210 / 488
第三章 第四部 女神の秘密
3 マユリアの影
しおりを挟む
「あんたな、あんたのいれもの扱いされた人間のこと、考えたことあんのかよ!」
光の謝罪を受け流すようにベルの怒りは続く。
「産まれてすぐおっかさんから引き離されて、そんで神様だ神様だって宮の奥に閉じ込められて、そんで次ができたらもうお役御免でポイされんだぜ! 二十年も神様神様言われてな、いきなり今日から人間ですって言われたもんのこと、一回でも考えたことあんのか! その上でいれものなんて言うのかよ!」
光は沈黙したまま悲しそうに瞬く。
「シャンタルなんかな、そのせいで冷たい水の中で死ぬとこだったんだ!」
「もうそのへんにしとけ」
トーヤがベルを止める。
「トーヤだって死にかけたくせに!」
「分かった、分かったからもう黙れ、な?」
トーヤがベルの頭の上にとん、と右手を置いてなだめる。
「おまえの言いたいこと、俺もよく分かる。同じ気持ちだ。けどな、今は時間がない、言いたいことがあるなら後でまとめて言ってやれ。今は先にあいつの言うこと聞いてそれからのことだ。分かるだろうが」
そう言われても、それでもベルはきつい目で光の方向を睨みつける。
『童子……』
光が悲しそうにそう言う。
『あなたの怒りはもっともです。ですが、トーヤが申す通り、今は少し抑えてわたくしの話を聞いてください』
「わかった……」
そうしてやっとベルが口を閉じた。
「よう、続き頼むぜ」
『分かりました』
光がさびしそうに瞬いて続ける。
『そうしてわたくしたちは、次の魂を受け入れる』
光がそう言って少し考え、
『新しいシャンタルの肉体を用意することになりました』
ベルはまだその言い方にも不愉快そうな視線を向けるが、少し間を空けて光が続ける。
『マユリアが、自分の体を使ってください、そう言ってくれたのです』
「ええっ!」
「なんだよそれ!」
「それこそ意味わかんねえよ!」
みな同じ気持ちではあったが、ベルが上げた声が一番大きかった。
「なあ」
興奮しているベルを押さえながらトーヤが言う。
「マユリアってのは、あんたの侍女の女神だったよな? そんで、今は当代マユリアの中にいるって言われてる」
『その通りです』
「聞いたところによるとだな、マユリアの海に女神マユリアの体は沈んでる、そういう話だったが、そのマユリアが自分の体を使ってくれ、そう言ったってことでいいのか?」
『その通りです』
これは、一体どう受け止めればいいものか。
何をどう聞けばいいのか分からない。
「あの」
ミーヤがおずおずと話しかけた。
『なんですミーヤ』
「では、マユリアの海にはもうマユリアのお体はいらっしゃらない、そういうことなのですか?」
『そうとも言えますし、そうではないとも言えます』
「またそれかよ!」
トーヤがいらついたように言って、聞こえよがしに舌打ちをする。
「だからな、そういうのいいからとっとと話せって言ってる――」
「トーヤ、落ち着いて。少し静かに話をさせてください」
ミーヤがトーヤをそう言って留め、トーヤもそこで口を閉じた。
「あの、もう少しだけ分かるようにお話しくださるとありがたいです」
『ありがとう、ミーヤ』
光が柔らかくミーヤに降り注いだ。
『神としてのマユリアの肉体、それを人の世に人として産まれさせるということは、神としての肉体を失うということです。ですがその余韻、影、力、そのようなものは今もあの海の底に眠っている、マユリアはいるということです』
「ありがとうございます、少し分かった気がいたします」
「分かったのか?」
トーヤが驚いたように聞く。
「ええ、分かりました」
「あの、私にも」
「私にもなんとなく」
3人の侍女が口を揃えてそう言うが、トーヤにはいまひとつ理解しかねる話であった。
「宮に仕える侍女の身として、頭ではなく心と言うか感覚で理解できたと思います。それはちょうど、マユリアがあの海の底でお眠りになりながらも、宮におられるマユリアの中にもおられるということ、神のマユリアと人のマユリアが同じお方であるということと同じではないかと」
「う~ん……」
ミーヤの説明を聞いても、まだ分かったような分からないようなとトーヤは思った。
「まあ、そういうのはまた後で説明してくれ、時間がないってことだしな」
「はい」
「ってことで、続けてくれ。マユリアが自分の体使えって言って、そんでそうなったから、その時には次のシャンタルが無事に産まれた、そういうことでいいんだな?」
