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第三章 第五節 神として
11 人として神として
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ミーヤがシャンタルから目をそらさず言葉を続ける。
「ですが、そのマユリアに唯一『否』と言える方がいらっしゃいます。お分かりですよね? シャンタルです、この方です」
握った手に軽く力をこめる。
「シャンタルがどうしても嫌だ、沈みたくない、マユリアもラーラ様も助け手であるトーヤも侍女頭のキリエ様、そしてこのミーヤのことも信じられない、そうお思いならマユリアにそうおっしゃれば、誰もその言葉に従わぬというわけにはいきません」
「そうなの?」
「はい。この方、あなた様はこの国で一番尊いお方、唯一の神たるお方です。マユリアも王も、誰もあなた様に指図できる存在はございません」
ミーヤは一層しっかりとシャンタルの目を見て言う。
「ですから、どうしてもどうしてもその道は選びたくない、その道が間違いである、そうお思いならマユリアにそうおっしゃることです。ですが、その道をお選びになるということは、さっきも申しました通り私たちを信じられぬそうおっしゃるということです。そのことをお分かりください」
「信じられぬ……」
「はい、そうです」
そう言っておいてシャンタルを引き寄せて抱きしめた。
「シャンタル……なんという運命にお生まれになられたのでしょう……もしも、もしもあなたが普通の子どもなら、そして私があなたの家族なら、すぐにもあなたを連れて逃げたい、お助けしたい、そう思います。ですが……」
ミーヤはふと、ある人のことを思い出した。
(お父上は、次代様のご両親は、今の私と同じ気持ちでいらっしゃったのだろうか)
トーヤはお父上に自分なら逃げる、そう言っていた。
トーヤはこの国の人間ではない。この国のしがらみにはとらわれない存在であるからこそ、そう言い切れるのだ。
だが自分は、ミーヤはこの国で生まれてこの国で育ち、そして宮で生きている。自分がその立場なら、やはり逃げるという考えはなかったかも知れないと思う。
「ええ、そうなのです……シャンタリオの人間なのです、私も、そしてシャンタルも……」
「シャンタルも?」
「はい、そうです」
ミーヤがシャンタルから離れて跪き、深く頭を下げた。
「本来なら、私ごときがこうして親しくお話させていただいたり、触れたりなどできぬ存在のお方なのです、あなた様は」
「ミーヤ……」
シャンタルはついさっきまで自分を抱きしめて優しく接してくれたミーヤの態度の変化に戸惑う。
「シャンタル、あなたは神です」
顔を上げてはっきりと言う。
「ですから、あなたの選んだ道に、選択に、何があろうと従います。それが、たとえあなたが死ぬことになる道だとしても、それがこの国の、この世界の滅びの道に続いていたとしても」
「え……」
ミーヤの使った恐ろしい言葉にシャンタルが身を固くする。
「それがこの国の人として、この宮の侍女として選べる唯一の道なのです。シャンタル、私の進むべき道をお示しください」
そう言って深く、深く頭を垂れた。
「ミーヤ……」
シャンタルが言葉もなく目の前の侍女を見下ろす。
今、シャンタルは上からミーヤを見下ろしている。
そう、自分はその立場なのだ、普通の子どものように大人に甘える、家族に甘える子どもとは違うのだ。
「シャンタル、とても厳しいことを申しているのは承知しております。ですが、ミーヤは侍女として、シャンタルを大好きな1人の人間として申し上げます。どうぞシャンタルとして正しい道をお選びください。人のシャンタルとしてではなく、神たるシャンタルとして……」
「神たるシャンタル……」
シャンタルは自分がただ1人虚空に浮かんでいるような気がした。
「それが、それこそが唯一、シャンタルを真にお助けする道ではないのかと思います」
シャンタルは何も言わずに黙ってミーヤを見下ろしている。
「どうぞあなた様の家族を、あなたに従う侍女たちを、そして助け手としてあなたが招かれたトーヤをお信じください……」
シャンタルは何も言わない。
しばらくの間2人はその姿勢のままでいた。
シャンタルが見下ろし、ミーヤが跪く。
その姿勢を崩すことができなかった。
「ミーヤ……」
しばらくしてシャンタルがようやくそう声を出した。
「立ちなさい……」
「はい……」
ミーヤがシャンタルの言葉に従いゆっくりと立ち上がった。
今度は立ったまま沈黙が続く。
「疲れました……少し休みます……」
「はい」
そう言い残してシャンタルが寝室へと向かう。
ミーヤが後に続こうとすると、
「1人にしてください」
そう言って1人で寝室に入り、扉を閉めた。
ミーヤはその後ろ姿を見送り、扉が閉まるとその場に座り込んでしまった。
自分は、なんと残酷なことをシャンタルに突きつけたのだろう、そう思うと悲しみが心に満ちた。
だが同時に、あれが自分のやるべきことであったとも思う。あれ以外の方法はもう思いつかない。
