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第六章 第三節
4 伝達
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「あの、ルギ隊長」
妻の父が、おずおずと話しかけてくる。
「なんでしょうか」
「それで、此度はどのような話で娘をお呼びになられたのでしょうか」
「さあ、それはこちらでは。ただ、船に乗る前に一度お会いしたい、そうおっしゃって、ディレン船長から望みを叶えられないだろうかとお話があっただけですので」
「そうですか……」
王宮衛士を罷免されたということで、一度は離縁をさせたが、それほどの人脈を持つ婿を、今さら惜しくなっているようだ。なんとか復縁させられぬものか、妻の父は心の中でそんなことを考えているのだろう。
やがて、話を終えてトイボアと妻、正確には元妻が待っている者たちのいる部屋へ入ってきた。
「この度はお時間をいただきありがとうございました」
トイボアが元舅に丁寧に頭を下げる。
「い、いや、こちらこそ」
妻の父も急いでできるだけトイボアよりも深く頭を下げた。
「もうよろしいのですか?」
「はい」
「では」
ルギに言葉少なに促され、トイボアはルギとダルとディレンと共に退室していった。
「一体何を話したんだ?」
妻の父は気持ちを抑えるようにして妻に聞いた。
「いえ、特に何も。手紙にあったようなことです。迷惑をかけた、自分は船に乗る。できればその前に一度息子に会いたいが、どうだろうと」
「そ、それでどう答えたのだ」
「はい、私が勝手にお答えすることはできない。もしもお父様の許可をいただけたらと」
父はその答えに少し希望の糸がつながった気がした。
「そのことは帰ってゆっくり話をしよう」
そうして娘と知人と共に帰っていった。
ダルは、ここに来たついでだからとリルの見舞いへ行くと言って3人と別れた。
「ふうん、そんなことになってるの」
リルに新しい取次役のこと、フウが味方になってくれたが、それがちょっとばかり変わった形であることなどを伝えた。
「はあ、私も身重でなかったら、もっと面白いことになってただろうになあ」
「面白いことって」
ダルはリルの言い方にそう言ったが、真実そう思っているのではないと分かっている。
「でも今はこの子が一番大切だもの」
「そうだね」
ほら、そうだった。そう思う。
「他の子たちはここと家とマルトの実家、それからカースを行き来して、なんとか乗り切ってるって聞いたけど、早く落ち着きたいわね、全部のことに」
「そうだね」
「何よりも気になるのはマユリアのご婚姻よね」
リルもトーヤの言っていたマユリアが女王になるという話に混乱しているようだ。
「とにかく、私は今、ここから動けないから、何かあったら誰かに来てもらうしかないもの」
「うん、できるだけ早く連絡はするよ」
「お願いね」
「分かった。それじゃ体を大事にね」
その後ダルは今度はカースへ帰って実家の家族にこのことを伝えるつもりだ。
だが、久しぶりに父親が帰ってきたということで、子どもたちに離してもらえず、なかなか話をしに実家に行くことができない。もちろんダルだって、子どもたちともっともっと一緒に遊んでやりたい。だが、下手に切り出したら、家族全員が付いてきそうなのだ。それでダルは実家の家族全員と話すのではなく、誰かを選んで話すことにした。
「ちょっと大きいじいちゃんと大事な話があるんだ、付いてきてもいいけど、話す間ばあちゃんたちと遊んでてよ」
そう言って、家族で実家に行き、村長に事態がどうなっているかを伝えた。
「そうか、そんなことに。触れ紙は回ってきたが、どういうことかと思っておった」
「うん、それだけ状況は厳しいってことなんだろうね」
「そうか」
「かあちゃんたちにはじいちゃんから伝えておいてよ」
「分かった、それはまかせておけ。おまえはせっかく帰ってきたんだから、ちょっと家でゆっくりせい」
「うん、そうさせてもらうよ」
ダルは家族と一緒に自分の家に帰り、その後で村長がトーヤたちと秘密を共にする家族にダルから聞いたことを伝えた。
「お気の毒だね」
ディナがぽつりと言い、ナスタも黙って頷く。
「トーヤたちは、できればマユリアを助けたいと思っておるようじゃ。そしてキリエ様は、心ではそう思いながらも、マユリアのお決めになったことには従わねばならん。その板挟みになって、フウ様とおっしゃる信頼のできる侍女の方に、トーヤたちを頼むとおっしゃったようだ」
ほぼ正確に情報は家族に伝わった。
こうして、トーヤたちの今の状況は、一人を除いて必要な人間全員に伝わった。
残りはトイボアにつきっきりだったディレンだけだが、こちらも今日のことで一息ついたようだ。
「そうか。じゃあ、奥さんはおまえと一緒にこの国を出たい、そう言ってたんだな」
「はい」
トイボアの妻は、たとえトイボアが王宮衛士ではなくなっても、そのまま夫婦でいたいと望んでいた。だが、無理やりに実家に連れ戻されたらしい。
「それで、一度息子に会わせてほしい、私がそう言っていると言って子どもを連れ出し、こちらで保護していただきたいと言ってるのですが」
「おう、もちろん引き受けた」
