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第三章 第三節 広がる世界
21 連綿と
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リルがシャンタルの話し相手として私室へ来た日の夜、キリエが部屋へ戻ってきたのはもうかなり遅い時間であった。
「それほどにご成長になられたのですか」
「はい」
リルと話をした後、シャンタルは一層話し方がしっかりとした。子ども子どもした話し方から、大人とも普通に会話を交わせるぐらいに変化を見せた。
キリエとミーヤは一から赤ん坊に物を教えるようにして話をしていたのでどうしても幼子に対するような物言いになっていたように思う。
リルはその途中経過を知らないのでごく普通に丁寧に話をしていた。そうして気付けばシャンタルの話し方も、子どもらしさを残しながらも一気に大人びた話し方になっていた。
「もうすっかりご年齢と等しい、いえ、それ以上にご成長になられたような気がいたします」
「そうですか……」
キリエが黙り込んだ。
「明日で13日目です、残りは8日と当日を残すのみ……」
「はい……」
いよいよ覚悟を決めねばならない時が来たのだろうか。
「できるだけ早く最後のお役目について話せるよう、明日はまずシャンタルのことをお話していきましょう」
翌朝、13日目の朝からゆっくりとシャンタルに話を始める。
「今朝はキリエとミーヤが何か話をしてくれるのかしら?」
そう可愛らしく尋ねるシャンタル。これから話さねばならぬことを思うと2人は胸苦しさを感じるが、それでも話さねばならない。
「はい、今朝はシャンタルのお話をして差し上げようと思います」
キリエがそう言い、にっこりと優しい笑顔を浮かべる。
ミーヤに聞いていた通り、シャンタルの話し方は少しこましゃくれた少女そのもの、幼さも残しながら大人びた物言いになっているのにキリエは驚いた。
「なんでしょう、随分と大人びられて……キリエは驚きました」
正直にそう言うと、
「あら、そうかしら?」
少し肩を持ち上げながら首を傾けてクスリと笑って見せる。まるでマユリアのような仕草、昨日までの幼さより艶やかさを感じる。
「リルとお話なさったのがよかったのでしょうか」
「リルのお話は面白かったわ、まだまだ世界には知らぬことがあるのだと分かりました。またお話したいものです」
昨日の話し方とは全く違う。
「はい、それはまた機会がございましたら。今はシャンタルのお話です」
「そうでしたね」
そう言ってまたにっこりと笑う姿はもう子どもではなく少女そのものである。
「シャンタルは、十年でお役目を次の方、次代様にお譲りになりマユリアをお継ぎになられます」
「そう言ってましたね」
「はい。そしてマユリアにおなりになった方はまた十年を経て人の世に戻られます」
「それも聞きました」
「シャンタルの前には代々シャンタルでいらっしゃった方がおられます。先代のマユリア、先々代のラーラ様、そしてキリエはその3代前の方からあなた様まで6代にお仕えいたしております」
「長いですね」
「幼い頃から五十年以上宮におりますので、気付けばそうなっておりました」
キリエは自分が誰に話をしているのかふと分からぬような気がしてきた。これではまるでマユリアにお話申し上げているような……だが目の前に座るのは銀の髪、褐色の肌を持つ「少女」である。つい先日までお人形のようだった「黒のシャンタル」に間違いはない。
「ラーラ様の一つ前の代のシャンタルはさる貴族のご令嬢でした。マユリアの座を降りられた後はご実家に戻られ、40歳になられた今もご実家の離宮でお過ごしとお聞きしております」
ミーヤも初めて聞く話であった。シャンタルの出自、その後については基本的に秘密とされているからだ。
「そのさらに一つ前の先代、この方は少し離れた村のご出身で、村に戻られた後に同じ村の方とご結婚をなさったそうですが、その後の詳しい話はお聞きしておりません。お元気でいらっしゃったら50歳におなりのはずです。そのさらにご先代はご存命であれば今年60歳におなりのはずですが、遠い町のご出身で、その町にお戻りになったと伺った後は存じ上げておりません。その前のお方についてはキリエもお聞きしたことがございませんので、どうなさっているのは分かりません」
ミーヤは代々のシャンタルが実際に存在していたこと、人にお戻りになった後も続けてその人生があるのだということを初めて知ったような気がした。そんなことは頭では分かっていたはずなのに、実際にどんな方だったかを聞いて初めて、現実にいらっしゃるのだということに思い当たった気がする。
「次代様が御誕生になられたらシャンタルは内なる女神シャンタルをお譲りになられた後、今度はマユリアの内より女神マユリアをお受け取りになられます。そうしてシャンタルとマユリアの交代となります」
「そうなの」
「はい。そしてマユリアは御誕生の折に親御様からいただいたお名前、『真名』をお受け取りになられ、人としての名前をお知りになることで人に戻られます」
