327 / 354
第三章 第六部 露見
15 声の主
しおりを挟む
「モアラ様……」
シリルも同じように青ざめ、少し震えている。
「ええ……」
モアラがシリルの言葉に小さく答える。
「どうしました?」
もう一度、ゆっくりと柔らかい声音でキリエが二人の新米侍女に尋ねる。
「あの……」
モアラがそう言ったまま少し黙り、
「あの、なぜかは分からないのですが、今、とても大変なことを思い出してしまったように思います」
「私もです」
モアラがそう言うと、シリルも言う。
「大変なこと?」
キリエが表情を変えぬまま、ゆっくりと尋ねる。
「はい、あの、あの……」
モアラはエリス様とベルを気にしているようだ。
「ベル殿」
「はい」
キリエが何かを察したようにベルに声をかける。
「少しばかり大事な話ができたようです。わざわざ来ていただいたのですが、一度お部屋にお戻りいただけますか? また後ほどお詫びに参らせていただきます」
「いえ、それは構わないのですが、あの、大丈夫でしょうか?」
ベルがキリエから視線を新米侍女二人に向ける。
二人の令嬢は固くなって手を握り合い、やはり顔色が悪い。
「分かりました、楽しいひと時を過ごせました、また落ち着かれましたらお部屋の方にもいらっしゃってください」
ベルが二人にそう声をかける。
「はい、そうさせていただきます。モアラ、シリル、お礼を」
そう促すと、二人の令嬢がゆっくりと立ち上がり、
「大変失礼をいたしました」
「申し訳ありません」
と、エリス様とベルに頭を下げた。
「いえ、頭をお上げください。どうぞお大事になさってください。奥様」
そう言ってベルがエリス様の手を取り、立ち上がらせると一緒にキリエの私室から廊下へと出ていった。二人が出てくると、ミーヤもフウと一緒に控えていた控室から出て、共に部屋に戻っていった。
「どうだった?」
エリス様ことシャンタルとベルが部屋に戻ってくるとトーヤが尋ねた。
今はアーダはダルの部屋でダルとディレンに付いている。
エリス様の部屋にいるのはトーヤとアランだけだった。
「うん、うまくいったと思うよ」
エリス様がふわっとベールをかき上げて言う。
「ってことはおまえも見たのか?」
「見たんじゃなくて聞いたかな」
「ほう」
「印象がね、薄かったんだ」
「声のか?」
「そう。それで重ねて濃くしていったら、二人共心当たりのある声だったみたい」
「そんなこともできるのかよ、おまえ!」
一度心の中を覗かれ、とてつもなく心がくじけたアランが声を上げる。
「できたみたいだね」
シャンタルがあっけらかんと言うのを聞き、またアランが椅子に座り込んで虚無になる。
「俺、どんだけのことおまえに見られてんだよ……」
自分でも知らない心の奥の奥まで見られたのかも知れないと思うと、それは虚無にもなろう。
「大丈夫だよ、そんなには見てないし。まあ、がんばって見ようと思ったから結構色々見られたけどね」
シャンタルの言葉にアラン終了……
「まあ、今はアランは置いといてだな」
と、トーヤがつれなく話を続ける。
「んで、おまえもその声を聞いて、ご令嬢たちが思い出した相手を見た、じゃなくて聞いた? ん~どっちか分かんねえけどまあ分かったんだな?」
「うん」
「誰だった?」
「セルマだったよ」
シャンタルがはっきりと言う。
「少し声を低くしてたみたいだけど、人って話し方の特徴があるからね。意識して話し方を変えていた部分もあったけど、ほろっと『青い香炉です』って言った声が素の声みたいだったから、それをかさねてみた」
「ふえ~そんなことしてたのかよ、おまえ」
その場にいて、いつ何が起きていたか分からなかったベルが感心して言う。
「うん、まあベールをかぶってたし、分からないよね」
「そうか、そうだよな」
実際はアランの実験の時にも、シャンタルが口に出さなければ何をしているかなど分からなかったのだが、なんとなくベルがそれで納得した。
「しかし、やっぱりセルマだったんだな」
やっと立ち直ったアランが言い、トーヤが答える。
「ああ、はっきりしたな」
「今頃二人のお嬢さんがキリエさんにそれを伝えてるか」
「おそらくな」
まさにその頃、キリエの部屋で、二人の新米侍女が震えながらその事実を伝えていた。
「セルマ様でした、思い出しました」
「ええ、セルマ様の声でした」
二人が声を揃えてそう証言する。
「そうですか」
キリエが淡々とその言葉を受け止めた。
二人の少女は恐怖に震えて侍女頭の次の言葉を待つ。
「フウ」
キリエが控室に向かって声をかけると、フウがすぐに応接へと入ってきた。
「すぐにルギ隊長をここへ」
「かしこまりました」
フウがルギを呼びに行き、ルギが二名の衛士と共にキリエの私室へ来る。
「そうですか、証言をありがとうございます」
ルギが丁寧に二人の少女に頭を下げ、
「ボーナム、お二人をマユリアの宮殿へ。そこでお預かりいただこう」
「え!」
「あ、あの、マユリアのところで、あの」
ルギの言葉にモアラとシリルが今度は違う意味で震える。
