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第二章 第六節 奇跡
12 沈黙
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これでもうほぼ準備は整った。
子供服(男物)もマントを含めて揃えてある。トーヤの旅支度も。
「子どもってのは何を与えておきゃ大人しいもんなのか、あっちこっちでガキを見て考えて適当に揃えたが、あいつは普通のガキじゃねえしなあ」
その点だけが不安であった。
普通の子供ではないどころか、マユリアやラーラ様を見ると普通のシャンタルともちょっと違うように思えるからだ。
それと、シャンタルを連れ出す算段はしなくてもいい、これも意味がわからない。だがとにかく、しなくていいと断言されてしまったものはどうしようもない。
「いざとなったら、俺が奥宮に行って抱えて出てくるしかねえだろうが……その場合はどうやって洞窟が見つからないようにあそこに連れて行くか、だな。もしくは、もう洞窟は捨てて捨て身で馬で走り抜けるか、だ」
考えてはみるがそれ以外にいい案も思いつかない。
カトッティにいい船が入っていればそっちに乗り込むという手もないことはないが、さすがに封鎖があっただけにそのような大きな船も入っていないらしい。
大体の考えとしてはなんとかキノスまで行き、そこから逃げ道を確保しておくために陸路を行きたい。できれば馬で目立たないように行きたいが、シャンタルの反応次第では馬車に閉じ込めておくことも必要かも知れない。どっちにしてキノスに行ってからのこと、様子を見てからのことになる。
「不確定要素てんこ盛りのままの船出かあ……」
そのあたりにはため息が出ないことはないが、何よりもトーヤの心には「約束」があり、それが支えとなってこの仕事を成功させてやるとの意気込みもできた。
トーヤがソファにもたれたまま、
「よし、さっと行ってさっと戻ってくるか。なあ」
そうミーヤに声をかける。
「ええ、そうですね」
ミーヤが微笑んで返事をしてくれる。
たったそれだけで、それだけのことで、トーヤは自分がなんでも成し遂げられるように思えた。
何も不安がないように思える。
世間ではシャンタルが慈悲の女神、そしてマユリアはその侍女の尊い女神、そうみんな思っているが、トーヤにとっての女神はミーヤであった。その女神が微笑んでくれている、待っていてくれる。失敗などあるはずがない。
「絶対戻ってくるんだからな、俺は」
「ええ」
何回も同じことを繰り返している。飽きもせず、本当に何回も。
と、誰かが扉を叩いた。
「ちょっといいか」
意外なことにルギであった。
「へえ、あんたが俺を尋ねてくるなんてな。手形ももうもらったし、ってことはあれか」
「では、私は……」
ミーヤが退室しようとしたら、
「いい、いてくれ」
ルギが留めた。
「はい?」
ミーヤが戸惑ったように言う。
「この間の話だ」
「あの俺が具合が悪くなった時の話だ」
ルギの言葉を聞いてミーヤに言う。
「マユリアに伺ってみた」
「なんだって?」
ルギは一つため息をつくとこう言った。
「言えないことのある時には沈黙するしかない、とおっしゃった」
「そうか、やはりな……」
思った通り「何か」はあったのだ。
「いっつも思うんだがな、なんてこの宮の人間はごまかすのが下手なんだよ。こんな返事したらありました、って言ってるのと同じじゃねえかよ」
「嘘はつけない方々だからな」
「にしても、な……一体何があったんだ」
「そこまでは分からん、が、おまえに言伝てくれと言われた」
「マユリアがか?」
「そうだ」
ルギがいつもの口調を崩さぬまま伝える。
「シャンタルに会っていただきたい」
「え!」
「え!」
トーヤとミーヤが同時に声を上げる。
「シャンタルに、おまえに慣れていただきたい、と」
「はあ?」
トーヤが素っ頓狂な声を出す。そのぐらい驚いたということだ。
「な、慣れるって……なんだよそりゃ」
「おっしゃる通りだ」
「いや、そりゃ、まあ言われてみりゃ話もしたことはねえけど、うーん……」
確かに必要だと言われてみて思い当たった。
なんだろう、自分の考えもない人形のように思っていて、その必要を感じなかったのだ。
「慣れるって、あいつが俺に?慣れるのか?」
「知らん」
「いや、そりゃあんたも知らんだろうが、慣れるのか?」
「そのためにお呼びなのだろう」
そう言ってからルギがミーヤに向き直る。
「ミーヤとダル、それからリルにも来るようにとのことだ」
「リルもか?」
「そうだ」
「リルにも話すつもりなのか?」
「分からん」
「うーん……」
「とにかく今からすぐに来るように、とのことだ」
マユリアがどういうつもりかは分からないが、とりあえず呼んでいるとのことでミーヤが隣室の2人を呼びに行く。
「え、わ、私?私もシャンタルからお声が、ですか?」
リルの声が震えている。
リルは侍女と言っても行儀見習いの立場である。お出まし以外でシャンタルにお目にかかれるのは宮に人生を捧げるために募集で選ばれた侍女だけである。そのあたりの区別はしっかりとあるのだ。
「お、俺も?」
ダルの声も同じように震えている。
