先生、運営が仕事してくれません!

紫堂 涼

文字の大きさ
7 / 29
はじまりの地

運営のターン

しおりを挟む
 カタカタとキーボードを叩く音が激しく聞こえる室内。
 雑然とした内部には、何日寝てないのか目の下を真っ黒にした男女がふらふらと歩いている。
 ぶつぶつと呟きながら、何がしかのプログラムを組む者、コーヒーをがぶ飲みしながら、片手を目まぐるしく動かす者、上手くいかないのか、苛立ったように机を叩く者。
 ヤニで茶色に染まった喫煙ブースなど、外から見えないほどに煙で真っ白だ。

「くそ、お前ら……俺らの子供をガンガン殺しやがって……」
 モニターを睨みつけながら呟く男は、手にしていた紙カップをぐしゃりと握り潰す。
「うわあ、開始早々、カルマ値ガンガン上がってくんだけどぉ……」
 また別のモニターを見ながら、目の下の隈さえ無ければ美しい女性が眉を寄せる。

 そう、彼等こそIdeal World Onlineの制作者でもあり、運営でもあった。
 今まで多くのVRゲームを作り出した経験と、それで得た賃金を全て注ぎ込み、理想の世界を作り上げたのだ。
 彼等の好み、彼等の見たい世界、それを余すところなく表現したのが、IWOだった。
 いくつものVRゲームを世に送り出し、ストーリーや設定に差異はあろうとも、似たようなものばかりを作り上げてゆくフラストレーションが、ある時爆発した。
 どうせ苦労するなら、好きなもんで苦労したい。それを合言葉に集った面々。

 彼等のスポンサーだった者達も、面白そうだと悪ノリし、資金も潤沢じゅんたく
 趣味に人生賭けてもイイじゃない。とばかりに暴走した結果が――どう見ても、プレイヤーを選ぶ作品。
 自己満足の果てに作られたものなので、彼等はそれを一切気にしない。

 一応クレーム対策として、お試しプレイをしてみて、その後高い課金をするような設定にしているが、すでに何件もクレームが来ている。


 Q:何か変な生き物がいるんですが
 A:そういう世界です。可愛がってあげてください。

 Q:死に戻りしたら装備してた武器ロストしたんですが!
 A:そういった仕様です。

 Q:どうやったら先へ進めますか?
 A:頑張って調べてみてください。

 Q:……何か、すごい格好良いコボルドがいたんですが、どこに行ったら会えますか?
 A:頑張って攻略を進めてください。早いうちに会えますよ。

 Q:ょうι゛ょはいないんですか?
 A:今後のアップデートの参考とさせて頂きます。

 Q:PKされたんですが
 A:自由度が売りの作品ですので、PKも、PKKも皆様の自由です。

 Q:ギルドとか無いんでしょうか
 A:素材の販売は、該当の店舗で売却願います。

 Q:クエストないの?
 A:あります。探してみてください。

 Q:スキルの発生条件はなんですかー
 A:色々試してみてください。

 Q:気持ち悪いのいたんですが。血でべとべと。
 A:そういう世界です、可愛がってあげてください。

 Q:運営、ちゃんとサポートしてよ!
 A:出来る範囲でさせて頂いております。ご了承下さい。

 Q:GMコールできないんですか?迷惑な人とかいるんですが
 A:もう少し先に実装されます、申し訳ございませんが少々お待ち下さい。

 Q:マスクデータとかないんですか?
 A:それを探るのもゲームの楽しみの一つです。色々試してみて下さい。

 Q:ゲームを起動するときに妙な音が入るんですが…
 A:使用しているVR機器の詳細をメールにて送信願います。後ほどこちらから返信致します。

 Q:人間以外の種族っているんですか?
 A:多数取り揃えております、お楽しみに。

 Q:エルフとか、獣人とかっていないんですかー
 A:多数取り揃えております、お楽しみに。

 Q:どうやったら強くなれますか
 A:色々な方法があります、色々試してみて下さい。


「ちっ、どいつもこいつも、何でも聞けばいいって思ってんじゃねえよ」
 舌打ちしながら、カタカタと返信を書き込む男が苛立たしげに髪を掻き回す。
 代わり映えのない質問に―― 一部妙なものが混じっているのに答えつつ、男はちらりと変化の無いモニターを見つめ、声を上げる。

「可愛子ちゃんがいる!!」

「何ィ!!」
 ガタッ
 ガタタッ
 ガタタ……ガシャーン!
 音を立てて椅子から立ち上がる面々。一部椅子を背後の机にぶつけ何かを壊した者もいるが、誰も気にしてない。
「「「可愛子ちゃんと聞いて!!」」」
 わらわらと画面に殺到する奴らの目は真剣まじだ。

「おお……すごいあちこち見てる」
「あらぁ……目をぱちぱちしてるわ」
「お、倒れた!」
「VR体験した事ねぇのか?すげー珍しそうにしてる」
「くっ……俺が頑張った、この環境に、こんなにも感動してくれる可愛子ちゃんがいたなんて……っ!!」
 愛が暴走した彼等にとって、IWOの世界を大切にしてくれる子は、皆可愛子ちゃんだ。おっさんだろうと、同性だろうと構わない。
 モニターに殺到した連中は、食い入るように画面に見入る。

