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第三章 第四節 死と恐怖
10 思い込み
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「違います」
ミーヤは急いで言う。
トーヤがシャンタルを水の中に引き込むなどあるはずがない。
「シャンタルは勘違いしていらっしゃいます。トーヤはそんなことをする人間ではありません」
「勘違い?」
「はい」
シャンタルがミーヤを見た。
「もしもトーヤがシャンタルの御手を握っていたとするならば、それは水の中から助けようとしてのことかと」
「どうして?」
「トーヤは『助け手』です、シャンタルをお助けするためにこの国に来た者、シャンタルがお呼びになられた者だからです」
「シャンタルが?」
「はい」
シャンタルが納得できないという顔をして考える。
「ううん、シャンタルを引っ張ったの……トーヤはシャンタルに怒鳴ったの、怖い人……」
「いいえ、違います」
なんとかトーヤに対する認識を改めていただこうと必死に言う。
「トーヤは勘違いされやすいのです。本当はとても優しく親しみやすい人です」
「でもトーヤはシャンタルを嫌いでしょ?そうでしょ?」
「そんなことはございません」
そう言うがトーヤの気持ちは聞いている。
(俺が一番胸糞悪い点だよ!生きようと思えば生きられるのにそうしようとしねえ!)
確かにトーヤはシャンタルを嫌っている部分がある。それは否定できない。
「トーヤはシャンタルを助けたいと思っています。それは間違いありません」
「でもシャンタルより他の子を助けたいって言ってた」
「それは……」
確かにそう言った。
(お前を助けるぐらいなら代わりにフェイを返してもらいたい、今からでもな)
ああ、どうして今になってシャンタルは思い出すのだろう。それも思い出してもらいたくはない部分ばかりを……
「いいえ、トーヤはシャンタルの味方です」
「ううん、トーヤはシャンタルを嫌い、シャンタルもトーヤが嫌い、怖い……」
そう言って頑なに口を引き結ぶと顔を背ける。
最悪の展開だ……固く閉じてしまった貝殻をどうやって開けばいいものか。
「ミーヤ、落ち着かれましたか?」
「キリエ様……」
ミーヤの表情を見てキリエが何かがあったと察する。
「どうしました?」
「それが……」
厚く包まれた布団の中でシャンタルが顔を背けているのがみえる。
「シャンタルが、トーヤに夢の中の水に引き込まれたとおっしゃって……」
「え?」
キリエが訳が分からぬという顔でシャンタルに尋ねる。
「シャンタル、それは確かにトーヤでしたか?」
シャンタルがキリエを振り向き言う。
「トーヤだったもの……」
それだけ言うとふいっとまた顔を背けた。
キリエがミーヤを見、ミーヤが弱く首を振る。
「とにかく、今はお疲れでしょう。少しお休みいただいてからにいたしましょう」
「はい……」
そのまましばらく様子を見ているとシャンタルがすうすうと寝息を立て始めた。キリエがミーヤを促して寝室の外へ出る。
「どういうことです」
「はい……」
ミーヤがキリエにシャンタルとのやり取りを説明する。
「なんということでしょう……」
「はい」
「それにあの話し方は」
「はい、前ほどではありませんが幼くお戻りのような」
話していて2人の意見が一致した。
おそらく、シャンタルの中身は今のあのご様子、思っているよりは幼い方なのだろう。あの話し方はマユリアの真似をしていたのではないか。
「ラーラ様とマユリアも自分と同じシャンタルであったことをお知りになり、うれしくなられたのでしょうね。それでよりマユリアらしくあろうとあのように」
「私もそうではないかと」
それ自体は構わない。大人になろうと大好きな方の真似をしてみようと思うこと、それ自体は微笑ましいことでもある。
だが、それに自分たちは目を眩まされた。驚くような速度で大人になられたと判断してしまった。失敗をしたのだ。
「シャンタルをマユリアのように錯覚してしまっていました……もっと大人におなりだと思って話を急ぎすぎた、ご理解いただけると思い込んで……」
「キリエ様……」
キリエにもミーヤにも何が正しいかなど分からない。
もしも、これが時間の制限のない中でのことならば、もっとじっくりと時間をかけ、ゆっくりとシャンタルの歩調に合せて少しずつ話もできた。だが時間がない。もう残りは今日を入れて9日、10日後にはシャンタルは黒い棺に入れられて湖に沈められるのだ。焦るなと言う方が無理である。
「トーヤが味方であるということ、シャンタルを助けることのできる唯一の存在であるということ、それをお知らせしなくてはなりません」
キリエが目を伏せてそう言う。
「ですが、それには一番お辛いことをお教えしなくてはなりません……」
本当にシャンタルを冷たい湖に沈めようとしているのは誰なのか、それをお伝えしなくてはならない。
「真実をお伝えするのは辛いことです。できれば言わずにすませればと思っていましたが、そうはいかないようですね……」
「キリエ様……」
シャンタルが愛し信頼している家族こそが自分を棺に入れて沈めようとしている、そう告げるしかなくなってしまった。
「それしかシャンタルが思い込んでいらっしゃることを覆す方法はないでしょう……」
ミーヤは急いで言う。
トーヤがシャンタルを水の中に引き込むなどあるはずがない。
「シャンタルは勘違いしていらっしゃいます。トーヤはそんなことをする人間ではありません」
「勘違い?」
「はい」
シャンタルがミーヤを見た。
「もしもトーヤがシャンタルの御手を握っていたとするならば、それは水の中から助けようとしてのことかと」
「どうして?」
「トーヤは『助け手』です、シャンタルをお助けするためにこの国に来た者、シャンタルがお呼びになられた者だからです」
「シャンタルが?」
「はい」
シャンタルが納得できないという顔をして考える。
「ううん、シャンタルを引っ張ったの……トーヤはシャンタルに怒鳴ったの、怖い人……」
「いいえ、違います」
なんとかトーヤに対する認識を改めていただこうと必死に言う。
「トーヤは勘違いされやすいのです。本当はとても優しく親しみやすい人です」
「でもトーヤはシャンタルを嫌いでしょ?そうでしょ?」
「そんなことはございません」
そう言うがトーヤの気持ちは聞いている。
(俺が一番胸糞悪い点だよ!生きようと思えば生きられるのにそうしようとしねえ!)
