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第三章 第六節 旅立ちの準備
11 マユリアの夢
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「悪かったな」
トーヤがポツリと言った。
「何がですか?」
「いや、なんかひどいこと言っちまったな、と……」
あの日、マユリアたちがシャンタルを沈めるのだと聞いて血が沸き立つほどの怒りを感じた。そして厳しい条件をつけて残酷な言葉をぶつけた。
「いいえ、謝らなければならないのはこちらの方です……」
マユリアが静かに言う。
「あなたにどれほどひどいことをしたか分かっております。そしてこれからやることもどれだけひどいことか……」
「でもそれもシャンタルを助けるためだろう?」
「それだけではありませんから」
切り取るように言う。
「あなたがそう覚悟を決めてくれたように、わたくしももしものことがあっても見届けるつもりでおりました、シャンタルが苦しんで命を失うのを……そして同じ運命を選ぼうと決めたのです」
マユリアが美しい瞳を閉じる。
「だがまあ、あれだ、もうシャンタルは助かることが決まったからな、安心しろよ」
トーヤが自信たっぷりに言うのを見てマユリアも微笑む。
「ええ、信じております」
「そんでな、だからもうあんたも沈むなんてことじゃなく、次のやつに渡せたらどうしたいっての考えろよ。なあ、人に戻ったらどうしたい?」
マユリアが驚いて目を丸くする。
「人に、戻ったら……考えたこともございませんでした」
「な、やっぱり脳天気だ」
トーヤがミーヤにそう言って笑う。
「失礼ですよ」
そうは言うものの悪意がないことも分かり、マユリアに対する親しい気持ちの証拠のようで怒るようには言えなかった。
「どうせあの託宣のこと以外、何かをあんまり真剣に考えたことねえんだろ、あの2人のようによ」
マユリアをからかうように続ける。
「だからまあ、考えてみろよ、なんか一つぐらいあんだろうよ?」
「人に戻った後のこと……考えてもいいのでしょうか?」
「当たり前だろ、なんかねえのか?ああしたいこうしたいって夢の一つぐらいあるんじゃねえの?」
「夢……」
言われて困ったように黙り込む。
しばらくして、
「夢と言っていいのかどうかは分かりませんが、こう考えたことは何回かございました」
そう言った。
「海の向こうを見てみたい、海を渡ってみたい、そう思っていました」
ミーヤがそう聞いて驚いた顔をする。まさかマユリアがそんなことを考えたことがあるなんて……
シャンタルとマユリアは神である。ずっとそう思ってきた。神が何を考えているのかなど考えたこともなかった。
「いいじゃねえかよ、海の向こう、行けばいいじゃねえか」
そんな戸惑いを、それこそ「そこでぶっちぎる」ようにトーヤが言った。
「そんじゃ次の交代の時にはシャンタルと2人で、おっとラーラ様と3人か?一緒に海の向こうに行けるように手伝ってやるよ」
トーヤがにっこりと笑う。
「その頃にはシャンタルも二十歳だ、もう立派な男になってるだろうし。そうだ、いっそ一緒に海賊やったらどうだ?あんたぐらいべっぴんの海賊だったら剣を使うまでもなくみんなひれ伏して子分になるぜ?なあ、どうだ」
トーヤの言い種にマユリアが楽しそうに笑う。
「わたくしにできるでしょうか?」
「できるって!なあ、いっぺんやってみろよ」
「ええっ?」
そう言いながらも立ち上がり、剣を振る仕草をしながら、
「わたくしは海賊のマユリアです、大人しくするなら命だけは取りませんよ?」
「そうそう、そんな感じ」
「まあ、マユリア……」
ミーヤも一緒になって笑う。
「大層お美しい海賊です。私も侍女としてお連れいただけますか?」
「ええ、もちろん。ではトーヤも来てくれますか?」
「ああ、いいぜ。俺はなんてったって経験者だしな」
偉そうに胸を張る姿にマユリアとミーヤが笑う。
そうしてしばらくの間、ああでもないこうでもないと笑いながら、たわいもない話で盛り上がった。
「ああ、楽しい……本当にトーヤとミーヤは楽しいですね」
「あの、私もなのですか?」
「ええ」
「だから言っただろ、あんた面白いってな」
「まあ!」
2人のやりとりを聞いてまたマユリアがころころと笑う。
「ああ、トーヤがこの国に来てくださって本当によかったです」
変わらず笑いながら笑顔の奥が少し変わったように見えた。
「では、そろそろ戻ります。あまり遅くなると皆に心配をかけてしまいますし」
「おう、じゃあ明日、あんたらの晴れ姿楽しみにしてる、って、そういや俺はどこから見りゃいいんだ?さすがにここからじゃ上は見られないし、かと言ってせっかく宮にいるってのに一般人に混じって並ぶのもなんだかなあ」
「そうですね、どこがいいでしょう」
「渡り廊下からならよく見えるかと」
客殿と前の宮をつなぐ渡り廊下は少し奥まってはいるが、バルコニーが見えなくはない。
「ああ、あそこがあったか。そんじゃ、あそこからダルやリルも一緒に見りゃいいかな」
「そうですね」
そう言ってからミーヤがマユリアの前に跪く。
「必ず夢を叶えてくださいませ、その日までおそばでお仕えいたします」
「ミーヤ、ありがとう」
優しい微笑みをミーヤに向け、
「では明日、見ていてくださいね」
そう言って部屋から出ていく後ろ姿を2人で見送った。
トーヤがポツリと言った。
「何がですか?」
「いや、なんかひどいこと言っちまったな、と……」
あの日、マユリアたちがシャンタルを沈めるのだと聞いて血が沸き立つほどの怒りを感じた。そして厳しい条件をつけて残酷な言葉をぶつけた。
「いいえ、謝らなければならないのはこちらの方です……」
マユリアが静かに言う。
「あなたにどれほどひどいことをしたか分かっております。そしてこれからやることもどれだけひどいことか……」
「でもそれもシャンタルを助けるためだろう?」
「それだけではありませんから」
切り取るように言う。
「あなたがそう覚悟を決めてくれたように、わたくしももしものことがあっても見届けるつもりでおりました、シャンタルが苦しんで命を失うのを……そして同じ運命を選ぼうと決めたのです」
マユリアが美しい瞳を閉じる。
「だがまあ、あれだ、もうシャンタルは助かることが決まったからな、安心しろよ」
トーヤが自信たっぷりに言うのを見てマユリアも微笑む。
「ええ、信じております」
「そんでな、だからもうあんたも沈むなんてことじゃなく、次のやつに渡せたらどうしたいっての考えろよ。なあ、人に戻ったらどうしたい?」
マユリアが驚いて目を丸くする。
「人に、戻ったら……考えたこともございませんでした」
「な、やっぱり脳天気だ」
トーヤがミーヤにそう言って笑う。
「失礼ですよ」
そうは言うものの悪意がないことも分かり、マユリアに対する親しい気持ちの証拠のようで怒るようには言えなかった。
「どうせあの託宣のこと以外、何かをあんまり真剣に考えたことねえんだろ、あの2人のようによ」
マユリアをからかうように続ける。
「だからまあ、考えてみろよ、なんか一つぐらいあんだろうよ?」
「人に戻った後のこと……考えてもいいのでしょうか?」
「当たり前だろ、なんかねえのか?ああしたいこうしたいって夢の一つぐらいあるんじゃねえの?」
「夢……」
言われて困ったように黙り込む。
しばらくして、
「夢と言っていいのかどうかは分かりませんが、こう考えたことは何回かございました」
そう言った。
「海の向こうを見てみたい、海を渡ってみたい、そう思っていました」
ミーヤがそう聞いて驚いた顔をする。まさかマユリアがそんなことを考えたことがあるなんて……
シャンタルとマユリアは神である。ずっとそう思ってきた。神が何を考えているのかなど考えたこともなかった。
「いいじゃねえかよ、海の向こう、行けばいいじゃねえか」
そんな戸惑いを、それこそ「そこでぶっちぎる」ようにトーヤが言った。
「そんじゃ次の交代の時にはシャンタルと2人で、おっとラーラ様と3人か?一緒に海の向こうに行けるように手伝ってやるよ」
トーヤがにっこりと笑う。
「その頃にはシャンタルも二十歳だ、もう立派な男になってるだろうし。そうだ、いっそ一緒に海賊やったらどうだ?あんたぐらいべっぴんの海賊だったら剣を使うまでもなくみんなひれ伏して子分になるぜ?なあ、どうだ」
トーヤの言い種にマユリアが楽しそうに笑う。
「わたくしにできるでしょうか?」
「できるって!なあ、いっぺんやってみろよ」
「ええっ?」
そう言いながらも立ち上がり、剣を振る仕草をしながら、
「わたくしは海賊のマユリアです、大人しくするなら命だけは取りませんよ?」
「そうそう、そんな感じ」
「まあ、マユリア……」
ミーヤも一緒になって笑う。
「大層お美しい海賊です。私も侍女としてお連れいただけますか?」
「ええ、もちろん。ではトーヤも来てくれますか?」
「ああ、いいぜ。俺はなんてったって経験者だしな」
偉そうに胸を張る姿にマユリアとミーヤが笑う。
そうしてしばらくの間、ああでもないこうでもないと笑いながら、たわいもない話で盛り上がった。
「ああ、楽しい……本当にトーヤとミーヤは楽しいですね」
「あの、私もなのですか?」
「ええ」
「だから言っただろ、あんた面白いってな」
「まあ!」
2人のやりとりを聞いてまたマユリアがころころと笑う。
「ああ、トーヤがこの国に来てくださって本当によかったです」
変わらず笑いながら笑顔の奥が少し変わったように見えた。
「では、そろそろ戻ります。あまり遅くなると皆に心配をかけてしまいますし」
「おう、じゃあ明日、あんたらの晴れ姿楽しみにしてる、って、そういや俺はどこから見りゃいいんだ?さすがにここからじゃ上は見られないし、かと言ってせっかく宮にいるってのに一般人に混じって並ぶのもなんだかなあ」
「そうですね、どこがいいでしょう」
「渡り廊下からならよく見えるかと」
客殿と前の宮をつなぐ渡り廊下は少し奥まってはいるが、バルコニーが見えなくはない。
「ああ、あそこがあったか。そんじゃ、あそこからダルやリルも一緒に見りゃいいかな」
「そうですね」
そう言ってからミーヤがマユリアの前に跪く。
「必ず夢を叶えてくださいませ、その日までおそばでお仕えいたします」
「ミーヤ、ありがとう」
優しい微笑みをミーヤに向け、
「では明日、見ていてくださいね」
そう言って部屋から出ていく後ろ姿を2人で見送った。
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