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第三章 第四部 女神の秘密
4 神の身、人の身
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「ラーラ様が、マユリア、女神様……」
脱力したようなリルの声がした。
「ってことはラーラ様は神様ってこと? 普通の人に見えたけど……」
毒気を抜かれたようにベルが静かにそう言う。
『いいえ、ラーラ様と呼ばれる元シャンタルにして元マユリア、その身はすでに人なのです』
「わけ、わっかんねえー!!」
ベルがそう叫んだが、誰も止める者はいない。
「なあ、どういうこったよ! うちのシャンタルもちびシャンタルも、みんなが母さんって思ってるあのラーラ様が本物の女神様って、どういうことなんだよ!」
『神は人になることができます。アイリス女神は知っていますか?』
「あ、うん、トーヤに聞いた。剣士が好きんなって、人の世界に残って国作ったって剣の女神様だよな」
『その通りです』
光がベルを包み込むように優しく震える。
『アイリスは神の身でありましたが人の世に残って人となり、人しての生を終えて今は彼の地で眠りについております』
「えっと……、それ、女神様は人間になって死んだってこと?」
『その通りです』
「やっぱわけわかんね、いで!」
絶叫するベルをトーヤがはたいた。
「いいからちょっと落ち着け。けどおまえのおかげでなんか分かった気がする」
はたいた手でそのままベルの頭を撫でる。
「つまり、ラーラ様の体は元マユリアの体だけど、今はラーラ様って人間の体、普通の人と変わんねえってことだな」
『その通りです』
「分かった」
トーヤが何を考えているのか分からない無表情で静かに言うと、続けて尋ねた。
「そんじゃ、ラーラ様はこの後、普通の人として生きててなんも問題ないってことでいいんだよな?」
答え如何によっては、そんな冷たい目を光に向ける。
『ラーラの今後についてはそのまま、ラーラとして人の時を進むことで何も問題はありません。ですが、誕生の時にやはり多少の問題はありました』
「ほう」
トーヤの目の光は緩まない。
『仮にも神の身を宿すということ、それを可能とする母を探すにはやはり色々な条件を必要としたのです。そうして選ばれた、浮かび出てきたのはリュセルスよりはるか東、シャンタリオの東の端に位置するある町にいた商人の妻でした』
ラーラ様が一度だけ、宮に残って侍女になる、との手紙をやり取りした家族、その母の話である。
『その者はすでにそれなりに長じた6人の子を持つ母でした。とても母性の強い、母たるにふさわしい魂を持つ女性でした。その母は遠い町から長い日数をかけてシャンタル宮へ参り、年の離れた最後の子となるラーラを、高齢故か難産の末に出産いたしました。産後の肥立ちも良くはなく、遠くの故郷に戻るために宮を出るまでにもかなりの月日を要し、やっと故郷に戻った後も、ほとんど寝たり起きたりの状態となりました』
それだけ、人の身で神を産むというのは負担が大きいことであったのか。
『そして完全に健康に戻ることはなく生を終えたので、ラーラの家族は、末の妹が神であることに思うところがあったようです。ラーラは家族と、宮に侍女として残るとの手紙を一通やりとりしただけで、完全に縁が切れています』
「それが多少の問題かよ……」
トーヤの目は冷たい光をたたえたまま。
「人一人、そしてその家族の生活をそんなにまでしても、守らなきゃいけないもんだったのか、それは」
光は悲しそうに瞬くだけで何も答えない。
「まあ、でも、言ってもしゃあないわなあ、あんたら神様と俺ら人はちょっとばかり考え方が違うようだし、ここでうだうだ言ってても時間の無駄だ。続きを頼む」
トーヤの両手がきつく握りしめられているのをみなは見ていた。
『ラーラのことです』
光はゆっくりと続ける。
『その生母ゆえか、それともわたくしと長い年月を共にして、侍女でありながら母のような役割をも果たしてくれてもいたからか、母性がとても強く、シャンタルではなく、マユリアではなく、シャンタルの母という想いの強い人となりました』
「ああ、そうだな」
トーヤも思い出していた。ラーラ様と初めて会った時のあの感覚、まるで自分が小さな子に戻ったように、一生懸命母に話を聞いてもらう子のように話をしたことを。
「確かにラーラ様は母だよ、それ以外のことは思いつかねえ。あの人が神であった、そんなこと思えもしねえ、そんな人だ」
トーヤの言葉にラーラ様を知る者はみなうなずいた。
『マユリアの神としての肉体は、今はラーラという人の肉体としてこの世にあり、そしてその生を終える時には、この地の土に返ります。ラーラはシャンタルの母としてその生を終えることでしょう』
「ってことはだ」
トーヤが感情を出すことなく、淡々と言葉を続ける。
「一度人になっちまったら、その神様はもう神様に戻ることはねえってことだな?」
『その通りです』
「アイリス女神もマユリアも、そんだけの覚悟を持って、神様って自分を捨てて人になった、そういう話がしたかったってことか」
『その通りです』
