協力してもらう」
「まあ、ここまでくりゃ一蓮托生いちれんたくしょうかも知んねえけどなあ、どうやんだよ?」
「セルマにでかい失敗があって、そんで皇太子に見放されりゃいいんだろ?」

 ダルが驚いて目を丸くする。

「キリエさんなら大丈夫だ」

 トーヤが断言する。

「あの人は黙ってセルマにやられてるような人間じゃねえ」
「そんで結構のんびりしてたんだな」
「のんびりはしてねえけど、そう簡単に手の内見せるような人じゃねえしな、何かきっかけが欲しかった。そしたらほれ、また転がり込んできただろうが」
 
 トーヤがどこか遠くをチラッと見つめた。

「ずっとそうなんだよ、道がついてんだよ。それを見つけられるかどうか、それが俺らの勝負だ。王様の交代だなんだってえらくでっかいことに見えるけどな、結局こっちがやれることは、そういう小さいことしかねえってこった。この騒ぎに便乗して、そんで正義の使者みたいな顔してるセルマにその正義は間違ってるってこと教えてやりゃあ、そんでいい。元々が生真面目な侍女だって言うからな、それで目が覚めんだろうよ」
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