「ええ、この国で一番聖なる場所奥宮のマユリアの宮殿です。この証人はそこで保護する必要がある。そして第一警備体制をとり、これまで以上に厳重に奥宮の警護を」
「は!」
隊長の命に、見た目だけは穏やかな、だがその実はかなりの切れ者の副隊長が走った。
シリルも同じように青ざめ、少し震えている。
「ええ……」
モアラがシリルの言葉に小さく答える。
「どうしました?」
もう一度、ゆっくりと柔らかい声音でキリエが二人の新米侍女に尋ねる。
「あの……」
モアラがそう言ったまま少し黙り、
「あの、なぜかは分からないのですが、今、とても大変なことを思い出してしまったように思います」
「私もです」
モアラがそう言うと、シリルも言う。
「大変なこと?」
キリエが表情を変えぬまま、ゆっくりと尋ねる。
「はい、あの、あの……」
モアラはエリス様とベルを気にしているようだ。
「ベル殿」
「はい」
キリエが何かを察したようにベルに声をかける。
「少しばかり大事な話ができたようです。わざわざ来ていただいたのですが、一度お部屋にお戻りいただけますか? また後ほどお詫びに参らせていただきます」
「いえ、それは構わないのですが、あの、大丈夫でしょうか?」
ベルがキリエから視線を新米侍女二人に向ける。
二人の令嬢は固くなって手を握り合い、やはり顔色が悪い。
「分かりました、楽しいひと時を過ごせました、また落ち着かれましたらお部屋の方にもいらっしゃってください」
ベルが二人にそう声をかける。
「はい、そうさせていただきます。モアラ、シリル、お礼を」
そう促すと、二人の令嬢がゆっくりと立ち上がり、
「大変失礼をいたしました」
「申し訳ありません」
と、エリス様とベルに頭を下げた。
「いえ、頭をお上げください。どうぞお大事になさってください。奥様」
そう言ってベルがエリス様の手を取り、立ち上がらせると一緒にキリエの私室から廊下へと出ていった。二人が出てくると、ミーヤもフウと一緒に控えていた控室から出て、共に部屋に戻っていった。
「どうだった?」
エリス様ことシャンタルとベルが部屋に戻ってくるとトーヤが尋ねた。
今はアーダはダルの部屋でダルとディレンに付いている。
エリス様の部屋にいるのはトーヤとアランだけだった。
「うん、うまくいったと思うよ」
エリス様がふわっとベールをかき上げて言う。
「ってことはおまえも見たのか?」
「見たんじゃなくて聞いたかな」
「ほう」
「印象がね、薄かったんだ」
「声のか?」
「そう。それで重ねて濃くしていったら、二人共心当たりのある声だったみたい」
「そんなこともできるのかよ、おまえ!」
一度心の中を覗かれ、とてつもなく心がくじけたアランが声を上げる。
「できたみたいだね」
シャンタルがあっけらかんと言うのを聞き、またアランが椅子に座り込んで虚無になる。
「俺、どんだけのことおまえに見られてんだよ……」
自分でも知らない心の奥の奥まで見られたのかも知れないと思うと、それは虚無にもなろう。
「大丈夫だよ、そんなには見てないし。まあ、がんばって見ようと思ったから結構色々見られたけどね」
シャンタルの言葉にアラン終了……
「まあ、今はアランは置いといてだな」
と、トーヤがつれなく話を続ける。
「んで、おまえもその声を聞いて、ご令嬢たちが思い出した相手を見た、じゃなくて聞いた? ん~どっちか分かんねえけどまあ分かったんだな?」
「うん」
「誰だった?」
「セルマだったよ」
シャンタルがはっきりと言う。
「少し声を低くしてたみたいだけど、人って話し方の特徴があるからね。意識して話し方を変えていた部分もあったけど、ほろっと『青い香炉です』って言った声が素の声みたいだったから、それをかさねてみた」
「ふえ~そんなことしてたのかよ、おまえ」
その場にいて、いつ何が起きていたか分からなかったベルが感心して言う。
「うん、まあベールをかぶってたし、分からないよね」
「そうか、そうだよな」
実際はアランの実験の時にも、シャンタルが口に出さなければ何をしているかなど分からなかったのだが、なんとなくベルがそれで納得した。
「しかし、やっぱりセルマだったんだな」
やっと立ち直ったアランが言い、トーヤが答える。
「ああ、はっきりしたな」
「今頃二人のお嬢さんがキリエさんにそれを伝えてるか」
「おそらくな」
まさにその頃、キリエの部屋で、二人の新米侍女が震えながらその事実を伝えていた。
「セルマ様でした、思い出しました」
「ええ、セルマ様の声でした」
二人が声を揃えてそう証言する。
「そうですか」
キリエが淡々とその言葉を受け止めた。
二人の少女は恐怖に震えて侍女頭の次の言葉を待つ。
「フウ」
キリエが控室に向かって声をかけると、フウがすぐに応接へと入ってきた。
「すぐにルギ隊長をここへ」
「かしこまりました」
フウがルギを呼びに行き、ルギが二名の衛士と共にキリエの私室へ来る。
「そうですか、証言をありがとうございます」
ルギが丁寧に二人の少女に頭を下げ、
「ボーナム、お二人をマユリアの宮殿へ。そこでお預かりいただこう」
「え!」