『その通りです』
「ってことは、そのマユリアの体を持ったシャンタルってのがいて、その後で交代してマユリアの入ったマユリアってのがいたってことになる、それでいいのか?」
『その通りです』
「ずばり聞くぞ、そのマユリアの体を持ったマユリアってのは一体誰だ?」
誰もが思ったことであった。
「てか、俺の考えを言わせてもらう。あんた、さっき半世紀ほど前に生まれたシャンタルの後釜が見つからねえ、そう言ってた。半世紀ってのは五十年だ。ってことは、その次のシャンタルってのは今40歳ぐらい、ってことはだな」
「ラーラ様……」
ミーヤがポツリと言った。
「そうだ、ラーラ様だ。それで合ってるか?」
『その通りです』
光の答えに思わずみなが息を飲んだ。
光の謝罪を受け流すようにベルの怒りは続く。
「産まれてすぐおっかさんから引き離されて、そんで神様だ神様だって宮の奥に閉じ込められて、そんで次ができたらもうお役御免でポイされんだぜ! 二十年も神様神様言われてな、いきなり今日から人間ですって言われたもんのこと、一回でも考えたことあんのか! その上でいれものなんて言うのかよ!」
光は沈黙したまま悲しそうに瞬く。
「シャンタルなんかな、そのせいで冷たい水の中で死ぬとこだったんだ!」
「もうそのへんにしとけ」
トーヤがベルを止める。
「トーヤだって死にかけたくせに!」
「分かった、分かったからもう黙れ、な?」
トーヤがベルの頭の上にとん、と右手を置いてなだめる。
「おまえの言いたいこと、俺もよく分かる。同じ気持ちだ。けどな、今は時間がない、言いたいことがあるなら後でまとめて言ってやれ。今は先にあいつの言うこと聞いてそれからのことだ。分かるだろうが」
そう言われても、それでもベルはきつい目で光の方向を睨みつける。
『童子……』
光が悲しそうにそう言う。
『あなたの怒りはもっともです。ですが、トーヤが申す通り、今は少し抑えてわたくしの話を聞いてください』
「わかった……」
そうしてやっとベルが口を閉じた。
「よう、続き頼むぜ」
『分かりました』
光がさびしそうに瞬いて続ける。
『そうしてわたくしたちは、次の魂を受け入れる』
光がそう言って少し考え、
『新しいシャンタルの肉体を用意することになりました』
ベルはまだその言い方にも不愉快そうな視線を向けるが、少し間を空けて光が続ける。
『マユリアが、自分の体を使ってください、そう言ってくれたのです』
「ええっ!」
「なんだよそれ!」
「それこそ意味わかんねえよ!」
みな同じ気持ちではあったが、ベルが上げた声が一番大きかった。
「なあ」
興奮しているベルを押さえながらトーヤが言う。
「マユリアってのは、あんたの侍女の女神だったよな? そんで、今は当代マユリアの中にいるって言われてる」
『その通りです』
「聞いたところによるとだな、マユリアの海に女神マユリアの体は沈んでる、そういう話だったが、そのマユリアが自分の体を使ってくれ、そう言ったってことでいいのか?」
『その通りです』
これは、一体どう受け止めればいいものか。
何をどう聞けばいいのか分からない。
「あの」
ミーヤがおずおずと話しかけた。
『なんですミーヤ』
「では、マユリアの海にはもうマユリアのお体はいらっしゃらない、そういうことなのですか?」
『そうとも言えますし、そうではないとも言えます』
「またそれかよ!」
トーヤがいらついたように言って、聞こえよがしに舌打ちをする。
「だからな、そういうのいいからとっとと話せって言ってる――」
「トーヤ、落ち着いて。少し静かに話をさせてください」
ミーヤがトーヤをそう言って留め、トーヤもそこで口を閉じた。
「あの、もう少しだけ分かるようにお話しくださるとありがたいです」
『ありがとう、ミーヤ』
光が柔らかくミーヤに降り注いだ。
『神としてのマユリアの肉体、それを人の世に人として産まれさせるということは、神としての肉体を失うということです。ですがその余韻、影、力、そのようなものは今もあの海の底に眠っている、マユリアはいるということです』
「ありがとうございます、少し分かった気がいたします」
「分かったのか?」
トーヤが驚いたように聞く。
「ええ、分かりました」
「あの、私にも」
「私にもなんとなく」
3人の侍女が口を揃えてそう言うが、トーヤにはいまひとつ理解しかねる話であった。
