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第二章 第六節 奇跡
4 戻る場所
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その日はそのままシャンタルに着せる服のこと、子供を連れての旅に必要そうなもの、などの考えをまとめてみた。
「手形取るのに男の子ってことにしてもいいかもな。男の子の服を用意しとかねえと」
「ああ、いいかも。女の子だったら色々変な想像されるかも知れないしな」
「変なってなんだよ」
「俺、分かったことがあるんだよ」
「なんだよ」
「トーヤってほんっ、とおーに、女好きなんだって」
「おい、人聞きが悪いな。それにな、男できれいなお姉ちゃん嫌いなやつなんかいねえぜ?」
「俺だってきれいな人見たら憧れたりいいなと思ったりするけど、なーんかちょっと違うんだよ。シャンタル、大丈夫かな……」
「おいおい、ガキなんか興味ねえからな?俺が好きなのはそれなりに上手に熟れたお姉さんたちだ」
「はあ、そういうとこ……」
ダルがため息をつく。
「まあ、そういうの、相手が見てなんとなく分かったらそれこそ人さらいに思われかねねえからな。男の子にしとくのはいいかと思った」
「おまえ、言うようになったな……」
「俺が言わないで誰が言うんだよ」
もう一度ため息をつく。
「はあ、本当に大丈夫なのかなあ、トーヤ1人で……」
まさか、ダルにこんな心配されるようになるとは……
「ほんっと言うようになったよな……そんじゃさ、いっそおまえも一緒に来るか?」
「え!」
「いや、俺1人で心配だってのなら来るしかねえんじゃねえの?」
「え……」
「一生行ってるわけじゃなし、用事が終わってすぐ戻ればいいじゃねえか。どうだ?」
ダルは、少しばかり心が動くようだったが、しばらく考えてきっぱりと言った。
「やめとくよ。俺、月虹兵になったばかりだし、まだそのお役目の一つも終えないうちにはとても……」
「そうか……」
トーヤもそんなことはあり得ないとは思っていた。だが、それでも、もしかしたら、そんな気持ちで口にしてしまったのだ。
「なあ、戻ってくるだろ?」
「え?」
「次にトーヤが戻ってきてさ、その時に俺、もしも何か一つこれってことやってたりしたら、その時は考えてみるよ」
「次って」
「トーヤが今回の仕事を無事に済ませてさ、ここに戻ってくる時のことだよ」
「戻って……」
「そうだよ、戻ってくるだろ?」
「戻ってって、おまえ……」
トーヤはどう返事をしていいか分からなかった。
「俺さ、トーヤは行ったらもう行ったまま戻ってこねえんじゃねえかなと思ってた。だから、あの時、初めて洞窟に行った時、もうこれで二度と会えないのかもと思うともうさびしくてさ、行ってほしくねえって思ったんだよ。でもな、なんかそれ、違うって分かった」
「…………」
「さっき、リルさんの親父さんが若い時に行ったって聞いたのと、トーヤが一生行ってるわけじゃない、すぐ戻ればいいって言ったの聞いて、ああ、そうなんだなと思ったんだよ」
すっきりした顔をしてダルが明るく言う。
「もちろん遠いさ、さっきトーヤが言ったように海を渡るだけで一月かかるんだろ?でもさ、行って戻れるんだよ。それで商船が行ったり来たりしてるんだよ、その程度の距離なんだよ」
「その程度って、おまえ」
「その程度だよ。だってさ、トーヤが来てもう四月だぜ?季節が一つ変わったんだぜ?海を渡るのに一月、砂漠だっけ?陸の海岸みたいの、そこが一月?だったら往復できて戻ってきてるじゃねえかよ」
「おまえ……」
「な、だからな、戻ってくるだろ?」
「戻ってくる……」
考えたことがなかった、ここから出てまたここに戻るなど。一度出ていったらもう二度と戻らないものだとトーヤ自身も思っていた。
「ここがトーヤの戻る場所じゃねえか。と言っても、宮には戻れるかどうか分かんねえけどさ、その頃。何しろお姉さん大好きで用もなく入れるには危ないからなあ」
そう言って屈託なく笑った後、ダルは付け加えた。
「だからな、カースに戻ってこいよ。いつでもトーヤが戻れるようにしとくし、フェイちゃんのカップも待ってるからさ」
「おまえな……」
あまりにダルが軽く言うので、それでいいように思ってしまうではないか。
「な、戻ってきてくれよな?」
「戻るって、俺、元々ここの人間じゃねえのに……」
「でももう俺の友達でさ、カースの人間はみんなトーヤのこと好きだし、じいちゃんなんか孫だって思ってるぜ?だからトーヤの戻る場所なんだよ」
故郷の町にはもう母親もミーヤもいない。そもそも小さい頃から戦場を飛び回っていたトーヤだ、戻るのはミーヤと、その姉妹分たちの元であってあの町だという意識も薄い。
だからもう戻る場所などないと思っていた。だからあの海に飛び出したのだ。
「な、約束してくれよ。俺、待ってるしさ」
「分かった、戻るよ」
「うん、約束な」