確かにトーヤはシャンタルを嫌っている部分がある。それは否定できない。
「トーヤはシャンタルを助けたいと思っています。それは間違いありません」
「でもシャンタルより他の子を助けたいって言ってた」
「それは……」
確かにそう言った。
(お前を助けるぐらいなら代わりにフェイを返してもらいたい、今からでもな)
ああ、どうして今になってシャンタルは思い出すのだろう。それも思い出してもらいたくはない部分ばかりを……
「いいえ、トーヤはシャンタルの味方です」
「ううん、トーヤはシャンタルを嫌い、シャンタルもトーヤが嫌い、怖い……」
そう言って頑なに口を引き結ぶと顔を背ける。
最悪の展開だ……固く閉じてしまった貝殻をどうやって開けばいいものか。
「ミーヤ、落ち着かれましたか?」
「キリエ様……」
ミーヤの表情を見てキリエが何かがあったと察する。
「どうしました?」
「それが……」
厚く包まれた布団の中でシャンタルが顔を背けているのがみえる。
「シャンタルが、トーヤに夢の中の水に引き込まれたとおっしゃって……」
「え?」
キリエが訳が分からぬという顔でシャンタルに尋ねる。
「シャンタル、それは確かにトーヤでしたか?」
シャンタルがキリエを振り向き言う。
「トーヤだったもの……」
それだけ言うとふいっとまた顔を背けた。
キリエがミーヤを見、ミーヤが弱く首を振る。
「とにかく、今はお疲れでしょう。少しお休みいただいてからにいたしましょう」
「はい……」
そのまましばらく様子を見ているとシャンタルがすうすうと寝息を立て始めた。キリエがミーヤを促して寝室の外へ出る。
「どういうことです」
「はい……」
ミーヤがキリエにシャンタルとのやり取りを説明する。
「なんということでしょう……」
「はい」
「それにあの話し方は」
「はい、前ほどではありませんが幼くお戻りのような」
話していて2人の意見が一致した。
おそらく、シャンタルの中身は今のあのご様子、思っているよりは幼い方なのだろう。あの話し方はマユリアの真似をしていたのではないか。
「ラーラ様とマユリアも自分と同じシャンタルであったことをお知りになり、うれしくなられたのでしょうね。それでよりマユリアらしくあろうとあのように」
「私もそうではないかと」
それ自体は構わない。大人になろうと大好きな方の真似をしてみようと思うこと、それ自体は微笑ましいことでもある。
だが、それに自分たちは目を眩まされた。驚くような速度で大人になられたと判断してしまった。失敗をしたのだ。
「シャンタルをマユリアのように錯覚してしまっていました……もっと大人におなりだと思って話を急ぎすぎた、ご理解いただけると思い込んで……」
「キリエ様……」
キリエにもミーヤにも何が正しいかなど分からない。
もしも、これが時間の制限のない中でのことならば、もっとじっくりと時間をかけ、ゆっくりとシャンタルの歩調に合せて少しずつ話もできた。だが時間がない。もう残りは今日を入れて9日、10日後にはシャンタルは黒い棺に入れられて湖に沈められるのだ。焦るなと言う方が無理である。
「トーヤが味方であるということ、シャンタルを助けることのできる唯一の存在であるということ、それをお知らせしなくてはなりません」
キリエが目を伏せてそう言う。
「ですが、それには一番お辛いことをお教えしなくてはなりません……」
本当にシャンタルを冷たい湖に沈めようとしているのは誰なのか、それをお伝えしなくてはならない。
「真実をお伝えするのは辛いことです。できれば言わずにすませればと思っていましたが、そうはいかないようですね……」
「キリエ様……」
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