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第二章 第六節 奇跡
23 秘跡
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トーヤが部屋に戻ってくると、まだダルがトーヤの部屋にいた。
「おかえり」
「おう、ただいま」
何もなかったかのように、黙ってソファに座ったままのダルの隣に座る。
「おい、抱きついてきたらまた蹴るからな?」
冗談めいて言うが、ダルは黙ったままだ。
「あの……」
「なんだ?」
「あの、リルさん、どんな風だった?」
「いやあ~ありゃ困ったな」
「え、どんな風に!」
トーヤはニヤリと笑うと言った。
「ありゃいい子だよな~あんなの振るなんて男、そりゃもうアホとしか言いようがねえな、うん」
「え、なんだよそりゃ!」
「まあな、心配するこたねえ、うん」
トーヤが真面目な顔に戻って言う。
「だからな、ダルもそのままでいてやれ。おまえがおまえらしく幸せなのが、リルにも一番の幸せってこった」
「なんだかよく分かんねえよ」
「だろうな。だからダルはバカでアホだってんだよ」
「そう言われても」
「まあ、そういうダルだから俺も信用してるし親友だと思ってるんだけどな」
「トーヤあ~」
「だあっ! だからそれやめろってんだよ! なつくなって、こら!」
またげしげしと蹴るがダルは離れない。
「失礼します」
そう言ってミーヤが部屋に入ってきて、
「またですか……よく飽きませんね」
そう言って呆れる。
「だってトーヤがあ~」
「うぜえぇ!」
「本当に仲がいいですねえ」
呆れながらも笑ってそう言う。
「ダルさん」
「あ、は、はい」
「大丈夫ですよ、リル」
「え?」
「ええ、大丈夫です、もう」
「そ、そうなんですか?」
「はい」
「そ、そう、ならよかった……」
ダルがほっとしたようにしてトーヤから離れる。
「まあな、本当に賢い男なら、ああいうのが手に入ったらもう一生自分の生活も安泰、自分の家族まで安泰、そうやって自分の価値も上がったように考えてそっち選ぶんだろうけどな。ダルはバカだからな~自分が好きな子のことしか考えられねえし、アホだからな~そうやって出世してやろうって気にもなれねえからな」
そう言ってケラケラと笑う。
「だからな、だから、俺もそんなダルだからおまえのことが好きなんだよ。リルも、同じようにそうやって思ってたら、おまえとももっとうまくいったんだろうけどな。残念ながら、お嬢様ってのはそう簡単にそうは思えねえもんなんだよ。おまえもそれ分かってるから断ったんだろうし、本人もそう分かったみたいだからな」
トーヤの言葉にダルが真面目な顔で聞き入る。
「だけどな、もしもおまえが言ったように、リルがそのままのおまえ、月虹兵なんてかっこいい役職関係なしに、おまえのことが本当に好きだって言ってきたら、その時はもう一回考えてやってもいいじゃねえかとは思う」
「うん、分かったよ」
「その結果、やっぱりダルがアミちゃんを選んだとしても、その時はリルももっとすんなり納得してくれると思うぜ」
「うん」
「まあ、その後でアミちゃんに振られて、やっぱりリルにしときゃよかったー! って、泣きついてきても俺は知らんけどな」
またそう言ってケラケラと笑った。
「あ、あ、あるのかな、そんなこと……」
「だから知らねえって」
「あああああああ……」
ダルは自分が振られた時モードに入ってしまったようで、悲壮な顔で頭を抱える。
「あの」
ミーヤが遠慮そうにダルに言う。
「それで、リルがダルさんに話があるそうです。ダルさんのお部屋で待っていると」
「ええっ!」
ダルがトーヤをくるっと振り返った。
「ど、ど、ど、どうしよ……」
「いや、俺に言われても」
「どうしよ……トーヤ、ついてきてくれよ!」
「だめだろそりゃ」
「だ、だ、だめかな」
「だめだな、1人で戻ってゆっくり話してこい」
「うん、分かった……」
案外すんなりとダルは部屋へと戻っていった。
「大丈夫でしょうか……」
「大丈夫だろ、さっきのリルの様子だと」
「そうですよね」
あの後、リルがシャンタルの託宣を受けた後、さらに不思議なことがあった。
「リル、こちらにいらっしゃい」
マユリアに呼ばれて恐る恐る近づくと、シャンタルが両手をリルに差し伸べた。
何か丸いものをふわりと抱えるようにした手を頭上に置くような形だ。
その瞬間、少し離れていたトーヤとミーヤにもそれが分かった。
何か、温かいものがリルに降り注いだのだ。
「なんだよこれ……」
トーヤが息を呑んだ。
「シャンタルの慈悲です」
リルの表情が落ち着いたものになっていった。
「温かい……」
リルがそう言った。
「よかったですね、シャンタルのお心が届いて」
「はい……」
リルが深く頭を下げる。
顔を上げたリルは、すっかり元通りのリルであった。あの暗い影をまとわせたリルではない。
「なんだったんだろうな、あれは」
「シャンタルの慈悲だとおっしゃってましたね」
「ああ……」
あれがラーラ様が言っていた「本来なら進まぬ道」に進ませなかったということなのだろう、とおぼろに思った。
もしも、リルが感情のまま、父親に何かを頼んでダルが不幸になったとしたら、それはやはりリルの運命が変わったことでダルの運命も変わることになる。リルもダルも不幸になったかも知れない。
