黒のシャンタル 第二話 「新しい嵐の中へ」<完結>

小椋夏己

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第三章 第六部 露見

17 やるべきこと

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 ボーナムとゼトは、とりあえずすぐにハリオをどうこうはせず、宮へ帰って隊長のルギに報告することにした。下手に手を出すと他の者にも気づかれる可能性があると思ったからだ。

  報告を聞き、ルギは心の中で、

(バカめ)

 と、トーヤに悪態をついた。

 どうして身代わりをした男に衛士に顔を晒すようなことをさせたのだ。
 どうして他の船員に対応させるようにしておかん。
 どうしてそこまで思いつかなかった。 
 一体どう言いくるめてあの役をさせたか分からんがやるならそこまでやっておけ。

 と、ここぞとばかりに心の中で、トーヤに次から次に罵声を浴びせる。

「隊長?」

 ボーナムとゼトが、考え込むようにしているルギに不思議そうに声をかけた。
 珍しく不快そうな顔をし、次の命令を出さないルギに戸惑っているようだ。

「ああ、すまん」

 ルギが部下たちに落ち着いた声で謝った。

「いえ、なかなかに厄介な事例ですし、無理もありません」

 ボーナムが人の良さそうな顔でそう言って頷く。

「全くです。ただでさえあってはならぬことが奥宮で起こっているというのに、そこにまたこんなことが」

 ゼトも眉を潜めて同じように頷く。

「もしかして、あの香炉もあの者たちの仕業ということはありませんよね」
 
 ゼトがそう続けるのにボーナムも、

「ない、とは言えないだけにますます厄介だな」

 と、同意をする。

 ルギはそうではないことを知っている。
 エリス様たちはセルマが犯人であることを明らかにしようとしていると分かっている。
 だが、部下たちにそのことを伝えるわけにはいかないのだ。

(俺はいつもの通り警護隊隊長としてやるべきことをやるだけだ)

 エリス様が先代シャンタル、「黒のシャンタル」であることは何があろうと言うわけにはいかない。

(それはこの国の秘密の中の秘密だ。八年前にあったことは何があろうと隠し通さねばならない)

 そして、その先代がもう一度交代のために戻ってきていることも、絶対に知られるわけにはいかない。

(そのことを踏まえた上で、やるべきことをやるだけだ)

 もう一度自分に言い聞かせる。

「二人の侍女は取次役が青い香炉のことを告げに来たと言っている。中の国の者たちが取次役と何か関わりがあるかどうか、それは関係がはっきりするまで、表立っては触れるな。知られることで見えなくなることがあるかも知れん」

 ルギはいつものように感情を含まず、淡々と部下たちに命令を出す。

「まずは青い香炉だ。どこからどう手に入れたか、それを明らかにし、取次役の身柄を確保する。それが第一だ。その船員の顔については私もまた確認にいく」
「分かりました」

 二名の部下はルギの指令に従うために下がり、それぞれの目的に向かって散っていった。

「バカめが」

 部下がいなくなると、ルギはやっとのように心の内を口に出せた。



 一方のトーヤたちはハリオが代役を務めたことがバレたなど、全く知らず、こちらはこちらのやるべきことのために忙しく動いていた。

 あの後、

「お茶会が途中になってしまったお詫びを」

 と、キリエがエリス様の部屋を訪れ、二人の伯爵令嬢がマユリアの宮殿に保護されたことを伝えてくれた。

「まさか取次役様が容疑者とは思わねえもんなあ、そりゃそのぐらいの隠し方しねえとな」
「そうだよな、えらいやつが悪いことしてんだもんな」

 トーヤの言葉にベルがうんうんと頷く。

「ですが、ルギはすぐにはこのことを明らかにはしないようです」
「なんでだよ」

 ベルがキリエに聞く。

「証言だけですから、今あるのは」
「そうだな」
「え、え、なんで?」

 ベルがまたキリエとトーヤに聞く。

「あのな」

 いつものようにアランが説明に入る。

「取次役様ってのは、今はもうそりゃ偉い人なんだよ」
「うん」
「その偉い人をな、伯爵令嬢だかなんだか知らねえが、新米の侍女が犯人ですーって言ったからって、そう簡単に証拠もなく捕まえるってわけにはいかねえんだよ」
「なんでだよ! そのためにシャンタルが証拠を押さえたんじゃねえかよ!」
「だからおまえはバカなんだよなあ」

 アランがはあっとため息をつき、ベルがむうっと口をひん曲げる。

「新米侍女と取次役様、どっちが信用できる?」
「そりゃ新米侍女じゃん、実際に見たんだし」
「その見たってのは2人が言ってるだけだろうが」
「だからーそのためにシャンタルがさあ」
「それをどうやって証明すんだよ?」
「あ」

 やっとベルにも合点がいったらしい。

「そうかあ、シャンタルが本当のこと見せたっておれらは知ってるけど、それを他のやつらに言うわけにいかねえもんな」
「そういうこった」

 兄妹のやり取りを聞いていたトーヤもそう言う。

「ってことは、青い香炉だな。なあキリエさん」

 トーヤがキリエに振り向いて聞いた。

「青い香炉っての、この宮のもんだった?」
「私も全部の備品を知っているわけではありませんが、後で見せてもらったところ、見た覚えがない物だったと思います」
「ってことは、外から持ち込まれたのか。どこからどう持ち込んだんだ? なんか道筋に心当たりねえか?」
「そのような目的として手に入れたのだとすれば、堂々と持ち込まれた物ではないかも知れませんね」

 キリエも含めて「青い香炉」が持ち込まれた方法について考える。
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