「んで、そんだけして無理やりシャンタルを産ませたわけだが、その後はどうなった? そんでそれがなんで今につながってる?」
やはり冷たくトーヤが続ける。
脱力したようなリルの声がした。
「ってことはラーラ様は神様ってこと? 普通の人に見えたけど……」
毒気を抜かれたようにベルが静かにそう言う。
『いいえ、ラーラ様と呼ばれる元シャンタルにして元マユリア、その身はすでに人なのです』
「わけ、わっかんねえー!!」
ベルがそう叫んだが、誰も止める者はいない。
「なあ、どういうこったよ! うちのシャンタルもちびシャンタルも、みんなが母さんって思ってるあのラーラ様が本物の女神様って、どういうことなんだよ!」
『神は人になることができます。アイリス女神は知っていますか?』
「あ、うん、トーヤに聞いた。剣士が好きんなって、人の世界に残って国作ったって剣の女神様だよな」
『その通りです』
光がベルを包み込むように優しく震える。
『アイリスは神の身でありましたが人の世に残って人となり、人しての生を終えて今は彼の地で眠りについております』
「えっと……、それ、女神様は人間になって死んだってこと?」
『その通りです』
「やっぱわけわかんね、いで!」
絶叫するベルをトーヤがはたいた。
「いいからちょっと落ち着け。けどおまえのおかげでなんか分かった気がする」
はたいた手でそのままベルの頭を撫でる。
「つまり、ラーラ様の体は元マユリアの体だけど、今はラーラ様って人間の体、普通の人と変わんねえってことだな」
『その通りです』
「分かった」
トーヤが何を考えているのか分からない無表情で静かに言うと、続けて尋ねた。
「そんじゃ、ラーラ様はこの後、普通の人として生きててなんも問題ないってことでいいんだよな?」
答え如何によっては、そんな冷たい目を光に向ける。
『ラーラの今後についてはそのまま、ラーラとして人の時を進むことで何も問題はありません。ですが、誕生の時にやはり多少の問題はありました』
「ほう」
トーヤの目の光は緩まない。
『仮にも神の身を宿すということ、それを可能とする母を探すにはやはり色々な条件を必要としたのです。そうして選ばれた、浮かび出てきたのはリュセルスよりはるか東、シャンタリオの東の端に位置するある町にいた商人の妻でした』
ラーラ様が一度だけ、宮に残って侍女になる、との手紙をやり取りした家族、その母の話である。
『その者はすでにそれなりに長じた6人の子を持つ母でした。とても母性の強い、母たるにふさわしい魂を持つ女性でした。その母は遠い町から長い日数をかけてシャンタル宮へ参り、年の離れた最後の子となるラーラを、高齢故か難産の末に出産いたしました。産後の肥立ちも良くはなく、遠くの故郷に戻るために宮を出るまでにもかなりの月日を要し、やっと故郷に戻った後も、ほとんど寝たり起きたりの状態となりました』
それだけ、人の身で神を産むというのは負担が大きいことであったのか。
『そして完全に健康に戻ることはなく生を終えたので、ラーラの家族は、末の妹が神であることに思うところがあったようです。ラーラは家族と、宮に侍女として残るとの手紙を一通やりとりしただけで、完全に縁が切れています』
「それが多少の問題かよ……」
トーヤの目は冷たい光をたたえたまま。
「人一人、そしてその家族の生活をそんなにまでしても、守らなきゃいけないもんだったのか、それは」
光は悲しそうに瞬くだけで何も答えない。
「まあ、でも、言ってもしゃあないわなあ、あんたら神様と俺ら人はちょっとばかり考え方が違うようだし、ここでうだうだ言ってても時間の無駄だ。続きを頼む」
トーヤの両手がきつく握りしめられているのをみなは見ていた。
『ラーラのことです』
光はゆっくりと続ける。
『その生母ゆえか、それともわたくしと長い年月を共にして、侍女でありながら母のような役割をも果たしてくれてもいたからか、母性がとても強く、シャンタルではなく、マユリアではなく、シャンタルの母という想いの強い人となりました』
「ああ、そうだな」
トーヤも思い出していた。ラーラ様と初めて会った時のあの感覚、まるで自分が小さな子に戻ったように、一生懸命母に話を聞いてもらう子のように話をしたことを。
「確かにラーラ様は母だよ、それ以外のことは思いつかねえ。あの人が神であった、そんなこと思えもしねえ、そんな人だ」
トーヤの言葉にラーラ様を知る者はみなうなずいた。
『マユリアの神としての肉体は、今はラーラという人の肉体としてこの世にあり、そしてその生を終える時には、この地の土に返ります。ラーラはシャンタルの母としてその生を終えることでしょう』
「ってことはだ」
トーヤが感情を出すことなく、淡々と言葉を続ける。
「一度人になっちまったら、その神様はもう神様に戻ることはねえってことだな?」
『その通りです』
「アイリス女神もマユリアも、そんだけの覚悟を持って、神様って自分を捨てて人になった、そういう話がしたかったってことか」
『その通りです』
「んで、そんだけして無理やりシャンタルを産ませたわけだが、その後はどうなった? そんでそれがなんで今につながってる?」
やはり冷たくトーヤが続ける。
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