そういうことなんだろうな、となんとなく思った。
「おかえり」
「おう、ただいま」
何もなかったかのように、黙ってソファに座ったままのダルの隣に座る。
「おい、抱きついてきたらまた蹴るからな?」
冗談めいて言うが、ダルは黙ったままだ。
「あの……」
「なんだ?」
「あの、リルさん、どんな風だった?」
「いやあ~ありゃ困ったな」
「え、どんな風に!」
トーヤはニヤリと笑うと言った。
「ありゃいい子だよな~あんなの振るなんて男、そりゃもうアホとしか言いようがねえな、うん」
「え、なんだよそりゃ!」
「まあな、心配するこたねえ、うん」
トーヤが真面目な顔に戻って言う。
「だからな、ダルもそのままでいてやれ。おまえがおまえらしく幸せなのが、リルにも一番の幸せってこった」
「なんだかよく分かんねえよ」
「だろうな。だからダルはバカでアホだってんだよ」
「そう言われても」
「まあ、そういうダルだから俺も信用してるし親友だと思ってるんだけどな」
「トーヤあ~」
「だあっ! だからそれやめろってんだよ! なつくなって、こら!」
またげしげしと蹴るがダルは離れない。
「失礼します」
そう言ってミーヤが部屋に入ってきて、
「またですか……よく飽きませんね」
そう言って呆れる。
「だってトーヤがあ~」
「うぜえぇ!」
「本当に仲がいいですねえ」
呆れながらも笑ってそう言う。
「ダルさん」
「あ、は、はい」
「大丈夫ですよ、リル」
「え?」
「ええ、大丈夫です、もう」
「そ、そうなんですか?」
「はい」
「そ、そう、ならよかった……」
ダルがほっとしたようにしてトーヤから離れる。
「まあな、本当に賢い男なら、ああいうのが手に入ったらもう一生自分の生活も安泰、自分の家族まで安泰、そうやって自分の価値も上がったように考えてそっち選ぶんだろうけどな。ダルはバカだからな~自分が好きな子のことしか考えられねえし、アホだからな~そうやって出世してやろうって気にもなれねえからな」
そう言ってケラケラと笑う。
「だからな、だから、俺もそんなダルだからおまえのことが好きなんだよ。リルも、同じようにそうやって思ってたら、おまえとももっとうまくいったんだろうけどな。残念ながら、お嬢様ってのはそう簡単にそうは思えねえもんなんだよ。おまえもそれ分かってるから断ったんだろうし、本人もそう分かったみたいだからな」
トーヤの言葉にダルが真面目な顔で聞き入る。
「だけどな、もしもおまえが言ったように、リルがそのままのおまえ、月虹兵なんてかっこいい役職関係なしに、おまえのことが本当に好きだって言ってきたら、その時はもう一回考えてやってもいいじゃねえかとは思う」
「うん、分かったよ」
「その結果、やっぱりダルがアミちゃんを選んだとしても、その時はリルももっとすんなり納得してくれると思うぜ」
「うん」
「まあ、その後でアミちゃんに振られて、やっぱりリルにしときゃよかったー! って、泣きついてきても俺は知らんけどな」
またそう言ってケラケラと笑った。
「あ、あ、あるのかな、そんなこと……」
「だから知らねえって」
「あああああああ……」
ダルは自分が振られた時モードに入ってしまったようで、悲壮な顔で頭を抱える。
「あの」
ミーヤが遠慮そうにダルに言う。
「それで、リルがダルさんに話があるそうです。ダルさんのお部屋で待っていると」
「ええっ!」
ダルがトーヤをくるっと振り返った。
「ど、ど、ど、どうしよ……」
「いや、俺に言われても」
「どうしよ……トーヤ、ついてきてくれよ!」
「だめだろそりゃ」
「だ、だ、だめかな」
「だめだな、1人で戻ってゆっくり話してこい」
「うん、分かった……」
案外すんなりとダルは部屋へと戻っていった。
「大丈夫でしょうか……」
「大丈夫だろ、さっきのリルの様子だと」
「そうですよね」
あの後、リルがシャンタルの託宣を受けた後、さらに不思議なことがあった。
「リル、こちらにいらっしゃい」
マユリアに呼ばれて恐る恐る近づくと、シャンタルが両手をリルに差し伸べた。
何か丸いものをふわりと抱えるようにした手を頭上に置くような形だ。
その瞬間、少し離れていたトーヤとミーヤにもそれが分かった。
何か、温かいものがリルに降り注いだのだ。
「なんだよこれ……」
トーヤが息を呑んだ。
「シャンタルの慈悲です」
リルの表情が落ち着いたものになっていった。
「温かい……」
リルがそう言った。
「よかったですね、シャンタルのお心が届いて」
「はい……」
リルが深く頭を下げる。
顔を上げたリルは、すっかり元通りのリルであった。あの暗い影をまとわせたリルではない。
「なんだったんだろうな、あれは」
「シャンタルの慈悲だとおっしゃってましたね」
「ああ……」
あれがラーラ様が言っていた「本来なら進まぬ道」に進ませなかったということなのだろう、とおぼろに思った。
もしも、リルが感情のまま、父親に何かを頼んでダルが不幸になったとしたら、それはやはりリルの運命が変わったことでダルの運命も変わることになる。リルもダルも不幸になったかも知れない。
そういうことなんだろうな、となんとなく思った。
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