「あ、あの、マユリアのところで、あの」
ルギの言葉にモアラとシリルが今度は違う意味で震える。
「ええ、この国で一番聖なる場所奥宮のマユリアの宮殿です。この証人はそこで保護する必要がある。そして第一警備体制をとり、これまで以上に厳重に奥宮の警護を」
「は!」
隊長の命に、見た目だけは穏やかな、だがその実はかなりの切れ者の副隊長が走った。
0
あなたにおすすめの小説
おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう
お餅ミトコンドリア
ファンタジー
パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。
だが、全くの無名。
彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。
若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。
弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。
独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです!
何卒宜しくお願いいたします!)
【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~
ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。
王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。
15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。
国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。
これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。
【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活
シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!
【完結】異世界転移した私がドラゴンの魔女と呼ばれるまでの話
yuzuku
ファンタジー
ベランダから落ちて死んだ私は知らない森にいた。
知らない生物、知らない植物、知らない言語。
何もかもを失った私が唯一見つけた希望の光、それはドラゴンだった。
臆病で自信もないどこにでもいるような平凡な私は、そのドラゴンとの出会いで次第に変わっていく。
いや、変わらなければならない。
ほんの少しの勇気を持った女性と青いドラゴンが冒険する異世界ファンタジー。
彼女は後にこう呼ばれることになる。
「ドラゴンの魔女」と。
※この物語はフィクションです。
実在の人物・団体とは一切関係ありません。
廃城の泣き虫アデリー
今野綾
ファンタジー
領主の娘だったアデリーはある日家族を殺され育った領地から命からがら逃げ出した。辿り着いた先は廃城。ひとり、ふたりと住人が増える中、問題が次々とおこって…
表紙はフリー素材です
追放貴族少年リュウキの成り上がり~魔力を全部奪われたけど、代わりに『闘気』を手に入れました~
さとう
ファンタジー
とある王国貴族に生まれた少年リュウキ。彼は生まれながらにして『大賢者』に匹敵する魔力を持って生まれた……が、義弟を溺愛する継母によって全ての魔力を奪われ、次期当主の座も奪われ追放されてしまう。
全てを失ったリュウキ。家も、婚約者も、母の形見すら奪われ涙する。もう生きる力もなくなり、全てを終わらせようと『龍の森』へ踏み込むと、そこにいたのは死にかけたドラゴンだった。
ドラゴンは、リュウキの境遇を憐れみ、ドラゴンしか使うことのできない『闘気』を命をかけて与えた。
これは、ドラゴンの力を得た少年リュウキが、新しい人生を歩む物語。
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
チート無しっ!?黒髪の少女の異世界冒険記
ノン・タロー
ファンタジー
ごく普通の女子高生である「武久 佳奈」は、通学途中に突然異世界へと飛ばされてしまう。
これは何の特殊な能力もチートなスキルも持たない、ただごく普通の女子高生が、自力で会得した魔法やスキルを駆使し、元の世界へと帰る方法を探すべく見ず知らずの異世界で様々な人々や、様々な仲間たちとの出会いと別れを繰り返し、成長していく記録である……。
設定
この世界は人間、エルフ、妖怪、獣人、ドワーフ、魔物等が共存する世界となっています。
その為か男性だけでなく、女性も性に対する抵抗がわりと低くなっております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる