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第三章 第二節 目覚め
5 反復
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「シャンタル……」
思わずキリエが床に膝をつく。力が抜けて座ってしまったという形だ。
シャンタルの目が床に崩れ落ちたキリエを追う。
「きりえ?」
もう一度聞いた。
「はい……キリエでございますよ、シャンタル……」
絞り出すようにそう口にする。
「きりえ?」
「はい」
「きりえ?」
「はい」
確かめるように主従が何度か繰り返した。
キリエが椅子を支えにするようにずり上がり椅子に座った。
そのまま寝台に手を伸ばしシャンタルの手を握る。
「はい、キリエでございます……どうなさいました?」
優しい顔でシャンタルに聞く。
だがシャンタルは目の前の人物がキリエだと知るとそれだけで満足したようだ。
いつもの無表情とは少し違う、さきほど食事をした後と同じように、見ようによっては少しうれしそうに見えるような、満足したような顔で正面を向くと黙ってしまった。
「シャンタル、もう一度お声を聞かせてはくださいませんか?」
手を握ったままキリエが言うと、ちらりとそちらを振り向いてキリエを見たが、またそのまま正面に戻ってしまった。
「私も同じことでした」
「そうなのですか」
それでも、シャンタルをじっと見て、その手を握り続けるキリエ。
「またきっと呼んでくださいますよね?」
シャンタルに呼びかけるが反応はない。
そっとシャンタルの手を放す。特に反応はない。
「何がありました?」
小さな声でミーヤに聞く。
「それが……」
さきほどの食事係の侍女とのやり取りを、今ここでするのは少しまずいように思った。
「では、シャンタルがお休みになりましたら」
キリエは理由がありそうだと理解するとすぐにそう言った。
「はい」
ミーヤが目に意味を込めて小さく頷く。
「そう言えば、そろそろお昼の時間でございますよ。召し上がれますかねえ……さきほど食事を終えておやすみになってらっしゃいましたし、いかがいたしましょう?」
そう言ってキリエは立ち上がり。
「とりあえず応接へ参りましょうか」
寝台に座ったままのシャンタルの背に手を回すとシャンタルがキリエを見上げた。
「こちらをお向き下さい、寝台から降りますよ。ミーヤ手伝ってください」
「はい」
2人で朝そうしたように、シャンタルを寝台の横に立たせる。シャンタルは着替えをする為に敷かれた敷物の上に素足で立つ。
「着替えは今はよろしいですね、部屋着のままで。尋ねてくる者もございませんし、そのままで応接へ参りましょう」
そう言うと、
「きがえ?」
そう聞いたのでキリエとミーヤが驚いたようにシャンタルの顔を見る。
「いえ、今はもう部屋着のままでよろしいですよ」
「へやぎ?」
「え、ええ、そうです」
「へやぎ?」
「はい」
耳に残る言葉をそうして何度か繰り返し確かめているようだ。
「今、シャンタルがお召しになっていらっしゃるこの服のことでございます」
ミーヤがシャンタルの服を持ち、軽くゆする。シャンタルの視線が下を向き、自分の服を見る。
ミーヤが持っているあたりに手を伸ばし、自分でつまんでゆすり、
「へやぎ?」
と、また聞いてきた。
「はい、シャンタルの部屋着でいらっしゃいます」
「へやぎ……」
「はい」
そうして一つ一つ記憶を確かめるのか、覚え直しているのか、納得するまで繰り返す。
「さあ、靴、でございますよ」
ミーヤはどうすればいいのか少し理解でき、あえて丁寧には言わず、その物を表す単語を口にしながら柔らかい上靴を差し出す。
「くつ?」
「はい」
「くつ?」
「はい」
「くつ……」
理解したように黙ったところで履かせる。
「さあ、こちらへ」
手を引いて寝室から出る。
それまで薄暗かった寝室から灯りがたくさん灯された応接に出た途端、「あ」と声を上げて目を伏せた。
「眩しかったですかね。でもお慣れいただかないと……」
目をつぶったままのシャンタルが、少しするとおそるおそるという風に少しだけ目を開けた。
何度か薄目を開けては閉じを繰り返し、段々と明るさに慣れたようだ。
「さあ、こちらへ……」
まだパチパチと目を開けたり閉じたりしているシャンタルを導き、食卓へと座らせる。
これは何?と聞きたそうなシャンタルに、
「これは、机、ですよ」
ミーヤが言う。
「つくえ?」
「はい」
「つくえ?」
「はい」
「つくえ……」
そう言うと珍しそうに机の表面を撫でる。
目で見て、耳で「机」という名を聞いて、そして触って感触を覚えているようだ。
そうしてるうちに食事係の侍女が2人、ワゴンを押して持って入ってきた。
「失礼いたします……」
そう言ったのはさきほどシャンタルに暴言を吐いた侍女だ。少し顔色が悪い。
もう一人の侍女は事情を知らぬようで、普通にワゴンを押して食卓に近付く。
シャンタルがキリエの方を見上げた。キリエがその意味を分かったように言う。
「シャンタル、こちらが食事係のセレンと」と、先程の侍女を指差し、もう一人を「モナでございますよ」
と、紹介すると、
「せれん?」
と、シャンタルが聞き返した。
セレンと呼ばれた例の侍女が小さく「ひっ」と声を上げて後ずさった。
