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第四章 第四部
18 お飾りの女神
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「何故、それが原因なのです」
何の原因とは言わず、マユリアはそう尋ねた。
「はい、それは、外の国から見ると、シャンタリオの真実を知らぬ者からすると、シャンタルが、そしてマユリアが飾り物に見えるからです」
この言葉にマユリアはまた少し不愉快そうな表情を浮かべたが、
「続けてください」
そう静かに言った。
「はい。そしてその理由、それはシャンタルとマユリアが政治に関わっておらぬからです」
「政治に?」
「はい」
マユリアが自分の言葉に答えてくれることに神官長は安堵した。これでまだ話を続けられる。
「外の国では、政治の力のある者がその国の権力者ということになっています。それで、そのような国にいる者からは、シャンタルとマユリアはその……」
神官長は少し言葉を探すようにしてから、
「お飾りと見られるのです」
と思い切ってその言葉を口にした。
マユリアがまた席を立たぬか、それだけが神官長の心配だった。もう一度そんなことがあったら、今度は戻ってはもらえまい。そうならぬ為に、気をつけて話を進めていかねばならない。
マユリアが立ち上がる気配はない。
「もう少し詳しくお話いたします」
神官長は美しい女神の顔色を伺いながら、言葉を選ぶ。
「我が国でももちろん、政治向きのことは国王陛下、そして陛下を支える元老院によって決められております。ですが、その根底には、この国の向かう方向、神の指し示す正しい道、すなわち、シャンタルのご意志がある。そのことが外の国の者たちには分からないのです」
マユリアは動かない。
神官長は一度深く息を吸うと、呼吸を整えて続けた。
「それゆえ、シャンタルもマユリアも、単に飾られた像のように思っておるのです。分からぬのです、外の国の者たちには」
神官長はまっすぐに眼前の美しき女神に訴え続ける。
「それゆえ、そのような無礼を続けておるのです」
神官長はそこまで言い終えるとじっと黙った。
黙ったまま女神の言葉を待つ。
マユリアはじっと神官長の言い分を聞いていた。
聞き終わって少し考える。
「それで」
マユリアが口を開いた。
「今申したことが本当だとして、どうしろと言うのです? 人の心まで支配することはできぬもの。神官長の言う通り、外の国の方がわたくしを、そしてシャンタルをそのように見ていようとも、どうにもできることではないでしょう」
「いえ、できます!」
神官長はマユリアの言葉が終わるのを待ちかねるようにそう言った。
「できるのです」
マユリアはじっと神官長を見ている。
「できます」
もう一度神官長はしっかりとそう答えた。
マユリアはしばらくの間神官長をじっと見て何かを考えていたが、
「分かりました。話だけは伺いましょう」
そう答えた。
「あ、ありがとうございます!」
神官長は無常の喜びを顔に浮かべると、深く頭を下げたが、再び頭を上げた時、その頬を涙が濡らしていた。マユリアがその顔を見て、驚きの表情を浮かべる。
神官長はいつも、人の顔色を伺うような、気弱な風にしか見えない人間であった。
それは神殿が宮で力を持つようになった後も、それなりに存在感を増しながらも、特にシャンタルやマユリアの前ではそれまでと変わりなく、自信なさげにもそもそと話し、いつも相手が機嫌を損ねぬか、そうばかり思っているかのようであり続けた。
その神官長が、晴れやかな顔を涙に濡らし、満面で喜びを表している。
そのことにマユリアは驚いたのだ。
「お聞きいただけるだけで、もう今まで生きてきた甲斐があった。そう思えます……」
神官長は消え入りそうな声でそう言って、また深く頭を下げた。
マユリアはその様子を黙って見ている。
「お約束いただけますでしょうか?」
「何をです」
「これから私が申すこと、もしかすると、マユリアには荒唐無稽と受け取られるかも知れません。また、ルギ隊長がおっしゃったように、私が心の病である、そう思われるかも知れません。ですが、必ず最後までお聞きくださる、そうお約束いただきたいのです」
神官長は一息入れ、そして真剣な目で続けた。
「もしも、お約束できない、そのような話を聞くことはできぬとおっしゃるのなら、私も金輪際この話はいたしません。この後は黙って、この国がどうなろうとも、黙ってこの先のことを、私の命のある限り見続けてこの命を終えることといたします」
マユリアは少し迷っているようだった。
神官長の言葉を、そうまでして聞く必要があるのかどうかを考えているのだろう。
聞いていいものなのだろうか。
聞かぬ方がいいのだろうか。
マユリアはしばらくの間黙って考えていたが、
「いいでしょう、約束しましょう」
そう言った。
「ありがとうございます!」
神官長がまた晴れやかに笑いながら、今度は涙はなく、心底嬉しそうにそう礼を言った。
「約束はします。ですが、聞いたからといって、あなたの進言を受け入れるというわけではありません。話だけは伺いますということです」
マユリアがそう念を押すと、
