黒のシャンタル 第三話 シャンタリオの動乱

小椋夏己

文字の大きさ
184 / 488
第三章 第ニ部 助け手の秘密

19 始まりの話 

しおりを挟む
「なあトーヤ、一緒に行かねえか? うまい話があるんだよ」

 部屋でゴロゴロしていたトーヤを店の若い衆が「客が来てる」と呼びに来たので、そんな気がしながら一応一階の待合いに降りていくと、やはり思った顔があり、トーヤの顔を見た途端にそう言った。

「まあたおまえかよ、しつけえなあ。だから、今は何する気にもなんねえんだよ、かわいいお姉ちゃんとゴロゴロしてたいんだよ、俺は」

 ミーヤが亡くなり、後始末が全部終わった後、トーヤは馴染みの店の馴染みの女のところに居続けていた。

「いや、そりゃ聞いたけどよお、話聞いたら絶対トーヤもその気になるって」
「とにかく帰れよ、俺はまた寝るから。おい、しばらく誰が来てもつなぐなよな」
「お、おい、トーヤってばあ」

 トーヤはそれだけ言うと、階段を全部降り切ることなく、とっとと階上の元の部屋に戻ってしまった。ここから上は金を払った客しか上がれない。
 
「ったくしつけえな、うるせえんだよ」

 トーヤはそう言い捨てるようにして、元いた部屋に入るとゴロッとベッドに横になった。

 全くやる気が出なかった。
 他にもいくつも声をかけてくる奴はいて、中には面白そうだなと思う案件もあったものの、腰を上げるとなると億劫おっくうで、そこから先に進むことができない。

 時々そういう奴がいる。そうしてそのまま、女に寄生したり、小銭欲しさにちょっと金を持ってるような奴にすり寄ってお情けで生きているような奴が。
 幼い頃から自分の腕で生きてきたトーヤはそういう奴を馬鹿にしていたというのに、このままでは自分もそうなってしまいそうな嫌な気持ちになったが、それでも動く気になれないのだからしょうがないとも思っていた。

「まあ、もうちょいしたら動くさ」

 そう言って寝返りを打つと、

「それに、あいつも動くなって言ってたしな」

 と、ある人間を言い訳にして、真っ昼間からうとうとと眠ってしまった。



「そうだよ、動くなって言われた、それも言い訳にしてなんもしてなかった、あの時」

 トーヤが当時の事を思い出してそうつぶやくのを、不思議な空間にいる者たちは聞いた。

「それ、もしかしたら俺か」

 心当たりがあるディレンがそう聞く。

「まあな」

 トーヤが素直に認めた。

一月ひとつきぐらい仕事で留守にするが、どこにも行くな、そう言ってあんた出ていったよな」
「ああ、そうだった」

 ディレンもミーヤのいない場所に耐えられず逃げたのだが、その時にやはり、頼むと言われていたトーヤのことを気にかけないではなかったのだ。

 トーヤは「ほっとけ、どこに行こうと俺の勝手だろうが」とは言ったものの、とりあえずそのぐらいはいてやってもいいか、とも思っていた。

「何しろ、なんもする気にもなれなかったし、次の当てもなかったしな。いや、当てがないわけじゃない。色々声かけてくるのはいた。けど、やっぱ、どこ行く気にもならなかった」
「そうか」
「だから、俺がいなくなったからって、あんたが気に病む必要はなかったんだよ、今思い出した」
「そうか」