これでもうトイボアをずっと見張っている必要はなくなった。後は、うまく家族3人を逃がす算段をつけるだけだ。それは今の状況と一緒になんとかできそうに思える。
妻の父が、おずおずと話しかけてくる。
「なんでしょうか」
「それで、此度はどのような話で娘をお呼びになられたのでしょうか」
「さあ、それはこちらでは。ただ、船に乗る前に一度お会いしたい、そうおっしゃって、ディレン船長から望みを叶えられないだろうかとお話があっただけですので」
「そうですか……」
王宮衛士を罷免されたということで、一度は離縁をさせたが、それほどの人脈を持つ婿を、今さら惜しくなっているようだ。なんとか復縁させられぬものか、妻の父は心の中でそんなことを考えているのだろう。
やがて、話を終えてトイボアと妻、正確には元妻が待っている者たちのいる部屋へ入ってきた。
「この度はお時間をいただきありがとうございました」
トイボアが元舅に丁寧に頭を下げる。
「い、いや、こちらこそ」
妻の父も急いでできるだけトイボアよりも深く頭を下げた。
「もうよろしいのですか?」
「はい」
「では」
ルギに言葉少なに促され、トイボアはルギとダルとディレンと共に退室していった。
「一体何を話したんだ?」
妻の父は気持ちを抑えるようにして妻に聞いた。
「いえ、特に何も。手紙にあったようなことです。迷惑をかけた、自分は船に乗る。できればその前に一度息子に会いたいが、どうだろうと」
「そ、それでどう答えたのだ」
「はい、私が勝手にお答えすることはできない。もしもお父様の許可をいただけたらと」
父はその答えに少し希望の糸がつながった気がした。
「そのことは帰ってゆっくり話をしよう」
そうして娘と知人と共に帰っていった。
ダルは、ここに来たついでだからとリルの見舞いへ行くと言って3人と別れた。
「ふうん、そんなことになってるの」
リルに新しい取次役のこと、フウが味方になってくれたが、それがちょっとばかり変わった形であることなどを伝えた。
「はあ、私も身重でなかったら、もっと面白いことになってただろうになあ」
「面白いことって」
ダルはリルの言い方にそう言ったが、真実そう思っているのではないと分かっている。
「でも今はこの子が一番大切だもの」
「そうだね」
ほら、そうだった。そう思う。
「他の子たちはここと家とマルトの実家、それからカースを行き来して、なんとか乗り切ってるって聞いたけど、早く落ち着きたいわね、全部のことに」
「そうだね」
「何よりも気になるのはマユリアのご婚姻よね」
リルもトーヤの言っていたマユリアが女王になるという話に混乱しているようだ。
「とにかく、私は今、ここから動けないから、何かあったら誰かに来てもらうしかないもの」
「うん、できるだけ早く連絡はするよ」
「お願いね」
「分かった。それじゃ体を大事にね」
その後ダルは今度はカースへ帰って実家の家族にこのことを伝えるつもりだ。
だが、久しぶりに父親が帰ってきたということで、子どもたちに離してもらえず、なかなか話をしに実家に行くことができない。もちろんダルだって、子どもたちともっともっと一緒に遊んでやりたい。だが、下手に切り出したら、家族全員が付いてきそうなのだ。それでダルは実家の家族全員と話すのではなく、誰かを選んで話すことにした。
「ちょっと大きいじいちゃんと大事な話があるんだ、付いてきてもいいけど、話す間ばあちゃんたちと遊んでてよ」
そう言って、家族で実家に行き、村長に事態がどうなっているかを伝えた。
「そうか、そんなことに。触れ紙は回ってきたが、どういうことかと思っておった」
「うん、それだけ状況は厳しいってことなんだろうね」
「そうか」
「かあちゃんたちにはじいちゃんから伝えておいてよ」
「分かった、それはまかせておけ。おまえはせっかく帰ってきたんだから、ちょっと家でゆっくりせい」
「うん、そうさせてもらうよ」
ダルは家族と一緒に自分の家に帰り、その後で村長がトーヤたちと秘密を共にする家族にダルから聞いたことを伝えた。
「お気の毒だね」
ディナがぽつりと言い、ナスタも黙って頷く。
「トーヤたちは、できればマユリアを助けたいと思っておるようじゃ。そしてキリエ様は、心ではそう思いながらも、マユリアのお決めになったことには従わねばならん。その板挟みになって、フウ様とおっしゃる信頼のできる侍女の方に、トーヤたちを頼むとおっしゃったようだ」
ほぼ正確に情報は家族に伝わった。
こうして、トーヤたちの今の状況は、一人を除いて必要な人間全員に伝わった。
残りはトイボアにつきっきりだったディレンだけだが、こちらも今日のことで一息ついたようだ。
「そうか。じゃあ、奥さんはおまえと一緒にこの国を出たい、そう言ってたんだな」
「はい」
トイボアの妻は、たとえトイボアが王宮衛士ではなくなっても、そのまま夫婦でいたいと望んでいた。だが、無理やりに実家に連れ戻されたらしい。
「それで、一度息子に会わせてほしい、私がそう言っていると言って子どもを連れ出し、こちらで保護していただきたいと言ってるのですが」
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