「2人とも震えてる場合ではありませんよ、すぐにお支度を」
ミーヤが活を入れてやっと急いで動き出した。
子供服(男物)もマントを含めて揃えてある。トーヤの旅支度も。
「子どもってのは何を与えておきゃ大人しいもんなのか、あっちこっちでガキを見て考えて適当に揃えたが、あいつは普通のガキじゃねえしなあ」
その点だけが不安であった。
普通の子供ではないどころか、マユリアやラーラ様を見ると普通のシャンタルともちょっと違うように思えるからだ。
それと、シャンタルを連れ出す算段はしなくてもいい、これも意味がわからない。だがとにかく、しなくていいと断言されてしまったものはどうしようもない。
「いざとなったら、俺が奥宮に行って抱えて出てくるしかねえだろうが……その場合はどうやって洞窟が見つからないようにあそこに連れて行くか、だな。もしくは、もう洞窟は捨てて捨て身で馬で走り抜けるか、だ」
考えてはみるがそれ以外にいい案も思いつかない。
カトッティにいい船が入っていればそっちに乗り込むという手もないことはないが、さすがに封鎖があっただけにそのような大きな船も入っていないらしい。
大体の考えとしてはなんとかキノスまで行き、そこから逃げ道を確保しておくために陸路を行きたい。できれば馬で目立たないように行きたいが、シャンタルの反応次第では馬車に閉じ込めておくことも必要かも知れない。どっちにしてキノスに行ってからのこと、様子を見てからのことになる。
「不確定要素てんこ盛りのままの船出かあ……」
そのあたりにはため息が出ないことはないが、何よりもトーヤの心には「約束」があり、それが支えとなってこの仕事を成功させてやるとの意気込みもできた。
トーヤがソファにもたれたまま、
「よし、さっと行ってさっと戻ってくるか。なあ」
そうミーヤに声をかける。
「ええ、そうですね」
ミーヤが微笑んで返事をしてくれる。
たったそれだけで、それだけのことで、トーヤは自分がなんでも成し遂げられるように思えた。
何も不安がないように思える。
世間ではシャンタルが慈悲の女神、そしてマユリアはその侍女の尊い女神、そうみんな思っているが、トーヤにとっての女神はミーヤであった。その女神が微笑んでくれている、待っていてくれる。失敗などあるはずがない。
「絶対戻ってくるんだからな、俺は」
「ええ」
何回も同じことを繰り返している。飽きもせず、本当に何回も。
と、誰かが扉を叩いた。
「ちょっといいか」
意外なことにルギであった。
「へえ、あんたが俺を尋ねてくるなんてな。手形ももうもらったし、ってことはあれか」
「では、私は……」
ミーヤが退室しようとしたら、
「いい、いてくれ」
ルギが留めた。
「はい?」
ミーヤが戸惑ったように言う。
「この間の話だ」
「あの俺が具合が悪くなった時の話だ」
ルギの言葉を聞いてミーヤに言う。
「マユリアに伺ってみた」
「なんだって?」
ルギは一つため息をつくとこう言った。
「言えないことのある時には沈黙するしかない、とおっしゃった」
「そうか、やはりな……」
思った通り「何か」はあったのだ。
「いっつも思うんだがな、なんてこの宮の人間はごまかすのが下手なんだよ。こんな返事したらありました、って言ってるのと同じじゃねえかよ」
「嘘はつけない方々だからな」
「にしても、な……一体何があったんだ」
「そこまでは分からん、が、おまえに言伝てくれと言われた」
「マユリアがか?」
「そうだ」
ルギがいつもの口調を崩さぬまま伝える。
「シャンタルに会っていただきたい」
「え!」
「え!」
トーヤとミーヤが同時に声を上げる。
「シャンタルに、おまえに慣れていただきたい、と」
「はあ?」
トーヤが素っ頓狂な声を出す。そのぐらい驚いたということだ。
「な、慣れるって……なんだよそりゃ」
「おっしゃる通りだ」
「いや、そりゃ、まあ言われてみりゃ話もしたことはねえけど、うーん……」
確かに必要だと言われてみて思い当たった。
なんだろう、自分の考えもない人形のように思っていて、その必要を感じなかったのだ。
「慣れるって、あいつが俺に?慣れるのか?」
「知らん」
「いや、そりゃあんたも知らんだろうが、慣れるのか?」
「そのためにお呼びなのだろう」
そう言ってからルギがミーヤに向き直る。
「ミーヤとダル、それからリルにも来るようにとのことだ」
「リルもか?」
「そうだ」
「リルにも話すつもりなのか?」
「分からん」
「うーん……」
「とにかく今からすぐに来るように、とのことだ」
マユリアがどういうつもりかは分からないが、とりあえず呼んでいるとのことでミーヤが隣室の2人を呼びに行く。
「え、わ、私?私もシャンタルからお声が、ですか?」
リルの声が震えている。
リルは侍女と言っても行儀見習いの立場である。お出まし以外でシャンタルにお目にかかれるのは宮に人生を捧げるために募集で選ばれた侍女だけである。そのあたりの区別はしっかりとあるのだ。
「お、俺も?」
ダルの声も同じように震えている。
「2人とも震えてる場合ではありませんよ、すぐにお支度を」
ミーヤが活を入れてやっと急いで動き出した。
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