「うん、分かった……いつになるか分かんねえけどな」
「なるたけ早く頼むぜ?じいちゃんになる前にな?」
「分かったよ」
トーヤに戻る場所ができた。
「手形取るのに男の子ってことにしてもいいかもな。男の子の服を用意しとかねえと」
「ああ、いいかも。女の子だったら色々変な想像されるかも知れないしな」
「変なってなんだよ」
「俺、分かったことがあるんだよ」
「なんだよ」
「トーヤってほんっ、とおーに、女好きなんだって」
「おい、人聞きが悪いな。それにな、男できれいなお姉ちゃん嫌いなやつなんかいねえぜ?」
「俺だってきれいな人見たら憧れたりいいなと思ったりするけど、なーんかちょっと違うんだよ。シャンタル、大丈夫かな……」
「おいおい、ガキなんか興味ねえからな?俺が好きなのはそれなりに上手に熟れたお姉さんたちだ」
「はあ、そういうとこ……」
ダルがため息をつく。
「まあ、そういうの、相手が見てなんとなく分かったらそれこそ人さらいに思われかねねえからな。男の子にしとくのはいいかと思った」
「おまえ、言うようになったな……」
「俺が言わないで誰が言うんだよ」
もう一度ため息をつく。
「はあ、本当に大丈夫なのかなあ、トーヤ1人で……」
まさか、ダルにこんな心配されるようになるとは……
「ほんっと言うようになったよな……そんじゃさ、いっそおまえも一緒に来るか?」
「え!」
「いや、俺1人で心配だってのなら来るしかねえんじゃねえの?」
「え……」
「一生行ってるわけじゃなし、用事が終わってすぐ戻ればいいじゃねえか。どうだ?」
ダルは、少しばかり心が動くようだったが、しばらく考えてきっぱりと言った。
「やめとくよ。俺、月虹兵になったばかりだし、まだそのお役目の一つも終えないうちにはとても……」
「そうか……」
トーヤもそんなことはあり得ないとは思っていた。だが、それでも、もしかしたら、そんな気持ちで口にしてしまったのだ。
「なあ、戻ってくるだろ?」
「え?」
「次にトーヤが戻ってきてさ、その時に俺、もしも何か一つこれってことやってたりしたら、その時は考えてみるよ」
「次って」
「トーヤが今回の仕事を無事に済ませてさ、ここに戻ってくる時のことだよ」
「戻って……」
「そうだよ、戻ってくるだろ?」
「戻ってって、おまえ……」
トーヤはどう返事をしていいか分からなかった。
「俺さ、トーヤは行ったらもう行ったまま戻ってこねえんじゃねえかなと思ってた。だから、あの時、初めて洞窟に行った時、もうこれで二度と会えないのかもと思うともうさびしくてさ、行ってほしくねえって思ったんだよ。でもな、なんかそれ、違うって分かった」
「…………」
「さっき、リルさんの親父さんが若い時に行ったって聞いたのと、トーヤが一生行ってるわけじゃない、すぐ戻ればいいって言ったの聞いて、ああ、そうなんだなと思ったんだよ」
すっきりした顔をしてダルが明るく言う。
「もちろん遠いさ、さっきトーヤが言ったように海を渡るだけで一月かかるんだろ?でもさ、行って戻れるんだよ。それで商船が行ったり来たりしてるんだよ、その程度の距離なんだよ」
「その程度って、おまえ」
「その程度だよ。だってさ、トーヤが来てもう四月だぜ?季節が一つ変わったんだぜ?海を渡るのに一月、砂漠だっけ?陸の海岸みたいの、そこが一月?だったら往復できて戻ってきてるじゃねえかよ」
「おまえ……」
「な、だからな、戻ってくるだろ?」
「戻ってくる……」
考えたことがなかった、ここから出てまたここに戻るなど。一度出ていったらもう二度と戻らないものだとトーヤ自身も思っていた。
「ここがトーヤの戻る場所じゃねえか。と言っても、宮には戻れるかどうか分かんねえけどさ、その頃。何しろお姉さん大好きで用もなく入れるには危ないからなあ」
そう言って屈託なく笑った後、ダルは付け加えた。
「だからな、カースに戻ってこいよ。いつでもトーヤが戻れるようにしとくし、フェイちゃんのカップも待ってるからさ」
「おまえな……」
あまりにダルが軽く言うので、それでいいように思ってしまうではないか。
「な、戻ってきてくれよな?」
「戻るって、俺、元々ここの人間じゃねえのに……」
「でももう俺の友達でさ、カースの人間はみんなトーヤのこと好きだし、じいちゃんなんか孫だって思ってるぜ?だからトーヤの戻る場所なんだよ」
故郷の町にはもう母親もミーヤもいない。そもそも小さい頃から戦場を飛び回っていたトーヤだ、戻るのはミーヤと、その姉妹分たちの元であってあの町だという意識も薄い。
だからもう戻る場所などないと思っていた。だからあの海に飛び出したのだ。
「な、約束してくれよ。俺、待ってるしさ」
「分かった、戻るよ」
「うん、約束な」
「うん、分かった……いつになるか分かんねえけどな」
「なるたけ早く頼むぜ?じいちゃんになる前にな?」
「分かったよ」
トーヤに戻る場所ができた。
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