287 / 353
第三章 第五節 神として
1 対面
しおりを挟む
ミーヤはそのままトーヤの手を引っ張ったままシャンタルの私室へとたどり着いた。
もうその頃にはよろよろと自分の体重で前へ倒れるように進み、倒れてしまわないようにトーヤがそれを引っ張っているという状態ではあったが、それでもようやくたどり着いた。
やっとここまで来た。
扉を開けると豪華絢爛な応接へとなだれ込む。
「おい、ここどこだよ。って、その前にあんた大丈夫か?」
トーヤにそう言われて、もう自分がフラフラの状態であったことにようやく気付いたようだ。
ミーヤのふらつく足が応接の毛足の長い絨毯に躓いた。
「おい!」
トーヤがミーヤの肩を掴んで引き止める。
「だ……大丈夫……すぐそこ、です」
はあはあと息を切らしながらその姿勢でまだトーヤをその先へと連れていこうとする。
「ちょっと落ち着けって、そんな引っ張らなくても付いていくからよ」
そう言ってもひたすら前へ前へと行こうとするので、仕方なくトーヤも歩調を合わせて付いて行く。
その先にある少し小さめの扉をやっとのように押し開き、
「ミーヤです、トーヤを連れてまいりました」
そう言いながらトーヤを引っ張り込むようにその場に膝をついて座り込んでしまった。
「おいおい、大丈夫かよ」
「だ、大丈夫です、それより、あちら」
肩で息をしながら震える右手を上げて指差す。
それまでミーヤしか見ていなかったトーヤが視線を上げると、どうやら寝室、そして指差す方向には寝台がある。その上には誰かが座っているような影が紗幕を透かして見えている。
「あれは……」
なんとなく誰かが分かった。
ミーヤを見るとコクンと頷く。
トーヤも頷き返して寝台に近付く。
黙ったまま紗幕を開くと、思った通りシャンタルが寝台の上に座っていた。
大事そうに何かを抱えてトーヤを見る。
「よう、久しぶりだな」
何事もないように声をかける。
シャンタルがその緑の瞳でじっとトーヤを見上げた。
「なんか、変わったな、おまえ……」
目の前にいる子どもがもう人形ではないことが分かった。
「なんだ、なんか言いたいことがあるんじゃねえのか?」
心の中の期待を出さぬように普通の状態で言う。
「トーヤ?」
「ああ」
黒い瞳と緑の瞳が合う。
本当の意味で初めての対面であった。
「トーヤ……」
「なんだ」
「シャンタルを、助けてくれる?」
トーヤがじっと子どもを見つめる。
「助けてほしいのか?」
シャンタルが男をじっと見つめる。
「シャンタルは水に沈みたくない、死にたくないの」
「そうか」
トーヤが寝台のすぐ横にある椅子にどさりと腰掛けた。
体を捻って寝台に両肘をつくと、今度は下からシャンタルの顔を見上げる。
「よく言えたな、いい子だ」
そう言って左手を伸ばし、シャンタルの銀色の髪をガシガシと掴んで撫でる。
「心配すんな、俺がおまえを助けてやる。たとえ水の底に沈んだとしても助けてやる、信じろ」
シャンタルはじっとトーヤの顔を見つめていたが、右手に何かを握ったまま両手でトーヤの首に抱きついてわんわん泣き出した。
「助けて、沈むのは嫌、怖い、死にたくないの」
「分かった、安心しろ、トーヤ様が来たらもう大丈夫だ」
そう言ってシャンタルの頭を左手で撫でながら右手で背中をとんとんと叩いた。
「もう大丈夫だ、おまえは大丈夫だ」
そういう声を聞きながら、シャンタルはミーヤと同じことを言っていると思って泣き続けた。
「トーヤ……」
やっと立ち上がったミーヤがそばに来て声をかける。
「驚いたな、一体どんな魔法を使ったんだ?人間に呪いをかけて人形にしちまうって話は聞いたことあるがその逆だ、呪いにかかった人形を人間に戻しちまった。あんた、すごいな」
そう言って笑う。
「シャンタルは最初からお人形ではいらっしゃいませんでしたよ。ただ、その方法を御存知なかっただけなのです。それを思い出してご自分の意思でトーヤに助けを求める、そうおっしゃったので迎えに行ったのです」
「そうか」
そう言ってまだ首に抱きついているシャンタルをトーヤもぐっと抱きしめる。
「もう大丈夫だからな。だからもう泣くな、おいちび、泣くなって、ほら」
そう言いながらもトーヤの腕にも力が入っているのをミーヤは見た。
