黒のシャンタル 第一話 「過去への旅」<完結>

小椋夏己

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第二章 第三節 進むべき道を

 2 最後の託宣

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「ありがとうございます、私も救われます……」

 キリエはそう言うと一つ大きく息を吸い、ゆっくりと立ち上がった。

「それではあの質問に対する返事をお伝えします」

 立ち上がったキリエはもういつもの侍女頭であった。
 表情を見せぬ宮の最高権力者、その切り替えの速さにもう一度トーヤは感心した。

「質問はあのひつぎがどうしたものか、でしたね?」
「はい、間違いございません」

 ミーヤが答える。

「あれは、先代シャンタル、当代マユリアの最後の託宣で作ったものです」
「え?」
「なんだって?」

 トーヤもミーヤもそれだけ言うと後に続く言葉が浮かばなかった。

「あれは当代がお生まれになって間もなくのことでした。当代マユリア、先代シャンタルがあれを作るようにと申されました。そうして作られ、本日まで置いておかれたものです」

 ということは、あの棺、まるでフェイのために作られたかのようなあの棺はもう10年も前に作られていたことになる。

「それ、間違いないのか?」
「ございません。私もその時たまたま先代マユリアと共に先代シャンタルのおそばにおり、直接この耳でお聞きしましたので」

 トーヤは何をどう判断すればいいのか少し考え、またキリエに聞いた。

「その時、先代は、マユリアはなんて言ったんだ?できるだけそのまま教えてもらえないか?」
「正確に、ということですか?」
「ああ」

 キリエは少し考えていたが、

「いいでしょう。私が覚えている限り正確にお伝えします」

 そう言った。

 キリエが言うには、ある時所用で呼ばれてシャンタルの部屋に行き、先代マユリアからその内容を聞いていたところ、先代シャンタル、当代のマユリアがいきなりこう言ったらしい。

「棺を、子供用の棺を2つ作ってください」

 と。

「子供用の棺を2つ作れって?」
「そうです。その後、先代からその棺のもっとこまかい条件をいくつかお聞きしました」

 1つは白で表面に青い小鳥の意匠いしょうほどこすこと

「それがフェイの棺となりました」
「もう1つは?」
「それは……」

 少しキリエは言いよどみ、考えてこう口にした。

「そちらは今回のこととは関係ないこと、託宣の内容にも関わりますので詳しくは申せません」

 トーヤはもっと詳しく知りたいとは思ったものの、おそらくキリエは一度話さないと言った限りは話すことはないように思えて諦めた。
 それに、もしかするとその棺はトーヤたちとは全く関係のない、もっと先の時代の何かの時のためかも知れない。だとすると聞く必要もないはずだ。気にはなるが今、ここで無理に聞き出そうとしても何も得るものはないと思われる。

「それを使えとマユリアが指示したのか」
「いいえ、おっしゃったのはシャンタルです」

 この言葉にまたトーヤが驚く。

「待てよ、マユリアが作らせた棺のことを思い出して使えって言い出したんじゃねえのか?」
「違います、シャンタルがマユリアにあれを使うようにとおっしゃったのです。託宣のその後についてマユリアが何かを個人的におっしゃることはございません、託宣について何かを指示できるのはシャンタルだけです」

 トーヤは言葉を失った。
 そんなことがあるのか?
 あれを持ってきた侍女たちは「マユリアからこれを使うように言われた」と言ったが、それはさらに上のシャンタルからの指示だったのか。
 
 あの不可思議ふかしぎな存在、自分の意思があるのかどうかも分からないシャンタルがあれを……
 自分が生まれてすぐ、そんなことがあることすら知るすべもないシャンタルがなぜあれを……

「なんだよそれ……」

 アランが思わずつぶやく。

「そう思うだろ?」
「思うだろ、そりゃ」

 そう言ってから、

「なあ、シャンタルはその時のこと覚えてるのか?」

 そう聞いた。

「うん、覚えてるよ」

 いつものようにシャンタルがさも当然というようにさらっと答えた。

「おまえ、覚えてるのか?」

 今度は珍しくトーヤが驚いた顔をして言う。

「覚えてる」
「トーヤ、聞いたことなかったのかよ?」
「ない……」

 思えば不思議なことだが聞いたことがなかった、聞こうと思ったこともなかった。
 なぜだ?
 何を聞いてもほとんど覚えてない、知らない、と答えるシャンタルだから聞いたことがなくても不思議ではない。だが、こんな大きなこと、どうして今まで聞こうと思いもしなかったのか、それもまた不思議なことだった。
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