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第二章 第三部 女神の国
17 楽しい昼食
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アランは料理を見繕って皿に入れると、
「いただきます」
と、シャンタルに挨拶をして最初の一口を食べ、
「うっまいなあ、これは!」
ほくほくと満足した顔で、次、また次と味わっていく。
「いや、本当においしいです」
ディレンもアランに続くようにじっくりと味わってそう口にする。
「お、お口に合ったらうれしいです」
シャンタルはおいしいと言ってもらったらそう答えるようにと、ラーラ様に教えてもらっていた言葉を口にして、すごくうれしくなってきた。
「シャンタル、この柔らかく煮込んだ肉おいしいですよ。もう食べました?」
「あ、いえ、まだ」
「早く食べた方がいいですよ、冷めてしまう前に」
「あ、分かりました」
シャンタルがそう言うと、食事係の侍女がアランが勧めた肉の煮込みを少し皿に取って小さな主の前に置いた。シャンタルがその肉を小さく取って口にする。
「おいしい」
「ねっ、おいしいでしょ!」
アランが自分の手柄のように得意そうにそう言うので、小さなシャンタルがくすくす笑い、
「まるでアランが作ったお料理みたいですね」
そう言うと、
「俺は結構料理得意なんですよ、ト……う、ごほごほ……すみません」
一瞬、素でトーヤと言いかけたのでむせた振りをして、
「ルークたちと旅してても色々作ったりしてましたよ。まあ、そんな大したもんじゃないですけどね」
と、返した。
「アランがお料理を!」
シャンタルはその言葉に心底驚いたような声をあげる。
「お料理は料理長しか作れないものなのではないのですか?」
「いやいや、作れますよ」
思わずアランが笑いながらそう返す。
「ほとんどの家庭では家で作って食べるんですよ」
「どうやって?」
「どうやって……うーん」
アランの家では母がご飯を作ってくれていた。だが、普通の家庭を知らぬシャンタルに、それを言ってもいいものなのか。
「その家で調理を受け持つ家族が作るんです」
思わぬところから助け船が出た。
ルギである。
「まあ、そうなのですか」
「そ、そう、そうなんです」
それでシャンタルはなんとなく納得してくれたようだ。
そしてそれをきっかけに、食べ物に関する話で和やかに会話しながら食事会は続いた。
「この野菜のサラダはタレが変わってますよね」
「俺もこの味は初めてだなあ」
「それとこの魚、揚げて酢の入ったタレに浸けてある、さっぱりしていくつでもいけそうだ」
「そうだな、揚げ物は俺ぐらいの年になるとちょっと重い時もあるんだが、これならいける」
「船長、まだまだ若いでしょうに」
「いやあ、もうだめだなあ」
こんな風にアランとディレンが話をすると、そこにシャンタルがちょこちょこと乗ってくる。
「ディレン船長はそんなにお年なの? まだお若いように見えるのに」
「今年47です。もう年寄りですよ」
「47歳ってお年寄りになるんですか?」
「うーん、自分ではまだまだ18のつもりなんですが、本物の若い衆とこうして食事をしてると、年寄りだなあと思いますねえ」
「まあ」
ディレンの答えにシャンタルが楽しそうに笑う。
そうして楽しいうちに食事会は進み、最後のお茶の時間となった。
「ああ、今日はとてもお食事がおいしかった、どうしてかしら」
「俺もです。こんなおいしい料理は初めてでした」
「俺もだなあ」
「宮に身を寄せてその時もうまい料理だと思ったけど、今日は格別でした」
「そうだな」
「またご一緒したいわ」
ぽつりとシャンタルが勇気を振り絞るように言った。
「ラーラ様、明日もご一緒してはいけないかしら」
「シャンタル……」
「できればその次の日も。ねえ、いけませんか?」
ラーラ様が困り切った顔をしている。
それはそうだろう。本日の招待客は、逮捕拘束されている身の上だ。それにそうではないとしても、毎日招待するというより、シャンタルの命で呼びつけるようなことはやってはいけない。
「シャンタル、それはだめですよ」
「え?」
アランの声にシャンタルが驚いてそちらを振り向く。
「こういうのはね、毎日じゃないから楽しいんです」
「毎日じゃないから?」
「そうですよ」
アランがうんうんと頷きながら言う。
「毎日いつもの生活をしていて、時々こういうことがご褒美としてあるから楽しいんです」
「ご褒美……」
「ええ、そうです」
「よく分からない」
「シャンタルはいつもは誰とお食事なさってるんですか?」
「ラーラ様とマユリアがおそばに付いていてくださってます」
「ラーラ様とマユリアとご一緒にお食事するの、楽しくないんですか?」
「そんなことは!」
思わぬ言葉にシャンタルが驚いて声を大きくした。
「楽しいですよね」
「楽しい……」
「特に楽しいとか考えてもいなかった、違いますか?」
シャンタルは少し落ち着いて考えて、
「そうだと思います」
そう答えた。
「ね、すごく大好きな人でも、いつも一緒にいるとそれが普通で特別じゃなくなってしまう。今日シャンタルが楽しかったのは、いつもと違うことをしたからなんです」
「いつもと違うことを?」
「ええ、そうです。だから、時々招待してもらえませんか? 俺はシャンタルの特別になれたらうれしいなあ」
