黒のシャンタル 第三話 シャンタリオの動乱

小椋夏己

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第一章 第一部 嵐の前触れ

 7 二つの反感

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「知ってはいた、ということですね」
「知識としては、そのような物が存在するということだけは存じておりました」
「分かりました。それではそのような性質のものであると理解はしていたものの、実際に手を加えることはしていない、そういうことですね」
「はい、さようでございます」

 神官長は落ち着いた様子でマユリアに頭を下げた。

「ですが、実際に黒い香炉はなくなっており、それに手を加えたのではないかと思われる青い香炉がここにある。それが事実です」

 マユリアがやんわりと、誰かを責めたり何かを決めるのではなく、単に事実だけを述べた、そのようにそう言った。

「先程の花瓶で実験はしてみますが、黒い香炉と青い香炉が同じ可能性は高い。ですから、そうであったことを前提として話を進めましょう。ルギ、続きを」
「はい」

 ルギがまた頭を下げて話を続ける。

「マユリアがおっしゃる通り、2つが同じ物と仮定して話を進めます。その場合、何者かが神殿にあった黒い香炉に手を加え、青い香炉に変えたと考えるのが妥当です。ただ、その者とキリエ様に青い香炉を届けた者が同一人物であるかどうかは不明です」
「それはその通りですね」
「はい。その者が黒い香炉が青い香炉に変わる、これもそうなる物との仮定ですが、そのような物であると知っていて持ち出し、自分で手を加えて色を変えたのか、それとも何者かによってすでに青く変えられていたものを知らずに持ち出したのか、その部分も分かってはおりません」
「なるほど、そうですね」
「変容させた者、持ち出した者が誰かを調べるのは、おそらく無理かと思います」
「そうですね」
「ですが、今、分かっていることがただ一つあります、それはあの香炉を持って行くように命じたのはセルマだということです。誰が変容させ、誰が持ち出したかは関係なく、その声を聞いた二名の侍女がそう証言しておりますので」
「分かりました」
「いえ、お待ちください!」

 マユリアとルギの会話に神官長が待ったをかけた。

「その二名の証言は本当に確かなものなのでしょうか」
「二名とも確かにと言っております」
「人の声というもの、それほど確かに誰のものと証言できるものでありましょうか」

 神官長がそう疑問を口にする。

「その二名は最初からセルマの声であったと証言しておりましたか?」
「いえ、最初はよく分からなかったようですが、よくよく考えて思い出したようです」
「おかしな話です」

 神官長が首を振りながらそう言う。

「思い出せなかった声の持ち主を、一体何があってその侍女たちはいきなり思い出したというのでしょうか?」
「それは分かりません」

 ルギの言葉に神官長は満足したように深く頷いた。

「でしょうな。それはきっと、外から何かの力が働いたからに違いないと思います」
「何かの力?」
「例えば、何かの暗示を与えてセルマであったと思い込ませるような何かです」
「誰がどうやってそのようなことをやったとおっしゃるのです」
「その二人の侍女が思い出したというのは、どのような状態でです」
「気分転換にと思い、お茶をしていた時でした」

 キリエがそう言う。

「お茶会? キリエ殿とですか?」
「ええ、そうです。お茶会というほどのものではありません、少しお茶でも飲みましょうというだけのものです」
「なぜ二人とお茶会を?」
「ルギ隊長から二人を預かっておりましたから」
「キリエ殿がですか?」
「ええ、そうです」
「それはそれは、またなんとも面妖な」
 
 神官長は意味ありげにそう言うとニヤリと笑った。

「キリエ殿はあの青い香炉で健康を害された、いわば被害者ではないですか。それが青い香炉を持ってきた侍女二人を預かって、いやなんとも不可思議」
「そうでしょうか」

 神官長の挑発的な物言いにもキリエは動じず、ごく普通に対応をする。

「あの二人には罪がない、それはもう分かっておりました。ですから侍女頭である私が侍女たちを守るのは当然のことでしょう」
「守る?」
「ええ、そうです。もしも、あの二人に何かを証言されては困る者が何事かを仕掛けてくると危険ですので」
「なるほどなるほど」

 神官長の方も一歩も引かず、さらに意味ありげに言葉を続ける。

「ということは、そのお茶会の時にキリエ殿が何かを吹き込んだ、そのような可能性もございますな」
「なぜ私がそのようなことをしなければならないのでしょう」

 普通の人間ならばカッとして頭に血が上り兼ねない状況でもキリエは冷静である。

「なぜ、ですか。申さなくてはなりませんかな?」
「ええ、構いません、おっしゃってください」
「では、遠慮なく言わせていただきます」

 神官長がコホンと一つ咳払いをして続ける。

「セルマがあなた様に対して反感を持っていた、それはもうご存知ですな?」
「ええ、ルギ隊長から伺いました。セルマがそのような言葉を口にしたと」
「ええそうです。ですが、あなたも同じくセルマに対して反感を持っていたとしたらどうです?」
「おっしゃる意味がよく分かりませんが」
「分かりませんか? あなたはセルマが邪魔だったのですよ。それで二人にセルマの声であったと吹き込みセルマを犯人に仕立てた。違いますかな?」
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