キリエは寝室の扉を細く開け、中の様子を見てがっくりと力を抜く。
「ありがとうございます……」
そう一言だけつぶやいて息を一つ整えると、後ろを向いて応接に戻る。
リルとダルが困ったような顔をして黙って立っている。何が起こっているのかさっぱり理解できないからだ。
「リル、マユリアの元へ行き、もう大丈夫だとお伝えしてどこかの部屋で休ませてさしあげてください。明日お迎えに参りますのでそれまでゆっくりお休みくださいと」
「は、はい!」
聞くなりリルがうれしそうに部屋から駆け出していく。やっとあの部屋から、あの状態からマユリアを解放して差し上げられる、そのうれしさで一目散に駆けていく。
「ダル、カースに行ってラーラ様に宮にお戻りいただけるとお伝えして明日にでもお連れしてください。それから村長にルギの家がどこか聞き、そちらに行って同じ報告を。頼みましたよ月虹兵」
そう言って今までダルが見たことがない満面の笑みでキリエが笑った。
もうその頃にはよろよろと自分の体重で前へ倒れるように進み、倒れてしまわないようにトーヤがそれを引っ張っているという状態ではあったが、それでもようやくたどり着いた。
やっとここまで来た。
扉を開けると豪華絢爛な応接へとなだれ込む。
「おい、ここどこだよ。って、その前にあんた大丈夫か?」
トーヤにそう言われて、もう自分がフラフラの状態であったことにようやく気付いたようだ。
ミーヤのふらつく足が応接の毛足の長い絨毯に躓いた。
「おい!」
トーヤがミーヤの肩を掴んで引き止める。
「だ……大丈夫……すぐそこ、です」
はあはあと息を切らしながらその姿勢でまだトーヤをその先へと連れていこうとする。
「ちょっと落ち着けって、そんな引っ張らなくても付いていくからよ」
そう言ってもひたすら前へ前へと行こうとするので、仕方なくトーヤも歩調を合わせて付いて行く。
その先にある少し小さめの扉をやっとのように押し開き、
「ミーヤです、トーヤを連れてまいりました」
そう言いながらトーヤを引っ張り込むようにその場に膝をついて座り込んでしまった。
「おいおい、大丈夫かよ」
「だ、大丈夫です、それより、あちら」
肩で息をしながら震える右手を上げて指差す。
それまでミーヤしか見ていなかったトーヤが視線を上げると、どうやら寝室、そして指差す方向には寝台がある。その上には誰かが座っているような影が紗幕を透かして見えている。
「あれは……」
なんとなく誰かが分かった。
ミーヤを見るとコクンと頷く。
トーヤも頷き返して寝台に近付く。
黙ったまま紗幕を開くと、思った通りシャンタルが寝台の上に座っていた。
大事そうに何かを抱えてトーヤを見る。
「よう、久しぶりだな」
何事もないように声をかける。
シャンタルがその緑の瞳でじっとトーヤを見上げた。
「なんか、変わったな、おまえ……」
目の前にいる子どもがもう人形ではないことが分かった。
「なんだ、なんか言いたいことがあるんじゃねえのか?」
心の中の期待を出さぬように普通の状態で言う。
「トーヤ?」
「ああ」
黒い瞳と緑の瞳が合う。
本当の意味で初めての対面であった。
「トーヤ……」
「なんだ」
「シャンタルを、助けてくれる?」
トーヤがじっと子どもを見つめる。
「助けてほしいのか?」
シャンタルが男をじっと見つめる。
「シャンタルは水に沈みたくない、死にたくないの」
「そうか」
トーヤが寝台のすぐ横にある椅子にどさりと腰掛けた。
体を捻って寝台に両肘をつくと、今度は下からシャンタルの顔を見上げる。
「よく言えたな、いい子だ」
そう言って左手を伸ばし、シャンタルの銀色の髪をガシガシと掴んで撫でる。
「心配すんな、俺がおまえを助けてやる。たとえ水の底に沈んだとしても助けてやる、信じろ」
シャンタルはじっとトーヤの顔を見つめていたが、右手に何かを握ったまま両手でトーヤの首に抱きついてわんわん泣き出した。
「助けて、沈むのは嫌、怖い、死にたくないの」
「分かった、安心しろ、トーヤ様が来たらもう大丈夫だ」
そう言ってシャンタルの頭を左手で撫でながら右手で背中をとんとんと叩いた。
「もう大丈夫だ、おまえは大丈夫だ」