アランがにっこり笑ってそう言い、シャンタルが、
「アランがわたくしの特別に?」
目を丸くしてそう聞き返した。
「いただきます」
と、シャンタルに挨拶をして最初の一口を食べ、
「うっまいなあ、これは!」
ほくほくと満足した顔で、次、また次と味わっていく。
「いや、本当においしいです」
ディレンもアランに続くようにじっくりと味わってそう口にする。
「お、お口に合ったらうれしいです」
シャンタルはおいしいと言ってもらったらそう答えるようにと、ラーラ様に教えてもらっていた言葉を口にして、すごくうれしくなってきた。
「シャンタル、この柔らかく煮込んだ肉おいしいですよ。もう食べました?」
「あ、いえ、まだ」
「早く食べた方がいいですよ、冷めてしまう前に」
「あ、分かりました」
シャンタルがそう言うと、食事係の侍女がアランが勧めた肉の煮込みを少し皿に取って小さな主の前に置いた。シャンタルがその肉を小さく取って口にする。
「おいしい」
「ねっ、おいしいでしょ!」
アランが自分の手柄のように得意そうにそう言うので、小さなシャンタルがくすくす笑い、
「まるでアランが作ったお料理みたいですね」
そう言うと、
「俺は結構料理得意なんですよ、ト……う、ごほごほ……すみません」
一瞬、素でトーヤと言いかけたのでむせた振りをして、
「ルークたちと旅してても色々作ったりしてましたよ。まあ、そんな大したもんじゃないですけどね」
と、返した。
「アランがお料理を!」
シャンタルはその言葉に心底驚いたような声をあげる。
「お料理は料理長しか作れないものなのではないのですか?」
「いやいや、作れますよ」
思わずアランが笑いながらそう返す。
「ほとんどの家庭では家で作って食べるんですよ」
「どうやって?」
「どうやって……うーん」
アランの家では母がご飯を作ってくれていた。だが、普通の家庭を知らぬシャンタルに、それを言ってもいいものなのか。
「その家で調理を受け持つ家族が作るんです」
思わぬところから助け船が出た。
ルギである。
「まあ、そうなのですか」
「そ、そう、そうなんです」
それでシャンタルはなんとなく納得してくれたようだ。
そしてそれをきっかけに、食べ物に関する話で和やかに会話しながら食事会は続いた。
「この野菜のサラダはタレが変わってますよね」
「俺もこの味は初めてだなあ」
「それとこの魚、揚げて酢の入ったタレに浸けてある、さっぱりしていくつでもいけそうだ」
「そうだな、揚げ物は俺ぐらいの年になるとちょっと重い時もあるんだが、これならいける」
「船長、まだまだ若いでしょうに」
「いやあ、もうだめだなあ」
こんな風にアランとディレンが話をすると、そこにシャンタルがちょこちょこと乗ってくる。
「ディレン船長はそんなにお年なの? まだお若いように見えるのに」
「今年47です。もう年寄りですよ」
「47歳ってお年寄りになるんですか?」
「うーん、自分ではまだまだ18のつもりなんですが、本物の若い衆とこうして食事をしてると、年寄りだなあと思いますねえ」
「まあ」
ディレンの答えにシャンタルが楽しそうに笑う。
そうして楽しいうちに食事会は進み、最後のお茶の時間となった。
「ああ、今日はとてもお食事がおいしかった、どうしてかしら」
「俺もです。こんなおいしい料理は初めてでした」
「俺もだなあ」
「宮に身を寄せてその時もうまい料理だと思ったけど、今日は格別でした」
「そうだな」
「またご一緒したいわ」
ぽつりとシャンタルが勇気を振り絞るように言った。
「ラーラ様、明日もご一緒してはいけないかしら」
「シャンタル……」
「できればその次の日も。ねえ、いけませんか?」
ラーラ様が困り切った顔をしている。
それはそうだろう。本日の招待客は、逮捕拘束されている身の上だ。それにそうではないとしても、毎日招待するというより、シャンタルの命で呼びつけるようなことはやってはいけない。
「シャンタル、それはだめですよ」
「え?」
アランの声にシャンタルが驚いてそちらを振り向く。
「こういうのはね、毎日じゃないから楽しいんです」
「毎日じゃないから?」
「そうですよ」
アランがうんうんと頷きながら言う。
「毎日いつもの生活をしていて、時々こういうことがご褒美としてあるから楽しいんです」
「ご褒美……」
「ええ、そうです」
「よく分からない」
「シャンタルはいつもは誰とお食事なさってるんですか?」
「ラーラ様とマユリアがおそばに付いていてくださってます」
「ラーラ様とマユリアとご一緒にお食事するの、楽しくないんですか?」
「そんなことは!」
思わぬ言葉にシャンタルが驚いて声を大きくした。
「楽しいですよね」
「楽しい……」
「特に楽しいとか考えてもいなかった、違いますか?」
シャンタルは少し落ち着いて考えて、
「そうだと思います」
そう答えた。
「ね、すごく大好きな人でも、いつも一緒にいるとそれが普通で特別じゃなくなってしまう。今日シャンタルが楽しかったのは、いつもと違うことをしたからなんです」
「いつもと違うことを?」
「ええ、そうです。だから、時々招待してもらえませんか? 俺はシャンタルの特別になれたらうれしいなあ」
アランがにっこり笑ってそう言い、シャンタルが、
「アランがわたくしの特別に?」
目を丸くしてそう聞き返した。
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