「結構でございます。まずは話を聞いていただかないことには始まりません」
神官長は満足そうにそう言った。
何の原因とは言わず、マユリアはそう尋ねた。
「はい、それは、外の国から見ると、シャンタリオの真実を知らぬ者からすると、シャンタルが、そしてマユリアが飾り物に見えるからです」
この言葉にマユリアはまた少し不愉快そうな表情を浮かべたが、
「続けてください」
そう静かに言った。
「はい。そしてその理由、それはシャンタルとマユリアが政治に関わっておらぬからです」
「政治に?」
「はい」
マユリアが自分の言葉に答えてくれることに神官長は安堵した。これでまだ話を続けられる。
「外の国では、政治の力のある者がその国の権力者ということになっています。それで、そのような国にいる者からは、シャンタルとマユリアはその……」
神官長は少し言葉を探すようにしてから、
「お飾りと見られるのです」
と思い切ってその言葉を口にした。
マユリアがまた席を立たぬか、それだけが神官長の心配だった。もう一度そんなことがあったら、今度は戻ってはもらえまい。そうならぬ為に、気をつけて話を進めていかねばならない。
マユリアが立ち上がる気配はない。
「もう少し詳しくお話いたします」
神官長は美しい女神の顔色を伺いながら、言葉を選ぶ。
「我が国でももちろん、政治向きのことは国王陛下、そして陛下を支える元老院によって決められております。ですが、その根底には、この国の向かう方向、神の指し示す正しい道、すなわち、シャンタルのご意志がある。そのことが外の国の者たちには分からないのです」
マユリアは動かない。
神官長は一度深く息を吸うと、呼吸を整えて続けた。
「それゆえ、シャンタルもマユリアも、単に飾られた像のように思っておるのです。分からぬのです、外の国の者たちには」
神官長はまっすぐに眼前の美しき女神に訴え続ける。
「それゆえ、そのような無礼を続けておるのです」
神官長はそこまで言い終えるとじっと黙った。
黙ったまま女神の言葉を待つ。
マユリアはじっと神官長の言い分を聞いていた。
聞き終わって少し考える。
「それで」
マユリアが口を開いた。
「今申したことが本当だとして、どうしろと言うのです? 人の心まで支配することはできぬもの。神官長の言う通り、外の国の方がわたくしを、そしてシャンタルをそのように見ていようとも、どうにもできることではないでしょう」
「いえ、できます!」
神官長はマユリアの言葉が終わるのを待ちかねるようにそう言った。
「できるのです」
マユリアはじっと神官長を見ている。
「できます」
もう一度神官長はしっかりとそう答えた。
マユリアはしばらくの間神官長をじっと見て何かを考えていたが、
「分かりました。話だけは伺いましょう」
そう答えた。
「あ、ありがとうございます!」
神官長は無常の喜びを顔に浮かべると、深く頭を下げたが、再び頭を上げた時、その頬を涙が濡らしていた。マユリアがその顔を見て、驚きの表情を浮かべる。
神官長はいつも、人の顔色を伺うような、気弱な風にしか見えない人間であった。
それは神殿が宮で力を持つようになった後も、それなりに存在感を増しながらも、特にシャンタルやマユリアの前ではそれまでと変わりなく、自信なさげにもそもそと話し、いつも相手が機嫌を損ねぬか、そうばかり思っているかのようであり続けた。
その神官長が、晴れやかな顔を涙に濡らし、満面で喜びを表している。
そのことにマユリアは驚いたのだ。
「お聞きいただけるだけで、もう今まで生きてきた甲斐があった。そう思えます……」
神官長は消え入りそうな声でそう言って、また深く頭を下げた。
マユリアはその様子を黙って見ている。
「お約束いただけますでしょうか?」
「何をです」
「これから私が申すこと、もしかすると、マユリアには荒唐無稽と受け取られるかも知れません。また、ルギ隊長がおっしゃったように、私が心の病である、そう思われるかも知れません。ですが、必ず最後までお聞きくださる、そうお約束いただきたいのです」
神官長は一息入れ、そして真剣な目で続けた。
「もしも、お約束できない、そのような話を聞くことはできぬとおっしゃるのなら、私も金輪際この話はいたしません。この後は黙って、この国がどうなろうとも、黙ってこの先のことを、私の命のある限り見続けてこの命を終えることといたします」
マユリアは少し迷っているようだった。
神官長の言葉を、そうまでして聞く必要があるのかどうかを考えているのだろう。
聞いていいものなのだろうか。
聞かぬ方がいいのだろうか。
マユリアはしばらくの間黙って考えていたが、
「いいでしょう、約束しましょう」
そう言った。
「ありがとうございます!」
神官長がまた晴れやかに笑いながら、今度は涙はなく、心底嬉しそうにそう礼を言った。
「約束はします。ですが、聞いたからといって、あなたの進言を受け入れるというわけではありません。話だけは伺いますということです」
マユリアがそう念を押すと、
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神官長は満足そうにそう言った。
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