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第四章 第四部
17 国を動かす者
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マユリアは神官長の言葉を聞き終えると、さっと立ち上がった。
「申したはずです。シャンタルを貶めるような言葉が続くなら席を立つと」
マユリアはそれだけを口にすると、衣装の裾を翻し、神官長に背を向けた。
「お待ち下さい!」
神官長は大きな声でマユリアの後ろ姿に引き止める声をかけた。
「それで本当によろしいのですか!」
マユリアはそのまま部屋の奥へと向かってゆっくりと進む。
「誠にシャンタルを貶めるのは、そのように見ぬ、聞かぬ振りをして、シャンタルに向けられる無礼な目を許し続けることではないのですか!」
神官長が必死にそう声を絞ると、マユリアが足を止めた。
「マユリアがいくらお気持ちを害し、不愉快だとおっしゃっても、現実にそういう目的でシャンタルへの託宣を求める者はおるのです! それを知らぬ顔をして許し続ける、それこそがシャンタルを貶めることになるのではないですか!」
マユリアが黙ったままその場に留まった。
「ご不快に思われたのならどのようにでも謝罪いたします! 必要なら私のこの、先の短い命を捧げてもいい! ですが、このことだけはお聞きいただきたいのです! それが事実です! 悲しいかな、そのような目でシャンタルを、そしてマユリアを見る者がおる、それは本当のことなのです! 私はそのような無礼を許さぬために! シャンタルを真に尊ぶために! 今、こうして、あえて厳しい言葉をマユリアにお届けしているのです!」
椅子から体を起こして叫び続けていた神官長が、姿勢を崩して床の上に崩折れた。
神官長は肩ではあはあと息をし、それでも顔だけはマユリアに向けて声を上げ続ける。
「お願いです、もう少しだけ、この老いぼれの言葉をお聞きください! 私はこの国を、真の女神の国にしたいのです! そのことをルギ隊長にも申し上げました!」
この名がマユリアの足を完全に止めた。
マユリアがゆっくりと振り返り、神官長へ視線を落とした。
「ルギ隊長にも申し上げました!」
神官長がもう一度繰り返す。
「ルギに、ですか」
「はい!」
マユリアが不審そうに、だが少し考えるような表情になる。
「ルギからは、そのようなこと、聞いたことがありませんが」
「それは、ルギ隊長がまだ本当の意味では受け入れてくださっていないからです!」
神官長は床に這いつくばったまま、必死にマユリアに訴え続ける。
「本当にルギ隊長には以前、申し上げました! ですが、相手にしてくださいませんでした!」
「そうでしょうね……」
ルギが相手にしなかったと聞き、マユリアはホッとしたようだ。
「ルギは、なんと言っていました」
「はい、ルギ隊長は、私が心の病である、そうおっしゃいました」
「まあ」
マユリアはそれを聞いて少しだけ微笑んだ。
「ごめんなさい。でもルギらしいと思ったもので」
「さようですか」
神官長はマユリアが笑ってくれたことで少しだけホッとしていた。
これならまだ話を続けられる、そう感じた。
「ルギ隊長のおっしゃることももっともだと思います」
神官長は神妙な面持ちでそう言ってうなだれる。
「私は、焦っておりました。そこでいきなりそのような話をしても、分かってもらえるはずがなかったのです。もっと、時間をかけ、私が思っていること、先ほどマユリアにお話したような、今のこの国の状況などを、じっくりと話をして、それからにするべきでした」
神官長は床に倒れた姿勢のまま、とつとつと語り続ける。
その姿を見かねたマユリアが声をかけた。
「お座りなさい」
「は、はい! あ、ありがとうございます!」
神官長は急いで裾を払い、元のように椅子に座り直した。
マユリアはその場に立ったままじっと神官長を見ながら、そして聞いた。
「一体ルギにどのような話をしたのです」
「は、はい、お答えいたします……」
答えると言いながら、神官長はじっとマユリアを見て続けようとはしない。
それはそうだろう。
神官長が椅子に座り、神であるマユリアを立たせたままで話などできない。
マユリアはそれを理解し、小さく一つため息をつくと、自分も元のように座り直した。
「続けてください」
「は、はい!」
神官長はもう一度深く頭を下げると話を続ける。
「ルギ隊長にはこの国、シャンタリオは女神が統べる国である、そう申し上げました」
マユリアはそのことに返事をしなかった。
それは答える必要もないこと。
この国は生き神シャンタルが統べる国、今さらあらためて口にする必要もない事実であった。
「だが、実はそうではない、そう申し上げました」
「そうではない?」
「はい、そうです」
神官長はマユリアが自分の話を聞く気になったと理解し、落ち着いて話を続ける。
「確かにシャンタルは唯一この国の頂点におられる尊いお方。そしてマユリアはそれに継ぐ地位のお方。これは間違いのないことです。ですが、本当にこの国を動かすのは王家のお方、違いますでしょうか?」
マユリアは少し考えて、
「いえ、違いませんね。ですが、そのことに何か問題が?」
「はい、あります」
神官長はゆっくりと頭を上下すると、