「宮に仕える侍女の身として、頭ではなく心と言うか感覚で理解できたと思います。それはちょうど、マユリアがあの海の底でお眠りになりながらも、宮におられるマユリアの中にもおられるということ、神のマユリアと人のマユリアが同じお方であるということと同じではないかと」
「う~ん……」
ミーヤの説明を聞いても、まだ分かったような分からないようなとトーヤは思った。
「まあ、そういうのはまた後で説明してくれ、時間がないってことだしな」
「はい」
「ってことで、続けてくれ。マユリアが自分の体使えって言って、そんでそうなったから、その時には次のシャンタルが無事に産まれた、そういうことでいいんだな?」
『その通りです』
「ってことは、そのマユリアの体を持ったシャンタルってのがいて、その後で交代してマユリアの入ったマユリアってのがいたってことになる、それでいいのか?」
『その通りです』
「ずばり聞くぞ、そのマユリアの体を持ったマユリアってのは一体誰だ?」
誰もが思ったことであった。
「てか、俺の考えを言わせてもらう。あんた、さっき半世紀ほど前に生まれたシャンタルの後釜が見つからねえ、そう言ってた。半世紀ってのは五十年だ。ってことは、その次のシャンタルってのは今40歳ぐらい、ってことはだな」
「ラーラ様……」
ミーヤがポツリと言った。
「そうだ、ラーラ様だ。それで合ってるか?」
『その通りです』
光の答えに思わずみなが息を飲んだ。
0
あなたにおすすめの小説
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
久しぶりに会った婚約者は「明日、婚約破棄するから」と私に言った
五珠 izumi
恋愛
「明日、婚約破棄するから」
8年もの婚約者、マリス王子にそう言われた私は泣き出しそうになるのを堪えてその場を後にした。
底辺から始まった俺の異世界冒険物語!
ちかっぱ雪比呂
ファンタジー
40歳の真島光流(ましまみつる)は、ある日突然、他数人とともに異世界に召喚された。
しかし、彼自身は勇者召喚に巻き込まれた一般人にすぎず、ステータスも低かったため、利用価値がないと判断され、追放されてしまう。
おまけに、道を歩いているとチンピラに身ぐるみを剥がされる始末。いきなり異世界で路頭に迷う彼だったが、路上生活をしているらしき男、シオンと出会ったことで、少しだけ道が開けた。
漁れる残飯、眠れる舗道、そして裏ギルドで受けられる雑用仕事など――生きていく方法を、教えてくれたのだ。
この世界では『ミーツ』と名乗ることにし、安い賃金ながらも洗濯などの雑用をこなしていくうちに、金が貯まり余裕も生まれてきた。その頃、ミーツは気付く。自分の使っている魔法が、非常識なほどチートなことに――
《完結》「パパはいますか?」ある日、夫に似た子供が訪ねて来た。
ヴァンドール
恋愛
嫁いですぐに夫は戦地に赴いた。すると突然一人の男の子が訪ねて来た「パパはいますか?」
その子供の顔は戦地に行った夫にそっくりだった。
現代ダンジョン奮闘記
だっち
ファンタジー
15年前に突如としてダンジョンが登場した現代の地球。
誰が何のために。
未だに解明されていないが、モンスターが落とす魔石はすべてのエネルギー源を代替できる物質だった。
しかも、ダンジョンでは痛みがあるが死なない。
金も稼げる危険な遊び場。それが一般市民が持っているダンジョンの認識だ。
そんな世界でバイトの代わりに何となくダンジョンに潜る一人の少年。
探索者人口4億人と言われているこの時代で、何を成していくのか。
少年の物語が始まる。
帰国した王子の受難
ユウキ
恋愛
庶子である第二王子は、立場や情勢やら諸々を鑑みて早々に隣国へと無期限遊学に出た。そうして年月が経ち、そろそろ兄(第一王子)が立太子する頃かと、感慨深く想っていた頃に突然届いた帰還命令。
取り急ぎ舞い戻った祖国で見たのは、修羅場であった。
二度目の子育て~我が子を可愛がったら溺愛されました
三園 七詩
恋愛
私は一人娘の優里亜の母親だった。
優里亜は幼い頃から体が弱く病院でほとんどの時間を過ごしていた。
優里亜は本が好きでよく私にも本の話をしてくれた。
そんな優里亜の病状が悪化して幼くして亡くなってしまう。
絶望に打ちひしがれている時事件に巻き込まれ私も命を落とした。
そして気がつくと娘の優里亜が大好きだった本の世界に入り込んでいた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる