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第六章 第二節
13 薬効
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「えっと、ど、ど、どういうこと?」
ベルがトーヤとフウの話についていけなくて、おろおろとアランに聞く。
「俺もなんとなく分かりません」
アランが手短に2人に説明をする。
キリエは神官長と一緒にシャンタルの葬送に参列しているから、その時の状況をよく知っている。寒い季節の夕方のこと、だから神官長が体調を崩して熱を出したと聞いても不思議には思わなかったし、その後で多少様子がおかしくても、まだ体調が悪いのだろうぐらいにしか思わなかっただろう。
「他のやつらも一緒だ。けど、フウさんはあの薬のことがあったもんで、もしかしたら何かあったんじゃないかとか、他の人は考えないようなことを考えちまって、それだけでは済ませられなかった。なんとなく引っかかったまま残った、そういうことじゃないかな」
「ええ、そういう感じで構いませんよ」
フウもごく普通の感じでそう答えた。
「それまでの神官長なら、そんな面倒なことが終わったらホッとしてよかったよかったと思っていたでしょうに、なんだかビクビクしてるように思いました」
「ってことは、その頃あんたは神官長とちょこちょこ会う役目だったってことか?」
「いえ、お会いすることはほとんどなかったです。ただ、あちらこちらから話が集まってくるもので、それを聞いて色々と考えて分かることが多いのですよ」
「そんなに誰も彼もがあんたにそんな話をしにくるのか?」
「いえ、全く」
フウが即答し、皆がそうだろうなとなんとなく納得する。
「じゃあ、どうやってそんな話を集めたんだ」
「あちらから集まってくるんですよ。不思議なことに、皆さん、私が植物の一部だとでも思っていらっしゃるようで、いても気にせずに色んな話をなさるんですよね」
「いや、なんとなく分かる」
「俺も」
その言葉にトーヤとアランが思わず笑うが、
「なんとなくひっかかる言い方ですが、まあいいでしょう」
フウはいたって真面目にそう答える。
「とにかく、ずっと気にかかっていました、あの薬のことが。だから、もしかしたら神官長の変化がそのせいではないか、心の中でそう思っていたようです。それで余計に神官長の動きに神経を向けるようになっていたのでしょうね」
「あの薬はその時に一回作っただけだったのか?」
「いえ、何度も作りました」
「え?」
「私が試し、そしてキリエ様が試してみて無害である、そして効能もあると分かってから、毎旬のように新しく作り直していました」
フウ以外の全員が硬い表情で目を合わせる。
「あの、そんな危険な薬をどうしてそんなに何度も?」
「薬の効き目がどのぐらい保つかが分からなかったからです」
「ああ、なるほど」
アランが質問に答えたフウの言葉に納得する。
「せっかく作っても、いざ使う時に効き目がなかったら困りますからね」
「そんなに短い時間で効き目がなくなるような薬だったのか?」
「分かりません。そう何度も使える薬でもありませんし。だからこそ、絶対に効き目がなくならないように、こまめに作り直していたんです」
「あんたかキリエさんが、時間が経っても効き目があるかどうか、もう一度使ってみるって方法は取らなかったのか」
「私は何度も使ってみましたよ」
「へ! 何度もって、なんで!」
ベルが思わずそんな声を上げる。
「それはやはり、どのぐらい飲めばどのぐらいの効き目があるのか、そんなことをきちんと知りたかったからですよ。最初は少しだけ飲んで短時間で目を覚ましてました。それを何回も繰り返し、ある程度の時間大丈夫だと確信を持てたので、その時にやっとキリエ様に報告したんです」
なんて人なのだろうとミーヤは思った。
「ですが、何回も薬を試していたから、私の体は耐性ができている可能性があります。それで、最終確認のために、まだ飲んだことがない人で試さないとと言ったら、キリエ様がでは自分がとおっしゃったのです」
これもまた驚く話だった。
「私は誰か他の人はいないのかと言ったんですが、キリエ様が絶対に他の人に知られるわけにはいかない、だから自分で試しなさいと。それでそういうことになったのです」
キリエもフウも、やはり並の神経ではない。あらためてそう思える話であった。
「薬の安全性については自信がありました。そこまでの薬を作れと言われていましたし。ただ、どのぐらいの量を飲めばいいのか正確に知りたい。それでキリエ様のお力をお借りして、丸一日の間眠るならばこれぐらいの量と定められたのです」
だからこそ、キリエも自信を持ってシャンタルに飲ませることができたのだろう。
「水みたいだったよね」
それまでずっと黙っていたシャンタルが口を開いた。
「もしも苦かったら、飲むの嫌だったかも知れないなあ」
もう一人、その薬が本当に必要であった本人が、まるで子供に飲ませる風邪薬ででもあったかのようにそう言うと、
「ええ、おいしくできてよかったです」
とフウがうれしそうに答えた。
「まったく……」
さすがのトーヤもその先の言葉が出てこない。
だがトーヤもその薬のことは気になっていた。一体誰がどうして作った薬なのかと。やっとその謎が解けたものの、まさかそんな経緯で作られた薬だとは思ってもみなかった。
ベルがトーヤとフウの話についていけなくて、おろおろとアランに聞く。
「俺もなんとなく分かりません」
アランが手短に2人に説明をする。
キリエは神官長と一緒にシャンタルの葬送に参列しているから、その時の状況をよく知っている。寒い季節の夕方のこと、だから神官長が体調を崩して熱を出したと聞いても不思議には思わなかったし、その後で多少様子がおかしくても、まだ体調が悪いのだろうぐらいにしか思わなかっただろう。
「他のやつらも一緒だ。けど、フウさんはあの薬のことがあったもんで、もしかしたら何かあったんじゃないかとか、他の人は考えないようなことを考えちまって、それだけでは済ませられなかった。なんとなく引っかかったまま残った、そういうことじゃないかな」
「ええ、そういう感じで構いませんよ」
フウもごく普通の感じでそう答えた。
「それまでの神官長なら、そんな面倒なことが終わったらホッとしてよかったよかったと思っていたでしょうに、なんだかビクビクしてるように思いました」
「ってことは、その頃あんたは神官長とちょこちょこ会う役目だったってことか?」
「いえ、お会いすることはほとんどなかったです。ただ、あちらこちらから話が集まってくるもので、それを聞いて色々と考えて分かることが多いのですよ」
「そんなに誰も彼もがあんたにそんな話をしにくるのか?」
「いえ、全く」
フウが即答し、皆がそうだろうなとなんとなく納得する。
「じゃあ、どうやってそんな話を集めたんだ」
「あちらから集まってくるんですよ。不思議なことに、皆さん、私が植物の一部だとでも思っていらっしゃるようで、いても気にせずに色んな話をなさるんですよね」
「いや、なんとなく分かる」
「俺も」
その言葉にトーヤとアランが思わず笑うが、
「なんとなくひっかかる言い方ですが、まあいいでしょう」
フウはいたって真面目にそう答える。
「とにかく、ずっと気にかかっていました、あの薬のことが。だから、もしかしたら神官長の変化がそのせいではないか、心の中でそう思っていたようです。それで余計に神官長の動きに神経を向けるようになっていたのでしょうね」
「あの薬はその時に一回作っただけだったのか?」
「いえ、何度も作りました」
「え?」
「私が試し、そしてキリエ様が試してみて無害である、そして効能もあると分かってから、毎旬のように新しく作り直していました」
フウ以外の全員が硬い表情で目を合わせる。
「あの、そんな危険な薬をどうしてそんなに何度も?」
「薬の効き目がどのぐらい保つかが分からなかったからです」
「ああ、なるほど」
アランが質問に答えたフウの言葉に納得する。
「せっかく作っても、いざ使う時に効き目がなかったら困りますからね」
「そんなに短い時間で効き目がなくなるような薬だったのか?」
「分かりません。そう何度も使える薬でもありませんし。だからこそ、絶対に効き目がなくならないように、こまめに作り直していたんです」
「あんたかキリエさんが、時間が経っても効き目があるかどうか、もう一度使ってみるって方法は取らなかったのか」
「私は何度も使ってみましたよ」
「へ! 何度もって、なんで!」
ベルが思わずそんな声を上げる。
「それはやはり、どのぐらい飲めばどのぐらいの効き目があるのか、そんなことをきちんと知りたかったからですよ。最初は少しだけ飲んで短時間で目を覚ましてました。それを何回も繰り返し、ある程度の時間大丈夫だと確信を持てたので、その時にやっとキリエ様に報告したんです」
なんて人なのだろうとミーヤは思った。
「ですが、何回も薬を試していたから、私の体は耐性ができている可能性があります。それで、最終確認のために、まだ飲んだことがない人で試さないとと言ったら、キリエ様がでは自分がとおっしゃったのです」
これもまた驚く話だった。
「私は誰か他の人はいないのかと言ったんですが、キリエ様が絶対に他の人に知られるわけにはいかない、だから自分で試しなさいと。それでそういうことになったのです」
キリエもフウも、やはり並の神経ではない。あらためてそう思える話であった。
「薬の安全性については自信がありました。そこまでの薬を作れと言われていましたし。ただ、どのぐらいの量を飲めばいいのか正確に知りたい。それでキリエ様のお力をお借りして、丸一日の間眠るならばこれぐらいの量と定められたのです」
だからこそ、キリエも自信を持ってシャンタルに飲ませることができたのだろう。
「水みたいだったよね」
それまでずっと黙っていたシャンタルが口を開いた。
「もしも苦かったら、飲むの嫌だったかも知れないなあ」
もう一人、その薬が本当に必要であった本人が、まるで子供に飲ませる風邪薬ででもあったかのようにそう言うと、
「ええ、おいしくできてよかったです」
とフウがうれしそうに答えた。
「まったく……」
さすがのトーヤもその先の言葉が出てこない。
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