モナもキリエに紹介されて驚いたようではあるが、自然に跪いて頭を下げた。
なんだろう、そんなはずはないのにシャンタルが同僚の名を呼んだような気がする……
思わずキリエが床に膝をつく。力が抜けて座ってしまったという形だ。
シャンタルの目が床に崩れ落ちたキリエを追う。
「きりえ?」
もう一度聞いた。
「はい……キリエでございますよ、シャンタル……」
絞り出すようにそう口にする。
「きりえ?」
「はい」
「きりえ?」
「はい」
確かめるように主従が何度か繰り返した。
キリエが椅子を支えにするようにずり上がり椅子に座った。
そのまま寝台に手を伸ばしシャンタルの手を握る。
「はい、キリエでございます……どうなさいました?」
優しい顔でシャンタルに聞く。
だがシャンタルは目の前の人物がキリエだと知るとそれだけで満足したようだ。
いつもの無表情とは少し違う、さきほど食事をした後と同じように、見ようによっては少しうれしそうに見えるような、満足したような顔で正面を向くと黙ってしまった。
「シャンタル、もう一度お声を聞かせてはくださいませんか?」
手を握ったままキリエが言うと、ちらりとそちらを振り向いてキリエを見たが、またそのまま正面に戻ってしまった。
「私も同じことでした」
「そうなのですか」
それでも、シャンタルをじっと見て、その手を握り続けるキリエ。
「またきっと呼んでくださいますよね?」
シャンタルに呼びかけるが反応はない。
そっとシャンタルの手を放す。特に反応はない。
「何がありました?」
小さな声でミーヤに聞く。
「それが……」
さきほどの食事係の侍女とのやり取りを、今ここでするのは少しまずいように思った。
「では、シャンタルがお休みになりましたら」
キリエは理由がありそうだと理解するとすぐにそう言った。
「はい」
ミーヤが目に意味を込めて小さく頷く。
「そう言えば、そろそろお昼の時間でございますよ。召し上がれますかねえ……さきほど食事を終えておやすみになってらっしゃいましたし、いかがいたしましょう?」
そう言ってキリエは立ち上がり。
「とりあえず応接へ参りましょうか」
寝台に座ったままのシャンタルの背に手を回すとシャンタルがキリエを見上げた。
「こちらをお向き下さい、寝台から降りますよ。ミーヤ手伝ってください」
「はい」
2人で朝そうしたように、シャンタルを寝台の横に立たせる。シャンタルは着替えをする為に敷かれた敷物の上に素足で立つ。
「着替えは今はよろしいですね、部屋着のままで。尋ねてくる者もございませんし、そのままで応接へ参りましょう」
そう言うと、
「きがえ?」
そう聞いたのでキリエとミーヤが驚いたようにシャンタルの顔を見る。
「いえ、今はもう部屋着のままでよろしいですよ」
「へやぎ?」
「え、ええ、そうです」
「へやぎ?」
「はい」
耳に残る言葉をそうして何度か繰り返し確かめているようだ。
「今、シャンタルがお召しになっていらっしゃるこの服のことでございます」
ミーヤがシャンタルの服を持ち、軽くゆする。シャンタルの視線が下を向き、自分の服を見る。
ミーヤが持っているあたりに手を伸ばし、自分でつまんでゆすり、
「へやぎ?」
と、また聞いてきた。
「はい、シャンタルの部屋着でいらっしゃいます」
「へやぎ……」
「はい」
そうして一つ一つ記憶を確かめるのか、覚え直しているのか、納得するまで繰り返す。
「さあ、靴、でございますよ」
ミーヤはどうすればいいのか少し理解でき、あえて丁寧には言わず、その物を表す単語を口にしながら柔らかい上靴を差し出す。
「くつ?」
「はい」
「くつ?」
「はい」
「くつ……」
理解したように黙ったところで履かせる。
「さあ、こちらへ」
手を引いて寝室から出る。
それまで薄暗かった寝室から灯りがたくさん灯された応接に出た途端、「あ」と声を上げて目を伏せた。
「眩しかったですかね。でもお慣れいただかないと……」
目をつぶったままのシャンタルが、少しするとおそるおそるという風に少しだけ目を開けた。
何度か薄目を開けては閉じを繰り返し、段々と明るさに慣れたようだ。
「さあ、こちらへ……」
まだパチパチと目を開けたり閉じたりしているシャンタルを導き、食卓へと座らせる。
これは何?と聞きたそうなシャンタルに、
「これは、机、ですよ」
ミーヤが言う。
「つくえ?」
「はい」
「つくえ?」
「はい」
「つくえ……」
そう言うと珍しそうに机の表面を撫でる。
目で見て、耳で「机」という名を聞いて、そして触って感触を覚えているようだ。
そうしてるうちに食事係の侍女が2人、ワゴンを押して持って入ってきた。
「失礼いたします……」
そう言ったのはさきほどシャンタルに暴言を吐いた侍女だ。少し顔色が悪い。
もう一人の侍女は事情を知らぬようで、普通にワゴンを押して食卓に近付く。
シャンタルがキリエの方を見上げた。キリエがその意味を分かったように言う。
「シャンタル、こちらが食事係のセレンと」と、先程の侍女を指差し、もう一人を「モナでございますよ」
と、紹介すると、
「せれん?」
と、シャンタルが聞き返した。
セレンと呼ばれた例の侍女が小さく「ひっ」と声を上げて後ずさった。
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