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第三章 第七節 神の死
14 眠りにつく
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いよいよこれから棺に入るという時、シャンタルはさすがに震えを感じていた。
「ラーラ様……マユリア……」
不安そうに2人を見上げる。
「シャンタル、大丈夫です。シャンタルは無事に助けられて海の向こうへ行かれるのですよ」
マユリアが優しく、そしてどこか羨ましそうにも見える笑顔でそう言った。
「シャンタル……」
ラーラ様は、こちらは名前を呼ぶだけ、じっとシャンタルを見つめるだけだ。
「ラーラ様……」
シャンタルの方から一足近づき、
「大丈夫です、シャンタルはきっと元気にまたラーラ様とお会いしますから、大丈夫ですよ」
と、にっこり笑ってみせる。
「シャンタル……」
ラーラ様は、もう一度それだけ言ってシャンタルをギュッとギュッと抱きしめた。
シャンタルはラーラ様の背中をポンポンと軽く叩き、まるで親子が逆のように慰めてから体を離す。
「マユリア」
「はい」
「シャンタルは今度の交代の時にはきっと戻ります。そして、そしてマユリアの夢を叶えて差し上げたい」
「シャンタル……」
マユリアは黙って驚いていた。
自分の夢、それはこの間トーヤに聞かれて初めて話したことだ。
それどころか、「夢は何か」と聞かれるまで、自分自身ですら考えたこともなかったことだ。あれが夢であると気がつきもしていなかったのに。
この方にはやはり何か特別なお力があるのだ、そうあらためて思った。
「ええ、ありがとうございます。その日を楽しみにしております。どうぞ元気でお戻りください、お待ちしております」
膝をつき、シャンタルと目の高さを合せ、じっと目を見てそう伝える。
「そろそろよろしいですか?」
冷静に、だがいつもとは少し違う様子でキリエがそう声をかけた。
「キリエ……ええ、準備はできました」
シャンタルもできるだけ冷静に答える。
幼いながらも分かっていた。
あの時、ミーヤに言われたこと。
『シャンタル、あなたは神です』
『どうぞシャンタルとして正しい道をお選びください。人のシャンタルとしてではなく、神たるシャンタルとして……』
そう言われて自分が神であると気づき、幼い子どもからあらためて神になったのだ。
今、自分はマユリアとラーラ様に庇護される幼い子どもではなく、神として行動しなくてはならない。それこそが正しい道を歩むことなのだ、それこそが自分を助けようとずっと考え、想い続けてくれたお二人に、そしてキリエにもその他の侍女たち、民、この世界に対してできる唯一のことなのだから。
でも最後は……
「マユリア、ラーラ様……」
そう言って、もう一度だけギュッとお二人にしがみつき、
「また戻ってくるね、待っててね」
一瞬だけお二人に愛された子どもに戻った。
「キリエ、お願いいたします」
キリエに声をかけてお二人を部屋から出し、やらねばならぬことをやる。
キリエが運んできた水薬を透き通るグラスに移す。
透明、無色透明で見ただけでは水と変わらない。
「これをお飲みになられると丸一日亡くなったように見えるそうです」
「そう……」
手に取る。
正直恐ろしい。
本当に目が覚めるのだろうか。
本当に助けてもらえるのだろうか。
恐怖に手が震えそうになる。
神としての試練、だが10歳の子どもの運命としては重すぎるそれに、シャンタルは耐える。
ぐいっ
思い切ってグラスを傾け、すべての液体を喉から胃に向けて流し込んだ。
「味しない……」
そう言ってキリエにグラスを返す。
その時、キリエの手も震えているのに気がついた。
「キリエ」
「はい」
しっかりと答えるが、キリエには顔色がない。
「大丈夫です、わたくしはきっと元気で戻ってまいります」
「シャンタル……」
キリエは、シャンタルが神として自分を気遣ってくれたことに胸を熱くする。
「はい、信じております……」
そう言ってシャンタルの小さな手を取る。
「きっと、きっとお戻りくださいます。その日までキリエもがんばってこの世に留まっておりますから」
冗談口を混ぜるようにして笑ってそう言う。
「なんか、キリエ、トーヤみたいなこと言う」
子どもに戻ってクスッと笑う。
「そうでございましょうか。だとしたら、本当に迷惑なものですね、トーヤも」
2人で笑い合う。
「では、寝台でお休みに。お眠りになられるまで付いておりますから」
「ううん、キリエはお二人のところに戻って。大丈夫だから」
そう言って心配そうな顔のキリエを部屋から出す。
今度目が覚めた時には洞窟の中、助けられた後なのだ。
そう思いながらうとうとと眠りについた。
死のように深い眠りに……
それがどうしたことなのか、ゆっくりと目が覚め、息を吸ったら思い切り水を吸い込んだ。
(な、なに、これ、どうしたの!)
体を動かそうとするのだが、まだ薬が残っているのか思ったように動けない。
(苦しい!)
(助けて! 助けて! 誰か、苦しい!)
その途端、誰かの意識がシャンタルの頭の中に飛び込んできた。
(俺を呼べ!)
(誰?)
苦しく、そして目覚めたばかりの意識の中で誰なのかを思い出すことができない。
(誰かじゃねえ!)
また聞こえた。
(俺だ、……だ! 俺を呼べ! 早く、……だ!)
(呼ぶ……誰、誰を……)
そう思いながらも、シャンタルの意識は白く濁っていった。
「ラーラ様……マユリア……」
不安そうに2人を見上げる。
「シャンタル、大丈夫です。シャンタルは無事に助けられて海の向こうへ行かれるのですよ」
マユリアが優しく、そしてどこか羨ましそうにも見える笑顔でそう言った。
「シャンタル……」
ラーラ様は、こちらは名前を呼ぶだけ、じっとシャンタルを見つめるだけだ。
「ラーラ様……」
シャンタルの方から一足近づき、
「大丈夫です、シャンタルはきっと元気にまたラーラ様とお会いしますから、大丈夫ですよ」
と、にっこり笑ってみせる。
「シャンタル……」
ラーラ様は、もう一度それだけ言ってシャンタルをギュッとギュッと抱きしめた。
シャンタルはラーラ様の背中をポンポンと軽く叩き、まるで親子が逆のように慰めてから体を離す。
「マユリア」
「はい」
「シャンタルは今度の交代の時にはきっと戻ります。そして、そしてマユリアの夢を叶えて差し上げたい」
「シャンタル……」
マユリアは黙って驚いていた。
自分の夢、それはこの間トーヤに聞かれて初めて話したことだ。
それどころか、「夢は何か」と聞かれるまで、自分自身ですら考えたこともなかったことだ。あれが夢であると気がつきもしていなかったのに。
この方にはやはり何か特別なお力があるのだ、そうあらためて思った。
「ええ、ありがとうございます。その日を楽しみにしております。どうぞ元気でお戻りください、お待ちしております」
膝をつき、シャンタルと目の高さを合せ、じっと目を見てそう伝える。
「そろそろよろしいですか?」
冷静に、だがいつもとは少し違う様子でキリエがそう声をかけた。
「キリエ……ええ、準備はできました」
シャンタルもできるだけ冷静に答える。
幼いながらも分かっていた。
あの時、ミーヤに言われたこと。
『シャンタル、あなたは神です』
『どうぞシャンタルとして正しい道をお選びください。人のシャンタルとしてではなく、神たるシャンタルとして……』
そう言われて自分が神であると気づき、幼い子どもからあらためて神になったのだ。
今、自分はマユリアとラーラ様に庇護される幼い子どもではなく、神として行動しなくてはならない。それこそが正しい道を歩むことなのだ、それこそが自分を助けようとずっと考え、想い続けてくれたお二人に、そしてキリエにもその他の侍女たち、民、この世界に対してできる唯一のことなのだから。
でも最後は……
「マユリア、ラーラ様……」
そう言って、もう一度だけギュッとお二人にしがみつき、
「また戻ってくるね、待っててね」
一瞬だけお二人に愛された子どもに戻った。
「キリエ、お願いいたします」
キリエに声をかけてお二人を部屋から出し、やらねばならぬことをやる。
キリエが運んできた水薬を透き通るグラスに移す。
透明、無色透明で見ただけでは水と変わらない。
「これをお飲みになられると丸一日亡くなったように見えるそうです」
「そう……」
手に取る。
正直恐ろしい。
本当に目が覚めるのだろうか。
本当に助けてもらえるのだろうか。
恐怖に手が震えそうになる。
神としての試練、だが10歳の子どもの運命としては重すぎるそれに、シャンタルは耐える。
ぐいっ
思い切ってグラスを傾け、すべての液体を喉から胃に向けて流し込んだ。
「味しない……」
そう言ってキリエにグラスを返す。
その時、キリエの手も震えているのに気がついた。
「キリエ」
「はい」
しっかりと答えるが、キリエには顔色がない。
「大丈夫です、わたくしはきっと元気で戻ってまいります」
「シャンタル……」
キリエは、シャンタルが神として自分を気遣ってくれたことに胸を熱くする。
「はい、信じております……」
そう言ってシャンタルの小さな手を取る。
「きっと、きっとお戻りくださいます。その日までキリエもがんばってこの世に留まっておりますから」
冗談口を混ぜるようにして笑ってそう言う。
「なんか、キリエ、トーヤみたいなこと言う」
子どもに戻ってクスッと笑う。
「そうでございましょうか。だとしたら、本当に迷惑なものですね、トーヤも」
2人で笑い合う。
「では、寝台でお休みに。お眠りになられるまで付いておりますから」
「ううん、キリエはお二人のところに戻って。大丈夫だから」
そう言って心配そうな顔のキリエを部屋から出す。
今度目が覚めた時には洞窟の中、助けられた後なのだ。
そう思いながらうとうとと眠りについた。
死のように深い眠りに……
それがどうしたことなのか、ゆっくりと目が覚め、息を吸ったら思い切り水を吸い込んだ。
(な、なに、これ、どうしたの!)
体を動かそうとするのだが、まだ薬が残っているのか思ったように動けない。
(苦しい!)
(助けて! 助けて! 誰か、苦しい!)
その途端、誰かの意識がシャンタルの頭の中に飛び込んできた。
(俺を呼べ!)
(誰?)
苦しく、そして目覚めたばかりの意識の中で誰なのかを思い出すことができない。
(誰かじゃねえ!)
また聞こえた。
(俺だ、……だ! 俺を呼べ! 早く、……だ!)
(呼ぶ……誰、誰を……)
そう思いながらも、シャンタルの意識は白く濁っていった。
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