 聞いてディレンはちょっとホッとしたようだった。

「それが動く気になった、その時のことを思い出した」



「トーヤ、いるか」

 いきなり部屋の外から声をかけられ、トーヤは驚いて飛び起きた。

「ば! おまえ、人の部屋にいきなり来るんじゃねえよ! 中で何やってっか分かんねえだろうが!」

 何しろ場所は娼家である、トーヤの言う通り時刻関係なく中で何があるか分かったものではない。

「ご、ごめん!」
「いや、まあ一人だからいいけどよ」
 
 呆れながらトーヤがドアを開けると、ふてくされたような顔の女がその男の隣に立っていた。

「なんだ、おまえも相方あいかたいんじゃねえか」
「いや、そうじゃなくて、金払って頼んだんだよ」
「ああ、なるほど」

 女がふてくされるはずだ。つまり、客としての金は払うが目的は階上にいたトーヤを尋ねるためで、そのだしに使われたわけだ。

「すまなかったな、これ取っといてくれ」

 トーヤがそう言っていくばくかの心付けを渡すと、やっと女は少しばかり笑顔をサービスして離れていった。

「まあ入れ」
「お邪魔します」

 男、ティクスは様子を伺うようにしてトーヤが長期滞在している部屋へと入ってきた。

「ほんっとおまえもしつっこいよな、そこまでしての話ってのはなんなんだよ」
「う、うん」

 トーヤが指した古びた椅子に遠慮そうに腰掛け、まだキョロキョロと部屋の中を見回す。

「なんだよ、こういうとこ、来たことねえのかよ」
「う、うん……」
「まあいいや。で、話は?」
「うん、あのな、海賊船に乗らないかって話があるんだよ」
「なんだ」

 トーヤはちょっとうんざりとした。
 海賊船にも色々ある。物語に出てくるような荒くれの残虐な海賊もあれば、その真似事みたいな安っぽい海賊船もある。
 ティクスぐらいの奴に声をかけてくるってのは、そのへんちょろちょろと動いて回るつまらん船だろう、そう思ったからだ。

「どうせおもちゃみたいな海賊船だろうが、そんなちゃちい仕事ごめんだな」
「いや、それが違うんだよ!」

 ティクスは身を乗り出すようにして続けた。

「それが、シャンタリオまで行くって話なんだよ」

 その単語が急にトーヤの興味を引いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

幸せな政略結婚のススメ【本編完結】

ましろ
恋愛
「爵位と外見に群がってくる女になぞ興味は無い」 「え?だって初対面です。爵位と外見以外に貴方様を判断できるものなどございませんよ?」 家柄と顔が良過ぎて群がる女性に辟易していたユリシーズはとうとう父には勝てず、政略結婚させられることになった。 お相手は6歳年下のご令嬢。初対面でいっそのこと嫌われようと牽制したが? スペック高めの拗らせ男とマイペースな令嬢の政略結婚までの道程はいかに? ✻基本ゆるふわ設定です。 気を付けていますが、誤字脱字などがある為、あとからこっそり修正することがあります。 ・11/21ヒーローのタグを変更しました。

【もうダメだ!】貧乏大学生、絶望から一気に成り上がる〜もし、無属性でFランクの俺が異文明の魔道兵器を担いでダンジョンに潜ったら〜

KEINO
ファンタジー
貧乏大学生の探索者はダンジョンに潜り、全てを覆す。 ~あらすじ~ 世界に突如出現した異次元空間「ダンジョン」。 そこから産出される魔石は人類に無限のエネルギーをもたらし、アーティファクトは魔法の力を授けた。 しかし、その恩恵は平等ではなかった。 富と力はダンジョン利権を牛耳る企業と、「属性適性」という特別な才能を持つ「選ばれし者」たちに独占され、世界は新たな格差社会へと変貌していた。 そんな歪んだ現代日本で、及川翔は「無属性」という最底辺の烙印を押された青年だった。 彼には魔法の才能も、富も、未来への希望もない。 あるのは、両親を失った二年前のダンジョン氾濫で、原因不明の昏睡状態に陥った最愛の妹、美咲を救うという、ただ一つの願いだけだった。 妹を治すため、彼は最先端の「魔力生体学」を学ぶが、学費と治療費という冷酷な現実が彼の行く手を阻む。 希望と絶望の狭間で、翔に残された道はただ一つ――危険なダンジョンに潜り、泥臭く魔石を稼ぐこと。 英雄とも呼べるようなSランク探索者が脚光を浴びる華やかな世界とは裏腹に、翔は今日も一人、薄暗いダンジョンの奥へと足を踏み入れる。 これは、神に選ばれなかった「持たざる者」が、絶望的な現実にもがきながら、たった一つの希望を掴むために抗い、やがて世界の真実と向き合う、戦いの物語。 彼の「無属性」の力が、世界を揺るがす光となることを、彼はまだ知らない。 テンプレのダンジョン物を書いてみたくなり、手を出しました。 SF味が増してくるのは結構先の予定です。 スローペースですが、しっかりと世界観を楽しんでもらえる作品になってると思います。 良かったら読んでください!