「ではラーラ様は『真名』がラーラ、だったということですか?」
「はい、その通りです」
全てを知るような「黒のシャンタル」はやはり自分のこと、連綿と続くシャンタルの歴史についてはほぼご存知ないようであった。
「それほどにご成長になられたのですか」
「はい」
リルと話をした後、シャンタルは一層話し方がしっかりとした。子ども子どもした話し方から、大人とも普通に会話を交わせるぐらいに変化を見せた。
キリエとミーヤは一から赤ん坊に物を教えるようにして話をしていたのでどうしても幼子に対するような物言いになっていたように思う。
リルはその途中経過を知らないのでごく普通に丁寧に話をしていた。そうして気付けばシャンタルの話し方も、子どもらしさを残しながらも一気に大人びた話し方になっていた。
「もうすっかりご年齢と等しい、いえ、それ以上にご成長になられたような気がいたします」
「そうですか……」
キリエが黙り込んだ。
「明日で13日目です、残りは8日と当日を残すのみ……」
「はい……」
いよいよ覚悟を決めねばならない時が来たのだろうか。
「できるだけ早く最後のお役目について話せるよう、明日はまずシャンタルのことをお話していきましょう」
翌朝、13日目の朝からゆっくりとシャンタルに話を始める。
「今朝はキリエとミーヤが何か話をしてくれるのかしら?」
そう可愛らしく尋ねるシャンタル。これから話さねばならぬことを思うと2人は胸苦しさを感じるが、それでも話さねばならない。
「はい、今朝はシャンタルのお話をして差し上げようと思います」
キリエがそう言い、にっこりと優しい笑顔を浮かべる。
ミーヤに聞いていた通り、シャンタルの話し方は少しこましゃくれた少女そのもの、幼さも残しながら大人びた物言いになっているのにキリエは驚いた。
「なんでしょう、随分と大人びられて……キリエは驚きました」
正直にそう言うと、
「あら、そうかしら?」
少し肩を持ち上げながら首を傾けてクスリと笑って見せる。まるでマユリアのような仕草、昨日までの幼さより艶やかさを感じる。
「リルとお話なさったのがよかったのでしょうか」
「リルのお話は面白かったわ、まだまだ世界には知らぬことがあるのだと分かりました。またお話したいものです」
昨日の話し方とは全く違う。
「はい、それはまた機会がございましたら。今はシャンタルのお話です」
「そうでしたね」
そう言ってまたにっこりと笑う姿はもう子どもではなく少女そのものである。
「シャンタルは、十年でお役目を次の方、次代様にお譲りになりマユリアをお継ぎになられます」
「そう言ってましたね」
「はい。そしてマユリアにおなりになった方はまた十年を経て人の世に戻られます」
「それも聞きました」
「シャンタルの前には代々シャンタルでいらっしゃった方がおられます。先代のマユリア、先々代のラーラ様、そしてキリエはその3代前の方からあなた様まで6代にお仕えいたしております」
「長いですね」
「幼い頃から五十年以上宮におりますので、気付けばそうなっておりました」
キリエは自分が誰に話をしているのかふと分からぬような気がしてきた。これではまるでマユリアにお話申し上げているような……だが目の前に座るのは銀の髪、褐色の肌を持つ「少女」である。つい先日までお人形のようだった「黒のシャンタル」に間違いはない。
「ラーラ様の一つ前の代のシャンタルはさる貴族のご令嬢でした。マユリアの座を降りられた後はご実家に戻られ、40歳になられた今もご実家の離宮でお過ごしとお聞きしております」
ミーヤも初めて聞く話であった。シャンタルの出自、その後については基本的に秘密とされているからだ。
「そのさらに一つ前の先代、この方は少し離れた村のご出身で、村に戻られた後に同じ村の方とご結婚をなさったそうですが、その後の詳しい話はお聞きしておりません。お元気でいらっしゃったら50歳におなりのはずです。そのさらにご先代はご存命であれば今年60歳におなりのはずですが、遠い町のご出身で、その町にお戻りになったと伺った後は存じ上げておりません。その前のお方についてはキリエもお聞きしたことがございませんので、どうなさっているのは分かりません」
ミーヤは代々のシャンタルが実際に存在していたこと、人にお戻りになった後も続けてその人生があるのだということを初めて知ったような気がした。そんなことは頭では分かっていたはずなのに、実際にどんな方だったかを聞いて初めて、現実にいらっしゃるのだということに思い当たった気がする。
「次代様が御誕生になられたらシャンタルは内なる女神シャンタルをお譲りになられた後、今度はマユリアの内より女神マユリアをお受け取りになられます。そうしてシャンタルとマユリアの交代となります」
「そうなの」
「はい。そしてマユリアは御誕生の折に親御様からいただいたお名前、『真名』をお受け取りになられ、人としての名前をお知りになることで人に戻られます」
「ではラーラ様は『真名』がラーラ、だったということですか?」
「はい、その通りです」
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