黒のシャンタル 第一話 「過去への旅」<完結>

小椋夏己

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第二章 第五節 もう一人のマユリア

12 今だけは

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 翌日、ミーヤはトーヤとダルに今日の予定を聞き、遠くに出かける用事はないと分かると早速ささやかなお祝いをすると決めた。

「今夜は少しだけごちそうとお菓子を準備してくださるようですから、楽しみにしておいてくださいね」

 そう言われてダルがわくわくそわそわしていた。

 だがトーヤが、

「そんじゃ、今日はちょっと王都に行ってくる」

 そう言い出す。

「え、こんな日に出かけるのか?」
「ちょっと調べたいことがあるからな」
「俺も行こうか?」
「いや、ちょっと1人で調べたい。ダルが邪魔だってわけじゃねえんだぜ?ただ、ちょっとな、まだはっきりしないことを調べるのに1人の方が動きやすいんだよ」
「分かった。俺もなんかやることないか?」
「そうだなあ……」

 少し考えて、

「ちょっと明日以降に遠出したいことがあるから今日は休んで英気えいきを養っといてくれ」

 冗談のようにそう言って1人で出かけていった。

 次代様が生まれるまでに何日かかるかは分からないがどうやら一月ひとつき以内と言われている。
 時間があるようでない。のんびりしてはいられない。
 ミーヤにはキリエから何も言伝ことづてがないことを確認している。今日のうちに済ませてしまいたい。

 トーヤはカースの村長から聞いたことの裏付けを取りたいと思っていた。そのために1人で王都へ調べに出たのだ。ダルを連れて行くわけにはいかない。
 村長の話を聞いてから、色々と考えている時にふと気付いてしまったことがあった。それを確かめずにはいられなかった。

 村長に聞いた場所は割とすぐに分かった。そして尋ね人がすでにそこにはいないことも分かった。
 尋ねた場所にはもう既に新しい住人が腰を降ろして数年になるらしい。

 トーヤはいくつかのピースを頭の中で組み立ててみた。
 もちろん推測でしかないことではあるが、あまりにもピッタリと当てはまるので思わず背筋に冷たいものが走る。

 恐ろしいのはそのピースが自分の周囲に集まっていることだ。
 誰が自分に何をさせたいと言うのだろうか?

(これは、本当の本当に大変なことかも知れねえな……)

 れるのは証拠がないことだ。全部状況証拠でしかない。

(十年後、本当にこの国はどうなってるんだ……)

 何もかも今はどうしようもない。
 トーヤは今考えてもどうしようもない十年後のことはとりあえず心の隅にしまっておくことにした。

 今日の目的は一応果たせたが、まだ時間があったので王都をうろうろしてみることにした。
 封鎖と言っても見た目はあまり変わりがない。何回も繰り返されていることにみんな慣れているのかも知れない。

 適当に見て回り、適当な時間になったので宮へと戻る。

 出かける時にミーヤが、

「今夜はごちそうですからね、買い食いとかしてお腹をいっぱいにしないで下さいね?」

 と釘を刺してきたので何も食べずにいたために腹ペコだ。

 部屋に戻るとすでにお祝いの準備は整っていた。
 ダルとリルも一緒に4人でのささやかな誕生祝いだ。

 テーブルの上に並ぶのはトーヤが客殿にいた頃に並んでいたような、ささやかというには余りあるほどのごちそうであった。いつもトーヤがもっと減らしてくれと要望するもので、泣く泣くそれに応えてきていた料理人が腕の見せどころとばかりに技工ぎこうらせてくれた、見た目も美しいお祝いの料理とお菓子であった。

「よかった、ちょうど今支度したくが終わったところです。いい時間に帰ってきてくださいました」

 ミーヤがにこにこして珍しくほめられた。いつもは怒られてばかりなのに。

「こりゃまたすげえなあ、王様になったみたいだな」
「さあさあ、主役はここに座ってください」

 上座かみざに座らせようとするので、

「待てよ、あんたも主役じゃねえかよ」

 そう言うとダルが、

「え、ミーヤさんも誕生日なのかい?」
「俺が12月30日でミーヤは1月1日だそうだ」
「そりゃ主役だ、さあここ座って座って」

 そう言ってみんなの世話をしようとしていたミーヤをトーヤの隣に座らせる。

「今日は俺とリルさんで2人を接待せったいするよ。リルさんいいだろう?って、あ、リルさんもお誕生日だったりしないかな?」

 そう聞くと、

「いえ、私は夏の生まれなので」

 と、こちらもにこにこしながらトーヤとミーヤをもてなす側に回った。

 もてなすと言っても料理人が丹精たんせい込めて作ってくれたごちそうを取り分けて渡すぐらいのことではある。あとはひたすら4人で食べて笑って話すだけだ。

 リルがいるために「仕事」の話ができないのもよかった。
 屈託くったくのない楽しい話だけをする。

「こんなごちそうで祝われるなんてトーヤうらやましいなあ」
「ではダル様の時には私がお世話させていただきます」
「いやいやいや、そんなもったいない」
「ダル様のお誕生日はいつでしょうか?」
「俺は春だけど、いや、本当にいいって」

 リルが相変わらずダルをあがめるようにしダルが遠慮しまくる。
 その様子がおかしくてトーヤもミーヤも笑ってしまった。

 春、その時にはもうトーヤはこの国にいない、おそらく……

 トーヤもミーヤもそのことを知っている。
 十年後も一月ひとつき後も今はどこかにやっておく。
 今だけ、今だけは楽しい時を過ごしたい。
 2人ともそう思って笑って短い時を過ごした。
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