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第三章 第三節 広がる世界
20 語らい
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墓所はいつ来ても静かだ。
トーヤは1人静かにフェイの前に腰を下ろす。
季節は冬の盛り、風が吹きすさぶ墓所の地面にじっと座っているのはかなり寒い。だがトーヤは寒さも感じないように寒風の中で1人座っていた。
「おまえは怒るかもなあ、なんでそんなひどいこと言ったんですかって。怒るより泣くか、なあ?」
半分笑いながらフェイの名前が記された木札にそう話し掛ける。
トーヤがシャンタルに言ったあの言葉のことを言っているのだ。
(分かったな、お前が息絶えるまで、だ。よく覚えておけクソガキ……)
「あれはきついよなあ……自分でも分かってる」
フェイの木札に向かってうんうんと頷いてみせる。
「しかも相手はおまえと同じ10歳のちびだもんなあ、考えてみりゃよ」
いくら人形みたいでも生き神様でもそれが事実である。
「おまえ、あんなこと言われたらどうする?びびって泣くか?それとも泣きながら怒るか?なあ、フェイ……」
トーヤは自分でも驚くほどあの「覚悟」が揺らがないことに戸惑いを感じていた。
(黒のシャンタルが助け手に心を開かない時は、助け手はシャンタルを見捨てる)
この託宣に従う、そう決めたことを一切後悔していない。
「目の前であんなちびが死んでいくかも知れねえのによ、俺、全然ああ言ったこと、後悔してねえんだよなあ……いくら長年の戦場暮らしで心のどっかが死んでるったってなあ、これはちょっとねえよな」
ふうっと息をつく。
「けどな、だけどな、その反面、あいつが水に沈んでくところを考えると辛くて辛くてしょうがねえんだよ……助けてやりたいって思うんだよなあ。なあ、矛盾してるよな?見捨てるって言って、決めて、それ覚悟してるのに死なれるのが嫌だってな」
また息をつく。
「そんでな、あの時の夢な、共鳴とか言うらしいが、あれを思い出すとそりゃもう怖くてな。自分は海の中で溺れて死にかけたってのにそっちはそう怖くねえんだよ。だのにあの夢はそりゃもう怖い……あいつがああなるんだと思うとたまんねえ……思い出したくないと思うんだが、何度も何度も思い出すんだ。そんでそのうちその溺れてるのがおまえに変わってな……」
そこまで言って言葉を詰まらせた。
「おまえ、俺に助けてくれって言うんだよ……おかしいよなあ、もうおまえは溺れることなんてねえのにな……あれがおまえだって思ったら、今すぐにでも水に飛び込んで助けてやりたくなる」
トーヤの夢の中で銀の髪の子どもが黒い髪の子どもに変わり「トーヤ様助けて!」泣きながらそう言うのだ。トーヤはその子どもを追って深い深い水の中に潜っていく。
「同じ子どもだ、なあ……だったらすっきり助けてやった方がダルが言うように俺も楽だ。それに……たんまりいただけるしな」
そう言ってニヤリと笑ってみせる。
「だけどな、やっぱりそれって嫌だったんだよ。あいつはじっと座っててなーんもしなくて、それでもみんなが助けろ助けろって俺のことせっついて、任せろとは言いたくなかった。あいつ、自分が死ぬ話されてもぼーっと黙って見てるだけだしよ、そんなやつ助けたくないって思ったんだよ」
思い出すようにいらついた顔になる。
「だからあいつが自分で助かりたいと思わない限り俺は助けない。そう決めた。それに後悔はない。だけどな、同じぐらい、あいつが自分で助けてくれって言ってほしいと思ってる。やっぱりできるなら助けたいよな」
正直な気持ちをフェイには言えた。
「頼むから助けてくれって言ってくれよ、なあ……」
そう言って抱えた膝に頭をもたせて丸くなる。
「でもな、『お茶会』思い出すと無理なんじゃねえかとも思うんだよ。何しても何言ってもあいつ、なんも反応ねえし……ミーヤがおまえが抱っこされて俺に慣れたっつーから抱き上げてやってもあれだしな。どうすりゃいいってんだよ、なあ」
顔を上げてじっと木札を見るがもちろん返事はない。
「おまえ、どうやったらあいつ助けてやれると思う?なんかミーヤたちもがんばってるらしいんだが、俺は何してるか知らない、知らないようにしてる。あいつの、あいつらの運命だ、俺が手出しするもんじゃねえ。だから黙ってこうして待ってる、どうにかなるのかならないのか、期限まで待ってる……」
キリエには言ってある、シャンタルを助けるには理由がいること。
ダルには言ってある、シャンタルに自分の運命を選ばせたいのだと。
「俺も甘いなあ……そんなこと言わずにもっとかっこよくさ、なんて言うんだ、クール?冷たい顔で黙って見てりゃいいのに、やっぱりああしか言えねえんだよなあ……かっこ悪いよな……こんなグダグダでな。なんかいまいち決まらねえっつーか、なんつーか……」
膝を抱えてはあっと息を吐く。
「はあ……ああ、かっこよくなりてえよなあ……」
何を言ってるのか自分でも分からなくなってきた。
「まあ、あれだ。なんか分かんねえけどな、今の俺にできることは、もうあいつらのこと信じてこうしておまえに愚痴聞いてもらうことしかねえってことだ」