「どうか正しい道でありますように、シャンタルを助けられる唯一の道をお進みくださいますように……」
そう信じて祈るしかもうミーヤにはできなかった。
「ですが、そのマユリアに唯一『否』と言える方がいらっしゃいます。お分かりですよね? シャンタルです、この方です」
握った手に軽く力をこめる。
「シャンタルがどうしても嫌だ、沈みたくない、マユリアもラーラ様も助け手であるトーヤも侍女頭のキリエ様、そしてこのミーヤのことも信じられない、そうお思いならマユリアにそうおっしゃれば、誰もその言葉に従わぬというわけにはいきません」
「そうなの?」
「はい。この方、あなた様はこの国で一番尊いお方、唯一の神たるお方です。マユリアも王も、誰もあなた様に指図できる存在はございません」
ミーヤは一層しっかりとシャンタルの目を見て言う。
「ですから、どうしてもどうしてもその道は選びたくない、その道が間違いである、そうお思いならマユリアにそうおっしゃることです。ですが、その道をお選びになるということは、さっきも申しました通り私たちを信じられぬそうおっしゃるということです。そのことをお分かりください」
「信じられぬ……」
「はい、そうです」
そう言っておいてシャンタルを引き寄せて抱きしめた。
「シャンタル……なんという運命にお生まれになられたのでしょう……もしも、もしもあなたが普通の子どもなら、そして私があなたの家族なら、すぐにもあなたを連れて逃げたい、お助けしたい、そう思います。ですが……」
ミーヤはふと、ある人のことを思い出した。
(お父上は、次代様のご両親は、今の私と同じ気持ちでいらっしゃったのだろうか)
トーヤはお父上に自分なら逃げる、そう言っていた。
トーヤはこの国の人間ではない。この国のしがらみにはとらわれない存在であるからこそ、そう言い切れるのだ。
だが自分は、ミーヤはこの国で生まれてこの国で育ち、そして宮で生きている。自分がその立場なら、やはり逃げるという考えはなかったかも知れないと思う。
「ええ、そうなのです……シャンタリオの人間なのです、私も、そしてシャンタルも……」
「シャンタルも?」
「はい、そうです」
ミーヤがシャンタルから離れて跪き、深く頭を下げた。
「本来なら、私ごときがこうして親しくお話させていただいたり、触れたりなどできぬ存在のお方なのです、あなた様は」
「ミーヤ……」
シャンタルはついさっきまで自分を抱きしめて優しく接してくれたミーヤの態度の変化に戸惑う。
「シャンタル、あなたは神です」
顔を上げてはっきりと言う。
「ですから、あなたの選んだ道に、選択に、何があろうと従います。それが、たとえあなたが死ぬことになる道だとしても、それがこの国の、この世界の滅びの道に続いていたとしても」
「え……」
ミーヤの使った恐ろしい言葉にシャンタルが身を固くする。
「それがこの国の人として、この宮の侍女として選べる唯一の道なのです。シャンタル、私の進むべき道をお示しください」
そう言って深く、深く頭を垂れた。
「ミーヤ……」
シャンタルが言葉もなく目の前の侍女を見下ろす。
今、シャンタルは上からミーヤを見下ろしている。
そう、自分はその立場なのだ、普通の子どものように大人に甘える、家族に甘える子どもとは違うのだ。
「シャンタル、とても厳しいことを申しているのは承知しております。ですが、ミーヤは侍女として、シャンタルを大好きな1人の人間として申し上げます。どうぞシャンタルとして正しい道をお選びください。人のシャンタルとしてではなく、神たるシャンタルとして……」
「神たるシャンタル……」
シャンタルは自分がただ1人虚空に浮かんでいるような気がした。
「それが、それこそが唯一、シャンタルを真にお助けする道ではないのかと思います」
シャンタルは何も言わずに黙ってミーヤを見下ろしている。
「どうぞあなた様の家族を、あなたに従う侍女たちを、そして助け手としてあなたが招かれたトーヤをお信じください……」
シャンタルは何も言わない。
しばらくの間2人はその姿勢のままでいた。
シャンタルが見下ろし、ミーヤが跪く。
その姿勢を崩すことができなかった。
「ミーヤ……」
しばらくしてシャンタルがようやくそう声を出した。
「立ちなさい……」
「はい……」
ミーヤがシャンタルの言葉に従いゆっくりと立ち上がった。
今度は立ったまま沈黙が続く。
「疲れました……少し休みます……」
「はい」
そう言い残してシャンタルが寝室へと向かう。
ミーヤが後に続こうとすると、
「1人にしてください」
そう言って1人で寝室に入り、扉を閉めた。
ミーヤはその後ろ姿を見送り、扉が閉まるとその場に座り込んでしまった。
自分は、なんと残酷なことをシャンタルに突きつけたのだろう、そう思うと悲しみが心に満ちた。
だが同時に、あれが自分のやるべきことであったとも思う。あれ以外の方法はもう思いつかない。
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そう信じて祈るしかもうミーヤにはできなかった。
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