真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます

難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』" ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。 社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー…… ……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!? ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。 「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」 「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族! 「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」 かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、 竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。 「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」 人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、 やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。 ——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、 「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。 世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、 最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕! ※小説家になろう様にも掲載しています。

《完結》「パパはいますか?」ある日、夫に似た子供が訪ねて来た。

ヴァンドール
恋愛
嫁いですぐに夫は戦地に赴いた。すると突然一人の男の子が訪ねて来た「パパはいますか?」 その子供の顔は戦地に行った夫にそっくりだった。

拾われ子のスイ

蒼居 夜燈
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞】 記憶にあるのは、自分を見下ろす紅い眼の男と、母親の「出ていきなさい」という怒声。 幼いスイは故郷から遠く離れた西大陸の果てに、ドラゴンと共に墜落した。 老夫婦に拾われたスイは墜落から七年後、二人の逝去をきっかけに養祖父と同じハンターとして生きていく為に旅に出る。 ――紅い眼の男は誰なのか、母は自分を本当に捨てたのか。 スイは、故郷を探す事を決める。真実を知る為に。 出会いと別れを繰り返し、命懸けの戦いを繰り返し、喜びと悲しみを繰り返す。 清濁が混在する世界に、スイは何を見て何を思い、何を選ぶのか。 これは、ひとりの少女が世界と己を知りながら成長していく物語。 ※週2回(木・日)更新。 ※誤字脱字報告に関しては感想とは異なる為、修正が済み次第削除致します。ご容赦ください。 ※カクヨム様にて先行公開(登場人物紹介はアルファポリス様でのみ掲載) ※表紙画像、その他キャラクターのイメージ画像はAIイラストアプリで作成したものです。再現不足で色彩の一部が作中描写とは異なります。 ※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

婚約破棄された人たらし悪役令嬢ですが、 最強で過保護な兄たちと義姉に溺愛されています

由香
ファンタジー
婚約破棄のその日、 悪役令嬢リリアーナは――弁明すら、しなかった。 王太子と“聖女”に断罪され、すべてを失った彼女。 だがその裏で、王国最強と名高い三人の兄と、 冷静沈着な義姉が、静かに動き始めていた。 再検証によって暴かれる“聖女の嘘”。 広場で語られる真実。 そして、無自覚に人を惹きつけてしまう リリアーナの優しさが、次々と味方を増やしていく――。 これは、 悪役令嬢として断罪された少女が、 「誰かの物語の脇役」ではなく、 自分自身の人生を取り戻す物語。 過保護すぎる兄たちと義姉に溺愛されながら、 彼女は静かに、そして確実に幸せへ向かっていく。

ゲーム未登場の性格最悪な悪役令嬢に転生したら推しの妻だったので、人生の恩人である推しには離婚して私以外と結婚してもらいます!

クナリ
ファンタジー
江藤樹里は、かつて画家になることを夢見ていた二十七歳の女性。 ある日気がつくと、彼女は大好きな乙女ゲームであるハイグランド・シンフォニーの世界へ転生していた。 しかし彼女が転生したのは、ヘビーユーザーであるはずの自分さえ知らない、ユーフィニアという女性。 ユーフィニアがどこの誰なのかが分からないまま戸惑う樹里の前に、ユーフィニアに仕えているメイドや、樹里がゲーム内で最も推しているキャラであり、どん底にいたときの自分の心を救ってくれたリルベオラスらが現れる。 そして樹里は、絶世の美貌を持ちながらもハイグラの世界では稀代の悪女とされているユーフィニアの実情を知っていく。 国政にまで影響をもたらすほどの悪名を持つユーフィニアを、最愛の恩人であるリルベオラスの妻でいさせるわけにはいかない。 樹里は、ゲーム未登場ながら圧倒的なアクの強さを持つユーフィニアをリルベオラスから引き離すべく、離婚を目指して動き始めた。

僕に仕えるメイドは世界最強の英雄です1~またクビになったけど、親代わりのメイドが慰めてくれるので悲しくなんてない!!~

あきくん☆ひろくん
ファンタジー
仕事を失い、居場所をなくした青年。 彼に仕えるのは――世界を救った英雄たちだった。 剣も魔法も得意ではない主人公は、 最強のメイドたちに守られながら生きている。 だが彼自身は、 「守られるだけの存在」でいることを良しとしなかった。 自分にできることは何か。 この世界で、どう生きていくべきか。 最強の力を持つ者たちと、 何者でもない一人の青年。 その主従関係は、やがて世界の歪みと過去へと繋がっていく。 本作は、 圧倒的な安心感のある日常パートと、 必要なときには本格的に描かれる戦い、 そして「守られる側の成長」を軸にした 完結済み長編ファンタジーです。 シリーズ作品の一編ですが、本作単体でもお楽しみいただけます。 最後まで安心して、一気読みしていただければ幸いです。

処理中です...