そういう声を聞きながら、シャンタルはミーヤと同じことを言っていると思って泣き続けた。
「トーヤ……」
やっと立ち上がったミーヤがそばに来て声をかける。
「驚いたな、一体どんな魔法を使ったんだ?人間に呪いをかけて人形にしちまうって話は聞いたことあるがその逆だ、呪いにかかった人形を人間に戻しちまった。あんた、すごいな」
そう言って笑う。
「シャンタルは最初からお人形ではいらっしゃいませんでしたよ。ただ、その方法を御存知なかっただけなのです。それを思い出してご自分の意思でトーヤに助けを求める、そうおっしゃったので迎えに行ったのです」
「そうか」
そう言ってまだ首に抱きついているシャンタルをトーヤもぐっと抱きしめる。
「もう大丈夫だからな。だからもう泣くな、おいちび、泣くなって、ほら」
そう言いながらもトーヤの腕にも力が入っているのをミーヤは見た。
キリエは寝室の扉を細く開け、中の様子を見てがっくりと力を抜く。
「ありがとうございます……」
そう一言だけつぶやいて息を一つ整えると、後ろを向いて応接に戻る。
リルとダルが困ったような顔をして黙って立っている。何が起こっているのかさっぱり理解できないからだ。
「リル、マユリアの元へ行き、もう大丈夫だとお伝えしてどこかの部屋で休ませてさしあげてください。明日お迎えに参りますのでそれまでゆっくりお休みくださいと」
「は、はい!」
聞くなりリルがうれしそうに部屋から駆け出していく。やっとあの部屋から、あの状態からマユリアを解放して差し上げられる、そのうれしさで一目散に駆けていく。
「ダル、カースに行ってラーラ様に宮にお戻りいただけるとお伝えして明日にでもお連れしてください。それから村長にルギの家がどこか聞き、そちらに行って同じ報告を。頼みましたよ月虹兵」
そう言って今までダルが見たことがない満面の笑みでキリエが笑った。
0
あなたにおすすめの小説
目立ちたくない召喚勇者の、スローライフな(こっそり)恩返し
gari@七柚カリン
ファンタジー
突然、異世界の村に転移したカズキは、村長父娘に保護された。
知らない間に脳内に寄生していた自称大魔法使いから、自分が召喚勇者であることを知るが、庶民の彼は勇者として生きるつもりはない。
正体がバレないようギルドには登録せず一般人としてひっそり生活を始めたら、固有スキル『蚊奪取』で得た規格外の能力と(この世界の)常識に疎い行動で逆に目立ったり、村長の娘と徐々に親しくなったり。
過疎化に悩む村の窮状を知り、恩返しのために温泉を開発すると見事大当たり! でも、その弊害で恩人父娘が窮地に陥ってしまう。
一方、とある国では、召喚した勇者(カズキ)の捜索が密かに行われていた。
父娘と村を守るため、武闘大会に出場しよう!
地域限定土産の開発や冒険者ギルドの誘致等々、召喚勇者の村おこしは、従魔や息子(?)や役人や騎士や冒険者も加わり順調に進んでいたが……
ついに、居場所が特定されて大ピンチ!!
どうする? どうなる? 召喚勇者。
※ 基本は主人公視点。時折、第三者視点が入ります。
女嫌いな辺境伯と歴史狂いの子爵令嬢の、どうしようもなくマイペースな婚姻
野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
恋愛
「友好と借金の形に、辺境伯家に嫁いでくれ」
行き遅れの私・マリーリーフに、突然婚約話が持ち上がった。
相手は女嫌いに社交嫌いな若き辺境伯。子爵令嬢の私にはまたとない好条件ではあるけど、相手の人柄が心配……と普通は思うでしょう。
でも私はそんな事より、嫁げば他に時間を取られて大好きな歴史研究に没頭できない事の方が問題!
それでも互いの領地の友好と借金の形として仕方がなく嫁いだ先で、「家の事には何も手出し・口出しするな」と言われて……。
え、「何もしなくていい」?!
じゃあ私、今まで通り、歴史研究してていいの?!
こうして始まる結婚(ただの同居)生活が、普通なわけはなく……?
どうやらプライベートな時間はずっと剣を振っていたい旦那様と、ずっと歴史に浸っていたい私。
二人が歩み寄る日は、来るのか。
得意分野が文と武でかけ離れている二人だけど、マイペース過ぎるところは、どこか似ている?