「それこそが、外の国から見てシャンタルが軽んじられる原因だからです」
マユリアを見つめ、きっぱりとそう答えた。
「申したはずです。シャンタルを貶めるような言葉が続くなら席を立つと」
マユリアはそれだけを口にすると、衣装の裾を翻し、神官長に背を向けた。
「お待ち下さい!」
神官長は大きな声でマユリアの後ろ姿に引き止める声をかけた。
「それで本当によろしいのですか!」
マユリアはそのまま部屋の奥へと向かってゆっくりと進む。
「誠にシャンタルを貶めるのは、そのように見ぬ、聞かぬ振りをして、シャンタルに向けられる無礼な目を許し続けることではないのですか!」
神官長が必死にそう声を絞ると、マユリアが足を止めた。
「マユリアがいくらお気持ちを害し、不愉快だとおっしゃっても、現実にそういう目的でシャンタルへの託宣を求める者はおるのです! それを知らぬ顔をして許し続ける、それこそがシャンタルを貶めることになるのではないですか!」
マユリアが黙ったままその場に留まった。
「ご不快に思われたのならどのようにでも謝罪いたします! 必要なら私のこの、先の短い命を捧げてもいい! ですが、このことだけはお聞きいただきたいのです! それが事実です! 悲しいかな、そのような目でシャンタルを、そしてマユリアを見る者がおる、それは本当のことなのです! 私はそのような無礼を許さぬために! シャンタルを真に尊ぶために! 今、こうして、あえて厳しい言葉をマユリアにお届けしているのです!」
椅子から体を起こして叫び続けていた神官長が、姿勢を崩して床の上に崩折れた。
神官長は肩ではあはあと息をし、それでも顔だけはマユリアに向けて声を上げ続ける。
「お願いです、もう少しだけ、この老いぼれの言葉をお聞きください! 私はこの国を、真の女神の国にしたいのです! そのことをルギ隊長にも申し上げました!」
この名がマユリアの足を完全に止めた。
マユリアがゆっくりと振り返り、神官長へ視線を落とした。
「ルギ隊長にも申し上げました!」
神官長がもう一度繰り返す。
「ルギに、ですか」
「はい!」
マユリアが不審そうに、だが少し考えるような表情になる。
「ルギからは、そのようなこと、聞いたことがありませんが」
「それは、ルギ隊長がまだ本当の意味では受け入れてくださっていないからです!」
神官長は床に這いつくばったまま、必死にマユリアに訴え続ける。
「本当にルギ隊長には以前、申し上げました! ですが、相手にしてくださいませんでした!」
「そうでしょうね……」
ルギが相手にしなかったと聞き、マユリアはホッとしたようだ。
「ルギは、なんと言っていました」
「はい、ルギ隊長は、私が心の病である、そうおっしゃいました」
「まあ」
マユリアはそれを聞いて少しだけ微笑んだ。
「ごめんなさい。でもルギらしいと思ったもので」
「さようですか」
神官長はマユリアが笑ってくれたことで少しだけホッとしていた。
これならまだ話を続けられる、そう感じた。
「ルギ隊長のおっしゃることももっともだと思います」
神官長は神妙な面持ちでそう言ってうなだれる。
「私は、焦っておりました。そこでいきなりそのような話をしても、分かってもらえるはずがなかったのです。もっと、時間をかけ、私が思っていること、先ほどマユリアにお話したような、今のこの国の状況などを、じっくりと話をして、それからにするべきでした」
神官長は床に倒れた姿勢のまま、とつとつと語り続ける。
その姿を見かねたマユリアが声をかけた。
「お座りなさい」
「は、はい! あ、ありがとうございます!」
神官長は急いで裾を払い、元のように椅子に座り直した。
マユリアはその場に立ったままじっと神官長を見ながら、そして聞いた。
「一体ルギにどのような話をしたのです」
「は、はい、お答えいたします……」
答えると言いながら、神官長はじっとマユリアを見て続けようとはしない。
それはそうだろう。
神官長が椅子に座り、神であるマユリアを立たせたままで話などできない。
マユリアはそれを理解し、小さく一つため息をつくと、自分も元のように座り直した。
「続けてください」
「は、はい!」
神官長はもう一度深く頭を下げると話を続ける。
「ルギ隊長にはこの国、シャンタリオは女神が統べる国である、そう申し上げました」
マユリアはそのことに返事をしなかった。
それは答える必要もないこと。
この国は生き神シャンタルが統べる国、今さらあらためて口にする必要もない事実であった。
「だが、実はそうではない、そう申し上げました」
「そうではない?」
「はい、そうです」
神官長はマユリアが自分の話を聞く気になったと理解し、落ち着いて話を続ける。
「確かにシャンタルは唯一この国の頂点におられる尊いお方。そしてマユリアはそれに継ぐ地位のお方。これは間違いのないことです。ですが、本当にこの国を動かすのは王家のお方、違いますでしょうか?」
マユリアは少し考えて、
「いえ、違いませんね。ですが、そのことに何か問題が?」
「はい、あります」
神官長はゆっくりと頭を上下すると、
「それこそが、外の国から見てシャンタルが軽んじられる原因だからです」
マユリアを見つめ、きっぱりとそう答えた。
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