「ちょ、スラリーが!!」
「あの子……何も武器を持たない状態で一定時間動かずにいないと姿さえ見せないのに」
「ああっ、うちの子たちが、あんなに懐いてっっ!!」
「天使だ、天使が降臨したぞぉおおおおおおおおおお!!」
 うおー!!と男女問わず拳を振り上げる。
 サービス開始に向けて、延々バグのチェック、AIの教育・管理、メンテナンスに、販路の確保、店舗からの問い合わせ、趣味に走るからこそ、他社を巻き込む事も出来ず、彼等は少数精鋭で地獄の日々を過ごして来た。
 広い、広い部屋を埋め尽くすほどの人数がいてもなお、手は足りなくて、鬼気迫る表情をしていた面子が歓喜の声を上げる。

「あれ、誰だ。称号与えたの」
 異常な盛り上がりを見せる中、ぽつりと地味な青年が呟いた。
「あ、おれおれー。さっきの可愛子ちゃんに付けてみた」
 さっきまで質問板への回答を打ち込んでいた男がひらひらと手を振る。
「先輩、いつの間に……」
「可愛子ちゃんが、門でうわーってしてた時」
「素早い……で、この称号の効果は?」
「無い」
「――初の称号なのに、無いんですか?」
「うん、無い」
 爽やかに答えた男に、後輩であろう青年が無言で拳を握り締める。
「天誅ぅううううう!!」

 ――仕様です、試してみて下さい、調べて下さい、お待ち下さい、お楽しみに。そんな言葉が乱舞する質問掲示板に、栄えある最初の一言がその日叩きつけられる。

「運営、仕事しろぉおおおおお!!」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

田舎農家の俺、拾ったトカゲが『始祖竜』だった件〜女神がくれたスキル【絶対飼育】で育てたら、魔王がコスメ欲しさに竜王が胃薬借りに通い詰めだした

月神世一
ファンタジー
​「くそっ、魔王はまたトカゲの抜け殻を美容液にしようとしてるし、女神は酒のつまみばかり要求してくる! 俺はただ静かに農業がしたいだけなのに!」 ​ ​ブラック企業で過労死した日本人、カイト。 彼の願いはただ一つ、「誰にも邪魔されない静かな場所で農業をすること」。 ​女神ルチアナからチートスキル【絶対飼育】を貰い、異世界マンルシア大陸の辺境で念願の農場を開いたカイトだったが、ある日、庭から虹色の卵を発掘してしまう。 ​孵化したのは、可愛らしいトカゲ……ではなく、神話の時代に世界を滅亡させた『始祖竜』の幼体だった! ​しかし、カイトはスキル【絶対飼育】のおかげで、その破壊神を「ポチ」と名付けたペットとして完璧に飼い慣らしてしまう。 ​ポチのくしゃみ一発で、敵の軍勢は老衰で塵に!? ​ポチの抜け殻は、魔王が喉から手が出るほど欲しがる究極の美容成分に!? ​世界を滅ぼすほどの力を持つポチと、その魔素を浴びて育った規格外の農作物を求め、理知的で美人の魔王、疲労困憊の竜王、いい加減な女神が次々にカイトの家に押しかけてくる! ​「世界の管理者」すら手が出せない最強の農場主、カイト。 これは、世界の運命と、美味しい野菜と、ペットの散歩に追われる、史上最も騒がしいスローライフ物語である!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

魔力ゼロの俺だけが、呪いの装備を『代償なし』で使い放題 ~命を削る魔剣も、俺が持てば『ただのよく切れる剣』~

仙道
ファンタジー
現代日本で天才研究者だった相模登(さがみ のぼる)は、ある日突然、異世界へ転移した。  そこは『スキル』と『魔力』が全てを決める世界。   しかし登には、ステータス画面もなければ、魔力も、スキルも一切存在しなかった。   ただの一般人として迷宮に放り出された彼は、瀕死の女騎士と出会う。彼女の前には、使う者の命を瞬時に吸い尽くす『呪いの魔剣』が落ちていた。   武器はそれしかない。女騎士は絶望していたが、登は平然と魔剣を握りしめる。 「なぜ……生きていられるの?」  登には、剣が対価として要求する魔力は存在しない。故に、魔剣はデメリットなしの『ただのよく切れる剣』として機能した。   これは、世界で唯一「対価」を支払う必要がない登が、呪われた武具を次々と使いこなし、その副作用に苦しむ女騎士やエルフ、聖女を救い出し、無自覚に溺愛されていく物語。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

企業再生のプロ、倒産寸前の貧乏伯爵に転生する 

namisan
ファンタジー
数々の倒産寸前の企業を立て直してきた敏腕コンサルタントの男は、過労の末に命を落とし、異世界で目を覚ます。  転生先は、帝国北部の辺境にあるアインハルト伯爵家の若き当主、アレク。  しかし、そこは「帝国の重荷」と蔑まれる、借金まみれで領民が飢える極貧領地だった。  凍える屋敷、迫りくる借金取り、絶望する家臣たち。  詰みかけた状況の中で、アレクは独自のユニーク魔法【構造解析(アナライズ)】に目覚める。  それは、物体の構造のみならず、組織の欠陥や魔法術式の不備さえも見抜き、再構築(クラフト)するチート能力だった。  「問題ない。この程度の赤字、前世の案件に比べれば可愛いものだ」  前世の経営知識と規格外の魔法で、アレクは領地の大改革に乗り出す。  痩せた土地を改良し、特産品を生み出し、隣国の経済さえも掌握していくアレク。  そんな彼の手腕に惹かれ、集まってくるのは一癖も二癖もある高貴な美女たち。 これは、底辺から這い上がった若き伯爵が、最強の布陣で自領を帝国一の都市へと発展させ、栄華を極める物語。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜

シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。 起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。 その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。 絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。 役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。

処理中です...