意外とお似合いなのかもしれません。笑
婚約破棄された人たらし悪役令嬢ですが、 最強で過保護な兄たちと義姉に溺愛されています
由香
ファンタジー
婚約破棄のその日、
悪役令嬢リリアーナは――弁明すら、しなかった。
王太子と“聖女”に断罪され、すべてを失った彼女。
だがその裏で、王国最強と名高い三人の兄と、
冷静沈着な義姉が、静かに動き始めていた。
再検証によって暴かれる“聖女の嘘”。
広場で語られる真実。
そして、無自覚に人を惹きつけてしまう
リリアーナの優しさが、次々と味方を増やしていく――。
これは、
悪役令嬢として断罪された少女が、
「誰かの物語の脇役」ではなく、
自分自身の人生を取り戻す物語。
過保護すぎる兄たちと義姉に溺愛されながら、
彼女は静かに、そして確実に幸せへ向かっていく。
竜皇女と呼ばれた娘
Aoi
ファンタジー
この世に生を授かり間もなくして捨てられしまった赤子は洞窟を棲み処にしていた竜イグニスに拾われヴァイオレットと名づけられ育てられた
ヴァイオレットはイグニスともう一頭の竜バシリッサの元でスクスクと育ち十六の歳になる
その歳まで人間と交流する機会がなかったヴァイオレットは友達を作る為に学校に通うことを望んだ
国で一番のグレディス魔法学校の入学試験を受け無事入学を果たし念願の友達も作れて順風満帆な生活を送っていたが、ある日衝撃の事実を告げられ……
【完結】婚約者の真実の愛探しのお手伝い。私たち、愛のキューピッドなんです?
buchi
恋愛
家の都合で決められた婚約者の扱いがひどい。招待状は無視する、学園では目も合わさない。メガネっ子の私になんか、関心がないんだと思っていました。それならいっそ解放して欲しいものです。と、思っていたら、婚約者は真実の愛を求めてパーティ会場で婚約破棄! でも、事情もあったみたい。元婚約者には幸せになって欲しい。私、彼の真実の愛探しを一生懸命お手伝いしました。知り合いのご令嬢も紹介しましたのよ? だのに強硬に再婚約を迫られて大弱り。一度婚約破棄されたら戻すのなんか至難の業。母だって、私のために他の縁談を探してますし、彼の友達だって私に親身になって寄り添ってくれたり。これはそんな私たちの愛と友情(と下心)の物語です! 12万字くらい。58話。単純な恋愛物語です。
残念ながら主人公はゲスでした。~異世界転移したら空気を操る魔法を得て世界最強に。好き放題に無双する俺を誰も止められない!~
日和崎よしな
ファンタジー
―あらすじ―
異世界に転移したゲス・エストは精霊と契約して空気操作の魔法を獲得する。
強力な魔法を得たが、彼の真の強さは的確な洞察力や魔法の応用力といった優れた頭脳にあった。
ゲス・エストは最強の存在を目指し、しがらみのない異世界で容赦なく暴れまくる!
―作品について―
完結しました。
全302話(プロローグ、エピローグ含む),約100万字。
【完結】婚約破棄された悪役令嬢、隣国の冷酷王子に拾われて、なぜか愛されています
22時完結
恋愛
令嬢リリアーヌは、家柄の良さとは裏腹に「悪役令嬢」として周囲から疎まれ、突然の婚約破棄を言い渡されてしまう。
絶望の淵に立たされた彼女を救ったのは、隣国の第一王子ユリウス――冷酷だが、なぜかリリアーヌにだけは甘く優しい彼だった。
傷ついた令嬢は、王子の側で新たな人生を歩み始める。
陰謀も争いもなく、二人の関係はゆっくりと愛を育み、やがて誰もが認める絆となっていく。
過去の汚名を晴らし、王妃として成長していくリリアーヌ。
隣国の王子と共に紡ぐ、甘くて温かい恋物語――今、ここに始まる。
孤児が皇后陛下と呼ばれるまで
香月みまり
ファンタジー
母を亡くして天涯孤独となり、王都へ向かう苓。
目的のために王都へ向かう孤児の青年、周と陸
3人の出会いは世界を巻き込む波乱の序章だった。
「後宮の棘」のスピンオフですが、読んだことのない方でも楽しんでいただけるように書かせていただいております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる