黒のシャンタル 第一話 「過去への旅」<完結>

小椋夏己

文字の大きさ
323 / 353
第三章 第六節 旅立ちの準備

13 求婚

しおりを挟む
 そうしてまたうだうだと色々話をしていると、もう一度扉が叩かれた。

「ちょっといいか?」

 そう言って入ってきたのはダルであった。

「なんだあらたまって」

 いつもならノックをして返事があったらひょこっとそのまま細長い体を扉から滑り込ませるのに、今日はなんだか遠慮そうな顔で入ってきた。

「お邪魔なようでしたら私は控室に戻っていますが?」

 ミーヤが気を遣ってそう言うと、

「いや、ミーヤさんもいてくれた方がいいから」

 そう言って、やっと扉を閉めて中に入ってきた。

「失礼します……」

 ギクシャクと椅子に座る。

「なんかやっぱりちょっと変だな」
「大丈夫ですか?」

 2人に心配されるがダルは何もないという風に横に首を振る。

「あのな、聞いてほしい話があるんだよ」

 深刻そうにそう切り出した。

「なんだ、言ってみろよ」
「うん、あのな……」

 ゴクリとつばを飲み込むと、2人を交代に見てから、

「俺、アミに、自分の気持ち伝えた!」

 ダルはそう言い放つと膝の上で両手を握りしめ、ギュッと目をつぶって下を向いてしまった。

「おお、そうか! やったか! えらいぞ! そんでどうなった!」
「まあ……」

 2人がそれぞれそう反応する。

「うん、あのな……殴られた」
「は?」
「え?」

 話がよく見えない。
 そしてダルが説明を始めた。

 ラーラ様をカースへお連れした翌朝、ダルは祖母にラーラ様を任せた後で浜に出た。

 その日は天気のいい朝で、こんな日は男たちが漁に出た後、女たちは貝をとったり海藻を拾ったりしていることが多い。行ってみたら思った通り数人が浜で色々な作業をやっていて、アミもその中にいた。

「アミ」
「ん、何?」

 拾った海藻を干していたアミに声をかける。

「ちょっと話があるんだけど、いいかな」
「いいけど何?」

 アミが他の女たちに断ってからその場を離れる。

 一仕事終えた後で少し汗ばんだ肌を、海辺で使ってしおれたタオルで拭きながら付いてきた。
 宮で見る侍女たちと違って日焼けのそばかすやシミがある。手入れをよくされたツヤツヤした肌ではなく、潮風と日差しに洗われた強さでツヤツヤした肌だ。

 浜から少し離れて砂地から土のあるあたりまで歩く。

「何? なんの用なの? まだやることあるんだけど」

 アミが残してきた仕事を気にするようにそう言う。

「うん……」

 誰にも声が聞こえないぐらい離れた場所に来たので足を止め、後ろを向いてアミの方を振り返るといきなりダルは言った。

「アミ、俺の嫁さんになってくれ!!」

 そう言って頭を思い切り下げると二つ折りのようになった。
 
 返事はない。

 しばらく頭を下げていたが、恐る恐るダルが頭を上げた。

 その途端、

 ばっちーん!

 思いっきり頬を張られた。

「な……」

 頬を押さえて動けなくなっているダルに、

「なんなのよあんたは! ずっとずっと待たせた上に好きだもなしでそれ? 順番が違うだろ!」
「え……」

 ダルが目をパチクリとする。

「大体ね、月虹兵? 何言ってんのよ、ヘタレのダルがそんなご大層なお役もらってさ! それに何? マユリアからご下賜された馬? はあ? 何言ってんのよ! 何やってんのよあんたは! あんたは、あんたは漁師だろうが!」

 そう言うとポロポロと大粒の涙を流して泣き出した。

「お、おい、泣くなよ、なあ、困るよ……」

 前にリルに泣かれた時とはまた違った困っただ。

 ダルがポケットからハンカチを取り出してアミに渡そうとするが、

「いい! タオルあるから! 持ってるから! 見て分かんない? とろいんだから、こっち来ないでよ!」

 そう言って汗を拭いていたタオルで顔全体を押さえると、ダルに背中を向けてしまった。

「アミ……」
 
 ダルは近づいていいのかどうか困りながら、ハンカチを持ったままうろうろする。

「ほんっとに気がきかないんだから……そう言われても来て肩ぐらい抱きなさいよ!」
「え、ええっ!」
 
 言われて急いで近づき、肩を抱こうとしてちょっとためらい、結局は後ろから両肩に両手を置いた。

「ほんっと、ヘタレなんだから……」
 
 そんなダルの行動にくすっと笑ってくれたように思う。

「なあ、アミ……」

 思い切ってダルが聞く。

「返事、聞かせてくんねえかな……」

 言ったがアミは答えない。

「なあ、ア――」
「ほんっと分かんないやつだね!」

 くるっと向き直り、

「聞かないと分かんない? さっき言ったことで分かんない? ちょっとは考えなさいよ!」
「は、はい!」

 言われてよくよく考えて、

「いい、ってことだよ、な?」

 そう言うと、

「そう言ってるでしょ!」

 いや、言ってはいないが。

「アミ!」

 今度はさすがに思わず思い切りアミを抱きしめていた。

「もう!」

 ダルにギュッと抱きすくめられながらアミが、

「心配したんだからね? ずっと宮に行ってなんか立派になってさ、宮にはおきれいな人がいっぱいいて、ミーヤさんやリルさん? あんなかわいい人もここに来て、もうさ、あたしのことなんかどうでもよくなってるんだろうなってさ」
「そんなはずないだろ!」
「あんたはさ、漁師なんだよ、何やったって血の代わりに海の水が体に流れてる漁師なんだからね? 分かってんの?」
「うん、分かってる、アミ、大好きだ!」

 そう言ってまたきつくきつくアミを抱きしめてダルは幸福であった。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

貧乏奨学生の子爵令嬢は、特許で稼ぐ夢を見る 〜レイシアは、今日も我が道つき進む!~

みちのあかり
ファンタジー
同じゼミに通う王子から、ありえないプロポーズを受ける貧乏奨学生のレイシア。 何でこんなことに? レイシアは今までの生き方を振り返り始めた。 第一部(領地でスローライフ) 5歳の誕生日。お父様とお母様にお祝いされ、教会で祝福を受ける。教会で孤児と一緒に勉強をはじめるレイシアは、その才能が開花し非常に優秀に育っていく。お母様が里帰り出産。生まれてくる弟のために、料理やメイド仕事を覚えようと必死に頑張るレイシア。 お母様も戻り、家族で幸せな生活を送るレイシア。 しかし、未曽有の災害が起こり、領地は借金を負うことに。 貧乏でも明るく生きるレイシアの、ハートフルコメディ。 第二部(学園無双) 貧乏なため、奨学生として貴族が通う学園に入学したレイシア。 貴族としての進学は奨学生では無理? 平民に落ちても生きていけるコースを選ぶ。 だが、様々な思惑により貴族のコースも受けなければいけないレイシア。お金持ちの貴族の女子には嫌われ相手にされない。 そんなことは気にもせず、お金儲け、特許取得を目指すレイシア。 ところが、いきなり王子からプロポーズを受け・・・ 学園無双の痛快コメディ カクヨムで240万PV頂いています。

追放貴族少年リュウキの成り上がり~魔力を全部奪われたけど、代わりに『闘気』を手に入れました~

さとう
ファンタジー
とある王国貴族に生まれた少年リュウキ。彼は生まれながらにして『大賢者』に匹敵する魔力を持って生まれた……が、義弟を溺愛する継母によって全ての魔力を奪われ、次期当主の座も奪われ追放されてしまう。 全てを失ったリュウキ。家も、婚約者も、母の形見すら奪われ涙する。もう生きる力もなくなり、全てを終わらせようと『龍の森』へ踏み込むと、そこにいたのは死にかけたドラゴンだった。 ドラゴンは、リュウキの境遇を憐れみ、ドラゴンしか使うことのできない『闘気』を命をかけて与えた。 これは、ドラゴンの力を得た少年リュウキが、新しい人生を歩む物語。

【完結】異世界転移した私がドラゴンの魔女と呼ばれるまでの話

yuzuku
ファンタジー
ベランダから落ちて死んだ私は知らない森にいた。 知らない生物、知らない植物、知らない言語。 何もかもを失った私が唯一見つけた希望の光、それはドラゴンだった。 臆病で自信もないどこにでもいるような平凡な私は、そのドラゴンとの出会いで次第に変わっていく。 いや、変わらなければならない。 ほんの少しの勇気を持った女性と青いドラゴンが冒険する異世界ファンタジー。 彼女は後にこう呼ばれることになる。 「ドラゴンの魔女」と。 ※この物語はフィクションです。 実在の人物・団体とは一切関係ありません。

異世界転生したおっさんが普通に生きる

カジキカジキ
ファンタジー
 第18回 ファンタジー小説大賞 読者投票93位 応援頂きありがとうございました!  異世界転生したおっさんが唯一のチートだけで生き抜く世界  主人公のゴウは異世界転生した元冒険者  引退して狩をして過ごしていたが、ある日、ギルドで雇った子どもに出会い思い出す。  知識チートで町の食と環境を改善します!! ユルくのんびり過ごしたいのに、何故にこんなに忙しい!?

99歳で亡くなり異世界に転生した老人は7歳の子供に生まれ変わり、召喚魔法でドラゴンや前世の世界の物を召喚して世界を変える

ハーフのクロエ
ファンタジー
 夫が病気で長期入院したので夫が途中まで書いていた小説を私なりに書き直して完結まで投稿しますので応援よろしくお願いいたします。  主人公は建築会社を55歳で取り締まり役常務をしていたが惜しげもなく早期退職し田舎で大好きな農業をしていた。99歳で亡くなった老人は前世の記憶を持ったまま7歳の少年マリュウスとして異世界の僻地の男爵家に生まれ変わる。10歳の鑑定の儀で、火、水、風、土、木の5大魔法ではなく、この世界で初めての召喚魔法を授かる。最初に召喚出来たのは弱いスライム、モグラ魔獣でマリウスはガッカリしたが優しい家族に見守られ次第に色んな魔獣や地球の、物などを召喚出来るようになり、僻地の男爵家を発展させ気が付けば大陸一豊かで最強の小さい王国を起こしていた。

チート無しっ!?黒髪の少女の異世界冒険記

ノン・タロー
ファンタジー
 ごく普通の女子高生である「武久 佳奈」は、通学途中に突然異世界へと飛ばされてしまう。  これは何の特殊な能力もチートなスキルも持たない、ただごく普通の女子高生が、自力で会得した魔法やスキルを駆使し、元の世界へと帰る方法を探すべく見ず知らずの異世界で様々な人々や、様々な仲間たちとの出会いと別れを繰り返し、成長していく記録である……。 設定 この世界は人間、エルフ、妖怪、獣人、ドワーフ、魔物等が共存する世界となっています。 その為か男性だけでなく、女性も性に対する抵抗がわりと低くなっております。

処理中です...