そう言うとフェイが笑ったような気がした。
トーヤは1人静かにフェイの前に腰を下ろす。
季節は冬の盛り、風が吹きすさぶ墓所の地面にじっと座っているのはかなり寒い。だがトーヤは寒さも感じないように寒風の中で1人座っていた。
「おまえは怒るかもなあ、なんでそんなひどいこと言ったんですかって。怒るより泣くか、なあ?」
半分笑いながらフェイの名前が記された木札にそう話し掛ける。
トーヤがシャンタルに言ったあの言葉のことを言っているのだ。
(分かったな、お前が息絶えるまで、だ。よく覚えておけクソガキ……)
「あれはきついよなあ……自分でも分かってる」
フェイの木札に向かってうんうんと頷いてみせる。
「しかも相手はおまえと同じ10歳のちびだもんなあ、考えてみりゃよ」
いくら人形みたいでも生き神様でもそれが事実である。
「おまえ、あんなこと言われたらどうする?びびって泣くか?それとも泣きながら怒るか?なあ、フェイ……」
トーヤは自分でも驚くほどあの「覚悟」が揺らがないことに戸惑いを感じていた。
(黒のシャンタルが助け手に心を開かない時は、助け手はシャンタルを見捨てる)
この託宣に従う、そう決めたことを一切後悔していない。
「目の前であんなちびが死んでいくかも知れねえのによ、俺、全然ああ言ったこと、後悔してねえんだよなあ……いくら長年の戦場暮らしで心のどっかが死んでるったってなあ、これはちょっとねえよな」
ふうっと息をつく。
「けどな、だけどな、その反面、あいつが水に沈んでくところを考えると辛くて辛くてしょうがねえんだよ……助けてやりたいって思うんだよなあ。なあ、矛盾してるよな?見捨てるって言って、決めて、それ覚悟してるのに死なれるのが嫌だってな」
また息をつく。
「そんでな、あの時の夢な、共鳴とか言うらしいが、あれを思い出すとそりゃもう怖くてな。自分は海の中で溺れて死にかけたってのにそっちはそう怖くねえんだよ。だのにあの夢はそりゃもう怖い……あいつがああなるんだと思うとたまんねえ……思い出したくないと思うんだが、何度も何度も思い出すんだ。そんでそのうちその溺れてるのがおまえに変わってな……」
そこまで言って言葉を詰まらせた。
「おまえ、俺に助けてくれって言うんだよ……おかしいよなあ、もうおまえは溺れることなんてねえのにな……あれがおまえだって思ったら、今すぐにでも水に飛び込んで助けてやりたくなる」
トーヤの夢の中で銀の髪の子どもが黒い髪の子どもに変わり「トーヤ様助けて!」泣きながらそう言うのだ。トーヤはその子どもを追って深い深い水の中に潜っていく。
「同じ子どもだ、なあ……だったらすっきり助けてやった方がダルが言うように俺も楽だ。それに……たんまりいただけるしな」
そう言ってニヤリと笑ってみせる。
「だけどな、やっぱりそれって嫌だったんだよ。あいつはじっと座っててなーんもしなくて、それでもみんなが助けろ助けろって俺のことせっついて、任せろとは言いたくなかった。あいつ、自分が死ぬ話されてもぼーっと黙って見てるだけだしよ、そんなやつ助けたくないって思ったんだよ」
思い出すようにいらついた顔になる。
「だからあいつが自分で助かりたいと思わない限り俺は助けない。そう決めた。それに後悔はない。だけどな、同じぐらい、あいつが自分で助けてくれって言ってほしいと思ってる。やっぱりできるなら助けたいよな」
正直な気持ちをフェイには言えた。
「頼むから助けてくれって言ってくれよ、なあ……」
そう言って抱えた膝に頭をもたせて丸くなる。
「でもな、『お茶会』思い出すと無理なんじゃねえかとも思うんだよ。何しても何言ってもあいつ、なんも反応ねえし……ミーヤがおまえが抱っこされて俺に慣れたっつーから抱き上げてやってもあれだしな。どうすりゃいいってんだよ、なあ」
顔を上げてじっと木札を見るがもちろん返事はない。
「おまえ、どうやったらあいつ助けてやれると思う?なんかミーヤたちもがんばってるらしいんだが、俺は何してるか知らない、知らないようにしてる。あいつの、あいつらの運命だ、俺が手出しするもんじゃねえ。だから黙ってこうして待ってる、どうにかなるのかならないのか、期限まで待ってる……」
キリエには言ってある、シャンタルを助けるには理由がいること。
ダルには言ってある、シャンタルに自分の運命を選ばせたいのだと。
「俺も甘いなあ……そんなこと言わずにもっとかっこよくさ、なんて言うんだ、クール?冷たい顔で黙って見てりゃいいのに、やっぱりああしか言えねえんだよなあ……かっこ悪いよな……こんなグダグダでな。なんかいまいち決まらねえっつーか、なんつーか……」
膝を抱えてはあっと息を吐く。
「はあ……ああ、かっこよくなりてえよなあ……」
何を言ってるのか自分でも分からなくなってきた。
「まあ、あれだ。なんか分かんねえけどな、今の俺にできることは、もうあいつらのこと信じてこうしておまえに愚痴聞いてもらうことしかねえってことだ」
そう言うとフェイが笑ったような気がした。
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